不定元 x | 多項式環の元は多項式関数とは違う!【変数記号じゃない】

不定元-多項式環-表紙

多項式環の" 不定元 x “とは何なのか。これを明確に押さえることは代数学を学習する上での大切な基礎となります。

群、環、加群の入門内容を理解してから可換体論を学習しようとするときに、多項式環の不定元 x というものへの理解がイマひとつだと、先へ進めないということにもなりかねません。

また、環の元を多項式へ代入するということについての認識にも関わります。

大学の数学科の3年くらいの学習を意識して、多項式環の不定元 x について、徹底的に集合論入門と加群入門の観点から解説します。

環 R の元 r と不定元 x について、rx という一次の項があります。

環 R から x への作用を定義していないのに rx とは何なのか。

r1x+r2x2 (r1, r2∈R) といった形式的な有限和は、代数学の入門的な学習を進める上で乗り越えたいところです。

この記事で、環 R は乗法単位元 1 をもつものとして議論を進めています。

不定元 :実は既に習っています

集合論入門で集合の各元によって添数づけられた集合たちの集まりについての直積を学習しています。

はじめて見ると、無限個の集合たちの直積の定義は高校数学からのイメージで捉えにくいものですが、一たび定義を認識すると、使い勝手の良いものです。

結論を先に述べておくと、多項式環の形式的な有限和は外部直和です。

直和なので、有限個を除いて 0 ということを利用して多項式を定義しています。

選択公理という記事で添数づけられた集合たちの直積の定義について解説をしています。

それでは、乗法単位元 1 をもつ環 R 上の多項式を構成することについて解説をします。

使う記号として Z≧0 を 0 以上の整数全体(非負整数全体)とします。

2 を通常の整数の 2 とします。

そして、20, 21, … , 2n, … と指数が 0 以上の整数である 2 のベキ乗を全て集め S と置きます。

つまり、
S = {2n | n∈Z≧0} です。

この S は整数環 Z の部分集合になっています。

ここで、記号ですが、
2n のことを xn と置きます。

指数の値が、n ≠ m と異なるときは、
2n ≠ 2m と異なる整数になっています。

S の各元 t について、
Rt = R と定義します。

これで、{Rt}t∈S という S の元で添数づけられた可算無限個の集合たちの集まりが定義できました。

例えば、23∈S に対して、
R23 は環 R 自身です。

よく見ると、S の元は、Z≧0 の元を n と一つ指定すると、S の元 2n が一つ定まります。

そのため、{Rt}t∈S の各集合を Z≧0 で添数づけることができます。

各 n∈Z≧0 に対して、
Rn = R2n = R という対応です。

どれも同じ R ですが、背番号のように添え字によって区別をすることが直積を考えるときに効いてきます。

n 番目の R の元が rn という認識ができます!

