商空間 | 線形代数について剰余類を考える【有限次元のときのV/Wの次元】

体K上の線形代数Vと、その部分空間Wで「 商空間 V/W」を考えます。

Vが有限次元のとき、部分空間Wの基底を延長してVの基底とすることによって、商空間V/Wの次元を求めることができます。

剰余類(同値類)の定義から始めて、きっちりと議論を組み立てることで、線形代数の復習をしつつ、剰余群や剰余環の復習にもなるので、線形代数(ベクトル空間)の商空間は良い学習の機会になるかと思います。

dim V/W = dim V - dim W を直和の考え方から導きます。

商空間 :二項関係の定義から

体K上の線形代数(ベクトル空間)をVとします。次元についての等式を考えること以外は、無限次元のときでも内容は同じです。

なお、1 を体Kの乗法についての単位元とします。この 1 の K における加法についての逆元が -1 です。

ベクトル空間の公理の内容からVが加法群となっているので、加法群についての剰余類を定める二項関係の定義から議論を始めます。

WをVの部分空間とするとき、V上の二項関係~を次のように定義します。

x, y ∈ V について、
x-y ∈ W となっているときに、x~y と定義します。

この~は、Vにおける同値関係となっています。このことを確かめると、加法群についての剰余群についての良い復習になります。

任意の v ∈ V に対して、
v-v = 0 ∈ W となっているので、v~v です。

これで、反射律を満たすことが確認できました。

また、x~y (x, y ∈ V) ならば、
x-y ∈ W なので、-(x-y) ∈ W です。

-(x-y) = y-x なので、
y-x ∈ W となっています。

~の定義から、y~x ということになります。

対称律も満たすことが確認できました。

推移律の確認は、もう少し議論が長くなりますが、省略せずに、きっちりと証明します。

推移律の確認

x~y かつ y~z (x, y, z ∈ V) とします。

今、x-y ∈ W, y-z ∈ W となっています。

WはVの部分空間なので、Vの加法について閉じています。

よって、
x-z = (x-y)+(y-z) ∈ W です。

~の定義から、x~z です。これで、推移律を満たすことも確認できました。

以上から、~は反射律、対称律、推移律を満たすので、Vにおける同値関係ということが分かりました。

~は同値関係なので、Vを剰余類たちに分類することができます。

x ∈ V について、x+W で x を含む同値類を表すことにします。

x+W = y+W (x, y ∈ V) ということは、x~y と同値になります。

また、{x+w | w ∈W} = x+W となっています。

商空間 :剰余群にスカラー倍を定義

~についてのVにおける同値類全体を V/W とします。

x+W, y+W ∈ V/W について、
(x+W)+(y+W) = (x+y)+W と二項演算を定義します。

この演算は、同値類の代表元の取り方に依らずに矛盾なく定義できています。

矛盾なく定義できていることを確認します。

x+W = a+W, y+W = b+W とすると、
ある s, t ∈ W が存在して、
x = a+s, y = b+t となります。

よって、
(x+y)-(a+b)
= (a+s+b+t)-(a+b)
= s+t ∈ W

これは、(x+y)~(a+b) ということなので、
(x+y)+W = (a+b)+W です。

群論の入門で学習する加法群についての剰余群への二項演算の定義と同じ要領で矛盾なく定義できていることを確認することができました。

また、Vにおける加法は可換なので、定義したV/Wにおける「+」は可換であることが分かります。

実際、x, y ∈ V について、
(x+W)+(y+W) = (x+y)+W
= (y+x)+W = (y+W)+(x+W) となっています。

これで、V/Wにおいて定義した二項演算が可換であることが分かりました。

0 ∈ V は、任意の x ∈ V に対して、
(0+W)+(x+W) = (0+x)+W
= x+W となっています。

同様に、
(x+W)+(0+W) = x+W です。

このため、0+W が V/W における単位元となっています。

また、
(x+W)+(-x+W) = (x-x)+W = 0+W です。

このため、x+W の逆元が -x+W となります。

したがって、逆元の存在も示せました。

結合律を確認します。

任意の x, y, z ∈ V に対して、
((x+W)+(y+W))+(z+W)
= ((x+y)+W)+(z+W)
= ((x+y)+z)+W
= (x+(y+z))+W
= (x+W)+((y+z)+W)
= (x+W)+((y+W)+(z+W))

