直積集合 | 順序対から二項演算への理解【大学数学の基礎】

直積集合-表紙

二つの集合の元(要素)で作った順序対を集めてできる" 直積集合 “を用いて、二項演算が定義されます。

線形代数や群といった代数的構造に関わってくる基礎的な内容なので、早い段階から押さえておくと良い内容になるかと思います。

実は、中学一年のときから使っている xy-座標平面は実数全体から成る集合どおしで直積集合を作ったものです。

確率の単元だと、二つのサイコロを投げるときに、集合たちで直積集合を考えて、事象が作られていたりします。

結構、身近に使われている直積集合です。

基礎となる定義から始められることを着実に押え、理解を広げていくことが大切になるかと思います。

直積集合 :集合の相当関係の定義

集合の相当関係とは、二つの集合が等しいということを表す言い方です。

集合 A が集合 B の部分集合であり、かつ、集合 B が集合 A の部分集合となっているときに、二つの集合 A と B が等しいと定義されています。

この定義には、片方の集合が、もう片方の集合の部分集合となるという定義が使われているので、部分集合の定義を押さえると、その流れで二つの集合の相当関係の定義も押さえることができます。

集合 A に含まれているどの要素(元)も、集合 B に含まれているときに、A は B の部分集合といいます。記号は、A ⊂ B と表します。

この部分集合の定義だと、集合 B の元で、集合 A に含まれている元があるのかどうかについては触れられていません。

ですので、A ⊂ B が成立していると分かったときに、油断せずに B の元で、A に含まれている元が存在するのかどうかもチェックしておくことが大切になります。

B のどの元も、A に含まれていれば、B ⊂ A ということになります。「A ⊂ B かつ B ⊂ A」となっているときは、A と B が同一の集合となります。

このときが、A = B という相当関係が成立するときです。

もし、B の元で、A には含まれていないものが存在すれば、B は A の部分集合ではありません。
※ A は B の真部分集合という状態です。

このときには、A ≠ B となります。この集合の相当関係について、大学数学でよく触れられるので、まず書いておきました。

直積集合 と 順序対

【直積集合の定義】

A × B = { (a, b) | a ∈ A, b ∈ B } という順序対をすべて集めた集合が、A と B の直積集合です。


a ∈ A, b ∈ B のとき、両者を並べる順序まで考慮した順序対というものを考えます。
(a, b) が順序対です。

(a, b) について、a の値のことを第 1 成分、b の値のことを第 2 成分といいます。

実は、この順序対については、中学数学で xy 座標平面上の点を表すものとして、(2, 3) といったものを学習しています。

実数でなくても、(a, b) というように集合の元を順序つきで並べることで、順序対が定義できます。

a , x ∈ A と b, y ∈ B について、二つの順序対 (a, b) と (x, y) が等しいということの定義があります。

大学数学では、いろいろなものについて、等しいという相当関係の定義があるので、焦らずに代表的なことから押さえておくことが大切になります。

(a, b) = (x, y) ということの定義は、a と x が A の元として等しく、なおかつ b と y が B の元として等しいということです。

そして、集合 A と集合 B が与えられたときに、A と B の直積集合が定義されます。

{(a, b) | a ∈ A, b ∈ B} という集合を A と B の直積集合といい A × B と表します。

ちなみに、集合 A と集合 B が等しいときにも直積集合が定義されます。

A = B のときに、A × A のことを A2 と表すときもあります。

この同じ集合どおしで作った直積集合は、中学数学や高校数学で馴染みのある xy 座標平面です。

実数全体から成る集合を R と表すことにすると、R × R 、つまり、R2 が xy 座標平面全体の点を表しています。

R × R = R2 = {(x, y) | x, y ∈ R} が、座標平面上の点全体を表す集合です。

さらに、同じ集合の直積について、一般に、集合 A を n 個分で直積をとった集合を An と表します。

(a1, a2, ・・・, an) と、A の元が n 個並んだ順序対をすべて集めた集合となります。

実数全体 R を 3 個で直積集合を作ると空間座標です。

R × R × R = R3 ∋ (x, y, z) が、空間内の点を表します。

n 個のような一般論が出てきたら、
n = 2 や n = 3 などで具体的に様子を見ると理解しやすいかと思います。

直積集合 :順序対から二項演算

空集合ではない集合 S が与えられたときに、
S × S から S への写像(関数)のことを S 上の二項演算といいます。

四則演算という記事で実数を例に基礎的な内容を解説しています。

f : S × S → S で、(a, b) ∈ S × S に対応する値 f(a, b) ∈ S のことを、f を使わずに a・b と積の形で書くことにします。

