ラテン方陣 | 直交を置換群の置換を使って考える【直交する最大個数を上から評価】
n次の " ラテン方陣 “に、n次の「置換群」を作用させることを通し、n次の直交ラテン方陣の最大個数を評価します。
この図のように、n 次のラテン方陣は、異なる n 個の文字を、1 つの文字につき n 個使い、各行各列に重複がないように n 次正方行列に配置したものです。
この n 次のラテン方陣の各成分の値を、n 次の置換群(対称群)で置換することを考えます。
A が n 次のラテン方陣、σが n 次の置換群 Sn の元のとき、
σ(A) = (σ(aij)) と定義します。
σ(A) は n 次の正方行列ですが、ラテン方陣であることを確認するために、各行各列に重複がないかを確認します。
上の例だと、A の 1 行目、2 行目、3 行目に 3 が 1 つずつ配置されています。
σ(A) の各行には、3 の σ による像 1 が 1 つずつ配置されています。
σ は単射なので、これ以上の 1 は σ(A) には出てきません。
σ(A) について、他の数字 2 も各行に 1 個ずつ 合計 3 個、3 も各行に 1 個ずつ合計 3 個です。
{1, … , n} = X とし、X の各元につき、n 個を n 次正方行列に各行各列に重複なく配置をします。X 上の置換群 Sn は、X から X への全単射全体で、写像の合成を積としています。
ラテン方陣 :作用が定義できるか確認
A が n 次のラテン方陣のとき、e を Sn の恒等置換とすると、
e(A) = (e(aij)) = (aij) = A なので、
e(A) はラテン方陣となっています。
任意の f, g∈Sn に対して、
(fg)(A) = (f(g(aij))) = f(g(A)) が、合成写像の定義から成立しています。
ただ、f(A) が、ラテン方陣となっているのかを確認しておく必要があります。
f(A) の定義から、k∈X について、A の各行に k が 1 個だけ配置されています。
k1, k2∈X を異なる元とすると、
k1 と k2 は、各行に 1 個ずつ配置されています。
つまり、1 ≦ i ≦ n のとき、
A の i 行目に k1 と k2 が 1 個ずつ配置されています。
f は単射なので、
f(k1) ≠ f(k2) です。
そのため、f(A) の i 行目には、
f(k1) と f(k2) が 1 個ずつ配置されています。
したがって、f が全単射なので、
f(k)∈f(X) = X が、f(A) の各行に 1 個だけ配置されていることになります。
各行について見ると、f(k1) ≠ f(k2) だったので、重複はありません。
各行について見ましたが、各列についても同様に重複がないことが確認できます。
t1, t2∈X が t1 ≠ t2 のとき、
j 列には、t1 と t2 が、それぞれ 1 個ずつ配置されています。
(1 ≦ j ≦ n です。)
f は単射なので、
f(t1) ≠ f(t2) です。
f(A) の定義から、
f(A) の j 列に、f(t1), f(t2) が、それぞれ 1 個ずつ配置されています。
そのため、f(A) には、f(X) = X の各数字、一つの数字につき n 個を使って、重複なく n2 個の成分の位置に配置されています。
作用の定義を確認
Ω を X の元を配置した n 次のラテン方陣全体とします。
先ほどの考察から、任意の f∈Sn, A∈Ω に対して、
f(A)∈Ω となっています。
可解群の群準同型像も可解群というように、n 次ラテン方陣の n 次の置換による像は n 次ラテン方陣と覚えやすい結果となっています。
そのため、
(f, A)∈Sn×Ω に対して、
f(A)∈Ω が対応しています。
そして、e∈Sn について e(A) = A でした。
合成置換の定義から、
f, g∈Sn に対して、
(fg)(A) = f(g(A)) となっています。
これで、n 次の置換群(対称群)Sn が、n 次のラテン方陣全体 Ω に作用していることが分かりました。
ラテン方陣 :直交と置換作用について
【直交の定義】
A, B∈Ω を n 次のラテン方陣とします。
A = (aij), B = (bij) に対して、
1 以上 n 以下の自然数 s, t について、
