交換子群 | 交換子の定義から始めて交換子群列についての基礎を固める
" 交換子群 “の定義自体は、すぐに認識できる内容かと思います。
しかし、ある程度の交換子群に関連する基礎的な内容を把握した上で、交換子群列と可解を結びつけるには、ていねいな考察を進める必要があります。
まずは交換子の定義からスタートし、交換子群について成立する基礎的な命題たちを証明します。
その後で、帰納的に i 次の交換子群というものを定義し、交換子群列と可解との関係を解説します。
この記事では、群 G の単位元のことを e と表しています。
交換子群 :交換子の定義から
群 G の元 g, h に対して、
[g, h] = ghg-1h-1 と記号を定義します。
この [g, h] を g と h の交換子といいます。
x, y∈G が可換だとすると、
[x, y] = xyx-1y-1
= (xx-1)(yy-1) = e となります。
逆に、[x, y] = e とします。
e = xyx-1y-1 の両辺に右から y と x を乗じると、
yx = xy となり、x と y が可換となります。
そのため、x と y が可換ということと、
[x, y] = e であることが同値となります。
また、交換子の記号の定義から、
[g, h]-1 = [h, g] だと分かります。
実際、
[g, h][h,g]
= (ghg-1h-1)(hgh-1g-1)
= (ghg-1)(h-1h)(gh-1g-1)
= (gh)(g-1g)(h-1g-1)
= g(hh-1)g-1 = e
確かに、[h, g] が [g, h] の逆元になっています。
この交換子ですが、G の内部自己同型写像と絡めて二項演算を進めるときもあります。
※ 四則演算という記事で、実数についての演算を解説しています。
a∈G について、fa という G から G への写像を次のように定義します:
x∈G に対して、
fa(x) = axa-1 と定義します。
この a からの共役作用を写像にした fa は G から G への群同型写像となっています。
各 a∈G について、fa のことを G の内部自己同型写像といいます。
ここで、新しい記号ですが、群論でよく使われる表記を紹介します。
x∈G の fa による像のことを、
xa = axa-1 と表すときがあります。
この記号を用いると、簡潔に内容を述べることができるので便利です。
この記号と交換子を合わせた命題を一つ証明します。
交換子と共役作用
【命題1】
G を群とし、g, a, b∈G とする。
このとき、
[a, b]g = [ag, bg]
<証明>
導入した記号の定義に基づいて直接計算をすると得られる等式になります。
[a, b]g = (aba-1b-1)g
= g(aba-1b-1)g-1 … (1)
[ag, bg] = [gag-1, gbg-1]
= (gag-1)(gbg-1)(gag-1)-1(gbg-1)-1
= (gag-1)(gbg-1)(ga-1g-1)(gb-1g-1)
= (gabg-1)(ga-1b-1g-1)
= g(aba-1b-1)g-1 … (2)
(1), (2) より、
[a, b]g = [ag, bg] ■
この手の直接計算で、次の等式も得られます。
a, b, c∈G に対して、
[ab, c] = [a, c]b[b, c],
[a, bc] = [a, c][a, b]c
これらの直接計算に慣れると、いよいよ交換子群の定義です。G の二つの部分群に対する交換子群を定義します。
交換子群 :二つの部分群についての命題たち
H, K を群 G の部分群とします。
このとき、
{[h, k] | h∈H, k∈K} という部分集合で生成される G の部分群のことを、[H, K] と表すことにします。
※ この集合を含む G の部分群すべての共通部分となっています。
この [H, K] を H と K の交換子群といいます。
H の任意の元と K の任意の元が可換であることと、[H, K] が単位群 {e} であることが同値になります。
定義から、[H, K] = [K, H] と分かります。
実際、a∈K, b∈H に対して、
[a, b] = [b, a]-1 でした。
[b, a] は、{[h, k] | h∈H, k∈K} の元なので、
[b, a]-1 は {[h, k] | h∈H, k∈K} で生成される部分群である H と K の交換子群に含まれます。
そのため、
[a, b] = [b, a]-1∈[H, K] です。
このため、[K, H] の生成元がすべて [H, K] に含まれるため、
[K, H] ⊂ [H, K] です。
同様にして、
[H, K] ⊂ [K, H] です。
よって、[H, K] = [K, H] です。
交換子たちで生成されている部分群という定義を利用した等号の成立です。
さらに、交換子群についての基礎的な命題を証明します。
二つの正規部分群の交換子群
【命題2】
群 G の正規部分群を H, K とする。
このとき、[H, K] は G の正規部分群である。
<証明>
[H, K] の任意の生成元を、
[h, k] (h∈H, k∈K) とします。
そして、g∈G を任意に取ります。
先ほど示した等式から、
[h, k]g = [hg, kg]
そして、正規部分群なので、
hg∈H, kg∈K です。
そのため、
[h, k]g = [hg, kg]∈[H, K] です。
また、[a, b], [c, d]∈[H, K] について、
([a, b][c, d])g
= [a, b]g[c, d]g です。
(二つで成立すると、帰納的に有限個について、この等式が成立します。)
よって、
[H, K]g ⊂ [H, K] となり、
[H, K] は G の正規部分群です。 ■
生成される部分群は、生成元と、生成元の逆元を有限個で積を取ったものです。
そのため、
([a, b][c, d])g
= [a, b]g[c, d]g という関係が効果を発揮しました。
次に、ノーマライザーを絡ませた命題を証明します。