単に対応をつければ二項演算なのですが、特徴的なこととして、結合法則を満たすときを考えます。

集合 S 上の二項演算について、結合法則が成立するときに、S はその二項演算について半群であるといいます。

a・(b・c) = (a・b)・c … ★

結合法則が成立するときには、a, b, c が任意の S の元について成立しているということです。

どのような S の元を a, b, c に当てはめても、★が成立していなければなりません。

二項演算と群

群は、半群よりもさらに二つのことが成立します。一つは単位元の存在。もう一つは逆元の存在です。まずは、単位元について説明をします。
 
e ∈ S が、任意の a ∈ S に対して、
e・a = a,
a・e = a, となっているときに、e を S の単位元といいます。
 
単なる半群のときには、単位元の存在は仮定されていません。

そして、群と呼ぶには、あと一つ逆元の存在が必要になります。

a ∈ S に対して、xa ∈ S が存在して、
a・xa = xa・a = e となるとき、xa を a の逆元といいます。
 
任意の S の元 a に対して、a の逆元が存在するというのが、群であるために必要な逆元の存在の条件です。

a の逆元を xa と表しましたが、普通は a-1 と表します。この -1 乗の記号をインバースと読みます。
 
群についての二項演算で、一般に交換法則が成立するとは限りません。

交換法則が成立するときに、アーベル群(加法群)といいます。

加法については、やはりベクトル空間論で使われる用語として有名かと思われます。

ベクトル空間の定義で、V が体 K 上のベクトル空間(線形代数)となっているときには、仮定として V 上の二項演算について交換法則が成立することが必要になります。

群の二項演算について、交換法則が成立するときに、二項演算の記号を「+」で表すことをするときがあります。

ベクトル空間を考えているときには、「+」の記号を使うことが圧倒的に多いです。

(x, y) ∈ V × V について、
加法をとったときに x + y と表します。

外直積と内直積というブログ記事で、より詳しく群論で使う直積群について解説をしています。

ここまでで述べた直積は、加法群についての外直積になります。

直積集合とスカラー倍について

群 S の二項演算を「・」で表し、ベクトル空間の加法を「+」で表すということを述べました。

ただ、「・」の記号は、スカラー倍を表すときにも使われます。

二項演算は、S × S から S への写像(関数)でした。同じ集合 S で直積集合を考え、写像(関数)の行き先が S になっていました。

ベクトル空間のスカラー倍は、この部分に違いがあります。

※ ベクトル空間の公理(定義)については、このサイトのブログベクトル空間の公理に書いています。

体 K からベクトル空間 V へのスカラー倍とは、K × V から V への写像(関数)となっています。

(k, v) ∈ K × V に対して、k・v ∈ V が対応してきます。

ただし、K と V が同じ集合になっているベクトル空間もあります。

必ず K と V が異なる集合である必要はありません。しかし、異なる集合となっているときもあります。

体 K として、実数体 R 、ベクトル空間 V として R を考えると、一次元ベクトル空間になります。このときには、K と V は同じ集合になっています。

体 K として、実数体 R 、ベクトル空間 V として R × R を考えると、二次元ベクトル空間となります。

この二次元ベクトル空間は、xy 座標平面ですが、K と V が異なる集合になっています。

先ほどのスカラー倍ですが、
k ∈ R, (x, y) ∈ R × R について、
k・(x, y) = (kx, ky) です。

直積集合 :体の公理(定義)

