積の微分 | その公式の証明から商の微分の公式も証明【割り算は逆数を掛ける演算だから】

積の微分-表紙

「 積の微分 」の公式(ライプニッツ則)を証明します。その証明から、さらに商の微分の公式も導きます。

割り算(除法)は、逆数を掛けることなので、積の微分の公式が得られると、その要領で商の微分についての公式が得られないかと自然に思えるわけです。

ただ、積の微分の公式と商の微分の公式には、少しギャップがあるので、そのギャップを埋めるための公式を一つ導き、その後で商の微分の公式を導きます。

論理的にギャップを認識し、それを解消してから、さらに議論を進めます。

積の微分 :関数の積の定義に基づいて証明

y = f(x), y = g(x) をそれぞれ、定義域を実数全体とする実数値関数とします。

このとき、f(x) と g(x) という二つの関数の積を定義することができます。

x を、定義域という集合の要素(元)である実数とします。

このときに、x に対して、f(x) と g(x) の乗法を計算した値を対応させる関数が、f(x) と g(x) の積です。

y = f(x)g(x) と表します。

例えば、f(x) = 3x2+1, g(x) = 2x+1 とします。

f(x) は二次関数で、g(x) は一次関数です。

y = f(x)g(x) という関数の積によって定義された関数による対応を具体的に見てみます。

5 という実数に対して、y = f(x)g(x) が、どのような値を対応させているのかを確認します。

5 に対して、二次関数によって対応する値が、
f(5) = 3×52+1 = 3×25+1 = 76 です。

5 に対して、一次関数によって対応する値が、
g(5) = 2×5+1 = 11 です。

これら、f(5) = 76 と g(5) = 11 という二つの実数で乗法を計算した値が、関数の積によって定義される関数による、5 に対応する値となります。

つまり、
y = f(5)×g(5)
= 76×11 = 836 です。

5 に対して、関数の積 y = f(x)g(x) という関数は、
y = f(5)g(5) = 836 という実数を対応させています。

f(x) と g(x) が微分可能であるとき、
関数の積 y = f(x)g(x) も微分可能で、その導関数を求める公式が存在します。

x の増分(x の増加量)と y の増分を使って、微分の定義に基づいて導関数を求めます。

積の導関数

【積の微分の公式】

f(x), g(x) を微分可能な実数値関数とする。

このとき、
{f(x)g(x)}’ = f'(x)g(x)+f(x)g'(x) である。


<証明>

y = f(x)g(x) について、x の増分 Δx に対する y の増分を Δy とします。

Δy = f(x+Δx)g(x+Δx)-f(x)g(x) です。

f(x) と g(x) が微分可能であるという仮定を利用するために、次のように Δy を変形します。

0 を加えても値は同じということを使った式の書き換えです。

Δy = f(x+Δx)g(x+Δx)-f(x)g(x+Δx)
  +f(x)g(x+Δx)-f(x)g(x)
= {f(x+Δx)-f(x)}g(x+Δx)
 +f(x){g(x+Δx)-g(x)}

よって、両辺に 1/Δx を掛けると、
Δy/Δx = {f(x+Δx)-f(x)}/Δx・g(x+Δx)
  +f(x)・{g(x+Δx)-g(x)}/Δx

仮定より、f(x) と g(x) は微分可能なので、
Δx → 0 のとき、
{f(x+Δx)-f(x)}/Δx → f'(x),
{g(x+Δx)-g(x)}/Δx → g'(x) となります。

また、g(x+Δx) → g(x+0) = g(x) です。

よって、Δx → 0 のとき、
dy/dx = f'(x)g(x)-f(x)g'(x)【証明完了】

これで、積の微分の公式が得られました。

この積の微分公式は、数学2の微分積分の内容とも関連します。

1/6公式の内容の背後に、積の微分公式が役立ちます。

それでは、具体的な微分可能な関数で、積の微分の公式を使う練習をしてみます。

積の微分公式の例

【具体例

y = (3x2+1)(2x+7) の導関数


f(x) = 3x2+1, g(x) = 2x+7 と置きます。

y = f(x)g(x) という関数の積の導関数を求めるという内容です。

dy/dx = y’ = {f(x)g(x)}’ なので、f(x) と g(x) が微分可能な実数値関数であるため、積の微分公式が使えます。

よって、
y’ = f'(x)g(x)+f(x)g'(x)
= (3x2+1)'(2x+7)+(3x2+1)(2x+7)’
= 6x・(2x+7)+(3x2+1)・2
= 12x2+42x+6x2+2
= 18x2+42x+2 です。

