有界な単調数列 | コーシー列だから収束します【実数の連続性の公理からの帰結】

有界な単調非減少列-表紙

" 有界な単調非減少列 “は収束するということは、大学の数学科で厳密な証明を学習します。

高校の数学では、事実として結果を知りますが、証明は大学の数学の内容となります。

数列の部分列の定義やコーシー列についての内容を説明しつつ、有界な単調非減少列が、どうして収束するのかということを解説します。

コーシー列は、ある自然数以上では、その数列のどの項の値も同じとみなして良いというイメージです。

このイメージを数学における記述表現で、正確に述べるための練習になる内容かと思います。

また、高校数学から大学数学へのギャップとなる内容なので、実数の連続性の公理を足掛かりにして、有界な単調非減少列が収束列であることを省略なしに説明します。

いったん抽象的な理論の証明をしておくと、その後は、その理論が使えます。

有界な単調数列 : 収束することを証明するために認識しておく定義たち

有界な単調非減少列が収束するということを証明するにあたって、予め知っておく数学の知識があります。

[1] 有界・上限・下限
[2] 部分列
[3] コーシー列

有界には、上に有界と、下に有界という二種類があります。

実数全体から成る集合を R と表記することにします。

S⊂R という部分集合について、S が上に有界ということの定義から説明します。

ある実数 r が存在して、任意の a∈S に対して、
a ≦ r となっているときに、r を S の上界と定義します。

この数学サイトでは、ワイエルシュトラスの上限公理を実数の連続性の公理とすることにします。

実数の連続性の公理

実数全体 R の空でない部分集合 S に対して、
A = {r∈R | r は S の上界} とする。

このとき、集合 A には、最小値が存在する。
※ この最小値を S の上限という。
※ sup S が S の上限を表す記号です。

S の上界たちを全て集めた集合 A には、最小値が存在するということを保証しているのが、実数の連続性の公理です。

以前に、max-min という記事で、一般に R の空でない部分集合について、その部分集合の最小値が存在するとは限らないということを具体的に示しました。

しかし、この上界を全て集めた部分集合には、証明なしで、公理として最小値が存在するということになっています。

実数全体が、実数の連続性の公理を満たすように構成されているとでも思っておき、この実数の連続性の公理を足掛かりにして、微分積分学の基礎となる理論を学習することになります。

これで、有界な単調非減少列が収束ということの「有界」という用語についての必要な定義を解説しました。

実数を -1 倍することで、符号を反転させるということから、双対的に、下に有界ということを定義できます。

S⊂R という部分集合について、ある実数 r が存在して、任意の a∈S に対して、
r ≦ a となっているとき、r を S の下界と定義します。

すると、
B = {-r | r∈R は S の下界} という下界の符号を逆転させた実数を全て集めた集合を定義します。

この B に実数の連続性の公理を適用すると、B には最小値が存在することになります。

よって、C = {-p | p∈B} という B の集合の元の符号を逆転させた実数全体には、最大値が存在することになります。

この C の最大値のことを S の下限といいます。
※ inf S が、S の下限を表す記号です。

<補足>

この記事では、上に有界な実数の部分集合について、その最小値である上限の存在を実数の連続性の公理として、下に有界な実数の部分集合の下限の存在を導きました。

これとは逆に、下に有界な実数の部分集合について、その最大値である下限の存在を実数の連続性の公理として、上に有界な実数の部分集合の上限の存在を導くこともできます。

用語ですが、上に有界かつ下に有界であるとき、単に有界といいます。

次に部分列の定義も述べておきます。

部分列の定義

数列 {an} の一部の項たちを取り出してできる数列を、数列 {an} の部分列といいます。

この内容は、写像を用いて、次のように定義できます。

数列 {an} に対して、自然数全体 N から N への写像 φ が与えられたとき、
φ(1) < φ(2) < … となっていれば、
数列 {aφ(n)} を数列 {an} の部分列といいます。

