連立漸化式 – 問題 | なんで係数比較をするのか【根本から徹底解説】

連立漸化式-問題-表紙

" 連立漸化式 “は、高校数学の数列の単元で、定期考査や大学受験で頻出の問題となります。

昭和・平成・令和と、毎年のように必ずといっていいほど扱われる内容で、その解法は有名です。

しかし、解き方を知って問題を解けるようになるのですが、分からないというか、腑に落ちない内容が解法には含まれています。

なんで係数比較の話が出てくるのか。

数学IIIだけでなく、その後の大学の数学科の内容にも関わる内容なので、根本から徹底的に解説をします。

とはいえ、大学受験の直前だと解法を押さえて、まずは得点しなければならないので、よく知られた解法を先に述べます。

その後、余裕のある方に向けて、根本的な数学の内容を解説し、大学数学への関連に言及します。

連立漸化式 – 問題

【練習問題】

a1 = 1, b1 = 3,
an+1 = 3an+bn, bn+1 = 2an+4bn と各自然数 n について定められている数列 {an}, {bn} があったとします。

(1) an+1+sbn+1 = t(an+sbn) を満たす組 (s, t) を2組求めてください。
(2) 数列 {an}, {bn} の一般項をそれぞれ求めてください。


では、(1) から順に解説します。

各自然数 n について、
an+1+sbn+1 = t(an+sbn) となっていたとします。

an+1 = 3an+bn, bn+1 = 2an+4bn となっていることから、an+1 と bn+1 を書き換えます。

すると、
(3an+bn)+s(2an+4bn)
= t(an+sbn) となります。

右辺を左辺へ移項し、整理します。

(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn = 0
(n = 1, 2, 3, …)

ゆえに、両辺が恒等的に等しいことから、
係数比較をすると、
3+2s-t = 0 …①
1+4s-st = 0 …②

①より、
t = 2s+3 だから、これを②に代入すると、s についての二次方程式ができます。

それを解くと、
(s, t) = (1, 5), (-1/2, 2) となります。

これで、二組が求まりました。
※ 各自然数 n について、逆に計算を進めると、十分性も満たしていることが分かります。つまり、逆は明らかということで、この部分は省きました。

必要条件を求め、十分性を確認するという流れが (1) の解法です。

気になる謎は、途中で恒等式の考え方が使われていることです。

なぜ恒等式が出てくるのかは、後半で解説をします。

先に (1) を求めておきます。

一般項を求める

an+1+sbn+1 = t(an+sbn) の等式を使います。

s = 1, t = 5 を代入すると、
an+1+bn+1 = 5(an+bn)

これは、等比型の漸化式で、
数列 {an+bn} が公比 5 の等比数列ということを示しています。

a1 = 1, b1 = 3 だったので、
a1+b1 = 4 が初項の値です。

よって、
等比数列の一般項の公式から、
各自然数 n に対して、
an+bn = 4・5n-1 …③

さらに、
s = -1/2, t = 2 も代入すると、
an+1-1/2・bn+1 = 2(an-1/2・bn)

これも等比型の漸化式で、
数列 {an-1/2・bn} が公比 2 の等比数列になっています。
a1-1/2・b1 = -1/2 が初項の値です。

よって、
各自然数 n に対して、
an-1/2・bn = -1/2・2n-1 …④

③と④から、加減法を計算して、それぞれの数列の一般項が得られます。

連立漸化式-練習問題

ここまでが、連立漸化式の典型的な解法となります。

ここからは、途中で突然に現れた係数比較について解説します。

数学IIIの内容、しいては大学の数学科の内容へとつながる内容になります。

連立漸化式 :なぜ係数比較なのか

数列は、高校数学Bで学習しますが、数学IIIの内容とも関連しています。

合成関数などを数学IIIで学習するのですが、関数(写像)の一対一対応に関連して数列の定義を書き換えることができるという内容を暗に含みます。

「規則的に数を並べた列」が数列ですが、「自然数全体を定義域とする関数を定義する」ことと同値であるということから議論を始めます。

これは、各自然数 n に対して、第n項の値 an が規則的に定まるということは、n に対して an という値を対応させる関数と考えられるからです。

そのため、数列とは、自然数全体を定義域とする関数ということになります。

ここで、同じ定義域の二つの関数が等しいということの定義が効いてきます。

【数列が等しい】

数列 {an}, {bn} という二つの関数が、
各自然数 i について、
ai = bi
となっているとき、二つの数列が等しいと定義します。

この二つの関数が等しいということを、数IIでは、各自然数に対して恒等的に等しいと呼んでいました。

先ほどの練習問題 (1) で、
(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn = 0
(n = 1, 2, 3, …) が出てきました。