これで、Rn というように、Z≧0 の元を使って添数づけをし直した集合たちの集まりを定義できました。

そのため、これらで直積を定義することができます。

直和は直積の部分集合

不定元-多項式の構成

有限個を除いて 0∈R というものだけを直積の中から抽出したものが直和です。

この直和を R[x] という記号で表すことにします。

そして用語ですが、R[x] という直和の元のことを R 上の多項式ということにします。

直積の元は写像でした。

r: Z≧0 →∪n Rn のことを、
n∈Z≧0 の像が rn と分かるように、
(rn) と表します。

r∈R[x] のときは、有限個の像を除いて 0 となっています。

(rn) について、0 でないものが有限個しかないので、その中で最大の非負整数 k が存在します。

そのとき、
(rn) のことを、
r0x0+r1x1+…+rkxk (ただし rk ≠ 0)と表します。

(rn) が、どの n∈Z≧0 についても rn が全て 0 のときは、
(rn) = 0 と表します。

これで見慣れた多項式の形が構成できました。

(rn) の rnxn の rn は n という非負整数に対応させた n 番目の Rn = R の元 rn でした。

この rn のことを多項式 (rn) の xn係数とよぶことにします。

表面的に直和の元の表記を加法の形にしたものが形式的な有限和ということです。

さらに、多項式らしい記号で見た目を整えます。

(rn)∈R[x] のことを、
r(x) と記述することにします。

ここまでで直和 R[x] の定義ができましたが、まだ集合のレベルです。

ここからは R[x] への加法の定義と R から R[x] への作用を定義して、R[x] へ R 上の加群としての構造を定義します。

こう考えると、フランスのガロアは独自に方程式のガロア群を定義してガロア理論を創造したことの凄さが伝わります。

多項式を定義するだけで、しっかりと述べると結構な記述量を要しました。

数学科の3年次の単位を落とさないためにも、もう一息の頑張りで、まずは加群の構造の定義です。

不定元 :R[x]に加群の構造を定義

まだ、R[x] は直積の部分集合という状態です。これから加法と R からの作用を定義します。

その前に、R[x] における等しいという相当関係を押さえておきます。

a(x), b(x)∈R[x] に関して、
任意の n∈Z≧0 について、
xn の係数 an と bn が、Rn = R の元として等しいとき、
a(x) = b(x) です。

任意の n に対して Rn = R という環において加法が定義されていて、Rn が加法群なので、外部直和である R[x] をこの加法群たちの外部直和ということで加法群と考えることができます。

群の外直積・内直積については、リンク先の記事で解説をしています。

加法群の外部直和についての加法を確認しておきます。

a(x), b(x)∈R[x] に対して、
a(x)+b(x) の各係数を、
任意の n∈Z≧0 に対して、
an+bn と定義しています。

a(x)+b(x) の xn の部分は、
(an+bn)xn で、
xn の係数が an+bn となっています。

a(x), b(x)∈R[x] より、a(x) と b(x) の係数は有限個の除いて 0 でした。

そのため、a(x)+b(x) の係数も有限個を除いて 0 となっているので、
和 a(x)+b(x) も R[x] の元ということになります。

加法群 Rn たちの外部直和なので R[x] は群の定義を満たしています。

ここから、さらに 環 R からの左作用を定義します。

r∈R から a(x)∈R[x] への左作用を次のように定義します。

a(x) = a0x0+a1x1+…anxn としたとき、
0 ≦ i ≦ n について、
rai を Ri = R における乗法の積だと定義します。

そして、ra(x) を、
ra0x0+ra1x1+…ranxn と定義します。

これで、加法と R からの左作用が定義でき、R[x] は R 上の(左)加群の定義を満たしています。

r(x) = 0 が R[x] の加法単位元となっています。

実は、左 R-加群である R[x] には無限個の元から成る基底が存在します。

R上の基底の存在を確認

各 i ∈Z≧0 に対して、
ei(x) = 1xi とします。

{ei(x) | i∈Z≧0} が R[x] の基底となります。

R 上の一次結合で R[x] が生成されることは、すぐに分かります。

a0x0+a1x1+…anxn という多項式だと、
a0e0(x)+a1e1(x)+…+anen(x) と R 上の一次結合で表すことができます。

次に一次独立であることを確かめます。

{ei(x) | i∈Z≧0} は無限集合ですが、一次結合の定義では、この中から有限個の元を取って、それらの一次結合を考えることになっています。

そのため、相異なる i1, … ik という任意の有限個数の非負整数を取ったときに、0 の表し方が自明なものしかないということを確かめることになります。

多項式らしさを実感するための良い練習になるかと思います。次のようにして示すことができます。

多項式-一次独立-基底

これで、一次独立であることも示すことができました。

{ei(x) | i∈Z≧0} という無限集合が左R-加群 R[x] の基底です。

基底が存在したので、自由加群ということになります。

R[x] = ⊕i Rei(x) と直和に分解しています。

S = {2n | n∈Z≧0} と、はじめに背番号をつけておいたのが、議論が進んで直和因子を指定するための番号となりました。

ここまで来ると、はじめの S の元として、相異なる非負整数で識別できるものだったら何でも良いと思えます。

さらに左R-加群 R[x] に乗法を定義して、R 上の代数とします。

不定元 :加群から代数へ

R 上の加群であって、しかも乗法が定義され環となっているときに、R 上の代数といいます。

a(x), b(x)∈R[x] について、
a(x) = a0x0+a1x1+…amxm,
b(x) = b0x0+b1x1+…bnxn のとき、
a(x)b(x) という多項式の積を定義します。

