分配律 | m個で成立する理由をつかむ【証明で何を使うか】

一般の分配律-サムネイル

分配律 (分配法則)は、一般個数の自然数 m に対して、m 個で成立します。三個のときは、実数について中学数学から使いますが、どうして一般の個数でも成立しているのかということを明らかにします。

私は学生だったときに、いつの間にか 4 個や 5 個の個数の実数や複素数について、分配法則を使っていました。

もちろん、中学や高校の数学を学習するときには、細かい厳密証明は気にせずに普段の勉強を着実にすることが大切かと思います。

しかし、私の場合は、大学の数学科に進学しましたので、一般個数で分配法則が成立するということを覚えているだけだと、大学の数学の複雑さに跳ね返されました。

やはり、数学科へ進学した場合は、入学してから夏休みまでの間に、なぜ m 個で成立するのかということを自分で確かめておくことが大切かと思います。

意外と理解しやすく、その証明の書き方は、他の数学の内容にも活用できていくかと思います。

任意の三個について、分配律が成立しているならば、四個以上の個数についても成立するというのが、一般の分配律です。

以下の証明では、任意の三個の元について、分配律が成立しているということが前提となります。

分配律 1. 証明に必要な内容

【一般の分配律】

m を 3 以上の自然数とすると、
a1(a2 + a3 + … + am)
= a1a2 + a1a3 + … + a1am


分配律は、加法と乗法という二種類の演算を結び付けています。

m 個での分配律を証明しようとするときに、加法についての結合律(結合法則)の理解が必要になります。

つまり、自然数 n について、n 個で加法を計算したときの値が、括弧のつけ方に依らずに一つに決まるという一般結合律を使います。

大学数学を勉強するときに、既に成立している定理を使うことがよくあります。その証明に使った定理について、証明が重たいということもあるので、大変なときもあります。

この分配律の等式の括弧の中の加法たちに、注目します。加法について、一般の結合律のために、括弧のつけ方に依らずに値が定まっているため、括弧をつけていません。

a1 + {(a2 + a3) + a4} も、
(a1 + a2) + (a3 + a4) も同じ値になるので、
a1 + a2 + a3 + a4 と括弧をつけずに表しています。

このおかげで、スムーズに分配律を m 個のときに証明ができます。このように、証明に必要なことをちゃんと押さえるだけでも、現象を成立させているメカニズムを把握する良い練習になるかと思います。

分配律の証明の流れは、加法の部分に現れている元の個数についての帰納法です。自然数 m として、3 以上の自然数を考えています。そのため、帰納法は、a1 の分だけ少ないため、2 以上の自然数についての帰納法となります。

一般の分配律の証明は、とりあえずは実数や複素数についての内容と思っていると理解しやすいかと思います。

数ではないものでも、同じ証明が使えるもの(たとえば行列)があるので、身近な実数についての証明と思っておくと気分が楽かと思います。

一般の分配律の証明

加法の部分に現れている元の個数についての帰納法で示す。

【2 個のとき】
このときには、分配律が成立しているので、示したいことが成立しています。
 
【k 個のとき】
加法の部分に現れる元の個数が k 個のときに成立していると仮定します。

ここで目指すのは、加法の部分の個数が (k + 1) 個のときにも成立するということです。
※帰納法の繰り返しの成立の確認になります。

a1(a2 + … + ak + ak+1)
= a1{(a2 + … + ak) + ak+1}
= a1(a2 + … + ak) + a1ak+1

加法についての一般結合律を用いて、真ん中の式へと書き換えました。

真ん中の式の中括弧の値は一つの元なので、定理の前提である、三個の元についての分配律が適用できます。分配律を適用すると、一番下の式となります。
 
ここで、加法の部分に現れている元の個数が k 個なので、帰納法 (induction) を使います。


a1(a2 + … + ak)
= a1a2 + … + a1ak


以上より、
a1(a2 + … + ak) + a1ak+1
= a1a2 + … + a1ak + a1ak+1 と、等しいということが示せました。

したがって、帰納法を用いて、一般の分配律が証明できました。【証明完了】

<補足>

ベクトル空間のスカラー倍(加群の環からの作用)と加法についても、この一般の分配律の証明と同様に帰納法で証明ができます。

体 K 上のベクトル空間を V とし、
k∈K, v1, v2, … , vn∈V に対して、
k(v1+v2+… +vn) =
kv1+kv2+… +kvn が成立します。

このことは、n 個の部分空間の和空間も部分空間になっていることの証明などで使います。

環 R 上の加群 M についても、同様です。

分配律 2. 数でないものでも

分配律は、数でないものでも扱われます。二種類の演算を結びつけているのが分配律です。分配律が成立する例として、集合算があります。

A∩B = B∩A と交換律(交換法則)が成立します。「∩」という演算は、さらに三個で結合律が成立するので、一般の結合律も成立していることになります。

そのため、先ほどの加法の部分と「∩」を考え、乗法の部分を「∪」と考えます。

そうすると、次の分配律が三個について成立していることが、まず示せます。


A1∪(A2∩A3) = (A1∪A2)∩(A1∪A3)


