剰余環 Z/nZ | 剰余類に関して相当関係・加法・乗法の定義

合同式の性質-表紙

" 剰余環 Z/nZ “という大学の環論入門で基本となる内容について、定義から解説します。

Z/nZ において、等しいという相当関係の定義。そして、加法と乗法の定義を押さえ、環の定義を満たしていることを証明します。

このブログ記事では、整数全体を Z と表します。

中学や高校の数学で学習した文字式の計算から学習を始めて、環論の入門内容へと入っていけるので、着実に基礎を押さえたい内容になります。

よく使う記号ですが、整数 x が整数 y の約数であるときに、x | y と表すことにします。

※ これは、y が x の倍数ということ同じ意味です。

剰余環 Z/nZ :modから始めて

【mod とは】
n を自然数とする。
a, b ∈ Z が、n | (a - b) となっているとき、
a ≡ b (mod n) と表す。

合同方程式の解き方より

この合同 ≡ という Z 上の二項関係について、
割る数を n に固定して考えているときに、
「mod n」と表します。

n を法とするという言い方もされます。

二つの整数 a と b が合同ということは、
「a - b が n で割り切れる」ということです。

そして、この定義は、「a を n で割ったときの余りが、b を n で割ったときの余りと同じ」ということと同値になります。
ユークリッド整域というブログで、同値になっていることを証明しています。

例えば、
5 と 8 について、5 ≡ 8 (mod 3)

実際、5 - 8 は -3 で、3 で割り切れます。

同値である余りが等しいという方で考えても、5 を 3 で割ったときの余りと、8 を 3 で割ったときの余りは、どちらも 2 で等しくなっています。

三つの律を確認

自然数 n を法とするとき、合同 ≡ という Z 上の二項関係は、反射律・対称律・推移律を満たします。それぞれについて、確認をします。


【反射律】

任意の整数 a に対して、
a ≡ a (mod n)


<証明>

任意の a ∈ Z に対して、
a - a = 0 は n の倍数だから、
n | (a -a) です。

つまり、a ≡ a (mod n)【証明完了】


【対称律】

a ≡ b (mod n) (a, b ∈ Z)
ならば、b ≡ a (mod n)


<証明>

a ≡ b (mod n) (a, b ∈ Z) だとすると、
(a - b) が n の倍数なので、
ある整数 t が存在し、a - b = nt

両辺に -1 を掛けると、
b - a = n × (-t)

-t は整数なので、n は (b - a) の約数ということになり、b ≡ a (mod n)【証明完了】


【推移律】

a ≡ b (mod n) かつ b ≡ c (mod n)
であるならば、a ≡ c (mod n)


<証明>

仮定より、ある整数 k, t が存在して、
a - b = nk, b - c = nt と表せます。

辺々足すと、a - c = n(k + t)

k + t は 整数なので、n が (a - c) ということになり、a ≡ c (mod n)【証明完了】

以上より、≡ は、Z における同値関係ということが分かりました。

反射律・対称律・推移律を全て満たす二項関係は同値関係で、同値関係が与えられると、集合を同値類に類別することができます。

では、この合同という同値関係で、全体 Z を非交和な部分集合たちに分割します。

剰余類に分ける

任意の a ∈ Z に対して、反射律から、a を含む同値類が存在します。

その a を含む同値類を [a] と表すことにします。

すなわち、
{z ∈ Z | a ≡ z (mod n)} = [a]

a, b ∈ Z について、[a] と [b] が Z の部分集合として、等しくないとします。このとき、同値類なので、[a] と [b] の共通部分は空集合になります。

また、すべての同値類で和集合をとると、その和集合は全体 Z に一致します。

つまり、Z = ∪a∈Z[a]

このように、全ての同値類で和集合をとると、互いに非交和な同値類たちの和集合となります。

自然数 n を法としているときに、この内容を、さらに細かく考察します。

剰余環 Z/nZを定義する

自然数 n を法としているとき、合同という同値関係についての同値類をすべて集めます。

Z の部分集合たちを集めたものなので、同値類たちの系です。

この同値類全体を Z/nZ と表します。

{[a] | a ∈ Z} = Z/nZ です。

ここで、a, b ∈ Z について、

[a] ≠ [b] と [a] ∩ [b] = Φ は同値となっています。
※ Φ は空集合を表す記号です。

対偶をとると、
[a] ∩ [b] ≠ Φ と [a] = [b] が同値ということでもあります。

Z/nZ の元である [a] と [b] が等しいということを、さらに代数らしい言い方で捉えます。

[a] = [b] だとすると、
a ∈ [a] = [b] なので、整数 a が同値類 [b] に含まれるということです。

そのため、a ≡ b (mod n) ということです。
これは、定義から、a を n で割ったときの余り-整数問題と、b を n で割ったときの余りが等しいということです。