{aφ(n) | n∈N} は、{an | n∈N} の部分集合となっています。

このように部分列の定義を見ると、難しそうですが、具体例を見ると、自然な定義だと思えます。

a1 = 1, a2 = 8, a3 = 15, … という初項 1, 交差 7 の等差数列を {an} とします。

φ: NN という写像(関数)を、
n∈N に対して、
φ(n) = 3n とします。

aφ(1) = a3 = 15, aφ(2) = a6 = 36, … という項たちから成るのが、部分列です。

{an} から、3 の倍数の項だけを取り出して並べた数列です。

写像による像と逆像という記事で、像の定義を詳しく解説しています。φ(N) という像の各元に φ(n) に対して、aφ(n) を対応させるという合成写像の発想が背景となっているのが部分列の定義です。

この部分列の定義も、有界な単調非減少列が収束することを証明するときに使います。

収束値が分からないときの証明

大学の数学で、数列の収束を厳密に証明するときに、イプシロンエヌ法を使います。ただ、イプシロンエヌ法の定義に基づいて、収束することを証明しようとするときに、その数列の収束値となる値を使います。

数学の抽象的な議論をしているときに、抽象的な数列のために、収束値が全く見当がつかないときがあります。

そのときに役立つのがコーシー列です。

収束する数列は、コーシー列となっているのですが、コーシー列は、必ず収束するということが、実数の連続性の公理から導かれます。
(実はコーシー列が収束するということを認めることと、実数の連続性の公理を認めることは同値です。)

このコーシー列の定義には、収束値が使われていません。そのため、収束値が分かっていないけれども、その数列が収束することを示すために、コーシー列であることを示すというのが一つの手となります。

【コーシー列の定義】

数列 {an} を実数を取る値とする数列とする。

任意の正の実数 ε(> 0) に対して、ある自然数 N が存在し、
n ≧ N かつ m ≧ N ならば、
|an-am| < ε であるとする。

このとき、数列 {an} をコーシー列という。

コーシー列の定義を見ると、数列の収束値が全く使われていません。そのため、数列の収束値が分からない状態でコーシー列の定義を満たすということが証明できるときがあります。

収束値が分からないけれども、コーシー列なので、その数列が収束するという論法は、よく使われるので、押さえておくと良いかと思います。

高校の数学で、一般項 an = 2+1/n が 2 に収束するというようなことを学習します。

このような収束する実数を値とする数列は、すべてコーシー列となっています。

実際、数列 {an} が 実数 a に収束するとします。

イプシロンエヌ法を用いた収束の定義から、
任意の正の実数 r に対して、ある自然数 k が存在して、
t ≧ k ならば |an-a| < r となります。

そこで、任意の正の実数 ε が与えられたときに、r として ε/2 を考えます。

ε/2 に対して、ある自然数 N が存在して、
t ≧ N ならば、|at-a| < ε/2 となります。

N 以上の任意の自然数を n, m とします。

収束-証明-三角不等式

これで、実数 a に収束する数列がコーシー列となることが示せました。

コーシー列の具体例は何かといったときに、高校の数学で学習した実数に収束する数列が、全てコーシー列ということになります。

この記事では、このことの逆であるコーシー列が、収束する数列であることを後で示します。

有界な単調数列 : 部分列をクッションにする

実数列というものは、定義域が自然数全体 N で、各自然数に対して実数を対応させる写像です。そのため、集合論の入門で学習する写像についての基本的な内容も関わってきます。

