軌道分解 | 固定部分群と軌道に含まれる元の個数の関係【具体的な群において共役な置換を】

軌道分解-表紙

" 軌道分解 “を交代群から交代群への共役作用を使って、具体的に調べています。

はじめに、軌道についての一般的な内容をまとめ、それらを使って、4次交代群の共役な置換を観察します。

有限群が有限集合に作用するとき、軌道に含まれる元の個数と固定部分群の指数についての関係を押さえておくと、議論が進展する根拠になるときもあります。

部分群や剰余類といった群論の入門内容で学習する基礎を使いながら、置換についての考察の練習となる内容を解説します。

この記事では、有限集合 T に含まれる元の個数を |T| と表すことにします。

また、群 G の単位元を e と表しています。

軌道分解 :非交和な分解について

群 G が、集合 X に作用していることの定義の内容は、次のようになっています。

● g∈G は、X から X への写像
● e(x) = x (∀x∈X)
● (gh)(x) = g(h(x)) (∀g, h∈G, ∀x∈X)

a∈X について、
{g(a) | g∈G} を a を含む G-軌道といいます。

群の作用という記事で、基礎的な作用についての内容を解説しています。


【二項関係~の定義】

a, b∈X について、ある g∈G が存在し、
g(a) = b となるとき、
a~b と定義します。

この~は、X における同値関係となっています。


同値関係という記事で、集合論の入門内容を解説しています。

a∈X について、
aO = {g(a) | g∈G} という a を含む G-軌道は、a を含む~についての同値類と一致しています。

aC = {x∈X | a~x} が a を含む同値類です。

y∈aO を任意に取ると、
y∈{g(a) | g∈G} なので、
ある h∈G が存在して、
h(a) = y となります。

~の定義から、a~y より、
y∈aC です。

逆に z∈aC とすると、
a~z より、ある k∈G が存在し、
k(a) = z です。

これは、
z = k(a)∈aO ということです。

よって、aO = aC となっています。


固定部分群の定義】

群 G が集合 X に作用しているとする。

このとき、a∈X に対して、
Ga = {g∈G | g(a) = a} という G の部分群を、a の固定部分群という。


群の作用について、
a, b∈X に対し、g(a) = b のとき、
g-1(b) = a となります。

g が X から X への全単射となっていて、g-1 が g の逆写像という関係です。

g, h∈G について、gh∈G が X から X への全単射どおしの合成写像となっていることと合わせて、逆写像についての意識も大切になります。

これら、写像の合成と逆写像についての理解から、Ga が G の部分群となっていることが分かります。

ここで、有限群 G が有限集合 X へ作用しているときについて、軌道に含まれている元の個数についての定理です。

|G;H| という記号ですが、有限群 G の部分群 H について、H の G における指数を表します。

ラグランジュの定理の証明の内容から、
|G;H| = |G|÷|H| となっています。

次の定理は、H として固定部分群を考えたときの式を導いています。

軌道に含まれる元の個数

【定理】

有限群 G が有限集合 X に作用しているとする。

このとき、a∈X について、
O(a) = {g(a) | g∈G} と置くと、
|O(a)|×|Ga| = |G| である。


<証明>

|G;Ga| = n とします。

また、G の左剰余類の分解を、
G = g1Ga ∪ … ∪ gnGa とします。

1 ≦ i ≦ n のとき、
任意の h∈Ga に対して、
(gih)(a) = gi(h(a)) = gi(a) です。

そのため、
軌道 O(a) = {g(a) | g∈G} に含まれる元は、次の n 個となっています。

O(a) = {g1(a), … , gn(a)} です。

よって、
|O(a)| = n = |G;Ga| となっています。

左辺と右辺に |Ga| を掛けると、
|O(a)|×|Ga| = |G;Ga|×|Ga|
= (|G|÷|Ga|)×|Ga|
= |G| ■

この【定理】から、a∈X を含む軌道 O(a) に含まれている元の個数は、G の位数の正の約数となっていることが分かります。

この基本となる内容は、具体的な有限群の作用を考えるときに役に立つことがあります。

例えば、シローの定理の証明で使えます。

ここからは、具体的な例を使って、軌道分解の例を観察します。

軌道分解 :4次交代群の共役作用

G = A4 を {1, 2, 3, 4} 上の 4次交代群とします。

作用を受ける集合 X も、A4 自身とします。

G×A4 → A4 という作用を、
(g, x)∈G×A4 に gxg-1∈A4 を対応させることで定義します。

この対応は、群の作用の定義を満たしています。

g, h∈G について、
gh∈G から x∈A4 への作用は、
(gh)x(gh)-1 = (gh)x(h-1g-1)
= g(hxh-1)g-1 となっています。

