空間ベクトル | 二つのベクトルで張られる平面に垂直なベクトルを求める
平行でない2つのベクトル a と b の一次結合で張られる平面に垂直な「 空間ベクトル 」を求める方法について説明しています。
ベクトルの外積を使っても、求めることができます。
しかし、素朴に、「垂直ということはベクトルの内積値が 0 」ということを使って求めています。
今回の具体例では、自由度があり、パラメータを一つ使って表す方法を説明しています。
空間ベクトル :まずは一次結合で張られる平面
まず、二つのベクトル a と b によって張られる平面について説明をします。
この平面に垂直な空間ベクトルの一つを外積を使って求めたものが、図で赤色で書いているベクトルです。
今回のブログでは外積を使わずに、平面に垂直なベクトルを求める方法を解説していきます。
p と q を実数として、
p(1, -3, 5) + q(-2, 4, 7) という形で表すことを一次結合といいます。
平行でない二つの空間ベクトルの一次結合で表される空間ベクトル全体が、二つのベクトルによって張られる平面(生成される部分空間)といいます。
{p(1, -3, 5) + q(-2, 4, 7) | p, q は実数} と、集合の形で張られる平面を表すことができます。
この集合を平面 S ということにします。
垂直な空間ベクトルを見つけるといっても、まず、議論している平面のことを押さえておくことが必要になります。
平面に垂直なベクトルとは
平面 S については、先ほど説明をした通りです。ここで、平面に垂直な空間ベクトルとは何かということの定義を押さえておくことが必要になります。
平面 S に垂直な空間ベクトルとは、S に含まれているどのベクトルとも垂直なベクトルのことです。
二つのベクトルが垂直ということは、内積を計算すると 0 になるということなので、言い換えができます。
つまり、S に含まれているどのベクトルとも、内積値が 0 である空間ベクトルが求めるベクトルということになります。
さらに、ベクトル a とベクトル b の一次結合で表されているベクトル全体が、平面 S ということを考えます。
すると、ベクトル a と、ベクトル b のどちらとも内積を計算したときに値が 0 になっていると、S に含まれているすべてのベクトルとの内積値が 0 だと分かります。
これで、目指すべき道筋が明確になりました。 ベクトル a と、ベクトル b のどちらとも内積を計算したときに値が 0 になっている空間ベクトルを求めれば良いということになります。
では、ベクトル a, b との内積が 0 となる空間ベクトルを求めることについて、説明します。
空間ベクトル :平面に垂直なベクトルを求める
平面 S に垂直な空間ベクトルを求めます。
先ほど書いた、ベクトル a との内積が 0 で、ベクトル b との内積も 0 になっている空間ベクトルを探します。
中学数学の方程式の要領で、わからない数量を文字でおき、方程式を作ることを考えます。
未知数を文字で表す
求める平面に垂直なベクトルを (x, y, z) とします。x座標、y座標、z座標の値が不明なので、それぞれを文字で表しています。
2つの空間ベクトルが垂直になっているときに、内積が0になることから方程式を作ります。
空間ベクトル(x, y, z)はベクトルaである(1, -3, 5)と垂直なので、
x -3y + 5z = 0・・・①
さらに、ベクトル(-2, 4, 7)とも垂直なので、
-2x + 4y + 7z = 0・・・②
実は未知数を表す文字が x, y, z と 3 個あります。しかし、方程式が①と②の 2 個しかありません。
そのため、連立方程式の解である (x, y, z) のそれぞれの成分は、ただ1つには決まりません。
そこで、次のようにして、芯となる空間ベクトルを1つ決めます。
① × 2 + ②より、-2y + 17z = 0 となります。
求めたい空間ベクトルの y 座標の値と z 座標の値は、「-2y + 17z = 0」という方程式を満たさないといけないわけです。
ここを逆手にとって、y の係数と z の係数を利用して、自分で y と z の値を指定します。
y = -17, z = -2 は、
「-2y + 17z = 0」の解となります。
実際に代入すると、34 - 34 = 0 となることから、解だと分かります。
このようにして、自力で y と z の値を一組求めることが必要になります。
今やったように、y と z の係数を逆にして、それぞれの符号のプラスとマイナスを調整すると、不定方程式の解が得られます。
この y と z の値を①に代入すると、x の値が求められます。
x -3 × (-17) + 5 × (-2) = 0 となり、
x +51 -10 = 0 より、x = -41 となります。
このようにして、
ベクトルaとベクトルbのどちらにも垂直な空間ベクトルが、(-41, -17, -2) と求められました。
空間ベクトルの方向と長さ
平面に垂直な空間ベクトルというときに、方向が定まっても、実数倍をすることで、長さを拡大縮小することができます。
しかも、マイナスの実数倍で向きを逆転させても、やはり平面を張っている a と b との内積値が 0 です。
ゆえに、
{ t( -41, -17, -2) | t は実数 } という集合内のどの空間ベクトルも、平面 S 内のベクトルとの内積値が 0 ということになります。
すなわち、平面 S 内のどのベクトルとも垂直ということになります。
参考に基本ベクトルとベクトル空間論
空間ベクトルの成分表示について、次の基本ベクトルは大切になります。
【3次元の基本ベクトル】
e1 = (1, 0, 0),
e2 = (0, 1, 0),
e3 = (0, 0, 1)
これら三つのベクトルを基本ベクトルといいます。
(a, b, c) という実数を成分とする空間ベクトルは、基本ベクトルの一次結合で表されます。
ae1 + be2 + ce3 を計算すると、(a, b, c) となります。
大学や専門学校で学習する線形代数学では、
{e1, e2, e3} を正規直交基底といいます。
ei (i = 1, 2, 3) の大きさ(長さ)は、どれも 1 となっています。
