群の作用 | 推移的な作用を4次の置換について具体的に見る

群の作用-表紙

" 群の作用 “についての定義を述べた後、推移的な作用について解説をしています。

4次交代群という具体的な置換群を用いて、作用を受ける集合が、一つの軌道となっていることを具体的に確認しています。

作用の定義に基づいて、具体例で内容を押さえると学習をはじめやすいかと思います。

群 G が集合 X に作用をするということの定義を述べます。

群の作用 :推移的な作用の定義

G×X → G への写像が、
(g, x)∈X に対し、g(x) を対応させているとします。

次の [1] と [2] を満たすとき、群 G が集合 X に作用をしているといいます。

【群の作用の定義】

[1] G の単位元の作用が恒等的

単位元 e∈G は、任意の x∈X に対して、
e(x) = x である。

[2] 作用は結合的

任意の g, h∈G と任意の x∈X に対して、
(gh)(x) = g(h(x)) である。

G が X に作用しているとき、
fg : X → X を、x∈X に対して、
fg(x) = g(x) と定義します。

すると、fg は X から X への全単射となっていることが分かります。

【fg の全射性の証明】

x∈X を任意に取ります。

G が X に作用しているため、g-1∈G という g の G における逆元の X への作用を考えることができます。

そのため、g-1(x) は X の元です。

g-1(x) に [2] より、
fg(g-1(x)) = g(g-1(x))
= (gg-1)(x) = e(x)

さらに、[1] より、
fg(g-1(x)) = e(x) = x

これで、fg が全射であることを示せました。 ■

【fg の単射性の証明】

fg(x) = fg(y) (x, y∈X) とします。

すると、g(x) = g(y) です。

この両辺に g-1∈G を作用させると、
g-1(g(x)) = g-1(g(y))

[2] と [1] から、
e(x) = e(y) より、x = y

これは、fg が単射ということを示しています。 ■

以上の内容から、fg は X 上の対称群 S(X) の元(置換)となっています。

また、g∈G に fg∈S(X) を対応させる写像を φ とすると、[1] と [2] から、φ が群としての準同型写像であることが分かります。

ここまでの内容を踏まえて、群 G から X への作用が推移的であるということの定義を述べます。

【推移的であることの定義】

群 G が集合 X に作用しているとする。

このとき、任意の x, y∈X に対して、ある g∈G が存在し、
g(x) = g(y) となるとき、G は X に推移的 (transitive) に作用しているという。

※ 推移的であることは、可移的ともいわれます。

作用が推移的であることの同値な書き換えを示しておきます。

transitiveと同値

【同値な書き換え】

群 G が集合 X に作用しているとする。

このとき、
「ある x∈X が存在し、
{g(x) | g∈G} = X 」ということと、「G の作用が推移的である」ことは同値である。


<証明>

ある x∈X が存在し、
{g(x) | g∈G} = X だとします。

このとき、a, b∈X を任意に取ると、
a, b∈{g(x) | g∈G}

よって、ある h, k∈G が存在し、
h(x) = a, k(x) = b

h-1∈G を作用させると、
[1] と [2] の作用の定義から、
x = h-1(a)

ゆえに、
b = k(x) = k(h-1(a))
= (kh-1)(a)

