偏微分可能 ; だけど連続でないという例が存在します【定義から始めてシンプルな例で偏微分を知る】
" 偏微分可能 “ということの定義から始めて、具体的な偏微分可能な関数を偏微分したり、偏微分可能だけれども連続ではない関数を示したりしています。
偏微分の定義は、高校の数学3で学習した微分可能の要領で学習を始めることができるので、大学の数学に慣れるのに良い内容かと思います。
偏微分の学習を始めるときに、直積集合や関数(写像)の一対一対応を認識していることが大切になります。
代数学でも集合や写像の基礎的な内容を使うので、偏微分を通じて簡単な例で集合や関数の対応への理解を深めておくと、その後の学習に役立ちます。
2変数の実数値関数について、偏微分とは何かという定義から議論をスタートします。
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偏微分可能 :2変数関数を意識する
実数全体から成る集合を R と表すことにします。
R×R という直積集合は、
{(a, b) | a, b∈R} という xy-座標平面上の点たち全体です。
※ 直積集合という記事で、代数学の入門的な内容を解説しています。
f:R×R → R という定義域を直積集合としている関数が、2変数関数です。
定義域の各元(要素)に対して、実数を対応させているので、2変数の実数値関数です。
<例>
f(x, y) = 3x2y によって、
点 (x, y)∈R×R に対して、3x2y を対応させる2変数の実数値関数が定義されます。
f(1, 7) = 3×12×7 = 21 です。
大学の集合論の言い方をすると、
「点 (1, 7) の f による像が 21 という実数」となっています。
y は既に使ってしまったので、
z = f(x, y) という関数の表し方が、一般的かと思います。
点 (x, y) に対して、実数 z が対応しています。
先ほどの例だと、点 (1, 7) に対応する実数が 21 です。
g(x) = 3x2 という二次関数だと、x について微分可能であることを高校の数学2や数学3で学習しています。
数学3で学習した微分可能であることの内容に、少しの知識を加えると、偏微分の学習を始めることができます。
まずは、偏微分ということの定義を知ると、数学2や数学3の感覚で学習をスタートできるかと思います。
偏微分の定義
f:R×R → R を2変数の実数値関数とし、
点 (a, b)∈R×R を固定された xy-座標平面上の 1 点とします。
実数 b が固定されているので、f(x, b) は、x についての1変数関数となっています。
そこで、数学3で学習した微分可能の定義に基づいて、
1変数関数 f(x, b) が x = a において微分可能かどうかを判断します。
すなわち、Δx → 0 のとき、
Δz = (f(x+Δx, b)-f(x, b))/Δx の右極限と左極限が同じ値に収束するかどうかを判断します。
Δz の右極限と左極限が同じ値に収束しているときに、
2変数関数 z = f(x, y) が点 (a, b) において、x について偏微分可能であるといいます。
より細かいことを述べると、y = b という定数について1変数関数の f(x, b) の微分可能性を議論しているので、(x, b) という定義域の元を (a, b) に近づける方法は、左から x を a に近づけるか、右から x を a に近づけるかです。
この近づけ方が、基本ベクトル (1, 0) に平行な向きでの接近なので、単位ベクトル方向への限定された点の接近となっています。
y について偏微分可能かどうかということも同様に定義されます。
1変数関数 f(a, y) が、
y = b において微分可能であるとき、
z = f(x, y) が点 (a, b) において、y について偏微分可能であるといいます。
つまり、Δy → 0 のとき、
Δz = (f(a, y+Δy)-f(a, y))/Δy の右極限と左極限が同じ値に収束するかどうかということです。
やはり、基本ベクトル (0, 1) に平行な方向で、上から y を b へ近づけるか、下から y を b に近づけるかという限定した点の接近です。
座標平面において、2点間の距離が縮まる接近の仕方を、基本ベクトルと平行な方向だけに限定している2変数関数の微分が偏微分です。
実は、基本ベクトルと平行な方向以外の接近の仕方を考えるベクトル v 方向への方向微分という、より一般的な定義もあります。
今、(a, b)∈R×R という固定された1点において、偏微分可能かどうかの定義を述べました。
S ⊂ R×R という空集合ではない部分集合について、
S 内のどの点についても z = f(x, y) が偏微分可能なとき、
