和空間の次元 | dim(W+W’)についての定理を証明

和空間-表紙

有限次元ベクトル空間 V の部分空間 W と W’ に関して、" 和空間の次元 “つまり、W+W’ の次元についての定理を証明しています。

ベクトル空間の内部直和を理解するための基本となる考え方にもなるので、結果を導く証明の過程をできるだけ丁寧に述べたつもりです。

ベクトル空間の理論で、基底についての延長定理をうまく使うことで、和空間の基底を構成することがポイントになります。

dim(W+W’) =
dimW + dimW’ - dim(W∩W’) を目指して、必要な内容を解説します。

和空間の次元 :最小性について

V を体 K 上のベクトル空間とし、W と W’ を V の部分空間とします。

このとき、
{x+x’ | x∈W, x’∈W’} を W と W’ の和空間といいます。

和空間を表す記号は、W+W’ です。


まず、W+W’ が V の部分空間となっていることを示します。その後で、W と W’ を含む包含関係についての最小の部分空間が、W と W’ の和空間であることを示します。

部分空間であることを示すためには、次の二点を確認します。

① 和で閉じている
② スカラー倍で閉じている

まず、①から確認します。

x, y∈W, x’, y’∈W’ に対して、V における加法についての結合律から、
(x+x’)+(y+y’) = (x+y)+(y+y’) です。

ここで、W と W’ は、V の部分空間なので、和で閉じているため、
x+y∈W, x’+y’∈W’ となっています。

よって、(x+y)+(x’+y’)∈W+W’ となっています。

つまり、(x+x’)+(y+y’)∈W+W’ です。

今度は、②について確認します。

x∈W, x’∈W’, k∈K に対して、
k(x+x’) = kx+kx’ です。

ここで、W と W’ が V の部分空間なので、
kx∈W, kx’∈W’ です。

部分空間なので、和で閉じていることから、
kx+kx’∈W+W’ です。

つまり、k(x+x’)∈W+W’ が示せました。

これで、W+W’ が V の部分空間となっていることが示せました。

また、3 個以上の V の部分空間 W1, … , Wn についても和空間が定義できます。

加法について、一般の結合律が成立するため、
{w1+…+wn | wi∈Wi (i = 1, … , n} という V の部分集合が定義できます。

これを W1+…+Wn と表します。

この部分集合の定義から、
W1+…+Wn が部分空間の定義を満たすことが分かります。

u1+…+un, w1+…+wn∈W1+…+Wn とすると、
(u1+…+un)+(w1+…+wn)
= (u1+w1)+…+(un+wn)
∈W1+…+Wn となります。

加法についての一般の結合律が効いて、和で閉じていることが分かりました。

一般の分配律の要領で、加法とスカラー倍の関係を考えると、
k∈K について、
k(w1+…+wn)
= kw1+…+kwn
∈W1+…+Wn

ベクトル空間の公理で定められている加法とスカラー倍の関係から、n 個について帰納的にスカラー倍を分配できることから、スカラー倍で閉じていることが分かりました。

これで、任意の自然数 n に対して、
W1+…+Wn という n 個の部分空間の和空間も、V の部分空間であることが示せました。

さらに、2 個の和空間 W+W’ が、W と W’ を両方とも含んでいる部分空間の中で、包含関係について最小であることを示します。

最小性の証明

W+W’ が、W と W’ を両方とも含んでいることは、次のようにして示すことができます。

W の任意の元を a とすると、
a = a+0∈W+W’ です。

このため、包含関係についての定義から、
W ⊂ W+W’ となっています。

W’ の任意の元を b とすると、
b = 0+b∈W+W’ なので、
同様に、W’ ⊂ W+W’ となっています。

そこで、W と W’ を両方とも含んでいる任意の V の部分空間を H とします。

x+x’∈W+W’ を任意に取ると、
x∈W ⊂ H, x’∈W’ ⊂ H です。

H は部分空間なので、和で閉じているため、
x+x’∈H となります。

よって、部分集合の定義から、
W+W’ ⊂ H となります。

これで、W と W’ を両方とも含んでいる任意の部分空間に和空間が含まれるということが示せました。

これが、包含関係について、和空間が最小ということです。

和空間の次元 :部分空間の共通部分

ベクトル空間 V の部分空間 W, W’ について、W∩W’ も V の部分空間となっていることを示しておきます。

V が有限次元のときに、和空間の次元についての定理を証明するときに、部分空間どおしの共通部分も部分空間となっているということを使うので、そのことを証明しておきます。

a, b∈W∩W’ を任意に取ります。

a, b∈W∩W’ ⊂ W であり、W が部分空間であることから、
a+b∈W です。

また、W∩W’ ⊂ W’ なので、
a+b∈W’ です。

そのため、a+b は、W と W’ のどちらにも含まれています。

共通部分の定義から、
a+b∈W∩W’ です。

次に、スカラー倍で閉じていることを示します。

a∈W∩W’, k∈K を任意に取ると、
a∈W, a∈W’ で、W と W’ が部分空間であることから、
ka∈W, ka∈W’ です。

よって、ka∈W∩W’ が示せました。

これで、W と W’ の共通部分も V の部分空間となっていることを示せました。

最大性について

W∩W’ は、W と W’ の両方に含まれている部分空間の中で、包含関係について最大の部分空間となっています。

{H | H は V の部分空間で H ⊂W, H ⊂ W’} という部分空間の集まりについて、包含関係で順序を定義したときに、W∩W’ が最大元となるということです。
※ 集合論入門のことを考えて、順序について触れました。

