複二次式 例題 【平方差に注意しつつ大学の内容も】

複二次式-表紙画像

" 複二次式 例題 “を見ると四次式です。しかし、二乗を他の文字で置き換えると二次式となる式です。

「四次式の因数分解なんて習っていないのに」とフェイントに迷うときもあるかと思います。そこで、落ち着いて、習っている公式を使える形に置き換えることが大切になります。

また、ゴールに落とし穴があるときもあるので、その注意点も解説しています。さらに、二乗してから 1/2 乗するということと絶対値の関連という方向へも広がる内容です。

そして、これ以上、因数分解ができるのかと考えていると、大学の数学の内容が垣間見えることもあります。

大学の数学も解説しているブログサイトなので、終盤で大学で扱う二変数の多項式環へ踏み込みます。

それでは、具体的な複二次式を見ながら、数学的な論点を解説します。

複二次式 例題 :典型例を認識

【具体例】

x4 – 37x2 + 36 を因数分解する。


理系の方だと、数学IIIで高次の多項式関数を微分したりしますが、高校一年の段階で、四次の多項式についての公式を学習していません。

そんな状況で、因数分解をする問題が出題されます。

この複二次式の問題は、x2 を他の文字で置き換えると、既に学習している二次式についての公式が使えるというタイプのものが多いです。

未知なるものに出会ったら、既に知っているものに帰着させるという数学の常套手段を暗に表したかのような内容です。

この既知への帰着を可能としている理由の部分をまず説明します。

仕組みとなる基礎

実数や多項式に計算では、結合法則が成立しています。

乗法の結合法則は、3 個の項についてのものです。

さらに、一般の結合律といって、4 個以上の項たちの乗法についても、括弧のつけ方に関わらずに値が唯一に定まることが証明されています。

※ 一般の結合律というブログ記事で、大学の代数学の入門で扱われる証明を解説しています。
※ 高校の段階だと、証明の理解までは大丈夫なので、お気軽に。

この一般の結合律から、累乗という同じものを有限個掛け合わせた値を定義することができます。

x4 だと、x を 4 個掛け合わせたものです。

括弧のつけ方に依らずに値が一つに定まるので、
x4 = (x × x) × (x × x)
= x2 × x2= (x2)2 ということになります。

x の四乗は、x の二乗の二乗ということを利用して、四次式を二次式に置き換えるということが決め手となります。

それでは、具体的な問題の解き方を解説します。

解き方の解説

x4 – 37x2 + 36 を因数分解することについて、x2 を一つの文字だと考えます。

先ほどの内容から、
四乗を二乗の二乗だと考えると、
x4 – 37x2 + 36
= (x2)2 – 37(x2) + 36 と書き換えることができます。

x2 を一つの文字と見るために、
x2 = t と置きます。

そして、与えられた複二次式を t の式として置き換えます。

x4 – 37x2 + 36 =
(x2)2 – 37(x2) + 36 = t2 – 37t + 36

この二次式だと、既に学習した因数分解公式が使えます。

-1 + (-36) が t の係数で、定数項は、
(-1) と (-36) の積なので、
x4 – 37x2 + 36
= t2 -37t + 36 = (t – 1)(t -36)

ここで、t をもとに戻します。
t を再び x2 にすると、
x4 – 37x2 + 36 = (x2 -1)(x2 -36)

掛け算だけの式にできたので、与えられた多項式を因数分解できたことになります。

ただし、ここで終了すると、減点対象となってしまいます。

複二次式の問題では、この落とし穴が最後に仕掛けられていることが多いので、その点を注意です。

複二次式 例題 :平方差に注意

x4 – 37x2 + 36 を因数分解するという問題で、確かに (x2 -1)(x2 -36) と因数分解できました。

これで、ゴールに辿り着いたと思いたいところですが、実は、さらに因数分解ができます。

複二次式の問題を押さえやすいように、因数分解の公式の名前を述べておきます。

平方差の公式

【因数分解公式】

 a2 – b2 = (a + b)(a – b)