z = f(x, y) は、S において偏微分可能であるといいます。
z = f(x, y) を x で偏微分したときの導関数は、
zx, fx, ∂z/∂x と表されます。
y で偏微分したときの導関数は、
zy, fy, ∂z/∂y と表されます。
いきなり、いろいろと扱うと混乱するので、まずはシンプルな具体例で偏微分の定義に基づいて、実際に偏微分を計算すると、親しみやすいかと思います。
具体例で偏微分の計算
z = f(x, y) = 3x2y は、R×R において、偏微分可能となっています。
任意の実数 b を一つ取り、固定します。
すると、f(x, b) = (3b)x2 です。
f(x, b) は x についての二次関数なので、x がどんな実数 a であっても、x = a で微分可能です。
高校の数学3で学習した微分の公式から、x2 という微分可能な関数を 3b で実数倍した関数の導関数が計算できます。
d/dx(f(x, b)) = ((3b)x2)’
= 3b × (x2)’
= 3b × (2x) = 6bx
y = b を固定していたので、b を元に戻します。
偏微分の定義から、
d/dx(f(x, b)) は ∂z/∂x のことです。
よって、
zx = ∂z/∂x = 6bx = 6xy です。
この偏導関数に x = 2, y = 3 と具体的な実数を代入すると、
6 × 2 × 3 = 36 となります。
この 36 を点 (2, 3) における x についての偏微分係数といいます。
z = f(x, y) = 3x2y について、
実数 a を任意に取り、x = a を固定して、同様の議論をします。
f(a, y) = 3a2y は y についての1変数関数です。
3a2 を定数としているので、y についての一次関数です。
f(a, y) を 数学3で学習した微分の公式で y について微分すると、
d/dy(f(a, y)) = d/dy(3a2y)
= 3a2×d/dy(y) = 3a2 です。
x = a を元に戻すと、
zy = ∂z/∂y = 3x2 となります。
点 (2, 3) における偏微分係数を、先ほどと同じく計算します。
3 × 22 = 12 が、
z = f(x, y) の点 (2, 3) における y についての偏微分係数です。
次に、偏微分可能だけれども、連続ではない2変数関数の例を挙げます。シンプルな関数なので、不連続のイメージがしやすいかと思います。
偏微分可能 ; しかし連続ではない例
直積集合におけるイコールの定義を確認しておきます。
(a, b), (c, d)∈R×R という座標平面上の2点について、
a = c かつ b = d のとき、
(a, b) = (c, d) です。
平面ベクトルの内積の定義でお馴染みの成分表示をしているときのイコールの定義と同じです。
例えば、(2, 3) ≠ (2, 5) です。第1成分は等しいですが、第2成分の値が異なるからです。
この等しいという関係に注意しつつ、偏微分可能だけれども連続ではない例について説明します。
(x, y) ≠ (0, 0) のときは、第1成分と第2成分のうち、少なくとも一方が 0 ではありません。
そのため、x2+y2 が 0 ではないため、除法が定義できます。
(x, y) = (0, 0) のときは、
x2+y2 = 0 となってしまうので、
f(x, y) = 0 と定義しました。
こうすることで、
どの (x, y)∈R×R に対しても、
z = f(x, y) は実数値を対応させているので、2変数の実数値関数が定義できました。
偏微分可能であることを確かめてみます。高校の数学3の知識で偏微分可能であることが分かります。
偏微分可能かを確認
(a, b) ≠ (0, 0) ということを満たすように R×R から任意に点 (a, b) を取ります。
(x, y) ≠ (0, 0) のとき、
z = f(x, y) = xy÷(x2+y2)
= xy/(x2+y2) です。
(a, b) ≠ (0, 0) という前提のもと、
b ≠ 0 の場合と b = 0 の場合に分けて、偏微分可能であることを確認します。
その後で、(a, b) = (0, 0) のときを考えます。
(a, b) ≠ (0, 0) を前提とし、
b ≠ 0 のときを考えます。
y = b を固定すると、
f(x, b) = xb/(x2+b2) は、どんな実数 x についても分母が 0 ではありません。
今、b, b2 は定数なので、数3で学習した商の微分公式から、
f(x, b) = bx/(x2+b2) は x で微分可能です。
そのため、b ≠ 0 のときは、
どんな実数 x についても、
点 (x, b) において、z = f(x, y) は偏微分可能です。
次に、(a, b) ≠ (0, 0) を前提とし、
