定点を通る直線 | どんな実数 k についても成立するとは【数II以降の理論も解説】
" 定点を通る直線 “についての問題を、数学IIで学習します。
どんな実数 k についても成立する式が関わってくる内容になります。
問題を解く計算自体は、中学の数学で学習した計算なので、解法を覚えてしまうことも可能です。
しかし、いったい何をしているのか、その背景についての理論の理解は、数学IIIへとつながる内容になっています。
この記事では、前半で文系・理系で共通の内容となる解き方や問題の内容について解説しています。
後半では、理系の数学内容で、数学IIIや強いては大学の数学科の内容につながる背景となる理論について解説をしています。
定点を通る直線 :まずは解法を
【典型問題】
x, y を実数とします。
そして、どんな実数 k についても次の等式が成立するとします。
(2x+4y)k-(x-2y+8) = 0
この式が表す直線が、必ず通る点 P の座標を求めてください。
この問題の解き方自体は、高校の数IIで学習する流れの通りに勉強をしていると、とても覚えやすい内容となっています。
どんな実数 k についても成立する式と、おきまりの呪文が問題文で述べられています。
解き方がピンとくるように、数学の用語を使うと、k についての恒等式ということです。
恒等式だから、係数比較をするというわけです。
右辺が 0 なので、
2x+4y = 0 …①
-(x-2y+8) = 0 …②
②の両辺に -2 を掛けると、
2x-4y+16 = 0
① より、-4y = 2x だから、
2x+2x+16 = 0 です。
つまり、x = -4 です。
そして、-4y = -8 だから、
y = 2 です。
(x, y) = (-4, 2) のとき、
(2x+4y)k-(x-2y+8) = 0 が必ず成立します。
そのため、
直線 (2x+4y)k-(x-2y+8) = 0 は、どんな実数 k についても、定点 P(-4, 2) を通ることになります。
これで、求めたい定点の座標が得られました。
他の解き方と、その注意点についても述べておきます。
他の解き方について
(2x+4y)k-(x-2y+8) = 0 が、どんな実数 k についても成立するという設定の問題です。
そこで、k = 0, k = 1 といった具体的な実数を当てはめます。
すると、
-(x-2y+8) = 0,
2x+4y-(x-2y+8) = 0 が成立することになります。
そのため、
2x+4y = 0 より、
x = -2y となります。
よって、
-(-2y-2y+8) = 0 です。
これより、y = 2 となり、
x = -2y = -4 となります。
逆に、(x, y) = (-4, 2) のとき、
(2x+4y)k-(x-2y+8)
= (-8+8)k-(-4-2・2+8)
= 0+0 = 0 より、
(2x+4y)k-(x-2y+8) = 0 が、どんな実数 k についても成立しています。
したがって、(-4, 2) が求める定点の座標になります。
今度は、数値代入法を使いました。
数値代入法のときは、特定の値に限定した x と y の値なので、問題の設定である恒等式に本当になっているのかを確かめておかなければなりません。
マーク型の問題では x と y の値をすぐに求められるので便利ですが、記述の答案だと恒等式になっていることの確かめの部分も書く必要があるので、注意です。
係数比較法と数値代入法で、定点の座標を求める解き方を述べました。
次に、座標平面において、どういった図形的な内容を表しているのかを説明します。
定点を通る直線 :図形的な内容
(2x+4y)k-(x-2y+8) = 0 という式で表される直線が通る定点の座標を求めました。
定点 (-4, 2) を必ず通るという内容の様子を k に具体的な実数を代入して見てみます。
k に実数を一つ代入すると、1 本の直線を表す式が得られます。
【k = 2 のとき】
2(2x+4y)-(x-2y+8) = 0,
つまり、3x+10y-8 = 0 という直線の式が得られます。
このように、k に具体的な実数を代入すると、直線の式が 1 つ現れます。
3・(-4)+10・2-8 = 0 です。
そのため、
(x, y) = (-4, 2) は、
確かに 3x+10y-8 = 0 という直線の上にある点の座標です。
今度は、ちがう値を k に代入してみます。
【k = 0.1 のとき】
0.1・(2x+4y)-(x-2y+8) = 0,
つまり、-0.8x+2.4y-8 = 0 という直線の式が得られます。
式をもう少し簡単にすると、
x-3y+10 = 0 という式です。
やはり、点 (-4, 2) は、この直線の上にある点となっています。
