双対基底 dual basis | 線形代数の基底ベクトルに対して、双対の基底をどう定義するか

「 双対基底 」は、体 K 上の線形代数 V の基底に対して、どう定義するのかということと、確かに基底になっていることの証明を解説しています。

n 次元の線形代数 V について、Hom(V, K) という V の双対空間の次元も n 次元です。

基底の取り方は、一通りとは限らないわけですが、双対基底というぐらいで、もとの V の基底から、どのようにして構成しているのかを押さえておきたいところです。

双対基底が、確かに基底となっていることの証明を自力で確かめられるようになっておくと、線形代数についての良い練習になるかと思います。

双対基底 :対応する基底の定義

V を体 K 上の n 次元の線形代数とします。

双対空間 Hom(V, K) の次元も n 次元となっていることは、リンク先の記事で証明をしています。

この記事では、V の基底に対して、双対基底をどう定義するのか、そして、なぜ双対空間の基底となっているのかということについて議論を進めます。

{v1, … , vn} を V の基底とするとき、各 i に対して、fi∈Hom(V, K) が双対空間の基底となるように定義したいところです。

fi(vj) = δij (i, j = 1, … , n) となるように、双対基底を構成するベクトルたちを構成します。

線形代数の基底が与えられているときに、線形写像を定義するときに、よく使う方法を使って、双対基底の元たちを定義します。

この線形写像を定義する方法について、写像の定義域(始集合)を線形に拡張し、V 全体を定義域とするようにします。

この方法を、まず解説します。

写像を線形に拡張する

{v1, … , vn} を V の基底としたとき、次のようにして、この V の基底という集合から、体 K への写像を定義します。

*fi:{v1, … , vn} → K
*fi(vj) = δij

δij は、クロネッカーのデルタといいまして、i と j が等しいときに 1、i と j が異なるときに 0 となっています。
※ この 1 と 0 は、それぞれ体 K の乗法単位元と加法単位元です。

例えば、*f3(v3) = 1 です。

添え字が異なっていると、
*f4(v2) = 0 となります。

とりあえず、{v1, … , vn} という集合から、体 K への写像を定義したのですが、*fi たちは、双対空間の元ではありません。

Hom(V, K) は、V から K への線形写像全体です。*fi たちは、始集合が V ではないので、双対空間の元であることの定義を満たしていません。

そこで、各*fi たちを拡張して、V を始集合とする線形写像を定義します。

{v1, … , vn} という V の部分集合において定義されている*fi の始集合を V にまで、線形に拡張します。

<線形に拡張する>

任意の x∈V に対して、基底なので、
x = Σj αjvj と一意的に表すことができます。

そこで、1 以上 n 以下の自然数 i について、
fi:V → K を、
fi(x) = Σj αj*fi(vj) と定義します。

この fi たちは、始集合(定義域)が、V となっています。

線形写像であることの確認

fi たちが、線形写像となっていることを確認します。

x, y∈V に対して、
fi(x+y) = fi(x)+fi(y) となっていることを示します。

基底の一次結合によって、
x = Σj αjvj, y = x = Σj βjvj と一意的に表されます。

よって、
fi(x+y) = fij αjvjj βjvj)
= fijjj)vj)
= Σjjj)*fi(vj)
= Σj αj*fi(vj)+Σj βj*fi(vj)
= fi(x)+fi(y)

これで、和を保存していることが示せました。

αj, βj, *fi(vj)∈K で、K から K へのスカラー倍を体 K における乗法で定義しているので、体 K における分配法則が使えました。

jj)*fi(vj) = αj*fi(vj)+βj*fi(vj) が体 K における分配法則です。この分配法則が、fi の和を保存するということに効果を発揮しました。

次に、fi がスカラー倍を保存することを示します。

任意の x∈V と c∈K に対して、
cx = c(Σj αjvj) = Σj (cαj)vj と基底の一次結合を用いた形で一意的に表すことができます。

よって、
fi(cx) = Σj (cαj)*fi(vj)
= c(Σj αj*fi(vj)) = cfi(x)