k∈Z≧0 について、
a(x)b(x) の xk の係数を、
a0bk+a1bk-1+…+akb0 と定義します。

a(x) と b(x) の各係数は有限個を除いて 0 でした。

そのため、
k が非負整数全体を走ったとき、
a(x)b(x) の xk の係数は有限個を除いて 0 となっています。

よって、
a(x)b(x)∈R[x] です。

これで、R[x] における乗法が定義されました。

R における乗法が結合律を満たしていると、R[x] の乗法も結合律を満たすということが証明できます。

また、R の乗法が可換なときには、R[x] の乗法も可換となります。

そして、R が整域だと R[x] も整域となります。

※ これらの証明を述べると長くなるので省略します。

ここまでの内容で、R[x] が環であり、R 上の左加群となっていることが分かりました。

そして、{ei(x) | i∈Z≧0} が R[x] の基底となっていました。

ei(x) = 1xi だったので、<x>というイデアルで R[x] が生成されていることも分かります。

この生成元 x のことを不定元というわけです。

不定元という用語は説明を端的にしにくいものになります。その理由は、外部直和ということを使った上で、集合にR-代数の構造を定義することにあります。

ここからは、さらに、R[x] に代入をするということの定義を写像の対応の観点から説明します。

代入の定義

R を環とし、L を左R-代数で乗法単位元 1 を持っているとします。

r(x) = r0x0+r1x1+…rnxn という R[x] の多項式に L の元 u を代入するということを定義します。

これは、R[x] から L への写像を使って定義します。

1 ≦ i ≦ n について、
riu は ri を L の元 u へ作用させた値と定義します。

i = 0 の部分は注意です。

r0u0 は、r0 を L の乗法単位元 1 へ作用させたときの値と定義します。

そして、
r(u) = r0u0+r1u1+…rnun と定義します。

すると、
R[x] → L の対応が、
r(x) に対して r(u) と定まります。

この対応のことを代入といいます。

こういった対応は、可換体論を学習するときに使うので、多項式の定義の状態から基礎として認識しておくと良いかと思います。

可換体論では、L として拡大体を考え、部分体からの作用が定義されているという状況で代入が使われます。

代入の定義は抽象的ですが、線形代数学で既に使っているので、具体例で確認をしてみます。

代入を具体的に確認

R を実数体とします。体は環の特別なものです。

そして、L として実数を成分とする 2 次正方行列全体とします。

また、2 次の単位行列を E と表すことにします。

E が L の乗法単位元です。

R から L への左作用は実数による行列のスカラー倍です。

例として、
3x2+5x1+2x0∈R[X] に、
U∈L という行列を代入してみます。

3U2+5U1+2E が代入したときの値です。

3U2 だと、3 という実数で U2 という L の行列をスカラー倍したものです。

3U2+5U1+2E の「+」は、L における加法を表しています。

L の乗法について、指数が 0 ということは乗法単位元ということです。

U0 = E ということに注意です。

数学では記号を省略することも多いので、
f(x) = 3x2+5x+2 に、
x = U を代入すると、
f(U) = 3U2+5U+2E と、突然に単位行列 E が現れる形になります。

この背景は、代入の定義を押さえておくと、何ということはなく、群論や環論でよく使う指数が 0 のときに乗法単位元ということです。

フランスの天才ガロアは、それまでの数学を刷新した凄い数学者です。そんなガロア理論の理解を目指すために、添数づけられた集合の直積と直和についての集合論入門と加法群の外部直和から解説しました。

ガロア理論の単位取得は大変ですが、基礎をしっかりと理解して学習を進めることが大切になるかと思います。

多項式の不定元が明確になると、代入についてもハッキリと定義が分かります。

ちなみに、多項式環では自由加群に乗法を定義しましたが、自由加群を部分加群で剰余をとることで基本となる関係式を定義するのがテンソル積です。

外部直和の発想で形式的な有限和を理解すると、群環の定義も明確に分かります。

それでは、これで今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。