三乗和の公式 | 移項を中心に解説【高校一年の計算力】
「 三乗和の公式 」を導く計算力は意外と重要な数学の能力です。
高校数学の普段の学習や大学受験などを通じて、自然とトレーニングをしておくと、無理なく鍛えられます。
移項や三乗の展開公式、因数分解公式の成り立ちを理解し、三乗和の公式を使いこなせるようになると、数学の計算が円滑に実行できるかと思います。
一日だけハードな練習をするというよりも、無理なく毎日のようにトレーニングを続けていくと、段々と力がついてくるものかと思います。
三乗和の公式 :多項式の展開
(a + b)2 = a2 + 2ab + b2
(a + b)3 = a3 + 3a2b + 3ab2 + b3
上の等式は、公立の中学数学で学習する展開公式です。
下の等式が、高校数学で学習する展開公式です。
計算力をトレーニングして高めるために、代表的な式についての公式を、自分で証明するのが良いかと思います。
どのようにして、その公式が導出されているのかを理解しつつ、計算のトレーニングにもなります。
上の等式から、下の等式を導き出すときに、結合法則と分配法則が特に大切になります。
結合法則が成立することを前提として、累乗が定義されています。同じものを何個か掛け合わせたものが累乗です。
何個掛け合わせたかを表すのが、右上に小さく書いている指数です。
【例】
p2 = p × p, p3 = p × p × p
この一つの文字で書いている部分を、
p=(a + b) としたものが、先ほどの図に書いている二つの等式です。
上の二乗の展開公式は、直接計算で導き出します。
(a + b)2 = (a + b)(a + b)
=a2 + 2ab + b2 となります。
左辺と中辺が等しいことは、累乗の定義そのものです。
そして、中辺と右辺が等しいことは、分配法則で括弧を外し、同類項をまとめたからです。
このとき、加法についての結合法則と交換法則を使って、公式の形に整理しています。
三乗の展開公式を導く
数学で、議論を進める常套手段として、既に証明されたものを利用して話を広げるというものがあります。
先ほど示した二乗の展開公式を利用して、
(a + b)3 = (a + b)(a + b)2 という三乗の展開公式が導けます。
まず、累乗の定義から、三乗を一乗と二乗の積に分けます。そして、分配法則を適用し、二乗の部分を展開公式で書き換えます。
その後、すべて展開をして、同類項をまとめます。
(a + b)(a + b)2 = a(a + b)2 +b(a + b)2
= a(a2+2ab+b2)+b(a2+2ab+b2)
= (a3+2a2b+ab2)+(ba2+2ab2+b3)
= a3 + 3a2b + 3ab2 + b3
これで、はじめの三乗の式から最後の式まですべてイコールでつながりました。
よって、先ほどの図に書いた三乗の展開公式が示せました。
この二乗や三乗の展開公式の導出で使った考え方ですが、高校数学の計算をするときに、よく似た式変形をすることがあります。
三乗の展開公式に関連しては、三乗和についての式変形について、このブログの後半で解説をします。
高校数学でよく使われ内容になるのですが、自力で導けるようになっておくと便利です。
中学数学で学習した等式の性質を使って導かれる移項を使って、公式を導きます。
三乗和の公式 :三乗の展開公式を変形して新しい公式へ
(a + b)3 = a3 + 3a2b + 3ab2 + b3
3a2b + 3ab2 = 3ab(a + b) と書き換えることができます。
※ 共通因数でくくり出すという分配法則による式変形です。
このことを使って、まず右辺を書き換えます。
(a + b)3 = a3 + 3ab(a + b) + b3
この書き換えた右辺の真ん中の項を、左辺へ移項します。
(a+b)3 - 3ab(a + b) = a3 + b3
実は、イコールという関係ですが、対称律といって、左辺と右辺を逆にして再びイコールで結ぶことができます。
a3 + b3 = (a + b)3 - 3ab(a + b)
これが、三乗の公式に関連する式変形の一つの形です。三乗和の式変形になります。
問題によっては、この形が有効なときもあります。
しかし、次の形にした方が、議論しやすいときもあります。
ですので、次の形も使えるようになっておくことが大切になります。
三乗和の因数分解公式
三乗和の等式の右辺を(a+b) で因数分解すると、三乗和の因数分解公式が得られます。
一気に式変形をすると見えにくいので、まずは右辺を因数分解し、
a3 + b3 = (a + b){(a + b)2 - 3ab} とします。
ここで、右辺の中括弧の中の二乗を展開します。そして、2ab - 3ab という同類項をまとめると、三乗和の因数分解公式ができあがります。
a3 + b3 = (a + b)(a2 - ab + b2 )
では、三乗和についての式変形をまとめておきます。
三乗和の変形公式のまとめ
a3 + b3 = (a + b)3 – 3ab(a + b)
= (a + b)(a2 - ab + b2 )
三乗和の式を中辺に書き換えるか、右辺に書き換えるかは、問題によって判断することになります。
どっちでも良いときもありますが、どちらかは問題が解けるが、もう片方ではできないというときもあります。
これについては、普段からの練習による経験が大切になります。
しかし、いずれにせよ、三乗の展開公式から、三乗和の式変形を、等式の性質(移項)で導けるようになっておくことが重要です。
いつでも自分で式変形をできれば、中辺と右辺をどちらも計算用紙などに書いておいて、より良い方を吟味することができます。
