自己同型写像 Automorphism | 群Gの自己同型写像全体の成す群Aut(G)
群Gの「 自己同型写像 」全体の成す群 Aut(G) と、その正規部分群である Int(G) について、基本的な内容を述べています。
Aut(G) が本当に群の定義を満たしているのか、Int(G) が Aut(G) の正規部分群となっているのかということを確認することは、群論入門の内容を学習するときの良い練習になるかと思います。
二つの写像が等しいという集合論の入門で学習する内容から議論を進めていけるので、必要な予備知識が余り要らないことから、群論に慣れるための練習となります。
群や、その正規部分群の定義を満たしているのかを確認することで、集合論の入門内容の復習にもなります。
自己同型写像 :群の定義を確認
【二つの写像の相当】
S, T を空でない集合とする。
f, g を S から T への写像とする。
このとき、任意の a∈S に対して、
f(a) = g(a) ならば、f = g である。
この集合論の入門で学習する二つの写像が等しいことの定義に基づいて議論を進めます。
高校数学の恒等式の単元で学習した二つの関数が恒等的に等しいということの定義です。
高校の頃は、定義域が実数全体や自然数全体でしたが、今回の記事では、定義域(始集合)が群 G となっている全単射群準同型写像について扱います。
この G から G への全単射群準同型写像のことを G の自己同型写像といいます。
<記号>
G の自己同型写像全体を Aut(G) と表すことにします。
英語のAutomorphismの意味が、自己同型写像ですので、それを使った記号で表しました。
この Aut(G) が群の定義を満たすことを確認するところから議論を始めます。
準同型写像の合成
群準同型写像どおしの合成写像も群準同型写像となります。このことを群準同型写像の定義に基づいて確認します。
【命題1】
f, g を群 G から G への群準同型写像とする。
このとき、合成写像 fg も群準同型写像である。
<証明>
任意の x, y∈G に対して、
fg(xy) = f(g(xy)) = f(g(x)g(y))
g(x), g(y) も G の元なので、
f(g(x)g(y)) = f(g(x))f(g(y)) です。
f(g(x))f(g(y)) = fg(x)fg(y) なので、
fg(xy) = fg(x)fg(y) となっています。【証明完了】
今、示した【命題1】と【二つの写像の相当】の定義を使って、Aut(G) が群となることを示します。
Aut(G)の演算
(f, g)∈Aut(G)×Aut(G) に対して、【命題1】から fg も G から G への群準同型写像です。
また、Aut(G) の元は全単射なので、f と g は全単射です。
そこで、fg も全単射ということを示せば、fg が Aut(G) の元ということになり、写像の合成を積として定義できることになります。
<全射であることの証明>
任意の x∈G に対して、f が G から G への全射であることから、ある a∈G が存在して、f(a) = x となります。
また、g も G から G への全射なので、a∈G に対して、ある b∈G が存在し、g(b) = a
よって、
fg(b) = f(g(b)) = f(a) = x
これで fg が全射であることを示すことができました。
<単射であることの証明>
fg(x) = fg(y) (x, y∈G) とします。
このとき、f(g(x)) = f(g(y)) となっています。
f が単射なので、g(x) = g(y) です。
また、g も単射なので、x = y です。
これで、fg が単射であることを示すことができました。
※ 全単射については、リンク先の記事で基礎から解説をしています。逆写像が存在するとき、逆写像も全単射となっています。
これで、(f, g)∈Aut(G)×Aut(G) に対して、
fg∈Aut(G) なので、写像の合成を積とする二項演算が定義できました。
つまり、Aut(G)×Aut(G) → Aut(G) が
(f, g) → fg ということです。
この二項演算について、Aut(G) が群であることを示すには、次を確認することになります。
① 単位元の存在
② 結合律が成立
③ 逆元の存在
e:G → G を恒等写像とします。
つまり、任意の x∈G に対して、
e(x) = x です。
この e は G から G への全単射群準同型写像となっているので、e∈Aut(G) です。
恒等写像 e が Aut(G) の単位元となります。
実際、任意の f∈Aut(G) と任意の x∈G に対して、
ef(x) = e(f(x)) = f(x) なので、
ef = f です。
【二つの写像の相当】の定義を確認しました。
fe(x) = f(e(x)) = f(x) なので、
同様に、fe = f です。
すなわち、ef = fe = f なので、e は Aut(G) の単位元となっています。
二つの写像の相当関係の定義に基づいて、結合律が成立することや逆元の存在を示すことができます。
自己同型写像 :写像が等しいことの定義から
Aut(G) について写像の合成を積とするとき、結合律が成立していることを確認します。
任意の f, g, h∈Aut(G) について、
f(gh) = (fg)h を示すということになります。
これは、写像の相当関係なので、二つの写像の相当についての定義を確認することになります。
任意の x∈G に対して、
f(gh)(x) = f(gh(x)) = f(g(h(x))) です。
一方、
(fg)h(x) = fg(h(x)) = f(g(h(x))) です。
よって、
f(gh)(x) = f(g(h(x))) = (fg)h(x)
すなわち、f(gh) = (fg)h です。これで、結合律が成立することを確認できました。
