n次交代群 | nが5以上であるとき単純群であることの証明
" n次交代群 “は、n が 5 以上であるときに単純群であることの証明を解説しています。
長さ 3 の巡回置換に関わる内容を利用して考察を進めることが多くなります。
n が 5 以上のときに、n 次交代群が単純群であるということは、5 次交代群が非可換であることから、5 次以上の対称群が可解群ではないということを意味します。
すべての内容に証明をつけると長くなるので、必要な証明は適宜、他の記事で証明をしています。
σ = (1, 2, 3), τ = (3, 4, 5) は偶置換なので、5 次交代群の元です。
τσ(3) = τ(1) = 1,
στ(3) = σ(4) = 4 なので、
τσ ≠ στ なので、5 次交代群は非可換な群となっています。
そのため、5 次交代群が単純群だとすると、5 次交代群は可解群ではないということになります。
可解群の任意の部分群は可解になっていることから、5 次交代群が可解群でないために、5 次対称群は可解群でないということになります。
また、n ≧ 6 のとき、n 次交代群には 5 次交代群が埋め込まれています。
このように、5 次以上の交代群が単純群であることを示すと、5次以上だと、対称群が可解群でないということを導くことにもなります。
5 次以上の交代群が単純群であることを証明するための足がかりとなる命題から証明を始めることにします。
n次交代群 : 長さ3の巡回置換を利用
自然数 n について、n 次対称群を Sn、n 次交代群を An と表すことにします。
{1, 2, … , n} という異なる n 個のものから成る集合の置換全体が n 次対称群です。
Sn の置換について、偶置換をすべて集めた部分群が An です。
ここで、偶置換として、長さ 3 の巡回置換を挙げておきます。
a, b, c を n 以下の相異なる自然数としたとき、
(a, b, c) が長さ 3 の巡回置換です。
(a, b, c)
= (a, c)(a, b) と偶数個の互換の積で表すことができるので、長さ 3 の巡回置換は偶置換です。
そのため、長さ 3 の巡回置換は交代群の元となっています。
実は、n ≧ 3 のとき、An の任意の元は、適当に長さ 3 の巡回置換の有限個の合成置換として表すことができます。
つまり、長さ 3 の巡回置換全体によって、An が生成されているということです。
まず、このことを証明します。
使う記号ですが、An の単位元である恒等置換を e と表すことにします。
生成元を押さえる
【命題1】
n を 3 以上の自然数とする。
このとき、n 次交代群 An は、長さ 3 の巡回置換全体によって生成される。
<証明>
An の元は偶置換なので、偶数個の互換の積で表されます。
そのため、
(c, d)(a, b) (ただし、a, b, c, d は n 以下の自然数)という形の2個の互換の積が、必ず長さ 3 の巡回置換を用いて表すことができることを示せば証明が完成します。
(a, b) = (c, d) の場合は、
(c, d)(a, b) = e
= (1, 2, 3)3 より、長さ 3 の巡回置換で生成されています。
よって、以下では (a, b) ≠ (c, d) の場合について議論を進めます。
{a, b} と {c, d} について、1文字が共通の文字となっているときは、次のように書き換えることができます。
a = c だと、
(c, d)(a, b) = (a, d)(a, b)
= (a, b, d),
a = d だと、
(c, d)(a, b) = (c, a)(a, b)
= (a, c)(a, b) = (a, b, c),
b = c だと、
(c, d)(a, b) = (b, d)(a, b)
= (b, d)(b, a) = (b, a, d),
b = d だと、
(c, d)(a, b) = (c, b)(a, b)
= (b, c)(b, a) = (b, a, c) となります。
よって、共通の文字があるときは、長さ 3 の巡回置換そのものになっているため、長さ 3 の巡回置換全体で生成されていることになります。
次に、{a, b} と {c, d} が共通の文字をもたない場合について考えます。
(d, a)(d, a) = e と単位元になるため、
(c, d)(a, b)
= (c, d)e(a, b)
= (c, d)(d, a)(d, a)(a, b)