b = 0 の場合について考えます。
x を 0 ではない実数とします。
このとき、y = 0 を固定すると、
z = f(x, y) = 0 です。
定数関数は微分可能なので、
x が 0 でない実数であるとき、
点 (x, 0) において z = f(x, y) は x について偏微分可能です。
これで、(a, b) ≠ (0, 0) のとき、
点 (a, b) において x について偏微分可能であることを確かめることができました。
(a, b) ≠ (0, 0) のとき、同じ要領で y について偏微分可能であることを確認することができます。
a ≠ 0 のときは、x = a で固定すると、
a, a2 が定数なので、
f(a, y) = ay/(a2+y2) は y で微分可能です。
よって、z = f(x, y) は、a ≠ 0 のとき、どんな実数 b に対しても、(a, b) において y について偏微分可能です。
a = 0 のときは、b ≠ 0 であるどんな実数 b に対しても、(0, b) において y について偏微分可能です。
(f(0, y) = 0 となっているからです。)
したがって、(a, b) ≠ (0, 0) のとき、
点 (a, b) において y について偏微分可能であることを確かめることができました。
R×R という座標平面における点で、残っている点は (0, 0) という原点のみです。
f(x, y) の定義から、(x, y) = (0, 0) のときは、
f(x, y) = f(0, 0) = 0 でした。
f(0, 0) = 0 は、y = 0 と固定したときに、x で微分可能で、
fx(0, 0) = 0 が (0, 0) における x についての偏微分係数です。
Δx ≠ 0 としたとき、
f(0+Δx, 0) = (Δx・0)/(x2+y2) = 0 です。
f(0, 0) = 0 が定義でした。
そのため、
Δz = f(0+Δx, 0)-f(0, 0) = 0 です。
Δx → 0 とするとき、Δx 自体は 0 でない実数を考えているので、
Δz/Δx = 0 ÷ Δx = 0 です。
そのため、Δx → 0 としたとき、
Δz/Δx → 0 です。
この値が、fx(0, 0) の値です。
また、x = 0 で固定したときに、同様に、y で微分可能で、点 (0, 0) における y についての偏微分係数は 0 です。
これで、z = f(x, y) は R×R の任意の点において x についても y についても偏微分可能であることが確認できました。
連続ではない理由
(x, y) ≠ (0, 0) のとき、
z = f(x, y) = xy/(x2+y2) であり、
(x, y) = (0, 0) のとき、
z = f(x, y) = f(0, 0) = 0 でした。
偏微分可能かどうかを考えるときには、片方の変数を固定して、単位ベクトル方向と平行な向きで点を接近させていました。
しかし、連続の定義では、接近のさせ方を限定していません。そのため、不連続ということが起こるときがあるというのが、今回の例です。
点 (x, y) が点 (0, 0) に接近するとき、接近の仕方は様々です。
(x, y) ≠ (0, 0) という範囲において、
y = 3x という原点を通る直線上の点を考えます。
(x, 3x) という点が、この直線上の点です。
x ≠ 0 のとき、
(x, 3x) ≠ (0, 0) なので、
z = f(x, y) = (x(3x))/(x2+(3x)2)
= (9x2)÷(10x2) = 9/10 です。
そのため、y = 3x 上の点 (x, 3x) の x の値を 0 に近づけたとき、
f(x, 3x) → 9/10 です。
点 (x, 3x) → (0, 0) ですが、
f(x, 3x) → 9/10 で、
f(0, 0) = 0 と異なる値に着地しました。
今度は、y = 2x 上の点を (0, 0) に近づけてみます。
x ≠ 0 とし、点 (x, 2x) について考えます。
f(x, 2x) = (x(2x))/(x2+(2x)2)
= (2x2)÷(5x2) = 2/5
x → 0 としたとき、
点 (x, 2x) は (0, 0) に近づきます。
f(x, 2x) は定数なので、
x → 0 のとき、
f(x, 2x) → 2/5 です。
先ほどと接近の仕方を変えると、異なる値に着地しました。
しかも、f(0, 0) = 0 と異なる値への着地です。
このように、z = f(x, y) は、
点 (0, 0) において不連続です。
座標平面における点の接近の仕方ということを知る良い例かと思います。
ちなみに、R×R を定義域とする2変数の実数値関数の連続の定義ですが、点の近づき方に依らずに同じ点へと収束するというのが定義です。