※ 結合律という記事で一般の結合律について証明しています。
次に逆元の存在を示します。逆写像が逆元になります。
逆元の存在
f∈Aut(G) に対して、f-1∈Aut(G) となることを先に示しておきます。
任意の x∈G に対して、f が全単射であることから、ある ax∈G が唯一存在して、
f(ax) = x です。
※ 単射なので、x に移る G の元は a のみになります。
よって、任意の x∈G に対して、
f-1(x) = ax と定義すると、
f-1 は G から G への写像となります。
この逆写像 f-1 は、先ほどのリンク先の記事で解説しているように全単射となっています。そのため、準同型写像となっていることを確認します。
任意の x, y∈G に対して、
ax, by∈G が存在し、
f(ax) = x, f(by) = y となっています。
よって、
f-1(x)f-1(y) = axby です。
xy = f(ax)f(by) = f(axby) より、
逆写像の定義から、
f-1(xy) = axby
ゆえに、
f-1(x)f-1(y) = axby = f-1(xy) なので、f-1 も準同型写像となっています。
これで、f-1∈Aut(G) が示せました。
Aut(G) における積は写像の合成でした。
f と f-1 の合成写像は恒等写像で、恒等写像 e が単位元だったことから、f の逆元は、その逆写像 f-1 ということになります。
以上より、Aut(G) が写像の合成を積として群の定義を満たすことが確認できました。
自己同型写像 :内部自己同型写像
群 G が、どんな群であっても、内部自己同型写像が存在するため、Aut(G) は空集合ではありません。
この内部自己同型写像について説明をします。
これは、群 G から G 自身への共役作用を写像の言葉で述べたものになります。
各 g∈G に対して、φg という G から G への写像を次のように定義します。
【内部自己同型写像】
φg:G → G
x∈G に対して、φg(x) = gxg-1
φg が全単射かつ群準同型写像となっていることを確認します。その後で、内部自己同型写像全体が、Aut(G) の正規部分群となっていることを確認します。
任意の y∈G に対して、
g-1yg∈G を内部自己同型写像 φg で移します。
すると、
φg(g-1yg) = g(g-1yg)g-1
= (gg-1)y(gg-1) = y
よって、φg が全射であることが示せました。
φg(x) = φg(y) とすると、
gxg-1 = gyg-1 です。
両辺に左から g-1 を、右から g を乗じると、
g-1(gxg-1)g = g-1(gyg-1)g
結合律より、x = y となります。
これで、φg が単射であることも示せました。
また、
φg(x)φg(y) = (gxg-1)(gyg-1)
= gx(g-1g)yg-1
= g(xy)g-1 = φg(xy) となっています。
このため、φg は準同型写像となっています。
これで、各 g∈G に対して、
φg が全単射群準同型写像なので、φg∈Aut(G) ということが示せました。
{φg | g∈G} を Int(G) と表すことにします。
Int(G) は Aut(G) の部分集合ということは分かりましたが、ここからは正規部分群となっていることを示します。
群 G の単位元を 1 と表すことにします。
任意の x∈G に対して、
φ1(x) = 1×1-1 = x です。
そのため、φ1 は G から G への恒等写像なので、Aut(G) の単位元 e と一致しています。
また、φg-1 が φg の逆写像となっていることが、計算すると分かります。
任意の x∈G に対して、
φg-1φg(x) = g-1(gxg-1)(g-1)-1
= (g-1g)x(g-1g) = x
同様に、φgφg-1(x) = x なので、
φg-1 が φg の逆写像となっています。
後は、Aut(G) における二項演算である写像の合成について閉じていることを示せば、Int(G) が Aut(G) の部分群となっていることを示せたことになります。
積で閉じていることから
任意の g, h∈G に対して、
φgφh = φgh となっていることを確認します。
任意の x∈g の像が一致していることを示します。
φgφh(x) = g(hxh-1)g-1
= (gh)x(h-1g-1)
= (gh)x(gh)-1 = φgh(x)
よって、φgφh = φgh∈Int(G) です。
これで、Int(G) が Aut(G) の部分群となっていることが分かりました。最後に正規部分群となっていることを確認します。
任意の f∈Aut(G) に対して、
f(Int(G))f-1 ⊂ Aut(G) を示せば、正規部分群ということになります。
φg∈Int(G) (g∈G) と f∈Aut(G) に対して、
任意の x∈G について、
fφgf-1(x) = f(gf-1(x)g-1)
= f(g)f(f-1(x))f(g-1)
= f(g)x(f(g)-1 = φf(g)
よって、
fφgf-1 = φf(g)∈Int(G) です。
つまり、fφgf-1 は f(g) という G の元を使った共役作用を表しています。
これで、f(Int(G))f-1 ⊂ Aut(G) を示せました。
Int(G) は Aut(G) の正規部分群です。
また、Int(G) は、G への共役作用を言い換えたものなので、Int(G) から G への作用を考えると、G の軌道分解に現れる各軌道は共役類ということになります。
群論の入門的な基礎内容については、群の公理という記事で解説をしています。
これで、今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。