この平方差の因数分解公式を使うと、先ほどの多項式は、まだ因数分解をすることができます。

x2 – 1 = (x + 1)(x – 1),
x2 – 36 = (x + 6)(x – 6)

これで、先ほどの多項式を、もうこれ以上は因数分解ができない整数係数上の既約多項式の状態にまで分解できます。

x4 – 37x2 + 36 = (x2 -1)(x2 -36)
= (x + 1)(x – 1)(x + 6)(x – 6)

これで、一次積ばかりの多項式の積ばかりにできました。

最後に、まだ因数分解ができるということがあるので、複二次式の問題には注意です。

このような文字の置き換えについて、数学2では、和積変換公式といった式の書き換えが出てきます。

置き換えた文字を使って、どのように式を書き換えるのかということは、大切な計算になります。

途中で置き換える前の文字に戻すということも、よく使う手となります。

複二次式を四次の多項式について述べました。

四次の多項式を二次の多項式に書き換えたときに、指数法則が効いていることに着目すると、さらに解法を広げることができます。

フェイントをかけた平方差問題

x4 や x2 があれば、何でも x2 を他の文字で置き換えるというほど単純ではないので注意です。


複二次式-練習問題

x2 を t と置いても、t2 + 4t + 16 で、因数分解の公式に当てはまりません。

(t + 4)2 = t2 + 8t + 16 ですので、似ていますが因数分解の公式が使えません。

こんなフェイント問題が出題されたときは、平方差を自分で作り出すと、うまくいくときが多いです。

x4 + 4x2 + 16 という与えられた式ですが、既に知っている公式の式と見比べて調整をしてみます。

{(x2) + 4}2 = x4 + 8x2 + 16 …★

★の右辺から 4x2 を引くと、与えられた式になります。

数学では、等しい式どおしを置き換えて等式を変形できるので、★の等式を利用して、与えられた式を書き換えます。

x4 + 4x2 + 16 = (x4 + 8x2 + 16) – 4x2
= {(x2) + 4}2 – 4x2

二番目の式を三番目の式に書き換えるときに、★の等しい関係を使いました。

これで、
x4 + 4x2 + 16 = {(x2) + 4}2 – 4x2
= {(x2) + 4}2 – (2x)2

と与えられた式を書き換えることができました。
 
a2 – b2 = (a + b)(a – b) という平方差の公式について、a として (x2 + 4) を、b として (2x) を当てはめると、次のようになります。

{(x2) + 4}2 – 4x2
= {(x2 + 4) + 2x}{(x2 + 4) – 2x}
= (x2 + 2x + 4)(x2 – 2x + 4)

これで、(x2 + 2x + 4)という項と(x2 – 2x + 4)という項の掛け算の式になったので、因数分解ができたことになります。

複二次式 例題 [応用]累乗で広げて

【指数法則】

自然数 a, b について、
xab = (xa)b である。


先ほどの x4 は、a も b も同じ 2 でした。

別に同じでなくても、指数法則を使うことができるので、a と b が異なるときにも、先ほどの要領で式を書き換えることができます。

六乗差の分解

【練習問題】

x6 – y6を因数分解してください。


x6 = (x3)2 , y6 = (y3)2 と考えることができます。

s = x3, t = y3 と置くと、
x6 – y6 = s2 – t2 … (1)

これで、平方差の多項式になりました。
さらに、平方差の因数分解公式を使います。

s2 – t2 = (s + t)(s – t)
= (x3 + y3)(x3 – y3) … (2)

ここで、三乗和(差)の因数分解公式を使うチャンスです。

三乗の公式

x3 + y3 = (x + y)(x2 – xy + y2)
x3 – y3 = (x – y)(x2 + xy + y2)