= (d, c)(d, a)(a, d)(a, b)
= (d, a, c)(a, b, d) となります。
(c, d)(a, b) は、共通の文字をもたない場合は、長さ 3 の巡回置換2個の積として表されています。
以上より、結論が示せました。【証明完了】
単純群とは、単位群 {e} と全体の2個以外に正規部分群が存在しない群のことです。
※ 正規部分群については、部分群の判定方法という記事で解説をしています。
特に、n ≧ 5 のときに【命題1】は成立します。
そのため、n ≧ 5 のとき、An の単位群ではない任意の正規部分群が長さ 3 の巡回置換をすべて含むということを示すと、An が単純群ということを示したことになります。
これで、目指す方針が得られました。
まずは、n ≧ 5 のとき、An の単位群ではない任意の正規部分群が、長さ 3 の巡回置換を少なくとも1つは含んでいることを示します。
この最初の1つが、重たい証明になります。
これを越えると、長さ 3 の巡回置換をすべて含むということは、すぐに示せます。
n次交代群 :まず少なくとも1つから
【命題2】
n を 5 以上の自然数とし、N を An の単位群でない正規部分群とする。
このとき、N は少なくとも1つ長さ 3 の巡回置換を含む。
<証明>
N は単位群でないので、恒等置換 e と異なる置換が N には含まれています。
N には「恒等置換ではない置換の中で動かす数字の個数が最小となっている置換」σ が存在します。
σ は恒等置換でないため、動かす数字の個数は 2 個以上です。
また、σ が動かす数字の個数を 2 とすると、σ が互換となってしまい奇置換となってしまいます。
σ∈An より、偶置換なので、これは矛盾です。
そのため、σ が動かす数字の個数は 3 個以上ということになります。
ここで、σ が動かす数字の個数が少なくとも 4 以上だとして矛盾を導きます。
σ を巡回置換分解したとき、[1] 互換ばかりの積になっている場合と、[2] 長さ 3 以上の巡回置換が少なくとも1つ分解に現れる場合が考えられます。
まず、[1] の場合から述べます。
σ = ・・・(a3, a4)(a1, a2) と n 以下の相異なる自然数 a1, a2, a3, a4, … を用いた互換の積となっています。
※ 巡回置換分解を考えているので、どの互換にも共通の数字(文字)が現れていないという設定になります。
共通の文字がないため、
σ-1(a1) = a2, σ-1(a2) = a1 となっています。
今、n ≧ 5 より、a1, a2, a3, a4 のどれとも異なる自然数を a5 が存在します。
また、
τ = (a3, a4, a5) という偶置換が An には存在します。
τστ-1 =
・・・τ(a3, a4)τ-1τ(a1, a2)τ-1
= ・・・(τ(a3), τ(a4))(τ(a1), τ(a2))
= ・・・(a4, a5)(a1, a2) となっています。
g = τστ-1∈An と置きます。
ここで、巡回置換分解の一意性から、
g ≠ σ です。
そのため、σ-1g ≠ e です。
そのため、σ-1g が動かす数字は 3 個以上ということになります。
a1, a2, a3, a4, a5 以外の自然数 aj で σ(aj) = aj となっていたとします。
そのとき、
σ-1g(aj) = σ-1τστ-1(aj)
= σ-1τσ(aj)
= σ-1τ(aj)
= σ-1(aj) = aj となり、
σ-1g も aj を動かさないということになります。
a1, a2, a3, a4, a5 以外の (n-5) 個の数字については、動かす数字の個数は、σ と σ-1g で同じになっています。
そして、
σ-1g(a1) = σ-1(a2) = a1,
σ-1g(a2) = σ-1(a1) = a2 となっています。
ゆえに、a1, a2, a3, a4, a5 以下の 5 個の数字について、σ-1g が動かす数字は 3 個以下ということになります。
a1, a2, a3, a4, a5 以下の 5 個の数字について、σ は少なくとも 4 個の数字を動かします。
これは、An∋σ-1g が動かす数字が σ よりも少ないということを意味しています。
これは、σについての動かす数字の最小性に矛盾です。
残りの [2] の場合についても矛盾が生じることを確かめます。
残りの場合についても矛盾