K を群 G の部分群としたときに、
NG(K) = {g∈G | gKg-1 = K} を K の正規化群(ノーマライザー)といいます。
※ 部分群の判定方法という記事で、G の部分群となっていることを証明しています。
今度は、これを用いた命題です。
正規化群と交換子群
【命題3】
H と K を群 G の部分群とする。
このとき、H ⊂ NG(K) であることと、
[H, K] ⊂ K であることは同値である。
<証明>
H ⊂ NG(K) であるとします。
[H, K] の任意の生成元 [h, k] (h∈H, k∈K) に対して、
[h, k] = (hkh-1)k-1∈K です。
そのため、どの生成元も K の元だから、
[H, K] ⊂ K です。
逆に、[H, K] ⊂ K だとします。
h∈H, k∈K を任意に取ると、
[h, k]∈K より、
hkh-1 = [h, k]k∈K です。
よって、hKh-1 ⊂ K
そのため、K ⊂ h-1Kh です。
この h として、h-1 を考え、
同様の議論をすると、
K ⊂ (h-1)-1Kh-1 = hKh-1
よって、hKh-1 = K となり、
H ⊂ NG(K) ■
ここまでの H と K として、G 自身を考える交換子群を議論します。
交換子群 :交換子群列を考察
群 G の部分群 H, K として、G 自身を考えると、G は G の正規部分群です。
そのため、【命題2】から、
[G, G] は G の正規部分群です。
ここで、D1(G) = [G, G] と置き、この正規部分群を 1 次交換子群ということにします。
自然数 i ≧ 2 に対して、
帰納的に、
Di(G) = [Di-1(G), Di-1(G)] と定義します。
この Di(G) を i 次交換子群といいます。
やはり、【命題2】から、
Di(G) は Di-1(G) の正規部分群ということになります。
1 次の交換子群について、基礎となる次の定理を証明します。
1次交換子群と可換群
【定理1】
群 G について、
G/D1(G) は可換群(アーベル群)である。
<証明>
gD1(G), hD1(G)∈G/D1(G) とします。
よって、[G/D1(G), G/D1(G)] が剰余群の単位元となっています。
そのため、G/D1(G) は可換群です。 ■
D1(G) が G の元の交換子で生成されていることから、
[g, h]D1(G) = D1(G) となることが効きました。
剰余群 G/D1(G) の単位元は、D1(G) なので、
交換子群が単位群であるため、
剰余群 G/D1(G) が可換群ということになりました。
G として、Di-1(G) を、D1(G) として、Di(G) を考え、【定理1】を適用します。
すると、Di-1(G)/Di(G) が可換群ということになります。
内容をまとめて交換子群列
G ⊃ D1(G) ⊃ D2(G) ⊃ … は、各自然数 i について、Di(G) が G の正規部分群でした。
そして、Di-1(G)/Di(G) が可換群となっています。
この列を G の交換子群列といいます。
この交換子群列を、G の正規列と考え、G が可解群かというと、この段階では不明です。
Di-1(G) = Di(G) と、どこかの自然数 i で止まって、単位群にまで達しないかもしれません。
この交換子群列が有限の長さで単位群まで辿り着くと、可解群の定義に当てはまります。
すなわち、
G ⊃ D1(G) ⊃ … ⊃Dr(G) = {e} という長さ r の正規列になっているとき、各剰余群が可換群なので、G が可解群ということになります。
※ 組成列という記事で正規列について解説をしています。
実は、この逆も成立して、G が可解群であることを、有限の長さで交換子群列が単位群になると言い換えることができます。
この逆の証明については、もう少し準備が必要になります。
交換子群 :可解の定義と同値
【命題4】
N を G の正規部分群とする。
G/N が可換群ならば、
D1(G) = [G, G] ⊂ N である。
<証明>
仮定の可換性より、
[G/N, G/N] = {N} です。
そのため、任意の x, y∈G に対し、
[x, y]∈N となっています。
よって、D1(G) ⊂ N です。 ■
この【命題4】を使って、先ほど示したことの逆を証明し、可解群の定義と同値となっている書き換えを得ます。
可解の定義の書き換えを証明
【定理2】
G を群とする。
「Dr(G) = {e} となる自然数 r が存在する」ことと、G が可解群であることが同値である。
<証明>
G が可解群であるとします。
G = G0 ⊃ G1 ⊃ … ⊃ Gr = {e} という正規列で、各剰余群 Gi-1/Gi が可換群となっているものが存在します。
ここで、ある i について、
Di(G) ⊂ Gi だとすると、
Di+1(G) = [Di(G), Di(G)]
⊂ [Gi, Gi]
ここで、Gi/Gi+1 が可換群なので、
【命題4】より、
[Gi, Gi] ⊂ [Gi+1, Gi+1]
これらを合わせると、
Di+1(G) ⊂ [Gi+1, Gi+1] です。
これで、繰り返し処理が可能ということが分かりました。はじめの一手が可能なことを確かめておきます。
i = 1 のとき、G/G1 が可換群なので、
【命題4】から、
D1(G) = [G, G] ⊂ G1 です。
これで、帰納法より、
D1(G) ⊂ G1 より D2(G) ⊂ G2,
D2(G) ⊂ G2 より D3(G) ⊂ G3,
・・・
Dr-1(G) ⊂ Gr-1 より Dr(G) ⊂ Gr = {e}
よって、
G ⊃ D1(G) ⊃ … ⊃Dr(G) = {e} という正規列ができました。
この逆は、先ほど示しています。■
これで、可解群の定義を交換子群列を用いて書き換えることができました。
また、組成列に関連して、可解群の定義を書き換えることもできます。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。