一意分解整域 | 単元倍を除いて分解が一意的であることから、既約元が素元であることを証明
一意分解整域 (素元分解整域)においては、既約元は素元です。
このことを証明するために、分解が単元倍を除いて一意的であることを示します。
零でなく単元でもない元は、素元の積として単元倍を除いて一意的に表されるという状況下において、既約元や素元の定義を考えます。
すると、既約元が素元であることが、自ずと明らかになります。
このブログ記事では、可換環 R は乗法単位元 1 をもつ整域としています。
一意分解整域 :定義の確認
整域 R において、任意の 0 でも単元でもない元が、素元の積として表されるとき、R を一意分解整域といいます。
単元は、R において定義されている乗法について、逆元をもつ元のことです。
素元と既約元の定義は、次のようになっています。
【素元の定義】
ブログ素元 既約元より
a ∈ R が 0 でも単元でもないとする。
そして、「a|bc (b, c ∈ R) ならば a|b または a|c」が成立するとき、a を R における素元という。
【既約元の定義】
a ∈ R が 0 でも単元でもないとする。
そして、「a = bc (b, c ∈ R) ならば b または c が単元である」ということが成立するとき、a を R における既約元という。
x ∈ R が、0 でも単元でもないときに、
x =up1p2…pn(u は単元、pi は素元)と表されるということです。
整数環についての素因数分解を一般化したものが、一意分解整域です。
整数環については、素元と既約元が同じであることをリンク先の記事で示しています。
※ 整域において、素元は既約元ということを示しています。
先頭の単元 u について、単元倍のズレということも考えられます。
例えば、複素係数の多項式で単元倍のズレを見てみます。
このように、
x + 1 = 3(3-1x + 3-1) と単元倍を使って書き換えられるときもあります。
ただし、この単元倍を除いて、素元たちの積を用いた分解は一意的であることが証明できます。
この記事では、一意分解整域に既約元が素元と一致しているということを示すことを目指します。
※ 整域において、「素元ならば既約元」ということは成立します。
ここで、単元についての性質を導いておきます。
単元についての補題
【補題】
可換環 R を乗法単位元 1 をもつ整域とする。
x1, … , xr ∈ R に対して、
積 x1…xr が単元ならば、各 xi は単元である。
<証明>
r = 1 のときは、x1 が単元なので、成立しています。そのため、r が 2 以上だとして、議論を進めます。
x1…xr が単元という仮定から、
この積の逆元 y ∈ R が存在し、
(x1…xr)y = 1 となります。
ここで、可換環 R の一般結合律と交換律から、
各 i (1 ≦ i ≦ r) について、
1 = (x1…xr)y =
xi(x1…xi-1xi+1…xry) です。
よって、x1…xi-1xi+1…xry は xi の乗法逆元です。【証明完了】
では、素元分解の一意性を証明します。
一意分解整域 :分解の一意性証明
【定理1】
u, v を R の単元とし、pi, qj を R の素元とする。
このとき、up1…pr = vq1…qs ならば、各 i について、q1, … , qs を適当に並び替えて番号をつけ替えると、qi は pi の単元倍である。
ただし、r は 1 以上とする。
<証明>
r = 0 とすると、u = vq1…qs
u は単元なので、vq1…qs は単元です。
【補題】より、各因子たちは単元となります。
一方、素元の定義から、素元は単元ではないので、s = 0 でなければなりません。
したがって、r = 0 のときは、u と v が同じ単元ということです。そのため、ただし書きで、r が 1 以上としています。
以下、r についての帰納法で、この命題を示します。
u-1v = x と置くと、p1…pr = xq1…qs
p1 について、ある qi は qi ∈ Rp1 となっています。
実際、もし、q1 が Rp1 に含まれていないとすると、p1 が素元なので、
xq2…qs ∈ Rp1 となります。
x は単元なので、
q2…qs ∈ x-1Rp1 ⊂ Rp1