積の微分公式を使うときに、どの関数を f(x) や g(x) としたのか、そして、f(x) と g(x) が微分可能なのかどうかということを把握しておく必要があります。

学習し始めたときに、二次や一次の多項式関数で、扱いやすいものを使って、具体的に公式を使う練習をすると良いかと思います。

積の微分公式 :商の微分公式の準備

実数についての割り算(除法)は、逆数を掛けるということと同じです。そのため、積の微分公式を、g(x) の方を逆数にして実行すると、商の微分公式が得られないかという自然な期待が起こります。

実験的に、g(x) が 0 の値を取らないという前提のもとで、g(x) を逆数にして積の微分公式に当てはめてみます。

{f(x)÷g(x)}’ = {f(x)・1/g(x)}’
= f'(x)・1/g(x)+f(x)・{1/g(x)}’

ここで、1/g(x) を x で微分したときの導関数が何かという疑問が出てきます。

この部分を明確にしなければ、商の微分公式として役に立ちません。

そこで、商の微分公式を目指すために、
{1/g(x)}’ が何かということを先に求めておきます。

1/g(x)の導関数を求める

y = 1/g(x)(ただし、g(x) は微分可能であり、g(x) の値が 0 とならない)に関して、x の増分と y の増分を使って、微分の定義に基づいて導関数を求めます。

Δy = 1/g(x+Δx)-1/g(x) です。

ここで、g(x+Δx) と g(x) は 0 でない実数なので、通分をすることができます。

1/g(x+Δx)-1/g(x)
= g(x)/g(x+Δx)g(x)-g(x+Δx)/g(x+Δx)g(x)
= {g(x)-g(x+Δx)}/g(x+Δx)g(x)

そのため、
Δy = {g(x)-g(x+Δx)}/g(x+Δx)g(x) です。

両辺に 1/Δx を掛けると、
Δy/Δx = 1/Δx・{g(x)-g(x+Δx)}/g(x+Δx)g(x)
= {g(x)-g(x+Δx)}/Δx・1/g(x+Δx)g(x)
= -{g(x+Δx)-g(x)}/Δx・1/g(x+Δx)g(x)

g(x) は微分可能なので、
Δx → 0 のとき、
{g(x+Δx)-g(x)}/Δx → g'(x) です。

また、g(x+Δx) → g(x) です。

よって、
y’ = dy/dx = -g'(x)・1/g(x)g(x)

g(x)g(x) = {g(x)}2 なので、
y’ = dy/dx = -g'(x)/{g(x)}2 となります。

これで、微分可能であり、関数の取る値が 0 とはならない g(x) に対して、微分の新たな公式が得られました。

y = 1/g(x) について、
y’ = -g'(x)/{g(x)}2
です。

<補足>

定義域が実数全体の部分集合であっても、その範囲内で分母の関数の値が 0 にならず、微分可能であれば、この公式が、上と同じ議論で成立します。

これも、具体例で使う練習をしてみます。

分子が1のときの微分の例

【具体例

y = 1/(4x2+1) の導関数


g(x) = 4x2+1 という関数は、微分可能な多項式関数です。そして、下に凸な二次関数で、頂点の y 座標の値が 1 なので、g(x) の値が 0 にはなりません。

そのため、先ほど導いた微分の公式が使えます。

y = 1/g(x) より、
y’ = -g'(x)/{g(x)}2 です。

g'(x) = (4x2+1)’ = 8x,
{g(x)}2 = (4x2+1)2 = 16x4+8x2+1

よって、
y’ = -8x/(16x4+8x2+1) です。

見た目が複雑そうな公式ですが、何を微分して何を二乗するのかを把握しておくと、計算することができます。

では、この微分の分子が 1 のタイプの微分の公式と、積の微分の公式を合わせて、商の微分公式を導きます。

積の微分公式 :商の微分公式の証明

【商の微分公式】

f(x) と g(x) を微分可能な実数値関数とする。また、g(x) の取る値は、0 にはならないとする。

このとき、
{f(x)/g(x)}’ = {f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}/{g(x)}2 である。


<証明>

y = f(x)/g(x) とします。

積の微分公式から、
y’ = {f(x)・1/g(x)}’
= f'(x)・1/g(x)+f(x)・{1/g(x)}’ でした。

{1/g(x)}’ = -g'(x)/{g(x)}2 を使います。

すると、
y’ = f'(x)・1/g(x)-f(x)g'(x)/{g(x)}2 となります。

通分をすると、
y’ = f'(x)g(x)/{g(x)}2-f(x)g'(x)/{g(x)}2
= {f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}/{g(x)}2【証明完了】

