相加相乗平均 | n個の変数について証明【数3の微分を途中から投入】
" 相加相乗平均 “について、n 個の変数のときの証明を解説しています。
まず「相加平均 ≧ 相乗平均」となることを数3を使わずに証明します。その後で数3を使って証明をします。
数3を使わない証明は、複雑になりますが、大学の数学へ向けての良い思考の練習となるかと思います。
実は、数学3の微分を使うと、スムーズに証明ができます。
等号成立条件についても、数3の内容を使った証明から、すぐに分かります。
数3内容の軽い証明で、円滑に証明を理解したいと思われた方は、目次の該当箇所をクリックすると、数3内容へジャンプします。
相加相乗平均 :数学2Bの内容で証明
【命題1】
a1, a2, … , an を正の実数とする。
このとき、a1a2 … an = 1 ならば、
a1+a2+…+an ≧ n である。
n 個の正の実数の積が 1 だと、それら n 個の和は必ず n 以上ということを主張している命題です。
この【命題1】を認めて、相加相乗平均の定理を証明した後に、【命題1】を示します。
(a1+a2+…+an) ÷ n が相加平均、
(a1a2 … an)1/n が相乗平均です。
相乗平均については、n 個の平均値なので、算数からお馴染みです。数2で学習する 1/n 乗という n 乗根を用いているのが相乗平均です。
では、【命題1】を使って、相加相乗平均の n 変数版を証明します。
相加平均と相乗平均の関係
【定理】
a1, a2, … , an を正の実数とすると、
(a1+a2+…+an) / n ≧ (a1a2 … an)1/n
<証明>
a1a2 … an = t と置きます。a1, a2, … , an は正の実数なので、t は 0 ではありません。
すなわち、a1a2 … an = t ≠ 0 です。
t = (t1/n)n より、この逆数を両辺に掛けると、
(a1 / t1/n)(a2 / t1/n) … (an / t1/n) = t / t = 1
よって、【命題1】より
a1 / t1/n+a2 / t1/n+…+an / t1/n ≧ n
両辺に t1/n / n を掛けると、
(a1+a2+…+an) / n ≧ t1/n となります。
t を元に戻すと、
(a1+a2+…+an) / n ≧ (a1a2 … an)1/n【証明完了】
このように、【命題1】を認めると、相加平均の値が相乗平均の値以上ということが成立します。
この【命題1】を証明します。
命題1の証明
【命題1】
a1, a2, … , an を正の実数とする。
このとき、a1a2 … an = 1 ならば、
a1+a2+…+an ≧ n である。
<証明>
帰納法で示します。
n = 1 のときは、
「a1 = 1 ならば a1 ≧ 1」ということなので、命題が成立しています。
n = 2 のとき、a1a2 = 1 とします。
すると、
a1 + a2 - 2 = a1 + 1/a1 - 2
= a12 / a1 + 1/a1 + (-2a1) / a1
= ( a12 -2 a1 + 1) / a1
= ( a1 - 1)2 / a1 ≧ 0
すなわち、a1 + a2 ≧ 2 となり、n = 2 のときに命題が成立しています。
n = k まで命題が成立していたと仮定します。
(ただし、k ≧ 2 です。)
つまり、
a1a2 … ak = 1 ならば、
a1+a2+…+ak ≧ k であるとします。
ここで、k + 1 個の正の実数 a1, a2, … , ak, ak+1 について、a1a2 … akak+1 = 1 だとします。
このとき、次の (P) または (P) の否定である (Q) のいずれか一方が成立しています。
(P) すべての a1, … , ak+1 が等しい
(Q) a1, … , ak+1 の中に等しくないものがある
【(P)の場合】
1 以上 k + 1 以下の自然数 i について、
1 = a1a2 … akak+1 = (ai)k+1 より、
ai = 11/k+1 = 1
(i = 1, 2, … , k+1)
つまり、a1 = … = ak+1 = 1 なので、
a1+a2+…+ak+1 ≧ k + 1 が成立しています。
