直和空間 | ベクトル空間の内部直和分解の定義と同値な書き換え【外部直和も】

" 直和空間 “について、直和因子となっている部分空間の和として、一意的に表せることの同値な書き換えを証明します。その後で、ベクトル空間の外部直和についての定義を説明します。
ベクトル空間 V の n 個の部分空間によって、
W1+W2+…+Wn という和空間を定義することができます。
x∈W1+W2+…+Wn は和空間の定義から、
x = w1+w2+…+wn (各 wi∈Wi) と表すことができるのですが、その表し方が他にもある可能性があります。
W1⊕W2⊕…⊕Wn と(内部)直和になっていると、各 Wi の元の和としての表し方が唯一となります。
一般の n 個について、一意的な和の表し方であることを書き換える条件について、2 個の直和についてから、順に説明します。
この記事の最後で、ベクトル空間の外部直和(外直積)について、説明をします。
※ 目次の項目を選択すると該当箇所へ移動します。
直和空間 :二個の内部直和
体 K 上のベクトル空間(線形代数)を V とし、W1 と W2 を V の部分空間とします。
このとき、
{w1+w2 | w1∈W1, w2∈W2} を W1 と W2 の和空間といい、
W1+W2 と表します。
※ 部分空間の定義については、リンク先の記事で解説をしています。
単に和空間という場合だと、
t1∈W1, t2∈W2 で、(t1, t2) ≠ (w1+w2) だけれでも、
t1+t2 = w1+w2 ということが起きることがあります。
そこで、和空間の定義から、さらに条件を強めたものを内部直和といいます。
【内部直和の定義】
体 K 上のベクトル空間を V とし、W1 と W2 を V の部分空間とする。
このとき、W1+W2 の任意の元 x が、
w1+w2 (w1∈W1, w2∈W2) と一意的に表されるとき、
和空間 W1+W2 が W1 と W2 の内部直和であるという。
そして、W1⊕W2 で W1 と W2 の内部直和を表す。
これが、部分空間の内部直和の定義です。
和空間のどの元も、各直和因子である W1 と W2 の元を用いて、ただ 1 通りに和として表されるということです。
実は、このただ 1 通りの和として表すことができるということを書き換えることができます。
内部直和の定義を同値に言い換える次の命題を証明します。
共通部分が零空間
【命題1】
体 K 上のベクトル空間を V とし、W1 と W2 を V の部分空間とする。
このとき、「W1+W2 が内部直和であること」と、
「W1∩W2 = {0} であること」が同値である。
<証明>
W1+W2 が内部直和である仮定とします。
つまり、x∈W1+W2 を任意に取ると、x が W1 と W2 の元を用いて、ただ 1 通りに和として表されるということです。
すると、W1∩W2 ⊂ W1 ⊂ W1+W2 なので、
w∈W1∩W2 とすると、
w = w+0 (w∈W1, 0∈W2) と表されます。
w∈W1∩W2 ⊂ W2 なので、
w = 0+w (0∈W1, w∈W2) ともなっています。
よって、0, w∈W1, 0, w∈W2 ということから、W1 と W2 の元を用いて、ただ 1 通りに和として表されるため、w = 0+0 とならざるを得ません。
よって、w = 0 なので、W1∩W2 = {0} です。
逆に、W1∩W2 = {0} であると仮定します。
このとき、
x∈x∈W1+W2 を任意に取ると、x が W1 と W2 の元を用いて、
x = a1+a2, x = b1+b2
(a1, b1∈W1, a2, b2∈W2) と表せたとします。
すると、
0 = x-x = (a1-b1)+(a2-b2)
つまり、
-(a1-b1) = a2-b2 です。
この左辺は W1 の元で、右辺は W2 の元なので、
-(a1-b1) = a2-b2
∈W1∩W2 = {0} です。
そのため、
-(a1-b1) = a2-b2 = 0
よって、a1 = b1, a2 = b2 です。
これで、W1 と W2 の元を用いて、ただ 1 通りに和として表されることが示せたので、内部直和となっています。 ■
さらに、n 個の部分空間の内部直和についてです。
直和空間 :n個の内部直和
x∈W1+W2+…+Wn が各 Wi の和として一意的に表すことができるというのが、n 個のときの内部直和の定義です。
2 個のときの内部直和の定義と同様の自然な定義です。
n 個になっても、共通部分を用いて定義を書き換えることができます。