体の公理(定義)について、まとめておきます。

空集合ではない集合 K に、二種類の二項演算が定義されていることが前提となります。


K × K → K
(a, b) → a + b
(a, b) → a・b


二種類の二項演算の計算結果を「+」と「・」で表すことにします。

「+」の方が、以下の加法の条件を満たすものということになります。

交換法則・結合法則・分配法則

加法となる「+」の二項演算について、交換法則と結合法則が成立することが条件となります。
 
また、乗法「・」についても、交換法則と結合法則が成立することが条件となります。
※ 一般の結合法則(結合律)については、リンク先で解説をしています。
 
そして、加法と乗法という二種類の二項演算をつなぐ分配法則も成立することが条件となります。
 
以下に書く a, b, c ∈ K は、体の任意の元を表しています。

直積と演算法則

乗法について、交換法則が成立するとは限らない非可換体というものもあります。

このブログでは、交換法則が成立する可換体について書いています。

例えば、高校数学で学習する複素数全体の加法と乗法をイメージして頂くと、確かに、これらの条件を満たしています。
 
そして、加法と乗法を結び付けているのが分配法則になります。


【分配法則】

a, b, c ∈ K に対して、
a ・(b + c) = a・b + a・c,
(a + b)・c = a・c + b・c


分配法則について、上が左分配法則、下が右分配法則です。

通常は体といったときに、左右の分配法則が成立することを条件とします。

※ 一般の分配法則は、加法についての一般結合法則を利用して、帰納法を使って証明されます。

単位元・逆元

単位元と逆元は、加法についてのものと、乗法についてのものがあります。

【加法についての単位元】
加法について 0K ∈ K が次を満たすとき、0K を加法についての単位元といいます。

a ∈ K に対して、a + 0K = a

すでに、加法について交換法則が成立することが述べられているので、0K + a = a ということにもなります。

【乗法についての単位元】
乗法について 1K ∈ K が次を満たすとき、1K を乗法についての単位元といいます。

a ∈ K に対して、a・1K = a

乗法の交換法則から、1K・a = a も成立していることになります。

【加法についての逆元】
a ∈ K に対して、-a ∈ K が存在して、
a + (-a) = 0K

つまり、どの K の元についても、加法を計算したときに、加法についての単位元 0K が計算結果となる元が存在するということです。

【乗法についての逆元】
x ∈ K を 0K ではない任意の元とする。
この x に対して、x-1 ∈ K が存在して、
x・x-1 = 1K

これで、体の公理(定義)となる条件をすべて書きました。

ただ、加法についての単位元 0K を、乗法の逆元の条件から除いていることに注意です。

これは、もし、加法についての単位元が、乗法についての逆元をもったとすると、
体 K が 0K のみの 1 点集合になってしまうからです。

仮に、0K が乗法についての逆元 (0K)-1 をもったとすると、任意の a ∈ K に対して、
a = a・1K = a・{0K・(0K)-1}
= (a・0K)・ (0K)-1 = 0K・(0K)-1 = 1K

このように、体K のどの元 a も 1K と等しくなってしまいます。

そうすると、特に、任意にとった a ∈ K として、加法についての 0K を考えると、
0K = 1K となります。

加法についての単位元 0K は、体 K のどの元と乗法を計算しても、計算結果は必ず 0K になります。

このことは、加法についての単位元が乗法についての逆元をもつかどうかに関わらずに成立します。

任意の b ∈ K に対して、
b・0K = b・(0K + 0K)
= b・0K + b・0K

b・0K = b・0K + b・0K の両辺に、
-(b・0K) を加えると、0K = b・0K

「0K は体 K のどの元と乗法を計算しても計算結果は必ず 0K になる」ということと、
先ほどの 0K = 1K となることを合わせます。

すると、体 K のどんな元 b も、0K に一致するということになってしまいます。

b ∈ K に対して、
b = b・1K = b・0K= 0K となってしまいます。

ですので、 0K = 1K とならないために、体の乗法についての逆元の存在について、加法についての単位元 0K のことを除いているわけです。

小学校の算数から、ゼロで割ることはできない。もしくは、分数の分母にゼロを書いてはいけないということを習います。

ゼロで割って良いとしてしまうと、ゼロについて乗法の逆元の存在を認めたことになってしまいます。

そうすると、実数体がゼロのみの集合となってしまうからです。

最後に、ベクトル空間の直積について述べます。

直積集合 :線形代数の直積

このページの前半で、R × R が R 上の線形代数(ベクトル空間)であることを述べました。

この内容を一般化して、同じ体からのスカラー倍をされている 2 つのベクトル空間から新しいベクトル空間を定義する方法を説明します。

V と W を体 K 上のベクトル空間とします。このとき、次のようにして、直積集合 V × W を体 K 上のベクトル空間とすることができます。


【V × W の和】

(v, w), (x, y) ∈ V × W に対して、
(v, w) + (x, y) = (v + x, w + y) と成分ごとに和を定義します。

同じ加法の記号を使っていますが、v + x は V における加法です。w + y も同じく W における加法です。

既に定義されているベクトル空間 V と W における加法を利用して、直積集合における加法を定義しています。

【V × W へのスカラー倍】

k ∈ K からの (v, w) ∈ V × W へのスカラー倍を、
k(v, w) = (kv, kw) と定義します。
※ 既に V と W において定義されているスカラー倍を使って定義しています。


これで、直積集合 V × W について和と体 K からのスカラーが定義されました。

この和とスカラー倍の定義について、ベクトル空間の公理を満たします。

そのため、V × W は単なる集合ではなく、体 K 上のベクトル空間という代数学的な構造が確立されています。

このようにして、体 K 上の二つのベクトル空間 V と W から直積集合 V × W を体 K 上のベクトルにする方法を外部直和といいます。

ちなみに、名前のごとく内部直和というものも定義されています。

内部直和は、体 K 上のベクトル空間 V の部分空間 V1 と V2 から、新しい V の部分空間を定義する方法です。

内部直和についての詳細は、直和空間という記事で説明をしています。

有限個の集合の直積集合と二項演算について、大学数学を学習する上で基本になることをまとめました。

無限個の集合の一般の直積については、選択公理というブログ記事で解説をしています。

直積についての定義を正確に把握することで、代数学入門の学習が分かりやすくなるかと思います。

無限個の群の直積など、無限個のときの定義は特に気をつけて定義を押さえておくことが大切になります。

これで、今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。