(ast, bst) を A と B の (s, t) 成分同士の組という言い方をすることにします。
これら n2 個の成分同士の組が、どの二つも相異なるときに、n 次ラテン方陣 A と B が直交しているといいます。
A と B が直交していないということは、
ある 1 以上 n 以下の自然数 p, q, r, s が存在して、
(p, q) ≠ (r, s) だけれでも、
(apq, bpq) = (ars, brs) ということになります。
(p, q) ≠ (r, s) だけれでも、
A と B の (p, q) 成分同士の組と、
(r, s) 成分同士の組が一致してしまっているときに、直交ではないということです。
n = 2 のときは、2 次のラテン方陣が直交しないことを見てみます。
2次のラテン方陣は直交しない
X = {1, 2} を 2 次正方行列の位置に配置してラテン方陣を考えます。
(1, 1) 成分に 1 を配置すると、ラテン方陣の定義から、
(1, 2) 成分は 2 です。
列についても共通の数字が表れないため、
(2, 1) 成分は 2 となります。
残りの (2, 2) 成分は、2 行目と 2 列目に同じ数字が配置できないために、1 となります。
この 2 次ラテン方陣を A とします。
今度は、(1, 1) 成分に 2 を配置する場合を考えます。
(1, 2) 成分と (2, 1) 成分は 1 となり、
(2, 2) 成分は 2 となります。
このラテン方陣を B とします。
A と B について、
(1, 1) 成分同士の組は (1, 2),
(1, 2) 成分同士の組は (2, 1),
(2, 1) 成分同士の組は (2, 1),
(2, 2) 成分同士の組は (1, 2) となります。
22 個の成分同士の組について、重複が起きているので、二つのラテン方陣は直交していません。
B と A で考えても、やはり B と A は直交していません。
よって、n = 2 のとき、2 次のラテン方陣で直交するものは存在しません。
ここで、自然な命題が考えられます。
A, B∈Ω が直交であるとき、任意の f, g∈Sn に対して、
f(A) と f(B) は直交しているのかということです。
f(A), f(B)∈Ω ということは、既に確かめましたが、直交しているという関係を保存することをこれから説明します。
直交するラテン方陣を置換すると
【命題】
n 次のラテン方陣を
A = (aij), B = (bij) とし、
f と g を任意の Sn の置換とする。
このとき、f(A) と f(B) は直交するラテン方陣である。
<証明>
上で確認したように、
f(A) と g(B) は n 次のラテン方陣です。
仮定より、A と B の n2 個の成分同士の組は、どの二つも重複していません。
この状況で、背理法を用いて、f(A) と g(B) が直交していることを示します。
f(A) と g(B) が直交していないと仮定します。
すると、1 以上 n 以下の自然数 p, q, r, s が存在して、
(p, q) ≠ (r, s) だけれでも、
(f(apq), g(bpq)) = (f(ars), g(brs)) となります。
つまり、
f(apq) = f(ars), g(bpq) = g(brs) となっています。
f-1, g-1∈Sn で、
f(apq), g(bpq, f(ars), g(brs) は 1 以上 n 以下の自然数なのです。
そのため、逆置換で移すと、
apq = ars, bpq = brs となります。
ゆえに、A と B の (p, q) 成分同士の組である
(apq, bpq) と、A と B の (r, s) 成分同士の組である (ars, brs) について、
(apq, bpq) = (ars, brs) ということです。
これは、A と B の n2 個の成分同士の組は、どの二つも重複していないことに矛盾です。
よって、背理法より、
f(A) と g(B) は直交しています。 ■
ここまでの内容を踏まえて、三つ以上の n 次のラテン方陣についての直交について考えます。
A1, A2, … , Ar と n 次のラテン方陣が r 個あったとします。
