拡大次数 | K(u)について、uの最小多項式の次数とK上の線形代数K(u)の次元を解説
有限次の「 拡大次数 」について、体 K の単拡大 K(u) を K上のベクトル空間と見たときの次元などを解説しています。
体としての同型対応を通じて、扱いやすい方の体から得られる情報を同型な体へとフィードバックするという良い例となる内容かと思います。
矛盾なく写像が定義できているかの確認の練習にもなります。
u の K 上の最小多項式 f(x) の次数が、拡大次数となることを以下で説明します。
また、記事の最後で、有限次拡大が代数拡大となっていることを証明しています。
拡大次数 :K[x]/(f(x))の基底
ψ : K[x]/(f(x) → K(u)
ψ(g(x) + (f(x))) = g(u)
このψ は、体としての同型写像となっています。
次のように体 K から体 K[x]/(f(x)) へのスカラー倍という作用を定義することて、線形代数(ベクトル空間)となります。
※ 代数的な元という記事で、(f(x)) という既約多項式で生成されるイデアルが極大イデアルであることを示しています。
K × K[x]/(f(x)) → K[x]/(f(x))
(c, g(x) + (f(x))) → (cg(x)) + (f(x)) によって、体 K からのスカラー倍を定義します。
つまり、
c(g(x) + (f(x))) = (cg(x)) + (f(x))これによって、K[x]/(f(x)) は体 K 上のベクトル空間となります。
また、K から K(u) へのスカラー倍を、体 L における乗法で定義することで、K(u) も体 K 上のベクトル空間となります。
c ∈ K, g(x) + (f(x)) ∈ K[x]/(f(x))に対して、
ψ(c(g(x) + (f(x))))
= ψ((cg(x)) + (f(x)))
= cg(u) = cψ(g(x) + (f(x)))
これで、体としての同型写像 ψ は、体 K 上のベクトル空間としての線形同型写像でもあります。
今、u の最小多項式 f(x) の次数を n 次とすると、(n - 1) 次以下の多項式は、f(x) の倍元にはなりません。
※ g(x) = 0K という零多項式の次元は ∞ と定めています。
また、K[x]/(f(x) の各元の代表元は、f(x) の次数よりも小さい多項式か、もしくは 0K ということになります。
そのため、
次の元たちが K[x]/(f(x) の基底となります。
1K+f(x), x+f(x),
x2+f(x), … , xn-1+f(x) の n 個の元が基底を構成します。
そして、
任意の ci∈K (i = 0, 1, … , n-1) に対し、
Σi=0 (cixi+(f(x)))
= Σi=0 ci(xi+(f(x))) より、
K[x]/(f(x)) の任意の元を生成しています。
(ただし、x0 = 1K と表しています。)
図では、全体を生成することを示しています。
一次独立であることは、
g1(x) + (f(x)) = g2(x) + (f(x))
と g1(x) - g2(x) ∈ (f(x)) が同値であることから導かれます。
c0(1+f(x))+…+cn-1(xn-1+(f(x)))
= 0K+(f(x)) だとすると、
c0 + … + cn-1xn-1 - 0K ∈ (f(x)) ということになります。
多項式 c0 + … + cn-1xn-1 の次数は f(x) よりも小さいので、f(x) の倍元ということは零多項式ということになります。
つまり、
c0 + c1x … + cn-1xn-1
= 0K + 0Kx + … + 0Kxn-1
二つの多項式が等しいことの定義から、
c0 = c1 = … cn-1 = 0K
これで、一次独立であることも示せました。
以上より、
K[x]/(f(x)) 基底を構成するベクトルが n 個なので、K[x]/(f(x)) は 体 K 上の n 次元ベクトル空間です。
ψ は線形同型写像でり、
ψ(1K + (f(x))) = 1K,
ψ(xi + f(x)) = ui
よって、{1, u, u2, … , un-1} が、K(u) の体 K 上のベクトル空間としての基底ということになります。
K(u) の任意の元は、基底の一次結合で一意的に表されます。
可換体 L と、その部分体 K に対して、
u ∈ L が K 上代数的な元であるときに、