これで、スカラー倍も保存することが示せたので、fi たちは V から K への線形写像です。

すなわち、各 i について、
fi∈Hom(V, K) です。

ここからは、{f1, … , fn) が、双対空間の基底となっていることを示します。

そのために、基礎的な命題を一つ証明しておきます。

双対基底 :基底となっていることの証明

<命題>

V, W を体 F 上の線形代数とし、f と g を V から W への線形写像とする。

また、{v1, … , vn} を V の基底とする。

このとき、
f(vj) = g(vj)(j = 1, … , n)ならば、
f = g である。


二つの写像 f, g は始集合と終集合が同じです。そのため、始集合の各元について、対応する像が一致していることを示せば、写像の相当関係の定義から、f と g が等しいということになります。

<証明>

x∈V に対して、x = Σj αjvj と一意的に表すことができます。

よって、仮定より、
f(x) = Σj αjf(vj)
= Σj αjg(vj) = g(x)

すなわち、f = g 【証明完了】

この【命題】を使って、先ほどの fi たちが双対空間の基底となっていることを示します。

基底ベクトルの移り先

g∈Hom(V, K) を双対空間の任意の元とします。

V の基底を構成するベクトルについて、その像は、
g(v1), … , g(vn)∈K です。

φ = Σj g(vj)fj∈Hom(V, K) と置きます。この φ を定義している加法とスカラー倍は、双対空間における加法とスカラー倍です。

h を 1 ≦ h ≦ n である任意の自然数とします。

φ(vh) = (Σj g(vj)fj)(vh)
= Σj g(vj)*fj(vh)
= Σj g(vjjh

ここで、j ≠ h のときは、δjh = 0 なので、j と h が等しくなっている項だけが残ります。

δhh = 1 なので、
φ(vh) = g(vh) です。

よって、V のそれぞれの基底ベクトルについて、その φ と g による像が一致しているので、【命題】から、φ と g が等しいということになります。

よって、{f1, … , fn} の体 K 上の一次結合によって、V の双対空間が生成されていることが示せました。

次に、一次独立となっていることを示します。

Σj kjfj = 0(各 kj∈K)とします。

この右辺の 0 は、V から K への零写像で、双対空間 Hom(V, K) の加法についての零元です。

そのため、h を 1 ≦ h ≦ n である任意の自然数とすると、0 = (Σj kjfj)(vh) です。
※ この左辺の 0 は、K の加法についての零元です。

