代数学の基本定理 | n次の複素係数方程式は重解を含めてn個の解をもつ

代数学の基本定理-サムネイル

" 代数学の基本定理 “は、任意の n 次の複素係数の方程式が重解も含めて n 個の解をもつというものです。

複素数全体を定義域とする n 次の多項式関数 f(x) が、ある複素数 z について、f(z)=0 となるということになります。

そのため、n 次の複素係数多項式が1次式の積に分解されるので、複素数体は代数的閉体となっています。代数的閉体の定義は、ブログ記事の最後の方で述べています。

代数学の基本定理は、n 個の解の存在を示すために、まずは 1 つ、複素数解をもつということを示しておき、数学的帰納法を使って、残りの (n - 1) 個の解の存在を示すという流れになります。

なお、このブログ記事では、複素数全体からなる集合を C と表しています。

代数学の基本定理 :まずは1個目の解の存在

【xy-座標平面において】

(a, b) に対して、二点間距離を表す距離関数
d(a, b) = (a2+b2)1/2

【複素数平面において】

a+bi に対して、大きさを表す絶対値
|a+bi| = (a2+b2)1/2


複素数 α = a + bi (a, b は実数) に対して、その大きさである絶対値 | α | を対応させる関数は、
xy-座標平面における距離関数と同じと考えられます。

そのため、α → | α | という関数は、連続関数と考えることができます。

この連続関数に、「有界閉集合上で定義された連続関数は最大値および最小値をもつ」という連続関数の最大最小の定理を用います。

そうすると、代数学の基本定理の証明への大きな一歩を踏み出すことができます。

※ この微分積分学で学習する内容の証明は、リンク先のブログ記事に書いています。

より正確には、複素数全体を定義域とする多項式関数 f(x) が与えられたときを考えます。

複素数 z に対して | f(z) | を対応させるという関数が、正の整数 t について、
{z ∈ C | | z | ≦ t} という有界閉集合を考えます。

この有界閉集合において、最大値と最小値をとるということを使います。

では、まずは 1 個目の解の存在証明からです。

1個目の解の存在証明

【命題】
n を自然数とします。
f(x) = a0 + a1x + … + anxn について、
方程式 f(x) = 0 は、少なくとも 1 つ複素数解をもちます。
ただし、an ≠ 0 です。


<証明>
各 ai は定数なので、| ai | も常に一定の実数値となっています。

三角不等式より、
|a0/zn + a1/zn-1 + … + an-1/z|
≦ |a0/zn|+|a1/zn-1|+ … +|an-1/z| となります。

ここで、正数 t を十分大きくとって、| z | > t となるすべての z ∈ C に対して、次の不等式を満たすようにできます。

|a0/zn|+|a1/zn-1|+ … +|an-1/z| < |an|/2
かつ | z |n |an|/2 > |f(0)|

※ |ai| たちの最大値や n 乗根を利用して、これら二つの不等式を満たすように t を定めました。

上の不等式が成立する理由を述べておきます。

代数学の基本定理-証明

今、| z | > t という範囲で考えているので、z は 0 でないので、分母に z をもってくることができます。

そのため、| f(z) | を次のように変形し、下から評価をします。

|f(z)|
= |zn((a0/zn)+…+(an-1/z)+an)|
= |zn||((a0/zn)+…+(an-1/z)+an)|
≧ |zn||(|an|-|(a0/zn)+…+(an-1/z)|)

ここで、
|an| = |an|/2+|an|/2 より、
|f(z)| ≧ |zn||an|/2
> f(0)

z に対して |f(z)| を対応させる関数は連続なので、
{z ∈ C | | z | ≦ t} という有界閉集合において最小値をもちます。
 
その最小値を |f(z0)| と置くことにします。
 
すると、{z ∈ C | | z | ≦ t} ∋ 0 なので、

|f(0)| ≧ |f(z0)| となります。

| z | > t のときに、|f(z)| > |f(0)| だったので、z を C 全体で考えたときにも、
|f(z)| ≧ |f(z0)| となっています。

つまり、z を C 全体で動かしたときに、|f(z)| たちの中での最小値が |f(z0)| ということになります。
 
次に、この f(z0) = 0 となっていることを背理法で示します。

f(z0) ≠ 0 と仮定すると、f(z0) は乗法逆元をもつので分母に置くことができます。
 
ここで、g(x) = f(x + z0)/f(z0) と置きます。

f(x) の最高次係数 an ≠ 0 , 1/f(z0) ≠ 0 なので、g(x) の最高次係数は 0 でないことが分かります。

また、f(z0) = a0 + a1z0 + … + anz0n が、
f(x + z0) の定数項の部分です。

よって、g(x) を
g(x) = 1 + b1x + … + bnxn(ただし、bn ≠ 0)と表すことができます。

bi たちの中で、はじめて 0 ではない値となるときの添え字を m とすると、
b1 = … = bm-1 = 0 で、bm ≠ 0 です。
 
bm = r(cos θ + i sin θ) (r > 0, 0 ≦ θ < 2π) と極形式で表しておきます。

そして、
k = max{|bj|, m + 1 ≦ j ≦ n} と置きます。
 
このとき、正数 e を次のように十分小さくとります。

代数学の基本定理-4

kem+1/(1 - e) < rem < 1 という不等式を利用して議論を進めます。
 
u = e(cos (π - θ)/m + i sin (π - θ)/m) と置くと、ド・モアブルの定理から、
um = em(cos (π - θ) + i sin (π - θ)) と
bm = r(cos θ + i sin θ) の積は次のようになります。

bmum = rem(cos π + i sin π)
= -rem

また、|um| = em となっています。
 
これらを踏まえて、b1 = … = bm-1 = 0 の部分が現れないことに注意して、
g(u) = 1+(-rem)+bm+1um+1+…+bnun の絶対値に三角不等式を使います。

|g(u)|
≦ |1 -rem)|+|bm+1um+1|+…+|bnun|
≦ 1 - rem + k(|um+1|+…+|un|)
≦ 1 - rem + k(em+1 +… + en)