これで、結合律も確認できたので、V/Wは「+」について加法群となっています。

次に加法群V/Wに体Kからのスカラー倍を定義します。

矛盾なくスカラー倍

k ∈ K, x ∈ V とします。

K×V/W → V/W を、
(k, x+W) → (kx)+W と定義したいところです。

加法のときと同じく、この体Kからのスカラー倍が矛盾なく定義できているのかを確認します。

x+W = a+W とすると、
ある s ∈ W が存在して、
x = a + t と表すことができます。

この両辺に k ∈ K を作用させると、
kx = ka + kt となります。

ここで、Wは部分空間なので、体Kからのスカラー倍で閉じています。

よって、t ∈ W より kt ∈ W となっています。

ゆえに、kx-ka = kt ∈ W

~の定義から、kx~kt なので、
kx+W = ka+W です。

これで、x+W = a+W のときに、
kx+W = ka+W となることが示せたので、
体KからV/Wへの作用が矛盾なく定義できていることが分かりました。

つまり、
k(x+W) = kx+W という作用が、代表元の取り方に依らず矛盾なく定義できています。

1 ∈ K と任意の x ∈ V に対して、
1(x+W) = 1x+W = x+W なので、体Kの乗法単位元の作用は恒等的となっています。

また、任意の k, k’ ∈ K と任意の x ∈ V に対して、
(k+k’)(x+W) = ((k+k’)x)+W
= (kx+k’x)+W
= (kx+W)+(k’x+W) となっています。

0 ∈ K を体Kにおける加法単位元とすると、
0+0 = 0 ∈ K です。

このことから、
0(x+w) = (0+0)(x+W)
= (0x+W)+(0x+W)
= 0(x+W)+0(x+W) です。

0(x+W) の加法逆元 -0(x+W) を両辺に加えると、
0+W = 0(x+W) となっています。

このように確認することで、V/Wに定義した加法「+」と体Kからのスカラー倍についてベクトル空間の公理(定義)を満たすことが分かります。

このベクトル空間V/Wのことを商空間といいます。

以前に加群の定義というブログ記事を投稿しました。

体Kを環Rとして、同様の議論をすることで、加群についての剰余加群が理解できます。

商空間 :次元について

ここからは、体K上の線形代数Vの次元を有限次元とします。

有限次元の線形代数についての「部分空間の基底の延長定理(補充定理)」と直和の内容から、商空間の次元を求めます。


体K上の有限次元の線形代数をVとし、Vと異なるVの部分空間をWとします。

{x1, … , xm} をWの基底とし、この基底を延長します。

{x1, … , xm, y1, … , yn} が延長されてできたVの基底とします。

ここで、{y1, … , yn} によって生成されるVの部分空間をTと置くことにします。

基底の延長定理の証明から、
V = W ⊕ T = T ⊕ W と直和に分解しています。

任意の x ∈ V について、ある t ∈ T と w ∈ W が存在して、
x = t + w と一意的に表すことができます。

w ∈ W に対して、
w+W = 0+W となっています。

このことから、
x+W = (t+w)+W
= (t+W)+(w+W)
= (t+W)+(0+W)
= t+W となっています。

そして、この t ∈ T は、y1, … , yn たちの一次結合で一意的に表すことができます。

以上より、商空間V/Wは、
{y1+W, … , yn+W} によって生成されていることが分かりました。

{y1+W, … , yn+W} が一次独立であることを示せば、商空間の基底ということになります。

そうすると、
dim V/W = dim V - dim W ということになります。

延長定理の証明を基に

{x1, … , xm} というWの基底を延長してVの基底としました。

延長定理の証明は、V ≠ W なので、
{x1, … , xm} の一次結合で表すことができない V の元を一つ取り、それを y1 としました。

順に、{x1, … , xm, y1, … , yi} で生成することができないVの元が存在すれば、それを一つ取り、yi+1 ということを繰り返します。

Vが有限次元なので、この操作が有限回で止まります。

このようにして、
{x1, … , xm, y1, … , yn} を V の基底としました。

Kyi = {kyi | k ∈ K} と置きます。

yi という一つの元で生成されている部分空間が Kyi です。

基底の延長定理の証明から、
Ky1 ⊕ … ⊕ Kyn ⊕ W となっています。

このため、V = T ⊕ W と先ほど表しました。

T = Ky1 ⊕ … ⊕ Kyn です。

この内容を押さえた上で、
{y1+W, … , yn+W} が一次独立であることを確認します。

k1, … kn ∈ K について、
k1(y1+W)+…+kn(yn+W) = 0+W となっていたとします。

背理法で、一次独立となっていることを示します。

もし、k1, … kn の中に、少なくとも一つ 0 でない元があったとします。

そのとき、ki ≠ 0 である最小の自然数を i = j と置きます。

すると、
kj(yj+W)+…+kn(yn+W) = 0+W となっていることになります。

つまり、
(kjyj+W)+…+(knyn+W) = 0+W です。

(kjyj+…+knyn)+W = 0+W より、
kjyj+…+knyn ∈ W です。

kj ≠ 0 より、
kjyj+…+knyn ≠ 0 です。

これは、
Tの 0 でない元がWの元を用いて表されたことになります。

すると、V = T ⊕ W だったことに矛盾です。

よって、背理法から、「k1, … kn の中に、少なくとも一つ 0 でない元があった」ということの否定が成立します。

つまり、k1, … kn は全て 0 ということになります。

論理記号という記事で、先ほど述べた∀(任意の)や∃(存在する)の否定について解説をしています。

それでは、これで、今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。

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