p1 は素元なので、
ある i について、qi ∈ Rp1
はじめに、q1 が Rp1 に含まれていないとしましたが、含まれていたら、i = 1 とします。
いずれにせよ、
ある i について、qi ∈ Rp1
ここで番号をつけ替えます。
qi = q1′, 残りを q2′, … , qs’ と表すことにします。
今、q1′ ∈ Rp1 なので、ある a ∈ R が存在して、q1′ = ap1 です。
R は整域なので、素元は既約元だから、q1′ は既約元です。
既約元の定義から、a または p1 は単元であり、p1 は素元なので単元ではないため、a が単元となります。
よって、
p1…pr = xq1…qs = xa-1q1′q2′…qs’
r = 1 の場合、s = 1 となります。
もし、s ≧ 2 だとすると、p1 = a-1q1′ だから、
a-1q1′ = xa-1q1′q2′…qs’ です。
つまり、xa-1(1-q2′…qs’) = 0
x, a-1 は単元なので、xa-1 ≠ 0 であり、R が整域だから、1 = q2′…qs’
1 は単元なので、【補題】から、q2′ が単元となります。
しかし、既約元 q2′ は単元でないので矛盾です。そのため、s = 1 でなければなりません。
rが2以上の場合
r ≧ 2 の場合を考えます。
同様に、
a-1q1′p2…pr = xa-1q1′q2′…qs’
つまり、
xa-1(p2…pr-q2′…qs’) = 0
xa-1 ≠ 0 であり、
R が整域だから、p2…pr = q2′…qs’
よって、帰納法から、各 j (2 ≦ j ≦ r) について、qj’ は pj の単元倍であり、r = s’ となります。
q1′, … , qs’ は q1, … , qs を並び替えて番号をつけ替えたものなので、r = s【証明完了】
素元分解の一意性を用いて、一意分解整域において既約元が素元であることを導きます。
既約元や素元の定義から、すぐに導かれます。
一意分解整域 :既約元が素元である証明
【定理2】
一意分解整域 R において既約元は素元である。
<証明>
a ∈ R を既約元とします。
すると、既約元は 0 でも単元でもないので、【定理1】によって、素元の積の形に単元倍を除いて一意的に分解されます。
すなわち、
a = p1p2…pr(各 pi は素元)
ここで、r ≧ 2 だと仮定します。
a が既約元なので、既約元の定義から、
p1 または (p2…pr) が単元となります。
素元の定義から、p1 は単元でないので、
(p2…pr) が単元となります。
すると、
【補題】より、p2, … , pr が単元となります。これは、素元が単元でないことに矛盾です。
よって、背理法から、r = 1 となります。
すなわち、a = p1(p1 は素元)
これで、既約元 a が素元であることが示せました。【証明完了】
素元分解の一意性から、既約元が素元であることが導かれました。
ここで、役に立った一意分解整域における分解の一意性ですが、逆に分解の一意性を仮定すると、R が一意分解整域であることが導けることを証明します。
逆を考えるのも大切
【定理3】
可換環 R を乗法単位元 1 をもつ整域とする。
このとき、R の任意の 0 でも単元もない元が、単元倍を除いて既約元の積の形に一意的に表すことができるならば、R は一意分解整域である。
<証明>
仮定より、既約元が素元であることを示せば、R が一意分解整域ということが示せたことになります。
x ∈ R を既約元とします。そして、Rx という x の倍元全体から成るイデアルを考えます。
ab ∈ Rx とすると、ab は x の倍元です。よって、ある t ∈ R が存在して、ab = tx
この a と b を仮定によって、既約元の積の形に分解します。
a = up1p2…pr,
b = vq1…qs
ここで、u, v は単元で、pi, qj は既約元です。
今、uvp1p2…prq1…qs は x の倍元となって、
(uv)-1tx = p1p2…prq1…qs
ここで、p1p2…prq1…qs を y と置きます。
t の既約元による分解を
t = hz1…zk(h は単元で zj は既約元)とすると、
p1p2…prq1…qs = y
= ((uv)-1h)z1…zkx