まずは、必要条件から n についての帰納法を用いて証明します。
【命題2】
体 K 上のベクトル空間を V とし、
W1, W2, … , Wn を V の部分空間とする。
このとき、
「x∈W1+W2+…+Wn が各 Wi の和として一意的に表すことができる」ならば、
「1 以上 n-1 以下の任意の自然数 i について、
(W1+W2+…+Wi)∩Wi+1 = {0}」である。
<証明>
n = 2 のときは、【命題1】より成立しています。
そのため、n が 3 以上の場合を示します。
n = i のとき、命題が成立していると仮定します。
n = i+1 のとき、
W1+W2+…+Wi+Wi+1
= (W1+W2+…+Wi)+Wi+1 です。
W1+W2+…+Wi と Wi+1 の二つの部分空間について、和で元を一意的に表すことができるため、【命題1】より、
(W1+W2+…+Wi)∩Wi+1 ={0} です。
また、帰納法より、1 以上 i-1 以下の任意の自然数 k について、
(W1+W2+…+Wk)∩Wk+1 ={0} です。
よって、1 以上 i 以下の任意の自然数 j に対して、
(W1+W2+…+Wj)∩Wj+1 = {0} です。 ■
今後は、この逆を帰納法で示します。
十分性の確認
【命題3】
体 K 上のベクトル空間を V とし、
W1, W2, … , Wn を V の部分空間とする。
このとき、
「1 以上 n-1 以下の任意の自然数 i について、
(W1+W2+…+Wi)∩Wi+1 = {0}」ならば、
「x∈W1+W2+…+Wn が各 Wi の和として一意的に表すことができる」ということが成立する。
<証明>
n = 2 のときは【命題1】より成立しているので、n が 3 以上の場合を示します。
n = i のときに命題が成立しているとし、n が i+1 の場合にも成立することを示します。

すなわち、
(a1-b1)+…+(ai-bi)+(ai+1-bi+1) = 0
移項すると、
(a1-b1)+…+(ai-bi) = -(ai+1-bi+1)
左辺は W1+W2+…+Wi の元で、右辺は Wi+1 の元です。
仮定より、
(W1+W2+…+Wi)∩Wi+1 = {0} です。
そして、
(a1-b1)+…+(ai-bi) と -(ai+1-bi+1) は、
(W1+W2+…+Wi)∩Wi+1 = {0} の元です。
つまり、
(a1-b1)+…+(ai-bi) = 0,
-(ai+1-bi+1) = 0
まず、ai+1 = bi+1 が示せました。
次に、W1+W2+…+Wi という和空間において、
(a1-b1)+…+(ai-bi) = 0 となっています。
i < i+1 なので、帰納法から、
和の表し方は一意的となっています。
よって、0+…+0 = 0 だから、
a1-b1 = 0, … , ai-bi = 0
すなわち、
a1 = b1, … , ai = bi
これで、n = i+1 の場合にも、
x の表し方が一意的であることが示せました。 ■
【命題2】と【命題3】によって、n 個の和空間が直和であることの必要十分条件が得られました。
加法についての一般の結合律を用いて、二個の部分空間の和空間と考えることをクッションにして、帰納的に n 個の場合についても成立するという内容でした。
W1⊕W2⊕…⊕Wn が全体の V と一致しているとき、V が(内部)直和分解されているといいます。
そして、各 Wi という部分空間が、このときの直和因子です。
最後に、ベクトル空間(線形代数)の n 個の外部直和について説明します。
外部直和について
今までは、V という一つのベクトル空間の部分空間について、内部直和かどうかを議論してきました。
ここからは、どこか一つのベクトル空間の部分空間とは限定をしないで、n 個のベクトル空間が与えられたときに、新しくベクトル空間を定義する外部直和のことについて述べます。
T1, … , Tn を体 K 上のベクトル空間とします。
まず T1×…×Tn という直積集合を作ります。
(a1, … , an) と (b1, … , bn) について、直積集合に加法を次のように定義します。
(a1, … , an)+(b1, … , bn)
= (a1+b1, … , an+bn)
i 成分について、Ti における加法を計算するということを利用して、直積集合の元と元の加法を定義しました。
c∈K として、c からのスカラー倍も定義します。
k(a1, … , an)