三乗和の公式というブログ記事で三乗和の解説をしています。
 
上の三乗和の公式の y に -y を代入すると、下の公式になります。これらを使って、先ほどの (2) を書き換えます。

(x3 + y3)(x3 – y3) =
(x + y)(x2 – xy + y2)×(x – y)(x2 + xy + y2)
… (3)

(1), (2), (3) より、
(x + y)(x – y)(x2 + xy + y2)(x2 – xy + y2) という式が、x6 – y6 の最終的な因数分解の形となります。

ここまで、二乗について考察でしたが、ルートをつけるという 1/2 乗について、指数法則を考えます。

このように、考察を広げることで高校2年以降の内容への計算の布石となります。

a を 0 以上の実数とするとき、
a = (a2)1/2 という a をルートの中に入れる式の書き換えです。

a が負の実数の可能性があるときは、絶対値がつくので注意です。

複二次式 例題 extra stage

高校1年の計算分野ですが、高校2年以降の計算にもつながります。

例えば、中学の頃から、解と係数の関係についての計算問題が出てきます。

この計算規則から、数学Bの数列単元の漸化式とつながったりもします。

さらに、「もうこれ以上は因数分解できない」という内容は、大学の数学へもつながっています。

発展内容として、x2 + xy + y2 という先ほど出てきた二変数多項式が、これ以上は因数分解ができないということの証明です。

二変数多項式の相当

【等しいことの定義】

fn(y)xn + … + f1(y)x1 + f0(y) と
gn(y)xn + … + g1(y)x1 + g0(y) が等しいとは、各 x の k 次の項 xk の係数について、fk(y) と gk(y) が y についての多項式として等しいことです。
※ ただし、k = 0, 1, … , n です。


x2 + xy + y2 は整数環 Z 上の二変数多項式と考えています。

これは、整数係数多項式環 Z[y] の元を係数とする x の多項式というのが定義です。

つまり、(Z[y])[x] という多項式を係数とする x の多項式です。

x2 + xy + y2 = x2 + yx + y2 なので、
x を変数とする Z[y] 上の二次式となっています。

x2, x, 定数項の部分に使われている係数が、y を変数とする多項式が、それぞれ、1, y, y2 となっています。

もし、
x2 + yx + y2 = (x + f(y))(x + g(y))
= x2 + (f(y) + g(y))x + f(y)g(y) と、
f(y), g(y) ∈ Z[y] を用いて因数分解ができたとすると、矛盾が生じます。

f(y)g(y) = y2 なので、f(y) と g(y) の次数は 2 次以下ということになります。

【f(y) の次数が 2 のとき】
g(y) は定数でなければならず、y2 の係数が 1 なので、f(y) = y2, g(y) = 1

しかし、x の係数について、
f(y) + g(y) = y なので、矛盾です。

【f(y) の次数が 1 のとき】
g(y) も 1 次なので、
f(y) = ay + b, g(y) = py + q とすると、

y2 = f(y)g(y)
= apy2 + (aq + bp)y + bq

Z[y] における相当関係の定義(等しいことの定義)より、ap = 1 です。

a と p が整数であることから、

「a = 1 かつ p = 1」または
「a = -1 かつ p = -1」となります。

「a = 1 かつ p = 1」だとすると、x の係数と定数項について、
y = f(y) + g(y) =
(y + b) + (y + q) = 2y + (b + q)

Z[y] の相当関係より、y の係数について、
1 = 2 となり矛盾です。

【f(y) の次数が 0 のとき】
f(y) の次数が 2 のときの議論を g(y) の次数が 2 として踏襲すると、f(y) = 1, g(y) = y2

やはり、x の係数について、
f(y) + g(y) = y なので矛盾です。

これで、Z[x, y] = (Z[y])[x] において、
x2 + xy + y2 が、もうこれ以上の分解ができないことが示せました。

(Z[y])[x] における相当関係と Z[y] における相当関係を使い分けるあたりが大学数学の環論入門らしいです。


【関連する記事】

高一の計算から着実に押さえるために、
三乗和の公式という記事も投稿しています。


それでは、これで今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。