[2] 長さ 3 以上の巡回置換が少なくとも1つ分解に現れる場合にも矛盾が生じることを示します。
σ = ・・・(a1, a2, a3, …) という形になっています。
巡回置換分解なので、分解に現れる文字(数字)に共通のものはありません。
σ が動かす文字が 4 個だとします。
すると、
σ = (a1, a2, a3, a4) と長さ 4 の巡回置換となります。
(a1, a2, a3, a4) =
(a1, a4)(a1, a3)(a1, a2) より奇置換となってしまい σ が交代群の元である偶置換であることに反してしまいます。
よって、σ が動かす数字の個数は 5 個以上ということになります。
a1, a2, a3, a4, a5 を n 以下の相異なる自然数で σ が確実に動かす 5 個だとします。
またしても、
τ = (a3, a4, a5) の共役変換から矛盾が生じてしまいます。
τστ-1 =
・・・(τ(a1), τ(a2), τ(a3), …)
= ・・・(a1, a2, a4, …) となります。
h = τστ-1∈An と置きます。
ここで、巡回置換分解の一意性から、
h ≠ σ です。
そのため、σ-1h ≠ e で 3 個以上の数字を動かすことになります。
a1, a2, a3, a4, a5 以外の自然数 aj で σ(aj) = aj となっていたとします。
τ(aj) = aj なので、
先ほどと同様に、
σ-1h(aj) = σ-1(aj) = aj となっています。
そのため、a1, a2, a3, a4, a5 以外の (n-5) 個の数字については、動かす数字の個数は、σ と σ-1g で同じになっています。
今、σ は a1, a2, a3, a4, a5 の 5 個を確実に動かしているという状況でした。
ところが、
τ(a1) = a1 より、
σ-1h(a1)
= σ-1τστ-1(a1)
= σ-1τσ(a1)
= σ-1τ(a2)
= σ-1(a2) = a1 と a1 を固定しています。
よって、An∋σ-1h は σ よりも固定している数字が多いということになります。
つまり、σ-1h は σ よりも動かす数字が少ないため、σ の最小性に矛盾です。
よって、σ が 4 個以上の数字を動かすとすると [1] と [2] のいずれの場合についても矛盾が生じたことになります。
そのため、σ が動かす数字の個数は 3 個以下となります。
また、はじめに述べた通り、σ は 3 個以上の数字を動かすことから、σ が動かす数字が 3 個のみということになります。
ゆえに、σ は、その動かす 3 個の数字が表れる巡回置換となっています。【証明完了】
実際、σ が、a1, a2, a3 の 3 個のみを動かし、他の数字をすべて固定していたとします。
σ(a1) が a4 から an のどれか aj となっていたとすると、
σ(a1) = aj です。
しかし、σ(aj) = aj より、
a1 = σ-1(aj) = aj となってしまいます。
そのため、
σ(a1) = a2 または σ(a1) = a3 となります。
同じ理由で、a2 や a3 の σ による像は a4 から an にはなり得ません。
σ(a1) = a2 の場合、σ(a2) = a1 とすると a3 を固定してしまうことになってしまいます。
そのため、σ(a2) = a3 となります。
固定されない a3 は、σ が単射なので、
σ(a3) = a1 となるしかありません。
そのため、σ = (a1, a2, a3) となります。
σ(a1) = a3 のときも同様の考察で、
σ = (a1, a3, a2) となります。
このようにして、先ほどの証明の最後に σ は、その動かす 3 個の数字が表れる巡回置換と結論づけました。
この【命題2】から、単位群と異なる An の正規部分群には長さ 3 の巡回置換がすべて含まれているということが導けます。
n次交代群 :長さ3はすべて含む
【命題3】
n を 5 以上の自然数とし、x, y, z を相異なる任意の n 以下の自然数とする。
また、N を単位群ではない An の正規部分群とする。
このとき、
巡回置換 (x, y, z) は N に含まれている。
<証明>
【命題2】より、An には長さ 3 の巡回置換が少なくとも1つ存在します。
その An に含まれる巡回置換を
(a1, a2, a3) とします。