また、g, x∈G が G における乗法について可換なときは、
gxg-1 = x となります。

そのため、g∈Gx となる必要十分条件は、g と x が可換であるということになります。

ここで、σ∈A4 について、σ を含む G-軌道 O(σ) を具体的に求めます。

{gσg-1 | g∈G} が O(σ) です。

e∈A4 = G を単位元(恒等置換)は、G のどの元とも可換なので、
O(e) = {e} ということが分かります。

O1 = O(e) と自然数で軌道に印をつけておきます。

すべての軌道を求める

群の作用についての一般論から、作用を受ける有限集合 A4 は同値類である軌道の非交和な和集合として表されることが分かっています。

そこで、O1 = {e} に含まれていない A4 の元を一つ取り、その元を含む軌道をすべて求めます。

(1, 2)(1, 3)∈A4 を含む G-軌道を次に考えます。

以前に投稿した群の作用という記事で、この軌道に含まれる元をすべて求めていまして、次のようになります。

(1, 2)(1, 3), (1, 3)(2, 4), (1, 4)(2, 3) という三つの元から成る軌道となっています。

この軌道を O2 と置くことにします。

{e} = O1 との共通部分は空集合となっています。

実は、O1 ∪ O2 という 4 つの元からなる集合は、A4 の正規部分群となっています。

この O1 ∪ O2 を、クラインの四元群といいます。

A4 は、4次対称群の偶置換をすべて集めたものなので、全部で 12 個の元が含まれています。

あと残りの元は 8 個です。

O1 ∪ O2 に含まれていない元を一つ取り、その元を含む軌道 O3 を求めます。

一つの軌道に含まれる元の個数についての先ほどの【定理】から、O3 は A4 と一致していないことため、O3 に含まれる元の個数は最大で 6 個ということが分かります。

(1, 2, 3) = (1, 3)(1, 2) という偶置換を取ることにします。

O3 = {g(1, 2, 3)g-1 | g∈G} の元を書き出します。

g に 4次交代群の 12 個の元を当てはめて、得られる元をすべて求めます。

全部を述べると長くなるので、手順を述べることにします。

【共通の数字のない互換の積の場合】

g = (1, 2)(3, 4) のように、共通の数字を含まない互換の積になっている場合は、逆元は互換を入れ替えたものになります。

つまり、g-1 = (3, 4)(1, 2) です。

g(1, 2, 3)g-1 =
(1, 2)(3, 4)(1, 2, 3)(3, 4)(1, 2) と逆元を使わない形に書き換えてから、巡回置換分解をします。

こらら 5 つの置換に現れている数字の最小のものが 1 なので、1 の移り先を追跡します。

すると、
g(1, 2, 3)g-1 = (1, 4, 2) となります。

※ 群の作用という記事に、A4 の 12 個の偶置換を巡回置換分解した形で列挙しています。これら 12 個を使って置換の積を具体的に求めます。

【長さ 3 の置換の場合】

g = (2, 3, 4) のような長さ 3 の巡回置換の場合の逆元の求め方です。

g-1 = (2, 4, 3) です。

(i, j, k) の j と k を逆にすると、逆元(逆置換)になります。
※ ただし、i, j, k は、どの二つも相異なるものとします。

g(1, 2, 3)g-1 =
(2, 3, 4)(1, 2, 3)(2, 3, 4)-1 =
(2, 3, 4)(1, 2, 3)(2, 4, 3) となっています。