ここで、

(1 - e)(em+1 +… + en)
= em+1 -en+1 < em+1

より、
em+1 +… + en < em+1/(1 - e)

これと、先ほどの |g(u)| の不等式を合わせると、

|g(u)| ≦ 1 - rem + k(em+1 +… + en)
< 1 - rem + kem+1/(1 - e)

- rem + kem+1/(1 - e) < 0 だったので、
|g(u)| < 1

g(u) = f(u + z0)/f(z0) だったので、
|f(u + z0)| < |f(z0)|

しかし、これは複素数全体を z を動かしたときに、|f(z)| の最小値が |f(z0)| だったことに矛盾します。

よって、背理法から、f(z0) = 0 となります。【証明完了】

これで、少なくとも 1 つは複素数解をもつことが示せました。

後は、因数定理と帰納法から、すぐに代数学の基本定理を証明できます。

代数学の基本定理 :2個目の解の存在

【代数学の基本定理】

n を自然数とし、f(x) を n 次の複素係数の多項式とします。

このとき、f(x) = 0 は重解を含めて n 個の解をもちます。


<証明>

n についての帰納法で示します。

【n = 1 のとき】

f(x) = a0 + a1x (a1 ≠ 0) とすると、a1 には乗法逆元が存在します。

そのため、f(x) = 0 とすると、
x = -a0(a1)-1 が解となります。

【n ≧ 2 のとき】

n - 1 以下の任意の自然数について、【定理】が成立していると仮定し、n のときにも【定理】が成立することを示します。

先ほどの【命題】より、f(x) = 0 は少なくとも 1 つ解をもつので、それを x = u1 と置きます。

因数定理より、
f(x) = (x - u1)g(x)
(g(x) の次数は (n - 1) 次)と表すことができます。

帰納法の仮定から、g(x) = 0 は 重解を含めて (n - 1) 個の解をもちます。

それらを u2, … , un と置くと、因数定理より、
g(x) = a(x-u2)・・・(x-un) と 0 ではない複素数 a を用いて表すことができます。

※ この a は g(x) の最高次係数です。

よって、
f(x) = c(x-u1)(x-u2)・・・(x-un) となるので、f(x) = 0 の解は、u1 から un の n 個です。

以上より、帰納法から、任意の自然数 n に対して【定理】が成立します。【証明完了】

この証明で、帰納法の変形版を使いました。通常の帰納法から、この変形版の証明論法を導くことについては、超限帰納法というブログ記事で解説をしています。

この代数学の基本によって、複素数体 C は、代数的閉体となっていることが分かります。代数的閉体の定義を参考までに述べておきます。

代数的閉体の定義

【定義】

K を可換体とする。

K 係数の任意の 1 次以上の多項式が K において少なくとも 1 つ根(解)をもつときに、K を代数的閉体といいます。


この定義から、先ほどの複素数体のときと同じく、因数定理と帰納法を用いて、重根を含めて n 個の根をもつということが導かれます。

代数的閉体について、次のように同値な書き換えができます。

【命題2】

K を可換体とします。このとき、次の (1) から (4) はすべて同値になります。

(1) K が代数的閉体
(2) K 上の任意の 1 次以上の多項式は 1 次式の積に分解する
(3) K 上の任意の既約多項式は 1 次式
(4) K の代数拡大体は K 以外にない

 最後に、この書き換えの証明をします。

同値であることの証明

「(1) ならば (2)」は、先ほどの複素数体のときと同様に、因数定理と帰納法から導かれます。

そして、「(2) ならば (1)」は、それぞれの 1 次式の根が K に含まれていることから成立します。

「(2) ならば (3)」は、2 次以上の多項式がすべて 1 次式の積に分解するために、K において可約多項式となってしまうからです。

「(3) ならば (4)」は、L を K の代数拡大体とすると、任意の u ∈ L に対して、u の K 上の最小多項式は既約多項式となることから導かれます。

u の K 上の最小多項式は、既約多項式なので、(3) より 1 次式になっています。

そのため、u の K 上の最小多項式は、
f(x) = ax + b (a, b ∈ K で a ≠ 0) という形です。

f(u) = 0 より、au + b = 0 なので、
u =-a-1b ∈ K です。

したがって、L ⊂ K となり、
L ⊃ K なので、L = K となります。

「(4) ならば (2)」は分解体の構成方法から導かれます。

K 上の既約多項式 f で、2 次以上のものがあるとすると、f の 1 根を K に添加した K(u) で、
K 上のベクトル空間として、次元が f の次数となるものが構成できます。

そのため、(4) の K の代数拡大体が K 以外にないということに矛盾してしまいます。

よって、背理法から、K 上の既約多項式は 1 次式しかあり得ないということになり、(3) が示されます。

分解体の構成方法は、埋め込みと同一視、そして代数的閉包の Zornの補題を用いた証明を使います。

そのため、ここでは認めて、「(4) ならば (2)」が成立しているということにしておきます。

分解体については、次の記事で解説をしています。

また、複素数についての関連で、
トーラス-円環-乗法群という記事も投稿しています。

それでは、このブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。