{anR | n∈N} という集合が、数列 {an} という写像の値域です。

ここで、この値域は R の部分集合です。

そのため、上に有界、下に有界、有界ではないという議論ができます。


【命題1】

実数値をとる数列 {an} が有界だとする。

このとき、数列 {an} は収束する部分列をもつ。


<証明>

仮定より、S = {anR | n∈N} は上に有界であり、下に有界でもあります。

S が上に有界なので、実数の連続性の公理から、S の上限が存在します。

sup S を S の上限(最小の上界)とし、
inf S を S の下限(最大の下界)とします。

ここで、k を自然数とし、その k について、
{an | n ≧ k} は S の部分集合なので、上に有界です。

そのため、実数の連続性の公理から、
{an | n ≧ k} には上限 bk が存在します。

k として各自然数を考えることにより、
数列 {bn} を定義することができました。

自然数 k と k’ について、k ≦ k’ だとすると、
{an | n ≧ k’}⊂{an | n ≧ k} です。

そのため、{an | n ≧ k’}, {an | n ≧ k}の上限 bk’ と bk について、bk’ ≦ bk となります。

つまり、数列 {bn} は、
b1 ≧ b2 ≧ … という単調非増加列となっています。

また、数列 {an} は下に有界でもあります。

そのため、任意の自然数 k に対して、
{an | n ≧ k} に含まれるどの実数も S の下限の値以上ということになります。

よって、inf S は、{bn∈R | n∈N} の下界の一つなので、
{bn∈R | n∈N} が下に有界ということになります。

実数の連続性の公理から、
{bn∈R | n∈N} の下限 t が存在します。

今、任意の自然数 n に対して、
inf S ≦ t ≦ bn となっています。

ここで、任意の自然数 h を一つ取ると、
t < t+1/h なので、t の最大性から、
t+1/h は、{bn∈R | n∈N} の下界ではありません。

よって、ある自然数 M が存在して、
bM < t+1/h となります。

m(h) を M 以上の任意の自然数とすると、
bm(h)-1/h < t より、
bm(h)-1/h は、{an | n ≧ m(h)} の上界ではありません。
(bm-1/h < bm = sup{an | n ≧ m(h)} だからです。)

上界でないことから、m(h) 以上のある自然数 H(h) が存在して、
bm(h)-1/h < aH(h) となります。

ここまでの順序関係をまとめます。

{bn | n∈N} の下限が t だったので、
t ≦ bM です。

両辺に -1/h を加えると、
t-1/h ≦ bM-1/h … (1)

bM-1/h < aH(h) … (2) でした。

H ≧ γ で、{an | n ≧ H(h)} の上限が bH(h) という定義でした。

そのため、aH(h) ≦ bH(h) … (3) です。

H(h) ≧ m ≧ M なので、数列 {bn} が単調非増加列であることから、
bH(h) ≦ bm(h) ≦ bM … (4)

また、この M について、
bM < t+1/h … (5) でした。

(1) から (5) より、
t-1/h ≦ bM-1/h < aH
≦ bH(h) ≦ bm(h) ≦ bM< t+1/h となっています。

すなわち、任意の自然数 h を一つとると、ある自然数 H(h) が存在して、
t-1/h< aH(h)< t+1/h となることが示せました。

この H は、任意に取った自然数 h に応じて存在していました。

そのため、H = H(h) と置きます。

h, h’ を h < h’ となっている自然数とすると、ここまでの議論から、
H(h) よりも大きい自然数 m(h’) を取ると、
m(h’) 以上の自然数 H(h’) が存在することになります。

そのため、
H(h) < m(h’) ≦ H(h’) となります。

つまり、h の値を大きくしたときに、H(h) という自然数の値も大きくなります。

h∈N に対して、H(h) を対応させるという写像を φ とすると、
{aφ(n) = aH(h) | n∈N} という部分列の項たちの集合が定義できました。

既に収束値が分かっている数列を利用

ここで、{aφ(n) = aH(h) | n∈N} が有限集合か無限集合かということは問題ではありません。

着眼するのは、自然数 h に対して、t+1/h, t-1/h という実数を一般項とする数列は、t に収束するということです。

t という実数は、定数なので、
h を十分大きくすると、
t+1/h は t に収束します。

また、同様に、
h を十分大きくすると、
t-1/h は t に収束します。

これらの基礎理論は、
数列 {ah} と数列 {bh} が、それぞれ α, β に収束するとき、
数列 {ah+bh} が α+β に収束するということです。

よって、どんな自然数 h に対しても、
t-1/h < aH(h) < t+1/h なので、
h を十分大きくすると、はさみうちの定理から、
部分列 {aH(h)} は t に収束します。【証明完了】

長い証明を述べましたが、イプシロンエヌ法を学習し始めた頃に出てくる具体例と、数列の収束値についての基本的な命題を利用し、はさみうちの定理を使うという高校数学でお馴染みの議論の流れです。