【(Q) の場合】
ai ≠ aj とします。(i, j は k + 1 以下の自然数のうちのどれかです。)
このとき、a1, … , ak+1 の中に、1 より大きいものと 1 より小さいものが存在します。
このことは、次のようにして確認できます。
0 < ai < 1 とすると、
a1a2 … akak+1 = 1 より、
a1, … , ak+1 の中に、1 より大きい実数が存在しなければなりません。
(ai 以外の値がすべて 1 以下とすると、k + 1 個の積が 1 より小さくなってしまうからです。)
また、ai > 1 とすると、
a1, … , ak+1 の中に、1 より小さい実数が存在しなければなりません。
(ai 以外の値がすべて 1 以上とすると、k + 1 個の積が 1 より大きくなってしまうからです。)
ai = 1 だと、aj ≠ ai = 1 より、
aj > 1 または aj < 1 となります。
同様の考察から、
aj > 1 だと、a1, … , ak+1 の中に、1 より小さい実数が存在し、aj < 1 だと、1 より大きい実数が存在することになります。
よって、(Q) の場合、a1, … , ak+1 の中に、1 より大きいものと 1 より小さいものが存在するということになります。
そのため、as < 1, at > 1 とします。
ここで、b1 = as, bk+1 = at, 残りの k - 1 個を b2, … , bk と置くことにします。
今、a1a2 … akak+1 = 1 より、
(b1bk+1)b2…bk = 1 です。
b1bk+1 = c と置くと、
cb2…bk = 1 となっています。
これら k 個の正の実数について、
帰納法の仮定から、
c + b2 + … + bk ≧ k となります。
よって、
a1+a2+…+ak+1
= (c+b2+…+bk)+bk+1-c+b1
≧ k + bk+1- c + b1
= k + bk+1- b1bk+1 + b1
= k + 1 - 1 + bk+1- b1bk+1 + b1
= (k + 1) + (bk+1 - 1)(1 - b1)
bk+1 = at > 1, b1 = as < 1 だったので、
(bk+1 - 1)(1 - b1) > 0 です。
よって、a1+a2+…+ak+1 > k + 1【証明完了】
数3を使わない証明は、このように複雑になります。しかし、大学の数学科の証明を見据えた文字の置き換えと論理を合わせた良い練習になるかと思い、敢えて複雑な証明を述べました。
数3を使うと、天才ニュートンの微分の力を使えるので、圧倒的に証明が簡単になります。
相加相乗平均 :数3の微分を使って証明
【命題2】
実数 x に対して、
関数 f(x) = ex - (x + 1) の取る値は 0 以上である。
つまり、ex ≧ x + 1
等号成立は、x = 0 のときに限る。
y = ex の点 (0, 1) における接線が、
直線 y = x + 1 となっているという内容が【命題2】です。
数IIIの微分を学習するときに、練習問題として出てくるような内容になります。
この【命題2】と指数法則から、相加相乗平均の定理が導かれます。
今度の証明は、先ほどよりも、各段に簡単です。
数3を使う別証明
【相加相乗平均】
a1, a2, … , an を正の実数とすると、
(a1+a2+…+an) / n ≧ (a1a2 … an)1/n
<証明>
r = (a1+a2+…+an) / n と置き、
各 i (i = 1, … , n) について、
ai / r - 1 を ex ≧ x + 1 に代入します。
すると、次の n 個の不等式が得られます。
ea1/r-1 ≧ a1 / r … (1)
ea2/r-1 ≧ a2 / r … (2)
・・・
ean/r-1 ≧ an / r … (n)
これら n 個の不等式を辺々掛け合わせると、
指数法則より、
ea1/r+a2/r+…+an/r-n ≧ a1a2…an / rn
つまり、
e(a1+a2+…+an)/r-n ≧ a1a2…an / rn
ここで、r を元に戻すと、次のようになります。
r = (a1+a2+…+an) / n より