すなわち、
0 = (Σj kjfj)(vh)
= Σj kjfj(vh)
= Σj kjδjh = khδhh = kh1 = kh

k1 = … = kn = 0 なので、
f1, … , fn が一次独立であることが示せました。

以上より、{f1, … , fn} は、
Hom(V, K) を生成する一次独立系なので、基底ということになります。

{v1, … , vn} を V の基底とするとき、
fi(vj) = δij を満たす fi たちが、双対空間の基底を構成するベクトルとなっています。

特に、
dimV = n = dim(Hom(V, K)) ということも合わせて押さえておくと良いかと思います。

ここまで、抽象的な線形代数について、述べました。具体的な線形代数について、双対基底を具体的に構成してみます。

双対基底 :具体的なベクトルで

R を実数全体(実数体)とします。

V = R×R という直積集合は、次のようにして、R 上の二次元の線形代数となります。

(a, b), (c, d)∈V に対して、
(a, b)+(c, d) = (a+c, b+d) が加法です。

(a, b)∈V, r∈R に対して、
r(a, b) = (ra, rb) がスカラー倍です。

高校数学で学習した平面ベクトル全体が、R 上の二次元の線形代数の具体例です。

内積の定義という記事で、高校数学の平面ベクトルについて解説をしています。

e1 = (1, 0), e2 = (0, 1) とすると、
{e1, e2} が V の基底となっています。

より詳しくは、平面ベクトルの内積について、正規直交基底となっています。

Hom(V, R) という双対空間の基底を、先ほどの証明の手順に基づいて構成します。

*f1:{e1, e2} → R を次のように定義します。

*f1(e1) = δ11 = 1∈R,
*f1(e2) = δ12 = 0∈R

クロネッカーのデルタの定義の通りです。1 は R の乗法単位元で、0 は R の加法単位元です。実数の 1 と 0 のことです。

*f2:{e1, e2} → R も、同じ要領で定義します。

*f2(e1) = δ21 = 0∈R,
*f2(e2) = δ22 = 1∈R

*f1 と *f2 の始集合(定義域)を V 全体に線形に拡張します。

具体的な写像の拡張

f1:V → R を次のように定義します。

任意の x∈V は、{e1, e2} の一次結合で一意的に表されます。

ある s, t∈R が存在して、
x = se1+te2 = (s, t) です。

f1(x) = s*f1(e1)+t*f1(e2)
= sδ11+tδ12
= s×1+t×0 = s

f2:V → R も定義します。

f2(x) = s*f2(e1)+t*f2(e2)
= sδ21+tδ22
= s×0+t×1 = t

f1, f2 が、V から R への線形写像となっていることを確かめます。

これで、f1 が和を保存していることが確認できました。(実数についての分配法則が効いています。)

f1 を f2 として同様の議論をすると、f2 も和を保存することを示せます。

次にスカラー倍を保存することを示します。

x = se1+te2∈V, r∈R に対して、
f1(rx) = f1((rs)e1+(rt)e2)
= (rs)*f1(e1)+(rt)*f1(e2))
= r(s*f1(e1)+t*f1(e2))
= rf1(x)

これで、スカラー倍も保存していることが示せたので、f1 は V から R への線形写像となっています。

f1 を f2 にして、同様の議論をすると、f2 もスカラー倍を保存していることが分かります。

先ほどの抽象的な証明と同じ手順で線形写像となっていることを示したのですが、平面ベクトルなので、成分表示を用いた計算をすると、すぐに線形写像であることが分かります。

実際、(s, t), (u, w)∈V に対して、
f2((s, t)+(u, w))
= f2((s+u, t+w))
= (s+u)δ21+(t+w)δ22
= (s+u)×0+(t+w)×1
= t+w です。

一方、
f2((s, t))+f2((u, w))
= t+w です。

そのため、どちらも t+w なので、
f2((s, t)+(u, w)) = f2((s, t))+f2((u, w)) となっています。

スカラー倍についても、成分表示をして計算し、保存していることを確かめることができます。

最後に、{f1, f2} が、
双対空間 Hom(V, R) の基底となっていることを確かめます。

双対基底であることの確認

g∈Hom(V, R) とします。

g(e1), g(e2)∈R となっています。

φ = g(e1)f1+g(e2)f2 と置きます。この φ は、双対空間における f1 と f2 の R 上の一次結合です。

<e1 の像について>

φ(e1) = (g(e1)f1+g(e2)f2)(e1)
= g(e1)f1(e1)+g(e2)f2(e1)
= g(e111+g(e221
= g(e1)×1+g(e2)×0
= g(e1)

<e2 の像について>

φ(e2) = (g(e1)f1+g(e2)f2)(e2)
= g(e1)f1(e2)+g(e2)f2(e2)
= g(e112+g(e222
= g(e1)×0+g(e2)×1
= g(e2)