n 次対称群は、異なる n 個のものを入れ替える置換全体から成ります。
そのため、a1 を x に、a2 を y に、a3 を z に移す置換 g が存在します。
g は次のような形になっています。
g(a1, a2, a3)g-1
= (g(a1), g(a2), g(a3))
= (x, y, z) となっています。
ここで、g が偶置換だとすると、
N が An の正規部分群より、
g(a1, a2, a3)g-1∈N となり、
(x, y, z)∈N となります。
また、g が奇置換であるときの場合についても考えます。
今、n は 5 以上の自然数なので、
a1, a2, a3 のどれとも異なる自然数が 2 個存在します。
それらを a4, a5 とします。
すると、g が奇置換より、
g(a4, a5) は偶置換となります。
h = g(a4, a5) と置くと、
h∈An です。
また、
h(a1) = g(a4, a5)(a1)
= g(a1) = x,
h(a2) = g(a4, a5)(a2)
= g(a2) = y,
h(a3) = g(a4, a5)(a3)
= g(a3) = z となっています。
よって、
N∋h(a1, a2, a3)h-1
= (h(a1), h(a2), h(a3))
= (x, y, z) となります。
これで、g が偶置換にせよ奇置換にせよ、
巡回置換 (x, y, z) が N に含まれていることを示せました。【証明完了】
これで、5 次以上の交代群が単純群であることを示すためのピースがそろいました。
単純群であることの証明
【定理】
n を 5 以上の自然数とする。
このとき、An は単純群である。
<証明>
N を 単位群でない An の正規部分群とします。
【命題3】より、長さ 3 の巡回置換は、すべて N に含まれています。
さらに、【命題1】より、An は長さ 3 の巡回置換で生成されているので、N と An は一致しています。
以上より、An の正規部分群は単位群と全体 An しかないため、An は単純群です。【証明完了】
これで、この記事のはじめに述べたことから、5 次以上の対称群が可解群でないということも示せたことになります。
※ 可解群という記事で可解であることの基礎的な内容を解説しています。
最後に、n ≧ 6 のとき、An の中に 5 次交代群 A5 が埋め込まれているということについて説明します。
5次以上の対称群の内部の構造
自然数 i と k は、i < k となっているとします。
X = {1, … , i} とし、S(X) が i 次対称群です。
Y = {1, … , i, i+1, … , k} とし、S(Y) が k 次対称群です。
S(X) から、S(Y) への単射である群準同型写像を定義することを考えます。
各 σ∈S(X) に対して、
σ’ : Y → Y を次のように定義します。
1 ≦ y ≦ i に対して、
σ'(y) = σ(y) と定めます。
既に与えられた σ を利用して、σ’ を定義するというわけです。
i+1 ≦ y ≦ k に対しては、
σ'(y) = y だと定義します。
これで、集合 Y の各元に対して、σ’ による像を定義しました。
σ’ は、1 以上 i 以下の自然数を置換します。
そして、i+1 以上 k 以下の自然数については、動かさないという置換をします。
そのため、σ’ は、Y から Y への全単射となっています。
そのため、σ’∈S(Y) です。
次に、f : S(X) → S(Y) を、
σ∈S(X) に対して、
f(σ) = σ’ と定義します。
すると、集合論の入門内容で学習した写像についての基礎的な内容から、f が群準同型写像である単射だと分かります。
そのため、f によって、S(X) は S(Y) へ埋め込まれます。
これで、f(S(X)) が S(Y) の部分群となっていることが分かりました。
g∈S(X) に対して、f(g) を対応させることで、
S(X) から f(S(X)) への群同型写像が定義できます。
そのため、S(X) と f(S(X)) は群として同型ということになります。
そして、f(S(X)) は、S(Y) の部分群です。
【基礎となる記事】
・3次対称群
・偶置換-奇置換(n!/2 個の証明)
群の定義については群の公理という記事で解説をしています。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。