5次以上の対称群 | 可解でないことを証明するための道筋【何を示せば良いのかを考える】

5次以上の対称群-表紙

" 5次以上の対称群 “が可解でないことは、代数分野で、よく知られた事実です。

群論の入門的な内容を理解している方にとっては、可解であることの定義と、定義からすぐに導ける結果から、何を示せば良いのかが明確に分かる内容です。

しかし、初学者にとって、特に代数学の分野を専攻していないけれども、卒業するために群論もしくはガロア理論についての講義の単位が必要という方にとっては、ここを押さえておきたいところです。

5次以上の対称群ということなので、具体的に 5 次や 6 次の対称群について示しても、5 以上の自然数は無限個あるので、永遠に終わりません。

そこで、証明をするための道筋を描くことが大切になります。

この記事では、
X = {1, … , n} を異なる n 個の元から成る集合とし、X から X への全単射全体を n 次対称群と考えます。

X 上の対称群を、S(X) と表すことにします。

5次以上の対称群 :可解についての基礎内容

【命題1】

群 G が可解群であるとき、G の群準同型像も可解群である。

【命題2】

群 G が可解群であるとき、G の任意の部分群は可解群である。

ブログ可解群より

これら二つの命題は、可解であることの定義から、すぐに導き出されるものになります。

これらの命題を用いて、5 次以上の対称群が可解群ではないことを、どうやって証明するのかということについての道筋を考えます。

5! = 120, 6! = 720 ですから、闇雲に具体例で観察をして、抽象化するというのは苦しい感じがします。

では、どのようなアプローチが考えられるのかということですが、群論の入門的な内容で、全単射である群同型写像の逆写像も、全単射である群準同型写像ということを習っています。

