不変部分空間 | 線形部分空間からスタートして、固有空間まで

不変部分空間-アイキャッチ画像

部分空間、さらに " 不変部分空間 (invariant subspace)"や固有空間について述べています。

線形代数学を学習するときに基本となる部分空間と、不変部分空間は理解しやすいです。

そのため、部分空間と不変の定義がシンプルなことから、単位を取得するための得点源になるかと思います。具体例を通じて要領をつかんでいくと始めやすいかと思います。

そして、一気に団子を串刺しにしておくと、いつでも使いこなせるようになってくるかと思います。

固有空間も不変部分空間なので、まず部分空間と不変部分空間について理解をすると、さらに理解を広げていけます。

しかも、定義を確認する作業をしているだけで、結構、内容が分かってくるので、ここは押さえておくと良いかと思います。私が大学一年生のときに、この内容からレポート課題やテストの得点につながることが多かったです。

目次の順に、説明をしていきます。

不変部分空間 :部分空間から

まずは線形部分空間の定義から始めます。

さらに、条件を強めて不変部分空間の定義となります。

和で閉じていて、スカラー倍で閉じていることが定義です。

単なる部分集合というだけでなく、和とスカラー倍についての条件が定義に関わっています。

【線形部分空間の定義】
体 K 上のベクトル空間 V の部分集合 W が、次の 二つの条件を満たしたときに、部分空間といいます。


① x, y ∈W に対して、x + y ∈ W

② k ∈ K, x ∈W に対して、kx ∈ W


ここで、①は、部分集合 W のどの元(要素)どおしで、V における加法を計算しても、計算結果の値が W に含まれているということです。

※ ベクトル空間の定義については、ベクトル空間の公理というブログに書いています。

<注意>
部分集合だと何でもかんでも部分空間となるとは限りません。

例えば、実数全体を R と書くことにすると、R は体 R 上のベクトル空間です。

{1, 2} ⊂ R という部分集合について、
しかし、1 + 2 という計算結果である 3 は、{1, 2} に含まれていません。

よって、{1, 2} は線形部分空間の定義に当てはまりません。

では、線形部分空間の具体例を見てみます。

部分空間の具体例

R × R という直積集合は、実数体 R 上のベクトル空間となっています。

この R × R を V として、具体的に様子を見てみます。

W = { (x, y) | 2x + 3y = 0 } という
V = R × R の部分集合を考えます。

部分空間の定義の①から確かめてみます。

(x, y) と (a, b) という W の元の和が、W に本当に含まれているのかということを確認します。

そのために、W という部分集合の条件である 第 1 成分の 2 倍と第 2 成分の 3 倍の和が 0 に当てはまるのかを調べます。

(x, y) ∈ W より、
2x + 3y = 0 ・・・(1)

(a, b) ∈ W より、
2a + 3b = 0 ・・・(2)

(1) + (2) より、
2(x + a) + 3(y + b) = 0 ・・・★

ここで、(x, y) + (a, b) = (x + a, y + b) です。これは、平面ベクトルの和です。

★より、第 1 成分の x + a の 2 倍と、第 2 成分の y + b の 3 倍の和が、0 となっていることが分かります。

したがって、
(x, y) + (a, b)
= (x + a, y + b) ∈ W

今度は、ベクトルのスカラー倍についての条件②を確かめます。

k ∈ R に対して、k(x, y) = (kx, ky) です。

(1) の両辺を k 倍すると、
2(kx) + 2(ky) = 0 です。

これで、スカラー倍をしても、W に含まれるための条件に当てはまっていることが確認できたので、k(x, y) = (kx, ky) ∈ W です。

したがって、①と②の条件を満たすことが確認できたので、W は線形部分空間です。
※ ①の定義の x として (x, y) を、y として (a, b) を考えているので、ご注意ください。


線形変換 f と、線形部分空間に対して、invariant subspace(不変部分空間)が定義されます。

f : V → W が、

f(sa + tb) = sf(a) + tf(b) を満たすときに、f を線形写像といいいます。

ブログ行列表示より

※ V と W が同じときに線形変換といいます。


この線形変換についての条件が部分空間に関連し、不変部分空間が定義されます。

落ち着いて、線形変換の定義と、部分空間の定義を一緒に考察すると、基本的な内容が分かってくるかと思います。

不変部分空間 :その定義に線形変換

不変部分空間-串団子

体 K 上のベクトル空間 V の線形部分空間 W と、V から V への線形変換 f について、W が f で不変な部分空間であるとは、
f(W) ⊂ W ・・・■ を満たすことです。