ここで、恒等的に等しいからと、係数比較をしました。

この謎を、これから説明します。

実は、このイコールが使われている右辺の 0 ですが、これは零関数が取った値のことです。

零関数というのは、各自然数 n に対して、0 を一律に対応させる関数です。

グラフを描くと、y = 0 という横軸に一致する直線です。

謎の係数比較を行いましたが、
{(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn} という関数と、零関数 0 が恒等的に等しい(関数として等しい)ということです。

さらに、詳しく説明をすると、
(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn は関数 an と関数 bn の実数体上の一次結合によって得られた関数が、n に対して対応させた値です。

各自然数 n に対して実数を対応させる実数列全体は、実数体上のベクトル空間を形成します。

これは、大学の数学科で扱われる抽象ベクトルの具体例となっています。

大きさや向きを考えずベクトル空間の公理を満たすと、その空間の元をベクトルというのが抽象ベクトルです。

加法とスカラー倍というものについて、抽象ベクトルを考えます。

そこで、数列という関数の和とスカラー倍の定義を述べておきます。

数列の和とスカラー倍

【数列の和の定義】

数列(関数){an}, {bn} が与えられているとき、関数の和を次のように定めます。

各自然数 i に対して、ai と bi で加法を計算した値を対応させる関数を数列 {an}, {bn} の和といいます。

{an+bn} で、数列 {an}, {bn} の和を表すことにします。


具体例で様子を述べておきます。

数列 {an} の第 2 項の値が 5 で、
数列 {bn} の第 2 項の値が 6 だとします。

i = 2 のときを考えます。

数列 {an+bn} の第 2 項の値は、
5+6 より 11 ということになります。

次にスカラー倍の定義です。


【数列のスカラー倍定義

数列 {an} を実数列とし、r を実数とする。

このとき、各自然数 i に対して、rai を対応させる関数を数列 {an} を r でスカラー倍した関数(数列)という。

{ran} で数列 {an} を r でスカラー倍した関数(数列)を表すことにする。


これで、数列のスカラー倍が定義できました。

加法とスカラー倍を用いて表される数列のことを、一次結合といいます。

(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn = 0 の左辺を再び見てみます。

この左辺に数列のスカラー倍と加法が使われています。

(3+2s-t)an は、(3+2s-t) という実数で数列 {an} をスカラー倍してできた数列の第 n 項の値のことです。

(1+4s-st)bn も同じくスカラー倍です。

そして、スカラー倍された数列どうしの加法で、
数列 {(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn} が得られます。

(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn が、第 n 項の値というわけです。

(n = 1, 2, 3, …) とありますが、各自然数 n に対して、どの n にも対応する値が 0 と恒等的に等しいということを示しています。

数列を関数と考えましたが、数列は定義域が自然数全体です。

数学IIIでは、定義域が実数全体となっている関数の和とスカラー倍を学習し、極限操作を考え微分や積分の学習が進みます。

ここから、先ほど行った係数比較の謎を背理法の論理を使って解説します。

数列という関数の和とスカラー倍についての一次結合が関わっています。

連立漸化式 :抽象的な一次独立

a1 = 1, b1 = 3,
an+1 = 3an+bn, bn+1 = 2an+4bn と各自然数 n について定められている数列 {an}, {bn} について、連立漸化式から一般項を求めることを考察しました。