このように、k の値を変えると、異なる直線の式となりますが、どの直線も定点を通っているということです。
図でも確認
k に実数を代入すると、具体的な直線を表す式が現れます。
実数は無限個あるので、k の値をいろいろと変えると、無限通りの直線が出現することになります。
ただ、どの直線も (-4, 2) という点を必ず通るというわけです。
この点が、先ほど求めた定点です。
ちがう言い方をすると、k の値として、異なる二つの実数を代入して異なる直線を 2 本出現させます。
その 2 本が交わる唯一の点が、求めた定点となっています。
グラフの図を描いてみると、定点が明確に意識できます。
ここまでが、文系・理系のどちらにも共通の数IIで学習する内容になります。
ここからは、数学IIIや大学の数学を見据えた内容へと深く切り込みます。
そのために、恒等式の内容を詳しく説明します。
定点を通る直線 :その値は実数
【土台の形を確認】
p と q を実数とします。
pk+q = 0 が、どんな実数 k についても成立するときに、この式を k についての恒等式といいます。
実数全体の範囲で考えているので、実数全体において恒等的に等しいという内容です。
このような短い形の式だと、確かに数IIのはじめの方で学習した恒等式の内容だと分かります。
pk+q = 0 が、どんな実数 k についても成立すると、恒等式なので、左辺と右辺で係数比較ができます。
この p と q は、必然的に、
p = 0 かつ q = 0 となります。
この短い形の式を土台として押さえておきます。
その上で、先ほどの定点を求める問題の式を再度、確認しています。
四則演算をしても実数
x, y を実数とします。
そして、どんな実数 k についても、
(2x+4y)k-(x-2y+8) = 0 が成立していたとします。
先ほどの土台となる式よりも、式の形が長くなっています。
先ほどの p と q が、
それぞれ 2x+4y と x-2y+8 となっています。
x と y は実数です。
中学の数学で学習したように、実数と実数で四則演算を計算した結果の値は実数です。
そのため、
2x+4y と x-2y+8 は実数です。
これが、土台の形の p と q を、
それぞれ 2x+4y と x-2y+8 と思える理由です。
実際、
p = 2x+4y q = x-2y+8 と置くと、
pk+q = 0 が、どんな実数 k についても成立するということです。
これは、まさに k についての恒等式というわけです。
だから、先ほどの定点を求める問題を解くときに、係数比較法もしくは数値代入法が使えたわけです。
より深く説明をしましたが、まだ数IIの範囲です。
さらに、ここから数IIIの内容を通り越して大学の数学科の内容と関連させます。
実数 p, q について、
pk+q = 0 という k についての恒等式を深く解説します。
理解するための内容は、高校一年の数学で学習していますが、能動的に考えを進めることが必要になるので、ここからの内容は、理系の方に向けての内容です。
背後の関数の理論
実数 k について、次のような三つの関数を考えます。
f(k) = k,
g(k) = 1,
h(k) = 0 という関数を考えます。
k の属する定義域は実数全体とします。
f(k) = k は、中学一年で学習する切片 0 の一次関数です。
g(k) = 1, h(k) = 0 は、数IIIでは定数関数といわれます。
g(k) = 1, h(k) = 0 のグラフは、横軸に平行な直線となっています。これも、公立の中学二年の数学で学習する内容です。
より詳しく述べると、定義域に含まれる各実数 k に対して、必ず 1 を対応させるのが g(k) という関数です。
0 を必ず対応させるのが h(k) の方です。
ここから、関数の和と関数のスカラー倍という数IIIの内容を述べます。
定義域の要素であるそれぞれの実数 k に対して、対応させる実数値を定めることで関数が定義できます。
k に対して、f(k) と g(k) という値は確定しているので、これらを利用します。
各実数 k に対して、
f(k)+g(k) を対応させる関数を定義できます。
これを関数 y = f(k) と y = g(k) の和といいます。
y = f(k)+g(k) という形で関数を表します。
f(k), g(k) を分かっている形で表示します。
y = k+1 という k を変数とする関数です。
得られた関数は、既に知っている関数ですが、途中のプロセスは数IIIになります。
数IIIでは、この関数の和について、極限を用いて導関数を考えたりします。
※ 関数の和という記事で、lim を用いた数IIIの内容を解説しています。