ここで、仮定より、y についての既約元の積への分解の一意性から、既約元 x は、
p1, p2, … , pr, q1, … , qs のいずれかに等しいことになります。
x = pi とすると、
a = up1p2…pr
= uup1…pi-1xpi+1…pr ∈ Rx
x = qj とすると、
同様にして、b ∈ Rx
すなわち、a が x の倍数、または b が x の倍数ということを示しています。
よって、素元の定義が確認できたので、x は素元です。【証明完了】
以上より、一意分解整域において、既約元は素元と一致していて、
「【定理1】ならば【定理3】」と「【定理3」ならば【定理1】」が導けました。
実は、単項イデアル整域を一般化したものが一意分解整域です。
ここからは、このことを示します。
単項イデアル整域は一意分解整域
乗法単位元 1 をもつ可換環 R の元を a と b とします。また、b は 0 でないとします。
a が b の倍元(b が a の約元)となっているとき、ある c ∈ R が存在して、a = cb と表すことができます。
このとき、Ra, Rb というイデアルを考えます。Ra は a の倍元全体で、a 一元で生成されている単項イデアルです。
Rb も同じく b で生成されている単項イデアルです。
a = cb (∃c ∈ R) ということは、Ra ⊂ Rb と同値です。
実際、a = cb (∃c ∈ R) とすると、
Ra = Rcb = (Rc)b ⊂ Rb
逆に、Ra ⊂ Rb だとすると、R は 1 をもつため、
a ∈ Ra ⊂ Rb です。
このため、ある c ∈ R が存在して、
a = cb となります。
この倍元と約元の関係についてのイデアルを用いた言い換えですが、c が単元でないときのことを考えてみます。
単元とは、0 でない R の元で、乗法逆元をもつもののことです。
【命題1】
a, b, c ∈ R について、b は 0 でなく c が単元でないとする。
そして、a = cb となっていたとする。
このとき、Ra は Rb に真に含まれる。
<証明>
もし、Ra = Rb だと仮定します。
すると、b ∈ Ra より、
ある r ∈ R が存在し、b = ra と表すことができます。
a = cb なので、b = r(cb) = (rc)b
右辺を左辺に移項すると、R が 1 をもつことから、b(1 - cr) = 0
b ≠ 0 であり、
R が整域なので、1 - cr = 0
つまり、cr = 1 ということになります。
しかし、これは c が単元であるということになり、c が単元ではないということに矛盾します。
ゆえに、背理法から、Ra は Rb と等しくないということになります。
a = cb なので、Ra ⊂ Rb となっていることと合わせると、Ra は Rb に真に含まれているということになります。【証明完了】
単項イデアル整域が素元分解整域であることの証明で、この【命題1】の内容を使って、単項イデアルの上昇列を考えます。
ちなみに、a ∈ R について、イデアル Ra が 1 を含むと、a が単元ということになります。
包含関係について
R を乗法単位元 1 をもつ可換環とし、M を R とは異なる R のイデアルとする。
このとき、M を含む R のイデアル全体の中に、包含関係について極大なイデアル N が存在する。
ただし、M が R の極大イデアルであるときは、M 自身を N とする。
<証明>
M を含む R と異なる R のイデアルをすべて集めたものを I とします。
この I は、包含関係を順序として、帰納的です。
T ⊂ I を任意の全順序部分集合系とすると、T に属するイデアルすべての和集合は、R と異なる R のイデアルとなるからです。
実際、T に属するイデアルすべての和集合を∪λWλ とすると、1 ∈ R は、この和集合に含まれません。
1 ∈ ∪λWλ とすると、和集合の定義から、ある μ が存在して、1 ∈ Wμ
Wμ は 1 を含む R のイデアルなので、Wμ が R と一致してしまいます。これは、Wμ が R と異なる R のイデアルであったことに反してしまいます。
そのため、1 が ∪λWλ に含まれないため、この和集合が R とことなる R のイデアルということになります。