この■が示していることは、W のどの元を f で移しても、その行き先は必ず W に含まれているということです。

集合の言葉を使うと、f(W) は、f による W の像といいます。

記号で表すと次のようになります。


  f(W) = { f(w) | w ∈ W }


この w に、部分空間 W のどんな元を当てはめても、f(W) ⊂ W なので、f(w) が W に含まれているということになります。

これが串団子の二つ目です。

ここで、定義に基づいて、本当に 線形変換で不変なのかということを確かめる練習問題を扱ってみます。

具体的な問題を解く

【問題】
V を複素数体 C 上のベクトル空間とします。そして、f : V → V を線形変換とします。

このとき、
S = {v ∈ V | f(v) = 0} は、不変部分空間であることを証明してください。


S が f について不変な部分空間であることを証明します。

まず、部分空間であることを確かめ、その後に f で不変なことを示します。

a, b ∈ S とすると、
f(a + b) = f(a) + f(b) = 0 + 0 = 0

※ a, b ∈ S なので、この集合に含まれるための条件を満たしています。
そのため、f(a) = 0 と f(b) = 0 となっています。

これで、a + b も f で移すと 0 になるという条件を満たしたので、
a + b ∈ S と、和で閉じていることが示せました。

さらに、α ∈ C, v ∈ V とすると、
f(αv) = αf(v) = α0 = 0

これで、αv も S に含まれるための条件を満たしたので、αv ∈ S と、スカラー倍で閉じていることも示せました。

したがって、S ⊂ V が部分空間になっていることが確認できました。次に、f で不変であることを確認します。

f(S) ⊂ S となっていることを示します。ここで、線形変換(線形写像)は写像(関数)なので、写像についての基本的な内容が関わってきます。

次の内容で、f による像の定義を使います。
* 写像については、定義域-値域という他のブログで、基本事項を解説しています。

x ∈ f(S) を任意に取ると、
像の定義から、f(s) = x を満たす s ∈ S が存在します。

ここで、S という集合に含まれるための条件より、f(s) = 0 です。

したがって、この x は f(s) と等しいので、0 ということになります。

x = 0 なので、0 を線形写像で移すと 0 になるという事実と合わせると、f(x) は 0 ということになります。

まとめると、
f(S) の任意の元 x について f(x) = 0 です。

f で移すと 0 となる V の元をすべて集めた集合が、S だったので、x ∈ S ということになります。

これは、部分集合の定義から、f(S) ⊂ S ということです。

すなわち、f で不変ということになります。このように、写像についての定義や、部分集合の定義は、ベクトル空間論の内容でよく使います。

大学で数学を学習するときに、土台として、集合や写像の基本事項を押さえておくと、役に立つかと思います。

不変部分空間 :三つ目の団子

不変部分空間-串団子-2

V を複素数体上の有限次元ベクトル空間とします。そして、以下において、複素数 k を一つ固定して考えます。

また、f を V から V への線形変換とします。

{ v ∈ V | f(v) = kv } という V の部分集合を、V(k) とおきます。これが、三つ目の団子になります。

不変部分空間の定義からの流れで、議論を進めます。
※ V(k) が空集合でないときに、複素数 k についての固有空間といいます。

V(k) が空集合でないときに、V(k) が線形変換 f についての不変部分空間であることが、次のようにして分かります。

※ f で移すと、k でスカラー倍されたベクトルになるということに注目して示します。

まず、部分空間であることを確認します。

u, v ∈ V(k) とし、スカラーである複素数を s とします。

線形変換の定義から、
f(u + v) = f(u) + f(v)
= ku + kv = k(u + v)

よって、
u + v も V(k) に含まれる条件を満たしたので、
u + v ∈ V(k) です。

また、
f(sv) = sf(v) = s(kv)
= (sk)v = (ks)v = k(sv)

ゆえに、sv ∈ V(k) となります。

これで、加法とスカラー倍について閉じていることが確認されたので、V(k) は V の部分空間ということが示されました。

三つ目の団子も不変

次に、f について不変な部分空間であることを確認します。

そのためには、f(V(k)) ⊂ V(k) ということを確認する必要があります。

ここで、f(V(k)) という写像 f による V(k) の像の定義を使います。

x ∈ f(V(k)) を任意に一つとります。

この x について、f(x) = kf(x) となることが確認できると、V(k) に含まれることの条件を満たしたことになります。

そうすると、任意にとった元が、V(k) に含まれるわけなので、部分集合の定義から、
f(V(k)) ⊂ V(k) ということになります。

これで、証明の見通しが立ったので、実際に証明をしてみます。

像の定義から、ある V(k) の元 y ∈ V(k) を f で移した移り先が x ということになります。

したがって、f(y) =x です。

つまり、x = f(y)

ここで、y ∈ V(k) なので、
V(k) の定義から、f(y) = ky です。

x = f(y) かつ f(y) = ky より、
x = ky ・・・★

どちらも同じ V の元なので、f で移したときの移り先は、等しい元になります。

よって、f(x) = f(ky) です。ここで、f は線形変換なので、f(ky) = kf(y)

f(x) = f(ky) かつ f(ky) = kf(y) より、
f(x) = kf(y) となっています。

ここで、★より、
f(y) = x だったので、kf(y) = kx

f(x) = kf(y) かつ kf(y) = kx なので、
f(x) = kx となります。

これより、V(k) に含まれるための条件を満たすことが確認できたので、x ∈ V(k) です。

以上より、任意の x ∈ f(V(k)) が、V(k) に含まれたので、部分集合の定義から、
f(V(k)) ⊂ V(k) となります。【証明終了】

これで、V(k) が、線形変換 f についての不変部分空間であることが示せました。三つ目の団子も串に刺すことができました。

土台となる一つ目の団子の部分空間から始めて、固有空間 V(k) まで到達です。

この V(k) は、線形代数学を学習していると、行列の対角化についての議論のときに出てきます。

その前の段階で、しっかりと二つ目の団子の不変部分空間についての理解を深めておくと、地に足のついた学習ができるかと思います。
 
【関連する記事】

ベクトル空間論の基礎として、今回の部分空間の理解と関連する内容を挙げておきます。

有限次元のベクトル空間について、内積が定義されているときの直交補空間についての記事も投稿しています。

これで、今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。