K に u を添加した体 K(u) は、
{1, u, u2, … , un-1} の K 上の一次結合で表されます。
そして、この n は u を根にもつ K 係数の最小多項式の次数です。
この最小多項式の次数が、K から K(u) への拡大次数となっています。
次の段落では、ここまでの理論を有限体について使ってみます。
拡大次数 :素体からの代数拡大
有限体 F の位数が pn であるとき、この素数 p は F の標数となっています。
F の乗法単位元 1F を p 個で加法をとると、加法単位元 0F になります。
Z を整数環とすると、
Fp = {z1F | z ∈ Z} は剰余環 Z/pZ と環として同型になります。
p が素数なので、
この Z/pZ と Fp は同型な可換体となっています。
この Fp は F に含まれている最小の部分体で素体といいます。
そのため、F は Fp の拡大体となっています。そして、乗法群 F - {0p} は 1 元 u で生成されています。
乗法群 F - {0p} = < u > の生成元 u が、Fp 係数の多項式 f(x) の根となっていることから、素体 Fp 上の代数的な元となっています。
上で述べた代数的な元についての理論から、代数的な元 u の Fp 上の最小多項式 g(x) が存在します。
そして、素体 Fp に u を添加した体 Fp(u) は、Fp[x]/(g(x)) と体として同型になります。
deg g(x) = k とすると、Fp[x]/(g(x)) は Fp 上のベクトルとして k 次元です。
また、{1F, u, u2, … , uk} が Fp(u) を Fp 上のベクトル空間と考えたときの基底です。
u の最小多項式の次数 k は Fp から Fp(u) への拡大次数でした。
一次結合が何通りか
F = {0F} ∪ < u > なので、F = Fp(u) となっています。
ここで、F(u) の元は {1, u, u2, … , uk} の Fp 上の一次結合を用いて、
c01F + c1u + … + ck-1uk-1 と一意的に表すことができます。
各スカラー倍の部分 ci (i = 0, 1, … , k - 1) に配置できる素体 Fp の元の可能性は、p 通りです。
そのため、
基底の一次結合で表される元は pk 通りです。
F = Fp(u) で、F の位数が pn, F(u) の位数が pk ですから、n = k ということになります。
よって、有限体 F の位数 pn の n は、素体 Fp から F への拡大次数を表していることが分かりました。
※ 有限体の標数という記事で有限体の基礎的な内容を解説しています。
有限体を詳しく考察すると、有限体から加法的零元を除いたものが、乗法について巡回群となっていることが分かります。
有限次拡大 :代数拡大
ここからは、有限次拡大が必ず代数拡大となっていることを示します。
拡大 L/K について、L のどの元も K 上代数的であるときに、L/K を K からの代数拡大といいます。
【定理1】
L/K について、拡大次数が有限だと、つまり L が K 上の有限次元のベクトル空間(線形代数)であるときは、必ず L が K の代数拡大体である。
<証明>
[L : K] = n < ∞ と置きます。
L を K 上の線形代数と考え、
[L : K] は、そのときの次元です。
有限次元の線形代数において、一次独立系を構成する元の個数は、その次元以下になります。
そのため、n 個以上の 0L でない L の元を取ると、一次従属になってしまいます。
a∈L を任意に取ります。
この a が K において代数的であることを示します。
<a = 1L の場合>
L の乗法単位元 1L と K の乗法単位元 1K は一致しています。
ゆえに、x-1K∈K[x] という多項式について、1L は根となっています。
実際、1L = 1K だから、
1L-1K = 1L-1K = 0K です。
よって、1L は K に関して代数的な元です。
<a ≠ 1L の場合>
a0, a1, … , an は、K 上の線形代数の元と考えたときに、一次従属となります。
a の L における乗法についての元の位数が n 以下のときは、
a0 = an = 1L なので、
a0, a1, … , an は一次従属です。
a の L における乗法についての元の位数が n より大きいときは、