Z/nZの相当関係

x, y を整数とします。このとき、n を法として、「x と y が合同である場合」と「x と y が合同ではない場合」が考えられます。

【場合1】
x ≡ y (mod n) だとすると、
同値類の定義から、y ∈ [x]

反射律から、
y ≡ y (mod n) なので、y ∈ [y]

そのため、[x] ∩ [y] ≠ Φ なので、同値類であることから、[x] = [y] となります。

【場合2】
x と y が合同でないとします。

このとき、もし [x] ∩ [y] に含まれる整数 z が存在したとすると、
x ≡ z (mod n) かつ y ≡ z (mod n)

対称律から z ≡ y なので、
推移律を適用すると、x ≡ y (mod n)

これは、x と y が合同でなかったことに矛盾します。

よって、
背理法から、[x] ∩ [y] = Φ

これで、起こり得る場合をすべて考察したので、内容をまとめます。


x, y ∈ Z について、
[1] x と y が合同ならば、[x] = [y]

[2] x と y が合同でないならば、
[x] ∩ [y] = Φ ([x] ≠ [y])


これで、Z/nZ の元 [a] と [b] について、等しい(相当)かどうかを判断することができました。

a と b が n を法として合同だと、等しい元。a と b が合同でなければ、[a] と [b] は等しくない元ということです。

これで、Z/nZ という数学的対象の元について、等しいか等しくないのかを整数レベルの合同関係で判断できることが分かりました。

次に、加法という Z/nZ における二項演算を定義します。

直積 Z/nZ × Z/nZ から Z/nZ への写像で、
しかも交換律(交換法則)を満たすものが加法です。

剰余環 Z/nZ :加法の定義

f: Z/nZ × Z/nZ → Z/nZ を
f([a], [b]) = [a + b] (a, b ∈ Z) と定義したのですが、ちゃんと一対一対応になっているのかを確認します。

中には、代表元の取り方に依存する写像を考えるときもあるのですが、剰余環の加法は、代表元の取り方に依存せずに定義されています。

集合系と集合系の直積ですが、二個の直積の元が等しいということは、第一成分どおしが等しく、第二成分どおしも等しいということです。

そのため、a, b, c, d ∈ Z について、
([a], [b]) = ([c], [d]) ということは、
[a] = [c] かつ [b] = [d] ということです。

ここで、f が写像として一対一対応となっているということは、[a + b] と [c + d] が等しいということです。

この二つの Z/nZ の元が異なると、
([a], [b]) に対応する元が 二つあるということになり、一対一対応でないということになってしまいます。

二項演算は写像なので、一対一対応ということを示したいところです。

矛盾なく定義されている

([a], [b]) = ([c], [d]) となっていたとき、
f([a], [b]) = f([c], [d]) となっていることを確認します。

直積の定義から、
[a] = [c] かつ [b] = [d] となっています。

先ほどの考察から、
a ≡ c (mod n) かつ b ≡ d (mod n)

合同の定義から、ある整数 s, t が存在して
a - c = ns,
b - d = nt と表せます。

辺々足すと、
(a + b) - (c + d) = n(s + t)

(s + t) は整数だから、
n | {(a + b) - (c + d)}

つまり、(a + b) ≡ (c + d) (mod n)

合同なので、(a + b) を含む同値類と、
(c + d) を含む同値類が等しくなるという先ほどの考察から、[a + b] = [c + d]

これで、f が矛盾なく定義された写像であることが示せました。

この f は、([a], [b]) という Z/nZ の元の組に対して、a + b を含む同値類 [a + b] を対応させるという二項演算です。

f について加法群となっていることを示します。

旧課程の高校数学に整数単元があったときは、群という言葉は当然、習っていないのですが、代数学の入門だと、加法群の定義の確認も大切になります。

加法群である証明

[1] 単位元の存在
[2] 逆元の存在
[3] 結合律を満たす


この三つの条件を確認すると、群ということになります。

そして、さらに交換律も示せると、加法群となります。

[0] ∈ Z/nZ という 0 を含む同値類が加法的単位元となります。

任意の [a] ∈ Z/nZ に対して、
f([0], [a]) = [0 + a] = [a]

同様に、f([a], [0]) = [a + 0] = [a]

これで、[0] が左単位元であり、かつ右単位元であることが確認できました。

整数 a について、-a も整数で、整数環 Z における逆元となっています。

これより、Z/nZ における逆元の存在を示せます。

f([a], [-a]) = [a +(-a)] = [0],
f([-a], [a]) = [(-a) + a] = [0] なので、二項演算 f について、[a] の逆元は [-a] であるということが分かりました。