つまり、点 (x, y) が点 (a, b) に平面上において、どのように接近しても、f(x, y) が同じ値に収束しなければ、点 (a, b) において連続ではないということです。
ここから、数学科で学習する連続の定義を述べます。その定義に基づいて、この2変数の実数値関数が連続でないことを示します。
偏微分可能 :距離と近傍と連続の定義
(a, b), (c, d)∈R×R における2点が与えられたときに、2点間の距離を定義します。
点 A (a, b) と点 B (c, d) の二点間距離、つまり線分 AB の長さを定義します。
d(A, B) = {(c-a)2+(d-a)2}1/2 と定義します。
高校の数学2で学習した三平方の定理を用いる二点間距離です。
A, B という二つの点の成分表示を用いて、
d(A, B) で、点 A と点 B の距離を表す正の実数ということを示しています。
※ 距離関数という記事で、n 次元ユークリッド距離について述べています。
この距離を使って、正の実数 ε に対して、点 A を中心とする ε近傍を定義します。
{X∈R×R | d(A, X) < ε} という R×R の部分集合を、
U(A, ε) と表します。
点 X の成分表示が、(x, y) のとき、
X∈U(A, ε) とは、
d(A, X) = {(x-a)2+(y-b)2}1/2 < ε ということです。
つまり、中心 A (a, b) で半径 ε の円の内部にある点をすべて集めた集合が、点 A を中心とする ε近傍です。
この近傍を使って、2変数の実数値関数が連続であることを定義します。
2変数の実数値関数が連続とは
f:R×R → R を2変数の実数値関数とし、
S を R×R の空集合ではない部分集合とします。
「S 内の任意の点 A (a, b) において、
任意に与えらえた正の実数 ε に対し、
ある正の実数 δ が存在し、
任意の B (x, y)∈U(A, ε) について
|f(x, y)-f(a, b)| < ε 」を満たしたとします。
このとき、S において f が連続であると定義します。
この定義を見ると、点 B が点 A に接近するということを、正の実数 ε の値を小さくするということで定義しています。
近傍という点 A 中心の円の半径を小さくすることで、点 B の動ける範囲を狭くしています。
点 B が点 A へと、座標平面において接近する経路は様々ですが、接近の仕方を限定していません。
このことが、先ほどの z = f(x, y) は、限定的な接近の仕方をしました。
この正確な連続の定義に基づいて、先ほどの例が連続ではない(不連続)ということを確認します。
背理法は有効
(x, y) ≠ (0, 0) のとき、
z = f(x, y) = xy/(x2+y2) で、
(x, y) = (0, 0) のとき、
z = f(x, y) = f(0, 0) = 0 と定義された2変数の実数値関数でした。
点 O (0, 0) において、z = f(x, y) が不連続であることを確認します。
点 O (0, 0) において連続だと仮定します。
すると、連続の定義から、
任意の正の実数 ε に対して、正の実数 δ が存在し、
任意の点 B (x, y)∈U(O, ε) について、
|f(x, y)-f(0, 0)| < ε となります。
ここで、この ε として、0.01 という小数を考えます。
連続の定義から、
任意の B (x, y)∈U(O, 0.01) について、
|f(x, y)-f(0, 0)| < 0.01 … ★ となります。
そこで、直線 y = 3x 上の点で、
U(O, 0.01) 内に含まれている O と異なる点を 1 つ取ります。
その点を (t, 3t) とします。
(t, 3t) ≠ (0, 0) なので、t ≠ 0 です。
先ほどの例で確かめたことから、
f(t, 3t) = 9/10 = 0.9 という小数です。
z = f(x, y) の定義から、
f(0, 0) = 0 でした。
★から、
|f(t, 3t)-f(0, 0)| < 0.01 となります。
しかし、直接の計算から、
|f(t, 3t)-f(0, 0)| = |0.9-0|
= 0,9 > 0.01
これは矛盾です。
これで、z = f(x, y) が点 (0, 0) において連続だという主張を論破できました。
限定的な点の接近を考え、そのときに極限操作で収束したかに見えても、接近のさせ方に依存しない連続の定義を満たすかどうかは不明です。
そのため、2変数の実数値関数の連続性について、定義という形で明確に数学において定められています。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。