kh-1∈G より、G の作用で a を b に移動できたので、作用が推移的であることを確認できました。

逆に、G が X に推移的に作用しているとします。

このとき、x∈X を任意に取り、
{g(x) | g∈G} という X の部分集合を考えます。

もし、{g(x) | g∈G} ≠ X だと仮定すると、以下のように矛盾が生じます。

{g(x) | g∈G} ≠ X ということは、
差集合 X-{g(x) | g∈G} が空集合でないということです。

つまり、y∈X-{g(x) | g∈G} が存在します。

すると、今、G が X に推移的に作用しているため、
ある g0∈G が存在し、
g0(x) = y

g0∈G だから、
y = g0(x)∈{g(x) | g∈G}

これは、y∈X-{g(x) | g∈G} に矛盾です。

よって、背理法から、
{g(x) | g∈G} = X ■

論理パズルで、推移的ということを書き換えることができました。

{g(x) | g∈G} という X の部分集合ですが、これを x を含む G-軌道といいます。

G が X に作用をしているとき、軌道を用いて X を非交和な G-軌道たちの和集合に分解することができます。

しかし、G から X への作用が推移的だと、X が、たった一つの G-軌道となっているということが、今の証明から分かりました。

では、ここから 4次交代群 A4 を使って、具体的に推移的な作用の例を述べます。

群の作用 :4次交代群の偶置換

4次交代群 A4 は、1, 2, 3, 4 という異なる 4 つを入れ替える(並び替える)置換の中で、偶置換という偶数個の互換の積として表される置換全体です。

位数は、4次対称群 S4 の位数の半分です。

4!÷2 = 24÷2 = 12 が、4次交代群の位数です。

これら 12 個の偶置換を全て書き出した上で、具体的に考察を進めます。

そのために、置換についての簡単な知識です。

(i, j, k) = (i, k)(i, j)

※ ただし、i, j, k は、どの二つも相異なるとします。

実際に、三つの文字の置換を調べてみます。

(i, k)(i, j)(i) = (i, k)(j) = j,
(i, k)(i, j)(j) = (i, k)(i) = k,
(i, k)(i, j)(k) = (i, k)(k) = i となっています。

長さ 3 の巡回置換は 2 個の互換の積に分解できます。

2 個の互換の積として表されたので、偶置換ということです。

つまり、(i, j, k) は交代群に含まれる置換となります。

例えば、(1, 2, 3) = (1, 3)(1, 2) です。そして、現れていない 4 は動かさないということを意味しています。

(i, j, k)-1 = (i, k, j)

※ ただし、i, j, k は、どの二つも相異なるとします。

(i, j, k)(i, k, j) = (i, k, j)(i, j, k) = e となっています。

(i, j, k)(i, k, j)(i) = (i, j, k)(k) = i,
(i, j, k)(i, k, j)(j) = (i, j, k)(i) = j,
(i, j, k)(i, k, j)(k) = (i, j, k)(j) = k です。

そのため、1, 2, 3, 4 のすべてを動かさないため、4次交代群の単位元です。

つまり、
(i, j, k)(i, k, j) = e です。

(i, k, j)(i, j, k) = e も、同じ要領で確認することができます。

A4 という群の作用を具体的に扱うために、すべての元である偶置換を列挙しておきます。

12個の偶置換

群の作用-交代群の偶置換

これらは、4 次の置換を巡回置換分解した形にしています。

先ほど述べたように、長さ 3 の巡回置換は、2 個の互換の積として表されるので、偶置換となっています。

例えば、
(1, 3, 2) = (1, 2)(1, 3) です。

具体的に置換を書き出しているので、A4 が可換群でないことが、すぐに確かめられます。

(1, 3, 2)(1, 3, 4)(3)
= (1, 3, 2)(4) = 4

(1, 3, 4)(1, 3, 2)(3)
= (1, 3, 4)(2) = 2

3 の像が異なることから、
(1, 3, 2)(1, 3, 4) と (1, 3, 4)(1, 3, 2) は異なる A4 の置換です。

すなわち、
(1, 3, 2) と (1, 3, 4) は可換でないことが分かりました。

ここで、
e, (1, 2)(3, 4), (1, 3)(2, 4), (1, 4)(2, 3) という 4 個の偶置換から成る A4 の部分集合を V とします。

この V は、クラインの四元群といって、A4 の部分群となっています。

リンク先で示している詳細ですが、V の元と V の元で積をとると、可換になっていることが分かる乗積表が得られます。

また、関連する記事として、A4 の A4 への共役作用について、A4軌道分解を具体的に求めた記事を投稿しています。

さらに、推移的(可移)であることを強めた二重可移-多重可移についての記事も投稿しています。

これで今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。