ここで、数列 {an}, {bn} について、スカラー倍についての命題を省略して、先ほどの解答で使いました。

その部分が、係数比較をなぜ行ったのかということに大きく関わってきます。


【命題
練習問題の数列 {an}, {bn} について、
どんな実数 r に対しても、
数列 {rbn} は数列 {an} と等しくない。


<証明>

背理法で示します。

ある実数 r に対して、数列 {rbn} と数列 {an} が等しくなっていたと仮定します。

二つの数列という関数が等しいということは、どんな自然数 i についても、
ai = bi となっているということです。

これが、自然数全体を定義域とする二つの関数が等しいということの定義でした。

i = 1 について、
a1 = rb1 です。

a1 = 1, b1 = 3 だから、
1 = 3r, つまり、r = 1/3 です。

どの自然数 i についても等しいので、
a2 = rb2 = 1/3 × b2 …★

各自然数 n に対して、
an+1 = 3an+bn だったので、
a2 = 3a1+b1
= 3+3 = 6 です。

また、各自然数 n に対して、
bn+1 = 2an+4bn だから、
b2 = 2a1+4b1
= 2+4・3 = 16 です。

1/3 × 16 ≠ 6 より、
a2 ≠ 1/3 × b2 です。

★より、
a2 = 1/3 × b2 でした。

これは、矛盾です。

よって、背理法から、どんな実数 r に対しても、数列 {rbn} は数列 {an} と等しくないということが示せました。【証明完了】

この命題は、これは、数列 {an} を数列 {bn} のスカラー倍として表すことができないということを示しています。

この【命題1】から、次の命題を導きます。

これは、抽象ベクトルについての一次独立になります。

さらに命題を証明

【命題2】

練習問題の数列 {an}, {bn} について、
(x, y) = (0, 0) を除いて、
xan+ybn = 0 (n = 1, 2, …) を満たす実数 x と y の組は存在しない。


<証明>

xan+ybn = 0 (n = 1, 2, …) を満たす実数 x と y のうち、x が 0 でなかったと仮定します。

すると、
an = -x-1ybn (n = 1, 2, …) となります。

これは、数列 {an} を数列 {bn} のスカラー倍として表すことができるということを示しています。

しかし、【命題1】より、数列 {an} を数列 {bn} のスカラー倍として表すことはできないので矛盾です。

このため、背理法から、
x = 0 となります。

よって、
ybn = 0 (n = 1, 2, …) となります。

b1 = 4 だったので、
4y = 0 です。

そのため、y = 0 です。

(x, y) = (0, 0) のときは、
xan+ybn = 0 (n = 1, 2, …) が成立します。

したがって、
(x, y) = (0, 0) を除いて、
xan+ybn = 0 (n = 1, 2, …) を満たす実数 x と y の組は存在しないということを示せました。【証明完了】

この【命題2】は、数列という実数値関数を抽象ベクトルとして考えたときに、数列 {an} と数列 {bn} が一次独立ということを示しています。

大学で線形代数学を学習したときに出てくる内容でしたが、係数比較の謎を解き明かすために、踏み込んで解説をしました。

係数比較の謎を解明

(3+2s-t)an+(1+4s-st)bn = 0
(n = 1, 2, 3, …)


上で述べた練習問題の解答で、この状態から、突然に係数比較を行いました。

なぜ係数比較ができるのかということの謎は、【命題2】から解明できます。

(x, y) = (0, 0) を除いて、
xan+ybn = 0 (n = 1, 2, …) を満たす実数 x と y の組は存在しないというのが【命題2】です。

x として 3+2s-t,
y として 1+4s-st を考えます。

すると、
x = 0, y = 0 しか可能性がなく、
3+2s-t = 0,
1+4s-st = 0 となるわけです。

この【命題1】から【命題2】を導くまでの過程を省略して、「係数比較より」の一言で述べていたということです。

高校数学Bの連立漸化式の解法で、省略されている部分を理解すると、大学の線形代数学や微分積分学で使われる抽象ベクトルの内容への扉が開くという流れになっています。

連立漸化式に関連する高校数学の記事を置いておきます。

特性方程式という記事で隣接二項間漸化式と隣接三項間漸化式について解説をしています。

また、一次分数型の漸化式という記事も投稿しています。

恒等的に等しいということに関する数IIの内容については、定点を通る直線が良い練習になるかと思います。

それでは、これで今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。