解の存在範囲 | 二次方程式の解について、どの条件を記述するか【無駄な条件の選別ついて解説】
二次方程式の" 解の存在範囲 “についての問題が、高校一年の数学Iで扱われます。
判別式 D, f(t) の値, 軸などの条件を考えて不等式を解くわけですが、問題によって、条件を記述したり、記述しなかったりします。
ある問題では「判別式 D > 0」と模範解答に記述されているのに、他の問題では一切、判別式について記述されていないといったことを目にするかと思います。
数学では不必要である無駄な条件を省きますが、必要不可欠な条件を省いてしまうと、内容がおかしくなってしまいます。
これに関する論理的な判断の方法を、解説します。
グラフを用いた図のイメージによる記述と、数学の論理規則の両輪で、無駄な条件を省き不可欠な条件に絞った記述答案を作成できるように、日頃からトレーニングをしておくことが大切になる単元です。
では具体的な練習問題を使って、二次方程式の解の存在範囲について解説をします。
解の存在範囲 :条件を記述するかどうか
【練習問題】
x2-4ax+3a = 0 という x についての二次方程式の解について、次の条件を満たす解をもつように定数 a の範囲を定めてください。
(1) 1 より大きい異なる二つの実数解をもつ
(2) 1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ
(1) と (2) で答案に記述する条件に違いが出ます。
先に記述答案で図を使って答えとする内容について述べ、条件の記述の是非について後で論理規則を解説します。
グラフを描くと「図より」の一言で記述量を大幅に減らせるときがあり、視覚的にもイメージしやすいため、グラフで図示することは大切です。
その一方で、図から主観的な判断で誤解が生じるというリスクもあります。解の存在範囲では、このリスクの部分が顕著です。
この【練習問題】のように、出題者からすると、適当に係数を設定すると簡単に問題が作れます。
ですので、表面的なパターン暗記の類では、どの条件を記述すべきか分からずに、無駄な条件まで記述してしまって大幅な減点となってしまうかもしれません。
本質は無駄な条件を記述してしまっているのかどうかを判断する力になるので、基礎となる数学の論理に照らして判断する習慣をつけておくことが大切になります。
記述答案をまずは眺めて見る
【(1)の記述答案】
図より、与えられた二次方程式の判別式を D とすると、
D > 0 …①
f(1) > 0 …②
軸 x = 2a > 1 …③
すなわち、
D/4 = 4a2-3a > 0 …①
f(1) = 1-a > 0 …②
軸 2a > 1 …③
①かつ②かつ③という連立不等式を解くと、
3/4 < a < 1 が求める a の範囲となります。
(2) では、無駄な条件を省いてクイックな記述答案になります。
【(2)の記述答案】
図より、f(1) < 0
つまり、1-a < 0 より、
a > 1 が求める a の範囲です。
判別式や軸についての条件が (2) では、全く記述されていません。
この条件を記述するか記述しないかの「ちがい」を判断したいところです。
「図より」の一言で論理を記述しないので、図だけで判断しているようにも思えますが、図だけだと主観的な誤解が起きるかもしれません。
そこで、背後の論理規則について、これから解説します。
解の存在範囲 :吸収律という推論規則
(2) で無駄を省いた端的な記述を述べました。
どうして判別式と軸についての不等式条件が無駄なのかということに関わる推論規則を説明します。
【吸収律】
「条件 p ならば条件 q 」が真であるとする。
このとき、
「条件 p かつ条件 q」は条件 p と同じである。
(2) の方は、この吸収律が使える状態になっています。
f(1) = 1-a < 0
つまり、a > 1 …④ となっていなければならないことが図から分かります。
ただ、図を見ると、二次関数のグラフが x 軸と異なる二点で交わっているので、二次方程式の判別式が正となっています。
ここで、判別式 D > 0 が成立しているので記述答案に記述したくなってしまうかもしれません。
そこで、図だけでなく論理でも確認をします。
判別式 D > 0 を同値変形をすると、
a(4a-3) > 0 です。
つまり、
「a < 0 または 3/4 < a」が D < 0 と同値です。
「a < 0 または 3/4 < a」かつ ④"a > 1″の a の範囲を調べてみます。
すると、a > 1 です。
これは ④ の範囲と同じです。
これは、
「④"a > 1″ ならば「a < 0 または 3/4 < a」」という状況で、共通部分を取ったので、吸収律から結局は④の範囲となったからです。
※ 「④"a > 1″ ならば「a < 0 または 3/4 < a」」は図からも、f(1) が 負だと判別式 D が正ということが読み取れます。
吸収律で消えてしまう条件なので、論理規則から無駄と判断するわけです。
これで、D < 0 が (2) では全く記述されなかったことが分かりました。
軸 2a > 1 が記述されていないのは、吸収律とは別の議論です。
吸収律の判断をする前に、そもそも必要条件の範囲内から外れている条件です。
(2)「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ということから導かれる条件について連立不等式とするかどうかで、吸収律を使って無駄を省くかどうかを確認することになります。
図を描いて考えてみると、
軸 2a ≦ 1 であったとしても「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ということが起こり得ることが分かります。
そのため、「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ための必要条件ではないので、(2) については軸に関する条件は、論外な条件というわけです。
判別式 D > 0 については、「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ということから導かれているので、連立不等式を考えるかどうかを判断しました。
結果として吸収律から無駄ということで判別式 D についての不等式条件を記述しませんでした。
記述しないといっても、軸については、レベルが違います。
『「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ならば 軸 2a > 1』は偽。