= (ka1, … , kan) がスカラー倍の定義です。
それぞれの成分の値たちを一斉に k 倍しています。
この加法とスカラー倍について、直積集合がベクトル空間の公理を満たします。
このベクトル空間 T1×…×Tn を、単なる直積集合であるだけでなく、ベクトル空間の構造を有しているということを示す意味で、外部直和といいます。
2個の外部直和についての例は、直積集合という以前に投稿したブログ記事で解説をしています。
有限次元の線形代数について、直交補空間についての記事も投稿しています。
また、n 次正方行列は行列単位の直和に分解しています。
有限次元の結合代数の中で、一般線形群についての中心を求めるときにも、内部直和の発想が役に立ちます。
最後に大学3年以降の内容として加群の基底どうしのテンソルについて解説をします。
参考に3年や4年の内容を
【定理1】
Gλ (λ ∈ Λ) と G を加法群とする。
また、各 λ ∈ Λ について、
fλ : G → Gλ, hλ : Gλ → G という加法群としての準同型写像は、次を満たすとする。
fμ・hλ = δλ,μ・1Gλ,
Σλ∈Λ hλfλ = 1G
ただし、各 x ∈ G について、hλfλ(λ) は有限個を除いて零元。
このとき、G と ⊕λ∈ΛGλ は加法群として同型である。
<証明>
ψ = Σλ∈Λ iλ・fλ 置きます。
各 x ∈ G について、hλfλ(x) が有限個を除いて零元です。そのため、有限個を除いて fλ(x) が零元です。
もし、すべて λ について fλ(x) が零元だとすると、
x, y ∈ G に対して、
ψ(x + y) = 0 = ψ(x) + ψ(y)
となり、ψ が準同型定理の定義を満たします。
そのため、有限個の λ について、
fλ(x) ≠ 0 または fλ(y) ≠ 0
または fλ(x + y) ≠ 0 のいずれかとなっていたとして、準同型写像の定義を満たすことを確かめます。
これら有限個の λ をλ1, … , λn として、右下の添え字 k が 1 から n まででシグマの値を確認します。
ψ(x + y) = (Σk iλkfλk)(x + y) =
Σk (iλk・fλk(x)+iλk・fλk(y)) =
Σk iλk・fλk(x)+Σk iλk・fλk(y) =
(Σk iλk・fλk)(x)+(Σk iλk・fλk)(y)
= ψ(x + y)
よって、ψ が加法群としての準同型写像であることが示せました。
※ Gλ たちが可換環 R の加群のときは、R-準同型写像ということが同様の議論で示せます。
各 λ ∈ Λ について、射影 pλ との合成を考え、
φ = Σλ∈Λ hλ・pλ とします。
φ : ⊕λ∈ΛGλ → G です。
φψ という合成写像について、
Σλ,μ hλ・pλ・iμ・fμ =
Σλ,μ hλ・(δλ,μ・1G)・fμ
= Σλ hλfλ = 1G
※ 射影と入射の合成から、δλ,μ が途中で出るので、λ と μ が異なる項が全て 0 になります。λ と μ が一致している項だけが残るということを利用した変形です。
今度は、ψφ という合成写像も恒等写像となることを確かめます。
Σλ,μ iλ・fλ・hμ・pμ =
Σλ,μ iλ・(δλ,μ1G)・pμ =
= Σλ iλ・pλ = 1⊕λGλ
※ 今度は、fλ と hμ についての δλ,μ を利用しました。
これで、φψ と ψφ が、どちらも恒等写像になったので、ψ が全単射ということが示せました。
そのため、ψ が加法群としての同型写像です。【証明完了】
この【定理1】で、Gλ たちが可換環 R の加群のときは、R-加群としての同型ということになります。
また、この【定理1】は、逆も成立します。
G と ⊕λ∈ΛGλ が同型のとき、その同型写像を ψ とします。
fλ = pλψ, hλ = ψ-1iλ と置けば、【定理1】の条件を満たします。
それでは、いよいよテンソル積と直和についての定理を証明します。
証明した命題の添数集合として、次の【定理2】では、Λ × Λ’ が添数集合です。
直和とテンソルの関係
【定理2】
R を乗法単位元をもつ可換環とする。
Mλ (λ ∈ Λ) を R-両側加群、
Nμ (μ ∈ Λ’) を R-両側加群とする。
このとき、
(⊕λMλ)⊗R(⊕μNμ) と
⊕(λ,μ)(Mλ⊗RNμ) は左R-加群として同型である。
<証明>
iλ, pλ をそれぞれ ⊕λMλ における入射と射影とします。
また、jμ, qμ をそれぞれ ⊕μNμ における入射と射影とします。