これら 3 つの置換に現れる最小の数字 1 の移り先を追跡します。

g(1, 2, 3)g-1 =
(1, 3, 4) と巡回置換が得られます。

【g が単位元 e のとき】

g(1, 2, 3)g-1 = (1, 2, 3) となり、動きません。

このようにして、具体的に g に 12 個の偶置換を当てはめて、行き先をすべて書き出すと、O3 の元が全て求まります。

O3 の元は、全部で 4 個となります。

O3 に含まれていない (1, 2, 4) を含む軌道を O4 とすると、O3 を求めたときと同じ手順で O4 の元をすべて書き出すことができます。

すると、A4 から A4 の共役作用についての軌道分解が、次のようになります。

軌道分解-具体例

これら 4 つの軌道に含まれている元の個数は、全部で 12 個です。どの二つの軌道も共通部分が空集合となっています。

そのため、A4 に含まれている 12 個の偶置換を全て書き出すことができたことになります。

O1∪O2∪O3∪O4 が A4 の軌道分解です。

単位元のみから成る軌道の位数は 1 で、
|A4| = 1+|O2|+|O3|+|O4| となっています。

2 ≦ i ≦ 4 について、
軌道 Oi の元を一つ取り σ(i) と置きます。

Gσ(i) という σ(i) の固定部分群の位数を考えると、上で述べた【定理】から、
|Oi| = |G|÷|Gσ(i)| = |G;Gσ(i)| です。

よって、
1+|G;Gσ(2)|+|G;Gσ(3)|+|G;Gσ(4)|
= |G| という等式が得られました。
(ここで、G = A4

この等式を類等式といいます。

今回は、A4 から A4 への共役作用について、軌道を具体的に書き出しました。

一般に、群 G から G 自身への作用を共役作用で定義したときに、その軌道のことを共役類といいます。

共役類 類等式という記事で、一般の有限群 G から G への共役作用について、解説をしています。

この類等式ですが、
ウェダーバーンの小定理「有限位数の斜体(非可換体)は必ず可換となる」ということの証明で使います。

最後に、得られた A4 の軌道分解を使って、A4 には位数 6 の正規部分群が存在しないことを示します。

位数6のnormal-subの存在

ここでは、群 G の作用について、一つの G-軌道に含まれる二つの元が、G の作用によって移り合うということを用いた議論をします。

つまり、a, b が同じ軌道に含まれているとき、
g(a) = b となる g∈G が存在するということに焦点を当てた内容です。

もし、4次交代群 A4 に位数 6 の正規部分群 N が存在したとすると、矛盾が起こります。

先ほどの各 Oj (j = 1, … , 4)の元 x が N に含まれていたとすると、
Oj ⊂ N … ★ となります。

実際、N が A4 の正規部分群なので、
任意の g∈A4 に対して、
gxg-1∈N となります。

つまり、
Oj = {gxg-1 | g∈A4}
⊂ N となります。

このことに注意して、矛盾を導きます。

N は A4 の部分群なので、e は N に含まれています。

そのため、O1 = {e} ⊂ N となっています。

|N-{e}| = 6-1 = 5 なので、
O2 ∪ O3 ∪ O4 の元 x で、N に含まれているものが存在することになります。

和集合の定義から、
2 以上 4 以下の自然数 j が存在して、
x∈Oj となります。

|O2| = 3, |O3| = |O4| = 4 でした。

そのため、
差集合の位数について、
1 ≦ |N-(O1 ∪ Oj)| ≦ 2 … ☆

N-(O1 ∪ Oj) には、少なくとも 1 個の元が存在しています。

y∈N-(O1 ∪ Oj) とすると、
y は、
(O2 ∪ O3 ∪ O4)-Oj の元です。

そうすると、再び★より、
y を含んでいる軌道が N の部分集合となります。

ここで、j = 2 の場合と、
j = 3 または 4 の場合が考えられます。

【j = 2 の場合】

y∈O3 ∪ O4 となります。

そして、☆より、
|N-(O1 ∪ O2)| ≦ 2 です。

y∈Ok (k = 3 または 4) とすると、
Ok ⊂ N-(O1∪O2) です。

|Ok| = 4 ですが、
|N-(O1 ∪ O2)| ≦ 2 なので矛盾です。

【j = 3 または 4 の場合】

j = 3 のとき、
y∈O2 ∪ O4 となります。

そして、☆より、
|N-(O1∪O3)| = 1 となります。

y∈O2 だと、★から、
O2 ⊂ N-(O1∪O3) となり、
3 = |O2| ≦ 1 という矛盾です。

y∈O4 だと、★から、
O4 ⊂ N-(O1∪O3) となり、
4 = |O4| ≦ 1 という矛盾です。

j = 4 のときも、
☆より、|N-(O1∪O3)| = 1 です。

そのため、★より、
3 ≦ 1 という矛盾か、
4 ≦ 1 という矛盾が生じます。

よって、背理法から、A4 には位数 6 の正規部分群が存在しないということになります。

関連する記事として、n次交代群という記事で、n ≧ 5 のときに、その単純性を証明しています。

それでは、これで今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。