四乗の展開について
(a + b)4 を展開したいときには、指数の意味が効いてきます。これは、(a + b) を 4 個で掛け算を計算するということです。
そのため、(a + b) と (a + b)3 の掛け算を考えれば良いということになります。
(a + b)(a + b)3 について、分配法則を使います。
a(a + b)3 + b(a + b)3 となります。
a(a + b)3 = a(a3 + 3a2b +3ab2 + b3)
= a4 + 3a3b +3a2b2 + ab3 …(1)
b(a + b)3 = b(a3 + 3a2b +3ab2 + b3)
= a3b +3a2b2 +3ab3 +b4…(2)
よって、(a + b)4 は、(1) と (2) を足し合わせたものになります。
同類項をまとめて整理します。
(a + b)4 = a4 + (3a3b + a3b) + (3a2b2 + 3a2b2)
+ (ab3 + 3ab3) + b4
= a4 + 4a3b + 6a2b2 + 4ab3 + b4
このようにして、4 乗のときを求めることができました。
4 乗を計算する他の方法として、二項展開を利用することができます。二項展開を知っていると、公式に当てはめるだけで、4 乗や 5 乗を計算することができます。
高 2 以降の計算で、二項展開はしばしば出てきます。シグマ記号というブログの最後の方で二項展開について解説をしています。
※ 多項展開についても、ブログ「シグマ記号」で解説しています。
三乗和の公式 :基礎となる移項
当たり前のように、等式の性質から導かれる移項を使ってきました。
どのようにして移項という操作が導かれるのかを理解しておくと、応用ができます。
実数 a, b についての等式が a = b あったとします。
このときに、両辺に同じ実数を加えても、イコールでつながったままになります。
両辺に実数 c を加えると、a + c = b + c
この c に、-a を代入すると、
a + (-a) = b + (-a)
両辺を計算して、0 = b - a
はじめにあった等式の左辺にあった a が、右辺に移動した形です。
そのときに、a の符号のプラスとマイナスが逆転していることに注意です。
左辺にある項を右辺に移動する(移項する)ときには、その項の符号を逆転させたものを両辺に加えます。
この過程(プロセス)を経ることで、移項が成立します。
右辺の項を左辺へ移項
数学では、同じ様なことをさらに工夫して、議論を広げるということをします。
先ほどの c として、今度は右辺にある b の符号を逆転させたものを両辺へ加えます。
【移項は加法から導出】
a = b の両辺に -b を加えます。
a + (-b) = b + (-b) より、
右辺を整理し、a + (-b) = 0
これで、右辺の項を左辺に移項することもできるということが、等式の性質から導かれました。
ちなみに、等式の性質で、両辺に同じ実数を加えるということは、同値変形となります。
つまり、上の等式が成立しているのならば、下の等式も成立する。
逆に、下の等式が成立していれば、上の等式も成立するということです。
これは、両辺に実数を加えたときと、符号だけを逆にした実数を加えるということで、上下の式変形を行き来することができるからです。
この等式の性質から導かれる移項を使って、上の議論で三乗の展開公式を書き換えました。
今回扱った三乗関連の式変形は、文系・理系を問わずによく使うので、押さえておくと良いかと思います。
【三乗和の変形公式】
a3 + b3 = (a + b)3 – 3ab(a +b)
a3 + b3 = (a + b){a3 – ab + b3}
三乗の展開公式から、移項をしてどちらの等式も導けました。
はじめに、三乗の展開公式が、一つの等式の存在が示されることになります。
その三乗の展開公式によって保証されている等式から、これら二つの等式が導かれるという流れでした。
最後に、導くのが複雑な因数分解の公式について解説します。
三乗和の公式 :三乗和の発展問題
一番上の式と一番下の式が等しいという公式の証明です。
長い書き換えをしているのですが、よく見ると、先ほど示した三乗和の公式が使われています。
a3 + b3 + c3 - 3abc =
(a + b)3 - 3ab(a + b) + c3 -3abc
a3 + b3 の部分を三乗和の公式で書き換えました。
次に、(a + b)3 + c3 も再び三乗和なので、公式で書き換えます。
(a + b)3 + c3
= {(a + b) + c}{(a + b)2 - (a + b)c + c2}
= (a + b + c){(a + b)2 - (a + b)c + c2}
この書き換えは、(a + b) を一つの文字だと考えることで公式を使っています。三乗和の公式のもう一つの方の書き換えです。
-3ab(a + b) - 3abc の部分は、-3ab でくくり出します。
-3ab(a + b) - 3abc
= -3ab{(a + b) +c}
= -3ab(a + b + c)
(a + b + c) という共通因数が出てきたので、これでくくり出すと、多項式の積の形になります。
証明完成
これで証明完了です。三乗和の公式を二つ使うのがポイントになります。
この証明は複雑なので、慣れるまで何度か練習するのが良いかと思います。
関連する高一の計算として、
複二次式という記事を投稿しています。
これで、今回のブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。