これらが全て相異なるとき、r 個のラテン方陣が互いに直交しているといいます。
n が大きくなると、n 次のラテン方陣の個数は、とても多くなりますが、直交する n 次のラテン方陣の個数は、必ずこの数以下ということを示します。
ラテン方陣 : n次の互いに直交する最大個数
【定理】
n を 2 以上の自然数とする。
n 次ラテン方陣の互いに直交する最大個数を r とする。
つまり、A1, … , Ar を n 次ラテン方陣で互いに直交している r 個とする。(ただし、r が 0 個ということもある。)
このとき、r ≦ n-1 である。
<証明>
r = 0, 1 のときは、
1 ≦ n-1 と成立しているので、r が 2 以上の場合を考えます。
1 ≦ t ≦ r について、
At の (i, j) 成分を taij と表すことにします。
At の 1 行目について、
ラテン方陣なので、
ta11, ta12, … , ta1n は、相異なる n 個の自然数が並んでいます。
各 t について、次の ft という写像は、Sn の元です。
このことから、
f1(A1), … , fr(Ar) の 1 行目は、
1, 2, … , n と左から数字が並んでいることになります。
ここで、【命題】より、
f1(A1), … , fr(Ar) は、どの二つも直交する n 次のラテン方陣です。
ここで、自然数 i, j を、
1 ≦ i < j ≦ r とします。
今、fi(Ai), fj(Aj) の 1 行目について、
(1, 1) 成分同士の組 (1, 1),
(1, 2) 成分同士の組 (2, 2),
・・・
(1, n) 成分同士の組 (n, n) … ★となっています。
fi(Ai), fj(Aj) の (1, 1) 成分の値は 1 なので、ラテン方陣だから、1 列目の 2 行目以降に 1 は現れません。
そのため、fi(Ai), fj(Aj) の (1, 2) 成分の値は、 1 以外ということになります。
ここで、fi(Ai), fj(Aj) の (1, 2) 成分の値が一致していると、次のように矛盾が発生します。
fi(Ai), fj(Aj) の (1, 2) 成分の値が m という n 以下の自然数とします。
すると、(1, 2) 成分同士の組が、
(m , m) となります。
しかし、★より、(m, m) は、
(1, m) 成分同士の組と一致します。
これは、fi(Ai) と fj(Aj) が直交していることに矛盾です。
このことから、
fi(Ai), fj(Aj) の (1, 2) 成分の値は異なるということになります。
以上より、
f1(A1), … , fr(Ar) の (1, 2) 成分には、2 以上 n 以下の相異なる r 個の値が現れています。
2 以上 n 以下の範囲にある自然数は n-1 個なので、
r ≦ n-1 です。 ■
これで、n 次ラテン方陣の最大個数を上から評価することがあります。
n = 2 のときは、上で確認したように、最大個数が 0 です。
ここまで、ほぼ集合論の入門内容で議論を進めることができましたが、この【定理】の等号が成立するのかどうかということや、直交する最大個数が 0 となる n は存在するのかといった内容になると、難しい問題となります。
36士官問題
実は、あの有名なオイラーが提示した 36士官問題というものがありました。
簡単に内容を述べると、
6 次ラテン方陣で直交することは起こり得ないという予想でした。
この内容は、確か 1900年くらいに、存在しないことが証明されました。
さすが天才オイラーに関連する内容です。
n = 2 だと手書きですぐに解決ですが、6 次となると人の手で書き出すというわけにもいきません。
時が流れて 20 世紀以降の数学の研究となると、先ほどの【定理】で等号が成立するのはどんなときかといったレベルになります。
さすがに、こういう内容は代数学入門の内容を超えるので、このあたりで今回の記事を終了することにします。
ちなみに、オイラーの多面体定理のついでに、
正十二面体と正二十面体の頂点の置換について、一つ前の記事で解説しています。
また、複素指数関数という記事で、オイラーの公式について説明をしています。
これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。