結合律を確認します。

合同式-結合律の証明

結合律も確認できました。Z における結合律から、自然と誘導されています。

後は、交換律を示せば、加法群ということになります。

a, b ∈ Z に対して、
f([a], [b]) = [a + b]
= [b + a] = f([b], [a])

これで、Z/nZ は f について加法群となっていることが示せました。

ちなみに、ここまで、f([a], [b]) と表してきましたが、加法と確認できたので、
f([a], [b]) を [a] + [b] と表すことにします。

次に、乗法 g を定義します。この g が代表元の取り方に依らずに矛盾なく定義できていることを示すのが、大変な計算となります。

剰余環 Z/nZ :乗法の定義

g: Z/nZ × Z/nZ → Z/nZ を
g([a], [b]) = [ab] (a, b ∈ Z) と定義したいところです。

g([a], [b]) のことを単に [a][b] と表すことにします。この g についても、代表元の取り方に依らずに、ちゃんと一対一対応となっていることを確認します。

([a], [b]) = ([c], [d]) (a, b, c, d ∈ Z) だとします。

このとき、[a] = [c], [b] = [d] なので、ある整数 s, t が存在して、
a - c = ns,
b - d = nt と表せます。

ここで、移項すると、
a = c + ns, b = d + nt だから、
ab = (c + ns)(d + nt)

右辺を展開すると、
cd + cnt + nsd + nsnt
= cd + n(ct + sd + snt)

cd を移項すると、
ab - cd
= n(ct + sd + snt)

(ct + sd + snt) は整数なので、
n | (ab - cd) です。

よって、
ab ≡ cd (mod n) より、[ab] = [cd]

これで、乗法 g も矛盾なく定義されていることが確認できました。

後は、乗法についての結合律が成立することと、分配律が成立することを示せば、環の定義を満たすことになります。

残りの環の条件の確認

まず、結合律から確認します。
a, b, c ∈ Z に対して、
[ab][c] = [(ab)c]
= [a(bc)] = [a][bc]

確かに、結合律が成立しています。

次に加法と乗法を結びつける分配律を確認します。

[a]([b] + [c]) = [a][b + c] = [a(b + c)]
= [ab + ac] = [ab] + [ac]
= [a][b] + [a][c]

左分配律が示せました。

同様に右分配律が確認できます。

([a] + [b])[c] = [a + b][c] = [(a + b)c]
= [ac + bc] = [ac] + [bc]
= [a][c] + [b][c]

これで、Z/nZ が、定義した加法 f と乗法 g について、環の定義を満たしていることが分かりました。

さらに、乗法についても交換律が成立しています。
a, b ∈ Z について、
[a][b] = [ab] = [ba] = [b][a]

乗法についても交換律が成立している環なので、可換環です。また、乗法単位元も存在しています。

[1] ∈ Z/nZ が乗法単位元です。

任意の [a] ∈ Z/nZ に対して、
[1][a] = [1 × a] = [a],
[a][1] = [a × 1] = [a]

後は、べき乗について述べておきます。結合律が成立しているということは、一般結合律が成立します。

そのため、同じ元を有限個で加法をとることと、同じ元を有限個で乗法をとるということが、括弧のつけ方によらずに定義できます。

べき乗について

k を自然数とします。

加法についての一般結合律から、
[a] ∈ Z/nZ を k 個で加法を計算することができます。

その k 個の和を k[a] と表すことにすると、
k[a] = [ka] です。

これより、次の合同式の性質が従います。

a, b ∈ Z について、
a ≡ b (mod n) とすると、[a] = [b]

そのため、k 個の [a] の和は、k 個の [b] の和と環 Z/nZ の元として等しくなります。

よって、k[a] = k[b]

k[a] = [ka], k[b] = [kb] だから、
[ka] = [kb] です。

ゆえに、
a ≡ b (mod n) ならば、任意の自然数 k に対して、ka ≡ kb (mod n) となります。

乗法についての結合律からも、同様の考察ができます。

k 個の [a] で乗法を計算した値を [a]k と表すことにすると、[a]k = [ak]

このことから、a ≡ b (mod n) ならば、任意の自然数 k に対して、[a]k = [b]k

すなわち、[ak] = [bk]

これは、ak ≡ bk (mod n)

旧課程の高校の整数単元では扱わなかった半群についての考察を使ったべき乗の証明になります。

結合律が成立するということは、とてもありがたいので、意識をしておくと良いかと思います。

これで、今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。