V の部分空間 H が、H ⊂W, H ⊂ W’ となっているとき、共通部分の定義から、
H ⊂ W∩W’ となります。

このため、先ほどの部分空間の集まりの中で、包含関係という順序について、共通部分が最大元となっています。

今回の記事で示したい定理では、和空間の部分空間として、共通部分を考えます。

和空間の次元について

【定理】

V を体 K 上のベクトル空間(線形代数)とし、W と W’ を V の部分空間とする。

このとき、和空間の次元 dim(W+W’) は、
dimW + dimW’ - dim(W∩W’) である。


<証明>

W∩W’ = {0} とすると、
dim(W∩W’) = 0 より、定理が成立します。

そのため、W∩W’ ≠ {0} の場合について議論を進めます。

{a1, … , ar} を W∩W’ の基底とします。

W∩W’ ⊂ W, W∩W’ ⊂ W’ なので、基底を延長して W と W’ の基底をつくります。

{a1, … , ar, b1, … , bm} を W の基底とし、
{a1, … , ar, c1, … , cn} を W’ の基底とします。

まず、和空間 W+W’ が、
{a1, … , ar, b1, … , bm, c1, … , cn} によって生成されていることを示します。

生成することの証明

x+x’∈W+W’ (x∈W, x’∈W’) を任意に取ります。

{a1, … , ar, b1, … , bm} が W の基底なので、これらの一次結合で x を表すことができます。

x = Σi kiai + Σj kj'bj (ki, kj'∈K) とします。

また、{a1, … , ar, c1, … , cn} が W’ の基底なので、
x’ = Σs hsas + Σt ht'ct とします。

すると、
x+x’ = Σi (ki+hs)ai + Σj (kj'+ht')bj となります。

これで、{a1, … , ar, b1, … , bm, c1, … , cn} の K 上の一次結合によって、和空間が生成されていることを示すことができました。

一次独立であることの証明

{a1, … , ar, b1, … , bm, c1, … , cn} が一次独立であることを示せば、これが和空間の基底となります。

この基底は、(r+m+n) 個の元から成ります。

そうすると、
dimW + dimW’ = (r+m)+(r+n) なので、
dimW+dimW’-dim(W∩W’)
= r + m + n となり、和空間の基底を構成するベクトルの個数と一致することになります。

では、一次独立であることを示します。

Σh xhah + Σi yibi + Σj zjcj = 0 (xh, yi, zj は体 K の元) とします。

移項すると、
Σh xhah + Σi yibi = -Σj zjcj となります。

左辺は W の基底の一次結合なので、W の元です。そして、右辺は W’ の基底の一部を用いた一次結合なので、W’ の元となっています。

そのため、
Σh xhah + Σi yibi = -Σj zjcj∈W∩W’ です。

このことから、-Σj zjcj は、W∩W’ の基底の一次結合で表されます。

一方、W∩W’ の基底 {a1, … , ar} に c1, … , cn を追加し、延長した基底が W’ の基底でした。

基底の延長定理では、{a1, … , ar} の一次結合で表すことができない V の元を追加しています。

よって、-Σj zjcj = 0 でなければなりません。

ここで、c1, … , cn は W’ の基底の一部なので、一次独立です。

ゆえに、z1 = … = zn = 0 です。

さらに、今、
Σh xhah + Σi yibi = 0 となっています。

{a1, … , ar, b1, … , bm} は W の基底だったので、一次独立です。

そのため、
x1= … = xr = y1 = … = ym = 0 です。

以上より、
{a1, … , ar, b1, … , bm, c1, … , cn} が一次独立であることが示せました。【証明完了】

この和空間についての定理から、次元についての不等式が得られます。

すぐに導ける不等式

和空間-次元-不等式

dim(W+W’) ≦ dimW + dimW’ となっています。

ここで、dim(W∩W’) = 0 ということの必要十分条件は、W∩W’ = {0} です。

そのため、等号成立条件は、
W∩W’ = {0}
となります。

ここで、二つの部分空間の共通部分が零のみということについて、さらに詳しく考察をすると、内部直和についての理解が得られます。

ちなみに、V の 3 個以上の部分空間で和空間を作ったときに、次元についての不等式が帰納的に導かれます。

W1, … , Wk を部分空間とするとき、
dim(W1+…+Wk) ≦ dimW1+…+dimWk だと仮定します。

すると、W1+…+Wk を一つの部分空間と考え、もう一つ Wk+1 という部分空間で和空間を作ると、次のようにして、次元についての不等式が完成します。

2 個の部分空間についての次元の不等式を適用します。

dim(W1+…+Wk+Wk+1)
= dim((W1+…+Wk)+Wk+1)
≦ dim(W1+…+Wk)+dim(Wk+1)
… (1)

帰納法の仮定から、
dim(W1+…+Wk) ≦ dimW1+…+dimWk より、
dim(W1+…+Wk)+dim(Wk+1)
≦ dimW1+…+dimWk+dimWk+1
… (2)

(1), (2) より、
dim(W1+…+Wk+Wk+1)
≦ dimW1+…+dimWk+dimWk+1

k = 2 のときに成立していたので、k が 3 以上のときにも、このように帰納的に成立することが分かります。

直和空間の話を述べると長くなるので、今回の記事は、ここで終了します。

部分空間に関連する内容として、不変部分空間についてのブログ記事も投稿しています。

また、内積が定義されているときの直交補空間についての記事も投稿しています。

それでは、読んで頂きまして、ありがとうございました。