よって、e1 と e2 について、φ と g による像が、それぞれ一致しているので、【命題】から、φ と g は同じ線形写像ということになります。

基底を構成するベクトルのそれぞれについて、線形写像の像が一致していれば、二つの線形写像は同じ写像ということでした。

これで、{f1, f2} が Hom(R, V) を生成していることを示せました。

後は、一次独立を示せば完了です。

r1f1+r2f2 = 0 とします。

0 = (r1f1+r2f2)(e1)
= r1f1(e1)+r2f2(e1)
= r1δ11+r2δ21
= r1×1+r2×0 = r1 です。

また、
0 = (r1f1+r2f2)(e2)
= r1f1(e2)+r2f2(e2)
= r1δ12+r2δ22
= r1×0+r2×1 = r2 です。

これで、r1 = r2 = 0 が示せたので、一次独立となっています。

以上より、{f1, f2} が双対空間の基底であることを確認できました。

最後に、hom(V, K) のそのまた双対空間がどうなっているのかということを説明します。

実は、これは回帰的となります。

回帰的 (reflexive) とは、同じ操作をもう一度すると元に戻るということです。

回帰的 : Hom(Hom(V,K),K)への対応

{v1, … , vn} を V の基底とすると、
{f1, … , fn} という双対基底が Hom(V, K) の基底となります。

そして、fi(vj) = δij(i, j = 1, … , n)となっています。

したがって、Hom(V, K) も体 K 上の n 次元の線形代数です。

はじめの V として Hom(V, K) を考え、同じ操作で Hom(V, K) の双対空間を定義します。

双対空間の定義から、
Hom(Hom(V, K), K) は、Hom(V, K) から K への線形写像全体です。

双対空間についての一般論から、
Hom(Hom(V, K), K) も体 K 上の n 次元の線形代数です。

結論から申し上げますと、
Hom(Hom(V, K), K) は、はじめの V と線形同型となります。

≅ を線形同型ということを表すと、
Hom(Hom(V, K), K) ≅ V となります。

この線形同型を与える写像を、どう定義するのかということを述べます。

Vからの線形写像

v∈V に対して、f∈Hom(V, K) とすると、f は V から K への線形写像なので、f(v) は体 K の元です。

よって、v∈V を一つ固定すると、任意の f∈Hom(V, K) に対して、
f(v)∈K です。

そこで、φv という Hom(V, K) から K への写像を次のように定義します。

f∈Hom(V, K) に対して、
φv(f) = f(v) と定義します。

φv:Hom(V, K) → K という写像が定義できました。

この写像が、単なる写像ではなく、線形写像となっています。

φv が線形写像だと、双対空間の定義から、
φv∈Hom(Hom(V, K), K) となります。

そうすると、v∈V に対して、
φv∈Hom(Hom(V, K), K) を対応させるという写像が定義できます。

つまり、v∈V に対して、
Ψ(v) = φv∈Hom(Hom(V, K), K) と定義すると、
Ψ:V → Hom(Hom(V, K), K) という写像が得られます。

この Ψ が線形同型写像ということを示すと、双対空間の双対空間が、もとの V と線形同型ということになります。

特に、この Ψ は線形写像です。

u, v∈V を任意に取ります。

Ψ(u+v) = φu+v で、
Ψ(u)+Ψ(v) = φuv となっています。

また、任意の f∈Hom(V, K) に対し、
cφv(f) = c(f(v)) = (cf)(v) = φcv(f) です。

さらに、Ψ は全単射で、Ψ が線形同型写像になっています。

ker Ψ = {0V} となるので単射です。

また、{Ψ(v1), … , Ψ(vn)} が、Hom(Hom(V, K), K) において、一次独立となります。

有限次元の線形代数について、一次独立な元たちの最大個数は、次元以下となります。

そのため、
n ≦ dim(Ψ(V)) です。

Ψ(V) は、n 次元の Hom(Hom(V, K), K) の部分空間だったので、
dim(Ψ(V)) ≦ n です。

よって、dim(Ψ(V)) = n です。

したがって、部分空間と全体の次元が同じ n ということから、
Ψ(V) = Hom(Hom(V, K), K) です。

これが、Ψ が全射である理由です。

回帰的:はじめに戻るということ

体 K 上の n 次元の線形代数 V の双対空間を Hom(V, K) と表してきましたが、V と表すことにします。

そうすると、先ほど示したことから、
Vの双対空間である V双双 は、はじめの V と線形同型です。

つまり、V双双 ≅ V です。

この同型対応によって、同一視をすると、
V双双 = V です。

さらに、双対空間を考えると、
V双双双 = V双 です。

もう一つ双対空間を考えると、
V双双双双 = V双双 = V です。

回帰的なので、奇数回か偶数回かによって、
V または V となります。

ちなみに、この回帰的ということについて、無限次元の線形代数では、一般に二回で元に戻るとは限らないことが知られています。


関連するベクトル空間についての記事です。
不変部分空間
双対空間


これで、今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。

フォローする