両辺に n/r を掛けると、
n = (a1+a2+…+an) / r となります。
つまり、
(a1+a2+…+an) / r = n です。
よって、
e(a1+a2+…+an)/r-n = en-n = e0 = 1
以上より、1 ≧ a1a2…an / rn
両辺に rn を掛けると、
rn ≧ a1a2…an
両辺を 1/n 乗すると、
r ≧ (a1a2…an)1/n
r を元に戻すと、
(a1+a2+…+an) / n ≧ (a1a2…an)1/n
となり、不等式を示せました。【証明完了】
これで、不等式を証明できました。この証明から、等号成立条件も論理的に導くことができます。
「あるものに対して成立しない」ということを否定すると、「すべてについて成立する」ということになります。この論理規則を使って、等号成立条件を導きます。
相加相乗平均 :等号成立条件
【等号成立条件】
a1, a2, … , an を正の実数とすると、
(a1+a2+…+an) / n = (a1a2 … an)1/n となるのは、
a1 = a2 = … = an のときに限る。
<証明>
【命題2】の不等式から、n 個の不等式が成立していました。
ea1/r-1 ≧ a1 / r … (1)
ea2/r-1 ≧ a2 / r … (2)
・・・
ean/r-1 ≧ an / r … (n)
これら n 個の不等式について、一つでも等号が成立しないとすると、
(a1+a2+…+an) / n > (a1a2 … an)1/n
となってしまい、仮定に反してしまいます。
そのため、n 個の不等式について、すべて等号が成立しなければならないということになります。
よって、eai/r-1= ai / r … (i) (i = 1, 2, … , n)となっています。
ここで、【命題2】について、
ex ≧ x + 1 の等号成立は、x = 0 のときに限るということでした。
そのため、(i) は、x = ai / r - 1 を代入したものだったので、
ai / r - 1 = 0 でなければなりません。
よって、ai = r (i = 1, 2, … , n)です。
r を元に戻すと、
ai = (a1 + a2 + … + an) / n
つまり、どの i についても一定値となっています。
そのため、a1 = a2 = … = an です。【証明完了】
相加相乗平均の等号成立は、
a1 = a2 = … = an がすべて、a1 から an の平均値と一致しているときというときに限るということが分かりました。
注意点と関連内容
等号が成立しないときの注意点です。
相加平均 > 相乗平均 となっているときに、a1 から an を用いた式で、間に入ってくるものが存在するときもあります。
そのため、最良の不等式評価とは限らないため、注意です。
つまり、相加平均と相乗平均の間の開きが大き過ぎるということもあるということです。
ただ、この手の内容は深入りすると専門的なデータ分析の内容になるので、軽く述べるに留めます。
ちなみに、統計分野で使われる相関係数の値の範囲は、シュワルツの不等式から導かれます。シュワルツの不等式も相加相乗平均のように n 変数についての不等式です。
今回の記事で、ex ≧ x + 1 という微分を利用して導いた不等式を利用しました。
指数法則 exey = ex+y が役に立ちました。
この指数法則の対数版である
log xy = log x + log y を不等式と一緒に利用する受験問題もたびたび出題されるので、今回の内容と合わせて押さえておくと良いかと思います。
真数と底の関係は数2や数3で不等式と絡むことがあります。
ex ≧ x + 1 は、ニュートンの頃のように定義域を実数の範囲とした関数の増減を考えることによって導いています。
時が流れ、オイラーが指数関数の定義域を複素数全体とし、複素指数関数と複素三角関数を結びつけました。
大学の数学で扱われるオイラーの公式は有名で、様々な分野で複素解析が利用されました。
ニュートンやオイラーから良い刺激を受け、数学の学習を楽しむのも良いかと思います。
これで、今回のブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。