今度は、関数のスカラー倍です。
各実数 k に対して、p × f(k) という実数を対応させる関数のことです。
y = p × f(k) が、y = f(k) を実数 p によってスカラー倍した関数です。
分かっている値で表すと、
y = pk となっています。
それでは、関数のスカラー倍と関数の和を合わせて考えます。
各実数 k に対して、
p × f(k)+g(k) という値を対応させる関数を定義します。
y = p ×f(k)+q × g(k) という関数になります。
分かっている値で表すと、
y = pk+q です。
結局は、k を変数とする一次関数を定義したことになります。
この式は、先ほど見た恒等式の左辺です。
pk+q = 0 という k についての恒等式です。
左辺は、y = pk+q という一次関数です。
y = h(k) = 0 という定数関数が右辺です。
等しい関数ですから、定義域に含まれている各実数 k について、対応させる値は等しくなります。
つまり、
pk+q は、どんな実数 k についても、その値は、h(k) = 0 と一致しているということです。
これが、pk+q = 0 が、そんな実数 k についても成立するということの意味になります。
定義域を実数全体とする実数値関数について、左辺の関数と右辺の関数が等しいということを意味しています。
この内容が、大学の数学科の集合論入門で学習する二つの関数(写像)が等しいということの定義です。
定義域に含まれる各要素について、それぞれ対応させる値が一致しているということを述べているのが、恒等式が表す意味です。
ここまで、大学の解析学で使われる関数の記号で述べてきました。
線形代数学のような代数分野で使う記号で、関数の和や関数のスカラー倍を使った表し方を最後に述べておきます。
次の内容は、数学科の内容を学習したい方へ向けての内容となります。
代数分野の記号
k を実数とします。
f(k) = k, g(k) = 1,
h(k) = 0 という三つの関数について和とスカラー倍を表す記号を説明します。
関数のスカラー倍のことを次のように表します。
実数 p について、
pf と表します。
実数 k に対して、実数 p でスカラー倍された関数 pf が対応させる値を pf(k) と表します。
実数 q について、qg という関数が対応させる値は qg(k) です。
次に関数の和を表す記号です。
関数 pf と関数 qg の和を、
pf+qg と表します。
この関数が実数 k に対応させる値を
(pf+qg)(k) = pf(k)+qg(k) と表します。
分かっている記号で表すと、
(pf+qg)(k) = pf(k)+qg(k)
= pk+q となります。
pk+q = 0 という k についての恒等式を、関数が等しいということを強調する形で述べると、次のようになります。
pf+qg = h ということです。
左辺の関数と右辺の関数が等しいということです。
等しい関数なので、定義域に含まれるどんな実数 k についても、対応させる値が左も右の関数も同じ値となります。
そのため、
(pf+qg)(k) = h(k) が、どんな実数 k についても成立するということです。
関数のスカラー倍と和の定義から、
pf(k)+qg(k) = h(k) ということです。
f(k) = k, g(k) = 1,
h(k) = 0 ということを加味すると、次のようになります。
pk+q = 0 が、どんな実数 k についても成立するということです。
これで、数IIの恒等式の内容に話が戻りました。
【関連する記事】
数IIの恒等式は、数Bの数列にも関連します。
連立漸化式という記事を投稿していまして、ここでも恒等的に等しい、恒等的に等しくないという議論が関連します。
実数全体を定義域とする関数について述べてきましたが、定義域を自然数全体とした関数が数列です。
実は、自然数 n に対して、規則的に数を並べて第n項の値を定義することと、f(n) という値を対応させることが同値になります。
そのため、数列を関数として考え、関数なので、恒等式かどうかを考えることができます。
この練習として、
等差数列は一次関数という記事を投稿しています。
数IIIで、数列について離散グラフを考えつつ極限操作を議論したりするための基礎として述べた記事になります。
実は数列を関数(写像)と考えることは、大学の数学科の抽象ベクトルの内容で出てきます。
実数列という記事では、実数列全体が実数体上の無限次元ベクトル空間であることを示しています。
それでは、これで今回のタロウ岩井の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。