つまり、群同型写像の逆写像も群同型写像ということです。

この内容を使って、i < k という自然数について、i 次対称群を k 次対称群の中に埋め込むことを考えます。

5次以上の対称群は可解でないということを示したいので、異なる自然数を結び付けることを考えるわけです。

対称群の埋め込み

自然数 i と k は、i < k となっているとします。

X = {1, … , i} とし、S(X) が i 次対称群です。

Y = {1, … , i, i+1, … , k} とし、S(Y) が k 次対称群です。

S(X) から、S(Y) への単射である群準同型写像を定義することを考えます。

各 σ∈S(X) に対して、
σ’ : Y → Y を次のように定義します。

1 ≦ y ≦ i に対して、
σ'(y) = σ(y) と定めます。

既に与えられた σ を利用して、σ’ を定義するというわけです。

i+1 ≦ y ≦ k に対しては、
σ'(y) = y だと定義します。

これで、集合 Y の各元に対して、σ’ による像を定義しました。

σ’ は、1 以上 i 以下の自然数を置換します。

そして、i+1 以上 k 以下の自然数については、動かさないという置換をします。

そのため、σ’ は、Y から Y への全単射となっています。

そのため、σ’∈S(Y) です。

次に、f : S(X) → S(Y) を、
σ∈S(X) に対して、
f(σ) = σ’ と定義します。

すると、集合論の入門内容で学習した写像についての基礎的な内容から、f が群準同型写像である単射だと分かります。

そのため、f によって、S(X) は S(Y) へ埋め込まれます。

inclusion という以前に投稿した記事で、単射な準同型写像について、他の内容についても述べています。

これで、f(S(X)) が S(Y) の部分群となっていることが分かりました。

g∈S(X) に対して、f(g) を対応させることで、
S(X) から f(S(X)) への群同型写像が定義できます。

そのため、S(X) と f(S(X)) は群として同型ということになります。

そして、f(S(X)) は、S(Y) の部分群です。

ここまでの内容をまとめます。


自然数 i と k が、i < k だとする。

このとき、i 次対称群 S(X) は、
k 次対称群 S(Y) の部分群 f(S(X)) と群として同型である。


ここから、さらに論理的に考察を進めます。

5次以上の対称群 :背理法から分かること

今、導いたことから、次のことが分かります。


【主張】

自然数 i と k が、i < k だとする。

このとき、i 次対称群が可解群でなければ、k 次対称群も可解群ではない。


i 次対称群 S(X) が可解群でないとします。

このとき、f(S(X)) が可解群であると仮定します。

先ほど示したように、
f(S(X)) から S(X) への群同型写像が存在します。

すると、f(S(X)) が可解群であるので、
【命題1】から、S(X) が可解群ということになります。

しかし、S(X) は、可解群ではないため、矛盾です。

よって、背理法から、
f(S(X)) は可解群ではないということになります。

f(S(X)) が可解群でないということから、もう一度、背理法を使います。

今、k 次対称群 S(Y) が可解群であると仮定します。

すると、【命題2】から、
S(Y) の任意の部分群が可解群であるということになります。

しかし、f(S(X)) は、可解群でないので、矛盾です。

よって、背理法から、
S(Y) が可解群でないということになります。

これで、i < k のとき、
i 次対称群が可解群でなければ、k 次対称群も可解群ではないということが分かりました。

これで、「5次以上の対称群が可解群でない」ということを示すための方針が分かりました。

「5次対称群が可解群でない」ということを示すと、6 以上の任意の自然数 k に対して、k 次対称群が可解群でないと自動的に分かります。

したがって、5 次の対称群が可解群でないことを示せば良いということになります。

さらに同様の推論を考える

5 次の対称群が可解群でないことを示すと、「5次以上の対称群が可解群でない」ということを示したことになることが分かりました。

しかし、5 次対称群は、位数が 120 で、まだ具体的に調べたくないところです。

そこで、再び【命題2】を考えます。

「群 G が可解群であるならば、G の任意の部分群が可解群である」というのが、【命題2】でした。

この対偶を考えます。

「群 G に可解群ではない部分群が少なくとも一つ存在すれば、群 G は可解群でない」ということになります。

というわけで、5 次対称群の部分群で、可解群でないものが存在するということを示せば良いことになります。

5次以上の対称群 :特徴的な部分群

5 次対称群には、5 次交代群という特徴的な部分群が存在します。

n 次対称群 S(X) について、n 次交代群も A(X) と表すことにします。

n = 5 のとき、
A(X) は S(X) の正規部分群となっています。

この 5 次交代群 A(X) が、可解群でないことを示すと、5 次対称群が可解群でないということになります。

これで、目標が定まりました。

示すべき目標は、「5 次交代群が可解群でない」ということになります。

より具体的に何を示せば良いか

ここまでの考察から、「5 次交代群が可解群でない」ということを示すと、「5 次以上の対称群が可解群でない」ということになることが分かりました。

では、5 次交代群が可解群でないことを示すためには、何を示せば良いのかということになります。

そこで、「5 次交代群が非可換な単純群である」ということを示します。

これが示されると、5 次対称群の単位元を e と表せば、
A(X) ⊃ {e} 以外に、正規列が存在せず、
A(X)/{e} が A(X) と群同型だから可換でないということになります。

そのため、「5 次交代群が非可換な単純群である」が示せると、「5 次以上の対称群が可解群でない」ということになります。

これで、タイトルで述べていた道筋を描くことができました。

5次以上の対称群-まとめ

「5 次以上の対称群が可解群でない」というと、自然数が無限個あるので、大変そうですが、「5 次交代群が非可換な単純群である」だと、具体的な位数 60 の群なので、気持ちが楽になります。

といっても、5 次交代群が非可換な単純群であることを示すのは大変です。

しかし、あてもなく闇雲に 6 次や 8 次の対称群を調べて手がかりをつかもうというような段階を考えれば、明確な目標が得られたことになります。

結果として、5 次交代群が非可換な単純群であることは証明されています。

ちなみに、上の方で定義した単射準同型写像 f によって、6 次以上の交代群も可解でないということになります。

f : S(X) → S(Y) という単射準同型を使って、もう少しだけ考察を進めます。

A(X) ⊂ S(X) の f による像は、
f(A(X)) です。

k を 6 以上の自然数とし、
S(Y) を k 次対称群とし、
A(Y) を k 次交代群とします。

S(X) を 5 次対称群とし、A(X) を 5 次交代群とします。

交代群の元は、偶数個の互換の積として表されます。

f の定義から、X から X への全単射である互換を、
(a, b) とすると、f((a, b)) は Y における互換です。

実際、a と b を 5 以下の自然数で、
a ≠ b とすると、
6 以上 k 以下の自然数 y については、
(a, b)'(y) = y と定めていました。

5 以下の自然数については、
(a, b)’ の対応は、(a, b) の対応と同じなので、
f((a, b)) は Y から Y への全単射で互換です。

また、f は準同型写像なので、
f(A(X)) の元も、偶数個の互換の積となっていることが分かります。

そのため、f(A(X)) の元は、どれも Y における偶置換です。

よって、f(A(X)) は A(Y) の部分群となっています。

そして、A(X) と f(A(X)) は群として同型です。

そのため、A(X) が可解群でないと、
f(A(X)) も可解群でないということになります。

そのため、【命題2】の対偶から、k 次交代群 A(Y) も可解群でないということになります。( ただし、k は 6 以上の自然数)

さらに、5 次交代群 A(X) が非可換なことから、群として同型である F(A(X)) も非可換です。

F(A(X)) ⊂ A(Y) なので、A(Y) は非可換ということになります。

n を 5 以上の自然数とするとき、
n 次交代群が可解群でないということを示すためには、5 次のときを示せば十分です。

ただ、ここまでの考察では、5 次以上の交代群が単純群であるということの証明が、5 次だけだと不十分です。

そのため、単純かどうかについては、置換についての議論を踏まえて証明することになります。

この結果は分かっていて、
n ≧ 5 のとき、n 次交代群は単純群となっています。

5 次交代群が非可換であることと、
n ≧ 5 のとき、n 次交代群が単純群であることの証明まで述べると長くなるので、今回の記事は、これで終了します。

n次交代群という記事で、単純群であることを証明しています。

読んで頂き、ありがとうございました。