そして、どの二つの基本ベクトルどおしで内積を計算すると、値が 0 になります。
つまり、どの二つの基本ベクトルも直交しているということになります。
大学の数学で、よく使う記号について述べておきます。
高校数学の具体的な空間ベクトルを通じて知っておくと、後々の学習の役に立ちます。
クロネッカーのデルタ
【添え字が異なると内積 0】
e1・e2 = 0, e1・e3 = 0,
e2・e1 = 0, e2・e3 = 0,
e3・e1 = 0, e3・e1 = 0
二つの添え字が異なっているときに、内積の値が 0 になります。
e1・e1 = 1, e2・e2 = 1, e3・e3 = 1 と、添え字が同じときには、値が 1 となっています。
高校数学では、あまり見ないかと思いますが、大学数学でよく使われる記号に、クロネッカーのデルタというものがあります。
【クロネッカーのデルタ】
δij = 1 (i = j のとき)
δij = 0 (i ≠ j のとき)
クロネッカーのデルタを使って、内積を表すと、ei・ej = δij ということになります。
添え字が同じときに値が 1 で、添え字がちがっていると値が 0 ということを表しています。
また、内積に関連して、三角形の面積を求めるヘロンの公式やベクトルの内積を用いた三角形の面積については、他のブログで解説をしています。
ベクトルについて慣れておくと、空間座標に関連してもヘロンの公式は使えるので、押さえておくと良いかと思います。
参考程度に、少し、大学数学のベクトル空間についての内容を書いておきます。
集合を使って、空間ベクトル全体を表すと、
{(a, b, c) | a, b, c は実数} となります。
この集合が、線形代数学でいうところの 3次元ベクトル空間となります。
{e1, e2, e3} の一次結合で、どの空間ベクトルも表すことができます(難しくいうと生成系となっているということです)。
また、これら三つの基本ベクトルは、一次独立になっています。
生成系であって、一次独立なベクトルたちを基底といいます。基底を構成するベクトルの個数を、そのベクトル空間の次元 (dimension) といいます。
{(a, b, c) | a, b, c は実数} というベクトル空間は、三つの基本ベクトルが基底になっているので、3 次元ということになります。
平面ベクトルについても基底がありまして、こちらの内積の定義という記事で説明をしています。
平面ベクトルのときの基本ベクトルは、
e1 = (1, 0), e2 = (0, 1) です。
平面なので、z 成分がありません。その分、計算が楽になります。
同じくクロネッカーのデルタを使うと、
ei・ej = δij です。
垂直の話を述べましたが、点と直線の距離という三角形の高さとして利用される線分の長さを求めることは、結構、大変です。
平面のときの公式の証明を見ると、その大変さが分かります。
そう考えると、平面でも空間でも使えるヘロンの公式は、使えるチャンスがあれば、三角形の面積を求めるときには役に立つかと思います。
一方、底辺と垂直な高さを求め、三角形の面積を求めるときに、「点と直線の距離の公式」が有効なときがあります。
※ 点と直線の距離の公式という記事で、その証明を解説しています。
このブログ記事では、空間ベクトルがテーマなので、点と平面の距離の公式(発展内容)についての証明を解説します。
空間ベクトル :点と平面の距離の公式
点 A(x0, y0, z0) から、
平面 α : ax + by + cz + d = 0 へ下した垂線の足を H とします。
ただし、a2 + b2 + c2 ≠ 0 という設定です。
※点 O(0. 0, 0) を原点として、点 O を始点としたベクトルたちを考えます。
このとき、線分 AH の長さを表す点と平面の距離の公式を導きます。
ベクトル AH の大きさを l として、l を与えられた定数を用いて表すことをします。
平面 α 上の任意の異なる二点を
P(x, y, z) と B(x1, y1, z1) とすると、ベクトルBP は、(x – x1, y – y1, z – z1) となります。
ベクトル (a, b, c) とベクトル BP で内積を計算すると、
ax1 + by1 + cz1 = -d に注意し、
a(x – x1) + b(y – y1) + c(z – z1)
= ax + by + cz – (ax1 + by1 + cz1)
= -d – (-d) = 0
よって、ベクトル (a, b, c) は、平面 α の法線ベクトルとなっています。
単位法線ベクトルにするために、次のように変形をします。
ここで、点 H は平面 α 上にあるので、
p(x0 + lp) + q(y0 + lq) + r(z0 + lr) = -s
すなわち、
(px0+qy0+rz0+s) + l(p2+q2+r2) = 0 となります。
p, q, r の定め方から、p2 + q2 + r2 = 1 なので、
l = -(px0 + qy0 + rz0 + s) となります。
よって、
AH = l = | l |
= |px0 + qy0 + rz0 + s|
マイナスを嫌って、l = | l | と変形をしました。
p, q, r をもとに戻すと、次の点と平面の距離の公式が得られます。
この高校数学の発展的な内容の式は、覚えるというよりも、自然と自分で導けるようになっておくことが大切なように思います。
外積について
今回のブログでは、外積を使わずに、ベクトル a とベクトル b で張られる平面に垂直な空間ベクトルを求めることについて説明をしました。
外積については、リンク先の以前書いた note 記事で解説をしています。
また、チェバの定理の逆という記事で、平面ベクトルと平面図形の議論を融合して、分点公式についての議論を解説しています。
また、重心-ベクトルという記事で三角形の重心の位置ベクトル表示について説明をしています。
外積のような高校数学の発展的な学習については、具体例で手を動かして様子を見ると良い練習になるかと思います。
それでは、これで今回のブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。