a0, a1, … , an は (n+1) 個の相異なる L の元です。
K 上の線形代数としての L の次元は n なので、(n+1) 個の L の元は一次従属となります。
よって、(k+1) 個の K の元が存在し、0K を自明でない一次結合で表すことができます。
k0a0+k1a1+…+knan = 0K を、K 上の自明でない一次結合とします。
f(x) = k0x0+k1x1+…+knxn と置きます。
今、a は f(x) の根となっています。
ki∈K なので、
f(x)∈K[x] です。
また、K 上の自明でない一次結合だったので、k0 から kn のうち、少なくとも一つは 0K ではありません。
そのため、f(x) は K[x] の加法についての零元ではありません。
よって、a は零でない K 係数の多項式 f(x) の根だから、K に関して代数的な元となっています。【証明完了】
有限次拡大について、
[L : K] < ∞ のとき、
中間体 M について、
[L : M]×[M : K] = [L : K] となります。
つまり、L/K が有限次拡大のとき、
中間体 M について、
L/M も M/K も有限次拡大となっているということです。
先に、この逆について示しておきます。
感覚的に当たり前のようですが、ちゃんと証明をすることで、線形代数学や可換体論の基礎の良いトレーニングになります。
中間体の次元について
【命題】
L/K を有限次拡大とする。
また、K ⊂ M ⊂ L を中間体とする。
このとき、M/K, L/M も有限次拡大である。
<証明>
u1, … , un を K 上の線形代数 L の基底とします。
M ⊂ L は、スカラー倍の定義から、L の線形部分空間となっています。
任意の k∈K と 任意の m∈M に対して、
K ⊂ M であり、
km は k と m の積だから M の元です。
部分体なので、加法についても閉じています。
そのため、
[M : K] ≦ [L : K] = n < ∞ となっています。
次に、L/M の拡大次数も有限であることを示します。
{Σi kiui | ki∈K} = L で、L の元は一意的に、これら n 個の基底を構成する元の K 上の一次結合で表されます。
K ⊂ M なので、
L = {Σi kiui | ki∈K}
⊂ {Σi miui | mi∈M} です。
即ち、
{Σi miui | mi∈M} = L です。
よって、
u1, … , un を M 上の一次結合で L が生成されています。
そのため、u1, … , un が一次従属だと、適当に有限個の元を間引くと生成系であり一次独立系にできます。
したがって、
[L : M] ≦ n < ∞ 【証明完了】
上で、証明をしていなかった定理の証明をします。
有限次拡大の先ほどの定理
【定理2】
有限次拡大 L/K について、M を中間体とする。
このとき、
[L : K] = [L : M][M : K] である。
<証明>
{wj} を M 上の線形代数 L の基底とします。
また、{vi} を L 上の線形代数 M の基底とします。
x∈L を任意に取ると、
x = Σj ajwj (aj∈M) と表すことができます。
さらに、各 aj∈M は、
aj = Σi bijvi (bij∈K) と表せます。
そのため、
x = Σij bijviwj となります。
これは、{viwj} の一次結合で L が生成されることを表しています。
次に一次独立であることを示します。
Σij kijviwj = 0 (kij∈K) とします。
Σij kijviwj = Σi (Σj kijwj)vi だから、
{vi} の一次独立性から、
各 i に対して、
Σj kijwj = 0 となります。
kij∈K ⊂ M で、
{wj} の一次独立性から、
各 i, j について kij = 0 です。
これで {viwj} が一次独立であることも示せました。
即ち、
[L : K] = [L : M][M : K] です。【証明完了】
【関連する記事】
有限体の乗法群という記事で、巡回群となっていることについて解説しています。
体論を学習するときに、多項式環の理論をよく使います。
不定元 x という記事では、多項式関数とは違った多項式環の生成元である x について解説をしています。
これで、今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。