これらは、R-加群としての準同型写像となっています。
iλ⊗jμ は、Mλ⊗RNμ から
(⊕λMλ)⊗R(⊕μNμ) への R-準同型写像です。
pλ⊗qμ は、(⊕λMλ)⊗R(⊕μNμ) から
Mλ⊗RNμ への R-準同型写像です。
そして、
(pλ’⊗qμ’)・(iλ⊗jμ) =
(pλ’・iλ)⊗(qμ’・jμ) =
δ(λ,μ),(λ’,μ’)・1Mλ⊗RNμ
※ (λ, μ) = (λ, μ’) でないときは 0 ということです。
また、
Σ(λ,μ) (iλ⊗jμ)(pλ⊗qμ) =
(Σλ iλpλ)⊗(Σμ jμqμ) =
1⊕λMλ ⊗ 1⊕μNμ = 1(⊕λMλ)⊗R(⊕μNμ)
よって、【定理1】より、
(⊕λMλ)⊗R(⊕μNμ) と
⊕(λ,μ)(Mλ⊗RNμ) が R-加群として同型となります。【証明完了】
先ほどの【定理1】を
(λ, μ) ∈ Λ × Λ’ を添数集合として、
Mλ⊗RNμ たちの直和と同型になっていることを示すのに使いました。
【定理1】における G に当たるのが、
(⊕λMλ)⊗R(⊕μNμ) です。
可換環 R について、自由加群の基底どおしのテンソルが基底になることを示すのに、後 1 つ【定理】を証明します。
基と基でテンソル
【定理3】
N を左R-加群、
R 自身を R-R-両側加群とする。
r ∈ R, x ∈ N に対して、
r⊗x に rx を対応させることにより、
R⊗RN と N は 左R-加群として同型である。
<証明>
f : R × N → N を
f((r, x)) = rx (r∈R, x∈N) とします。
f はバランス写像なので、
テンソル積のユニバーサリティ(普遍写像性質)の定理から、
f* : R⊗RN → N が、ただ一つ存在して、
f*(r⊗x) = f((r, x)) = rx
この f* は Z-準同型ですが、R-準同型となっていることを確かめます。
s ∈ R に対して、
f*(s(r⊗x)) = f*((sr)⊗x)
= (sr)x = s(rx) = sf*((r⊗x))
よって、f* は R-準同型写像です。
h : N → R⊗RN を
x ∈ N に対して、h(x) = 1⊗x と定義します。
※ この 1 は R の乗法単位元です。
すると、
f*g = 1N, gf* = 1R⊗RN
よって、f* は全単射でもあるので、
R⊗RN と N が 左R-加群として同型となっています。【証明完了】
では、乗法単位元 1 をもつ可換環 R について、R-自由加群の基底どおしのテンソルが、基底になっていることを示します。
可換環 R なので、右作用は左作用、左作用は右作用の定義です。
その後のdimについて
【定理4】
R を乗法単位元をもつ可換環とする。
M を R-R-両側加群とし、
{aλ}λ∈Λ を M の基底とする。
また、N を R-R-両側加群とし、
{bμ}μ∈Λ’ を N の基底とする。
このとき、{aλ⊗bμ | λ ∈ Λ, μ ∈ Λ’} が、
M⊗RN の基底である。
<証明>
M = ⊕λaλR, N = ⊕μRbμ で、
aλR は R と R-加群として同型です。
また、Rbμ も R と R-加群として同型です。
【定理2】より、M⊗RN は、
⊕(λ,μ)(aλR⊗RRbμ) と R-加群として同型です。
よって、
M⊗RN = ⊕(λ,μ) R(aλ⊗bμ)
ここで、
R(aλ⊗bμ) は aλR⊗RRbμ と R-同型です。
そして、aλR が R と R-同型だったので、
aλR⊗RRbμ は R⊗RRbμ と R-同型です。
さらに、【定理3】より、
R⊗RRbμ は Rbμ と R-同型です。
Rbμ は R と R-同型だったので、
R(aλ⊗bμ) は R と R-同型です。
そのため、各 (λ, μ) ∈ Λ × Λ’ について、
直和因子 R(aλ⊗bμ) は零加群につぶれていません。
そのため、
{aλ⊗bμ | λ ∈ Λ, μ ∈ Λ’} が、M⊗RN の基底です。【証明完了】
特に、【定理4】から次を得ます。
体 K 上のベクトル空間 V と W の次元が、
dim V = m, dim W = n とする。
このとき、
dim (V⊗KW) = dim V × dim W
= mn である。
加群の定義という記事で加群の基礎内容を解説しています。
基底に関連する記事として、多項式環の不定元xという記事を投稿しています。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。