次に、コーシー列が有界であることを示し、その後でコーシー列が収束することを示します。

有界な単調数列 : コーシー列は収束する

【命題2】

コーシー列は有界である。


<証明>

数列 {an} をコーシー列とします。

実数 1 > 0 に対して、ある自然数 N が存在し、
n ≧ N, m ≧ N だとすると、
|an-am| < 1

m として、N を考えると、
|an-aN| < 1 より、
-1 < an-aN < 1 です。

各辺に aN を加えると、
aN-1 < an < aN+1 です。

ここで、
T = max{|a1|, |a2|, … , |aN-1|, 1+|aN|} と置きます。

【n ≧ N の場合】

三角不等式より、
|an| = |an-aN+aN|
≦ |an-aN|+|aN|
< 1+|aN| ≦ T

【n ≦ N-1 の場合】

T の定め方より、|an| ≦ T です。

以上より、任意の自然数 n に対して、
|an| ≦ T なので、
数列 {an} は有界です。【証明完了】

数列 {an} がコーシー列のとき、
{an | n∈N} が上に有界かつ下に有界であることが示せました。

この【命題1】と【命題2】から、コーシー列が収束することを示します。

コーシー列が収束列である証明

【命題3】

コーシー列は収束する。


<証明>

数列 {an} をコーシー列とします。

【命題2】より、数列 {an} は有界です。

よって、【命題1】より、
数列 {an} は収束する部分列 {aH(h)} をもちます。

数列 {aH(h)} が収束する値を t と置きます。

任意の正の実数 ε を取ります。

ε/2 > 0 より、ある実数 K が存在して、
h ≧ K ならば |aH(h)-t| < ε/2 となります。

また、コーシー列の定義から、
ある自然数 N が存在して、
n ≧ N, m ≧ N ならば、|an-am| < ε/2 となります。

そこで、n ≧ N の場合について、
h ≧ K かつ H(h) ≧ N となるときを考えます。

|an-t| = |an-aH(h)+aH(h)-t|
≦ |an-aH(h)|+|aH(h)-t|
< ε/2+ε/2 = ε

よって、コーシー列 {an} は、t に収束することが示せました。【証明完了】

上に有界な単調非減少列は収束する

【命題4】

上に有界な単調非減少列はコーシー列である。


<証明>

数列 {an} を上に有界な単調非減少列とする。

もし、数列 {an} がコーシー列でないと仮定すると、
ある正の実数 ε が存在して、
どんな自然数 N についても、
n ≧ N, m ≧ N ならば |an-am| ≧ ε となります。

このことから、自然数 N = 1 について、
|a2-a1| ≧ ε

ここで、数列 {an} は単調非減少列なので、
a2 ≧ a1 だから、
a2-a1 = |a2-a1| ≧ ε と絶対値のない状態で ε 以上の値だと分かります。

自然数 N = 2 について、同様に、
a4-a3 ≧ ε

順に続けて、N = 2k に対して、
a2k-a2k-1 ≧ ε

このことから、
a2k = (a2k-a2k-1)+(a2k-1-a2k-2)
 +(a2k-2-a2k-3)+…+(a2-a1)+a1
≧ ε + ε + … + ε + a1
= k × ε + a1

よって、自然数 k の値を増大させると、
ε > 0 だから、
a2 < a4 < a6 < …

つまり、数列 {an} の偶数の項の値が無限に増大するということです。

これは、数列 {an} が上に有界であるという仮定に矛盾します。

よって、背理法より、数列 {an} はコーシー列ということになります。【証明完了】

この【命題4】と【命題3】を合わせると、次の【命題5】が従います。

上に有界な単調非減少列

【命題5】

上に有界な単調非減少列は収束する。


<証明>

上に有界な単調非減少列はコーシー列です。

【命題3】より、コーシー列だから収束します。【証明完了】

下に有界な単調非増加列

さらに、下に有界な単調非増加列 {bn} が収束するということが、次のようにして示せます。

数列 {-bn} は上に有界な単調非減少列だから【命題5】より収束します。

よって、数列 {-(-bn)} も収束します。

各自然数 n に対して、
-(-bn) = bn です。

よって、下に有界な単調非増加列 {bn} が収束することが示せました。

これで、タイトル通り、有界な単調数列が収束するということの証明が完了しました。

今の議論と同様にして、
「下に有界な単調非増加な数列が収束する」とすると、「上に有界な単調非減少な数列が収束する」ということになります。

そのため、これら二つは同値ということです。

関連する記事として、
デデキント切断という微積の基礎となる理論について解説をしています。

これで、今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。