これで、商の微分公式も導けました。

公式の仮定で、g(x) の値は 0 でないとしているのは、分母に 0 が来ないようにするためです。

定義域が実数全体の部分集合であっても、その範囲内で分母の関数の値が 0 にならず、微分可能であれば、商の微分公式が、上と同じ議論で成立します。

扱いやすい多項式関数を使って、商の微分公式を練習します。

商の微分を具体例で

【具体例3】

y = (3x+2)/(x2+3) の導関数


f(x) = 3x+2, g(x) = x2+3 と置きます。

f(x) と g(x) は、どちらも微分可能な実数値関数です。

そして、g(x) の値は、どんな実数 x に対しても 0 ではありません。

商の微分の公式を使うチャンスです。

f'(x) = (3x+2)’ = 3,
g'(x) = (x2+3)’ = 2x,
{g(x)}2 = (x2+3)2 = x4+6x2+9 を公式に当てはめます。

分子は、f'(x)g(x)-f(x)g'(x) なので、
3・(x2+3)-(3x+2)・2x
= 3x2+9-6x2-4x
= -3x2-4x+9 となります。

分母は、{g(x)}2 = x4+6x2+9 です。

積の微分公式から商の微分公式へ

これで、導関数 y’ が求まりました。

微分と積分を合わせた計算も大切になるので、少し積分の計算にも触れておきます。

数3の微積の計算

【公式】

(tan x)’ = 1/cos2x


この公式の両辺を積分するということを考えます。

この公式は、商の微分から導かれます。

tan x = sin x/cos x より、
(tan x)’ は、
{cos x cos x-sin x(-sin x)}/cos2x
= (sin2x+cos2x)/cos2x
= 1/cos2x となります。

∫ (tan x)’ dx = tan x+C(ただし、C は積分定数)ということを利用すると、次の等式が得られます。

ここまでをつなげると

【積分の公式】

∫ 1/cos2x dx = ∫ (tan x)’ dx
= tan x + C


このように、微分の計算と積分の計算が原始関数と被積分関数の関係を考えると、つながるときがあります。

1つ分数についての公式が得られると、逆数についても考えて見るのも手です。

1/tan x = cos x/sin x なので、同様の考察をしてみます。

(1/tan x)’ =
(-sin x sin x-cos x cos x)/sin2x
= -(sin2x+cos2x)/sin2x
= -1/sin2x となります。

つまり、
1/sin2x = (-1/tan x)’ なので、両辺を積分すると、次の等式を得ます。

∫ 1/sin2x dx
= -1/tan x+C

ここまで、数2のタンジェントなどの公式と合わせて、数3の微積の計算の内容を述べてきました。

他の記事で大学の数学についても投稿していまして、そこで使う積の微分の公式(ライプニッツ則)に関連する内容の証明を参考程度に述べておきます。

微分の記号ですが、
d/dx(f(x) = f'(x) で微分をするということを表します。

ライプニッツ則を使う証明

【命題】

a1 = a2 とする。

f(x) = (x-a1)(x-a2)…(x-apn) について、
d/dx(f(a1)) = f'(a1) = 0 である。


<証明>

f'(x) = d/dx(f(x))
= d/dx{(x-a1)}×(x-a2)…(x-apn)
 +(x-a1)×d/dx{(x-a2)…(x-apn)}
= (x-a2)(x-a3)…(x-apn)
 +(x-a1)×d/dx{(x-a2)}(x-a3)…(x-apn)
 +(x-a1)(x-a2)×d/dx{(x-a3)…(x-apn)}

ここで、a1 = a2 より、
a1-a2 = 0 だから、
f'(a1) = 0 【証明完了】

この【命題】では、a1 = a2 としましたが、a1 から apn の中で重複があれば、乗法の結合法則と交換法則で項の積の順番を替え、文字を置き直すことで、a1 = a2 とすることができるからです。

つまり、a1 から apn の中で重複があれば、微分した後に、その重複しているものを代入すると 0 になるということです。

この命題は、有限体-標数という大学の数学についての記事で使っています。

見た目が複雑そうな命題の式でしたが、高校で学習した積の微分公式を使った内容が証明の決め手になっています。

関連する記事

合成関数の微分という数3の記事を投稿しています。

積分については、
偶関数-奇関数(数2)、
置換積分(数3)を投稿しています。

それでは、今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。