<証明>

分配律-集合算-証明

これで、証明終了です。

上から三番目の部分から四番目の部分への書き換えは、「または」と「かつ」という論理演算子について、成立する内容を使いました。

数学の推論規則の一つになります。集合算の分配律は、この規則から、成立していることになります。
共通部分 和集合 についての基本となる高校内容は、こちらのブログで解説をしています。

これで、任意の三個の集合について、分配律が成立することが確認できました。「∩」については、交換法則と一般の結合律が成立しています。

よって、乗法として「∪」、加法として「∩」を考えると、集合算で一般の分配律が成立するということになります。

A1∪(A2∩A3∩ … ∩Am) は、
(A1∪A2)∩(A1∪A3)∩ … ∩(A1∪Am) と等しいことになります。

では、同じ類推で、集合算のもう一つのパターンです。

同じ類推で

A1∩(A2∪A3) = (A1∩A2)∪(A1∩A3)


先ほどと「∩」と「∪」の位置が入れ替わっています。

この証明も先ほどと同様に、論理演算子「かつ」と「または」についての分配律から、書き換えができるからです。

「∪」についても、交換法則が成立していて、一般の結合律が成立します。

したがって、乗法として「∩」、加法として「∪」を考えても、一般の分配律が得られるということが同様に確かめられます。

A1∩(A2∪A3∪ … ∪Am) は、
(A1∩A2)∪(A1∩A3) … ∪(A1∩Am) と等しいことになります。

証明で使用されている論点を押さえ、どういうメカニズムが成立しているのかを理解すると、このように内容が深くなっていきます。

実は、数でなくても、「任意の三個で分配律が成立していると、四個以上でも成立する」ということが導けます。

この類推をするときに、なぜ数のときに成立していたのかという仕組みを押さえていることが効いてきました。

関連する内容として、集合算についての結合律を示しておきます。

分配律3.関連する内容

A∪(B∪C) = (A∪B)∪C を示します。和集合についての結合律です。

<証明>

a ∈ A ∪ (B ∪ C) を任意にとります。和集合の定義から次の二つの場合が考えられます。


[1] a ∈ A
[2] a ∈ B ∪ C


まず、[1] つまり、a ∈ A のときから考えます。

このとき、a ∈ A ⊂ A ∪ B となります。

さらに、A ∪ B ⊂ (A ∪ B) ∪ C なので、a ∈ (A ∪ B) ∪ C となります。

次に、[2] つまり、a ∈ B ∪ C のときを考えます。

和集合の定義から、a ∈ B または a ∈ C となります。

B ⊂ A ∪ B ⊂ (A ∪ B) ∪ C
であり、C ⊂ (A ∪ B) ∪ C なので、いずれのときにも、
a ∈ (A ∪ B) ∪ C となります。

よって、[1] と [2] のいずれにせよ、
a ∈ (A ∪ B) ∪ C となります。

したがって、部分集合の定義から、
A ∪ (B ∪ C) ⊂ (A ∪ B) ∪ C が示せました。

今度は逆向きの包含関係について確認します。

(A∪B)∪C ⊂ A∪(B∪C) の確認

a ∈ (A ∪ B) ∪ C を任意にとります。和集合の定義から、やはり次の二つの場合が考えられます。


[3] a ∈ A ∪ B,
[4] a ∈ C


[3] のとき、a ∈ A または a ∈ B です。

a ∈ A とすると、A ⊂ A ∪ (B ∪ C) なので、
a ∈ A ∪ (B ∪ C) となります。

a ∈ C とすると、B ⊂ B ∪ C ⊂ A ∪ (B ∪ C) より、
a ∈ A ∪ (B ∪ C) です。

よって、[3] のときには、a ∈ A にせよ、a ∈ B にせよ、
a ∈ A ∪ (B ∪ C) となります。

次に [4] のときを考えます。

a ∈ C のとき、
C ⊂ B ∪ C ⊂ A ∪ (B ∪ C) より、
a ∈ A ∪ (B ∪ C) となります。

したがって、[3] にせよ、[4] にせよ、
a ∈ A ∪ (B ∪ C) です。

部分集合の定義から、
(A ∪ B) ∪ C ⊂ A ∪ (B ∪ C) が示せました。

これで、集合の相当関係の定義から、
A ∪ (B ∪ C) = (A ∪ B) ∪ C ということになります。

和集合をとるということについて、結合法則が成立していることが証明できました。

論理記号というブログ記事で、
共通部分についての結合法則を示しています。

同じような要領で、共通部分についての結合法則も示せます。

この記事で扱った分配律ですが、代数学の環論で加法と乗法を考えたときに分配律は基本となります。

イデアルの積という記事で、分配律が効果を発揮する場面を述べています。

これで、今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。