『「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ならば 軸 2a = 1』は偽。
『「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ならば 軸 2a < 1』は偽。
導かれない条件は、そもそも論外ということです。
グラフの図形情報は大切
(2) の記述答案を上で述べたときに、「図より」と記述して、図を提示していました。
先ほどは吸収律に焦点を当てて解説をしましたが、論理だけで図を軽視していると誤解しないように注意です。
論理的に図は、重要な情報を与えています。
(2)「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ならば、
④"a > 1″が真ということは上で述べた通りです。
D > 0 も成立しているけれども、
「④ かつ D > 0」が吸収律から④と同値ということで、判別式の方の不等式が記述しないということです。
判別式についての不等式条件を記述しないということは分かりましたが、④ の他に条件を付け加えなくても良いのかという疑問が残っています。
実は、『④ ならば「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」』という逆も成立していて、④ は (2) であるための必要条件であり、十分条件にもなっています。
a > 1 …④ ならば、「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ということを、さらに証明しようとすると大変です。
そこで、役立つのが、グラフを図示て、「図より」としているわけです。
複雑な不等式の計算や論理を記述しなくても、④ の f(1) の値が負ということを図で表すと、二次関数のグラフの概形から、「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ということが明確に図形情報として示されています。
ここまで理解すると、
f(1) < 0 つまり、「a > 1」が、
x2-4ax+3a = 0 という x についての二次方程式の解について、「1 より小さい解と 1 より大きい解をもつ」ための必要十分条件と分かります。
必要十分条件だから、a > 1 の他に付け加える条件は無いということです。
※ 必要条件・十分条件という記事で、論理についての基礎的な内容を解説しています。
解の存在範囲だけではなく、数学全般についての基本姿勢を知っておくと、落ち着いて考察を進めることができると思いますので、それを述べておきます。
【数学の基本姿勢】
・必要条件を求める
・無駄な条件を省く
・十分条件まで絞り込む
解の存在範囲についての問題は、まさに、この流れに沿っています。
(2) は、必要条件を求めてから、次の無駄な条件を省くという過程で吸収律が使えたということです。
これで、(2) についての解説は完結しました。次に (1) の方を解説します。
(1) については、必要条件となっている条件たちについて、吸収律によって消滅しない条件たち全てで「かつ」としています。
解の存在範囲 :十分条件までの詰め
x2-4ax+3a = 0 という x についての二次方程式の解について、(1)「1 より大きい異なる二つの実数解をもつ」ための a についての必要十分条件を求めるということでした。
図を描いて考察すると、
D > 0 …①
f(1) > 0 …②
軸 x = 2a > 1 …③
が得られました。
「(1) ならば ①」、「(1) ならば ②」、「(1) ならば ③」は、すべて成立しています。
各条件について、吸収律から消滅するということは起こらない状況です。
これを正確に確かめてみます。
①、②、③ の不等式を同値変形すると、
a < 0 または 3/4 < a …①’
a < 1 …②’
1/2 < a …③’ となります。
「①’ ならば ②’」は偽、
「②’ ならば ①’」は偽という状況になっています。
※ いずれも反例が存在します。
図を見ても分かりますが、①’ が成立しているからといって、②’ が成立するわけではありません。また、②’ が成立しているからといって、①’ が成立するわけではありません。
②’ と ③’、さらに ③’ と ①’ についても同じことが分かります。
そのために、一つの条件が、他の一つの条件に内包されているということが起きていません。
そのため、(2) のように吸収律で消滅する無駄な条件がありません。
したがって、
「(1) ならば①’かつ②’かつ③’」となっています。
これで、(1)「1 より大きい異なる二つの実数解をもつ」ための必要条件が求まりました。
今度は、これが十分条件ということを示したいわけです。
そこで、図を確認します。
①’かつ②’かつ③’ は、
D > 0 …① かつ
f(1) > 0 …② かつ
軸 x = 2a > 1 …③ と同値でした。
この状況で図を見ると、x 軸と 1 よりも右の部分の二か所で交わっているわけです。
つまり、「1 より大きい異なる二つの実数解をもつ」ということになり、図から十分条件が確認できるというわけです。
以上の確認から、
①’かつ②’かつ③’が必要十分条件なので、この連立不等式の範囲を求めると、それが求める a の範囲ということになります。
解の存在範囲の問題は、論理と不等式の同値変形だけで記述をすると、とても長い記述量になります。
そこで、グラフを図示して、「図より」と述べることが効果的となります。
ただ、図だけだと、主観的な誤解をしてしまうこともあるので、論理や不等式の計算と照らし合わせて吟味することが大切になります。
まとめ
解の存在範囲の問題を正解するためには、図と論理と計算で着実に考察することが大切になります。
・まず必要条件を求める
・吸収律で消滅する条件を省く
・十分条件まで絞り込む
この流れで、それぞれの問題をしっかりと考察することが、遠回りのようで、着実かと思います。
練習問題でトレーニングをしていると、慣れてきます。
そんなときに、うっかりと経験から早とちりで勘違いをするかもしれません。
必要不可欠な条件が足りているか、無駄な条件を記述していないかを検証しながら答案を作成することになります。
だからこそ、解の存在範囲は数学らしい問題かと思います。
関連する基礎となる内容として、平方完成の計算があります。
計算を速く正確にする練習をしつつ、解の存在範囲のような論理的な考察をトレーニングするのが良いかと思います。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。