※ イデアルの定義の確認は、後で同じような証明をするため、省略します。T が全順序であることから、加法で閉じていることが示せます。
よって、∪λWλ が T の上界となっていることが確認できました。任意の全順序部分集合系が上に有界なので、ツォルンの補題から、I には極大元が存在します。
この N ∈ I が求める包含関係についての極大なイデアルです。【証明完了】
導き出した N ですが、R における極大イデアルかどうかは定かではないので注意です。
示したい定理の前に、定義を再確認しておきます。
素元分解整域(一意分解整域)の定義は、任意の 0 でも単元でもない元 a が、
a = up1p2…pn と単元 u と 素元 pi たちを用いて表せるということです。
この素元による分解は、単元倍を除いて一意的です。
a 自身が素元のときは、
a = 1a を a の素元分解とします。
では示したい定理の証明です。
示したい定理
【定理】
零環ではない乗法単位元 1 をもつ可換環を R が整域とする。
R が単項イデアル整域ならば、R は素元分解整域(一意分解整域)である。
<証明>
背理法で示します。
もし単項イデアル整域 R において、0 でも単元でもない元で、素元の積に分解しない a ∈ R が存在したとします。
a が素元だと、a = 1a と素元分解されていることになるので、この a は素元ではありません。
Ra = R とすると、ある r ∈ R が存在して、
ra = 1 となり、a が単元でないことに反します。
よって、Ra ≠ R となっています。
【命題2】より、
Ra を含む R と異なる R のイデアルの中で、極大なイデアル N1 が存在し、Ra ⊂ N1
今、R が単項イデアル整域なので、N1 が一元で生成されています。その N1 の生成元を b1 とします。
Rb1 = N1 ≠ R なので、b1 は単元ではありません。(b1 が単元だとすると、Rb1 の中に 1 が含まれてしまい、N1 が R と異なることに反します。)
また a が 0 でないため、b1 も 0 ではありません。
a ∈ N1 = Rb1 より、ある c1 ∈ R が存在して、
a = c1b1 … (1)
今、単項イデアル整域において、a が素元でないので、a は既約元ではありません。
c1 が単元だとすると、a1 が単元ではないので、(1) から、a が既約元ということになってしまいます。a は既約元でないため、c1 は単元ではないということになります。
また、(1) から a が 0 でないため、c も 0 ではありません。
(1) から、【命題1】より、Rb1 と Rc1 は、どちらも Ra を真に含む R と異なるイデアルです。
b1 と c1 の両方ともが素元の積に分解したとすると、(1) から a が素元の積に分解することになってしまいます。
そのため、b1 か c1 のうち、少なくともいずれか一方は素元の積に分解しないことになります。
その素元の積に分解しない方を a1 と置きます。(どちらも素元分解されていないときは、どちらを a1 としてもかまいません。)
Ra ⊂ Ra1 で、Ra1 は真に Ra を含んでいて、a1 は素元の積に分解しない 0 でも単元でもない元という状況です。
ここまでの議論を繰り返すことで、
Ra ⊂ Ra1 ⊂ Ra2 ⊂ … という上昇列が作られます。
各 ak について、Rak は Rak+1 に真に含まれていて、ak たちは素元の積に分解しない 0 でも単元でもない元です。
ここで、A = ∪kRak と、上昇列に現れたイデアルたちの和集合をとります。
A は R のイデアルとなっていることが分かります。イデアルになっていることの確認は、後で述べることにします。
R が単項イデアル整域であることから、A は一元で生成されています。その生成元を x と置くことにします。
つまり、Rx = A = ∪kRak です。
x ∈ A なので、和集合の定義から、ある自然数 t が存在して、x ∈ Rat
よって、
Rx ⊂ R(Rat) = (RR)at ⊂ Rat
一方、Rx = A ⊃ Rat だから、
A = Rx = Rat
上昇列の作り方から、Rat+1 は Rat を真に含んでいるため、
A = ∪kRak ⊂ Rat+1 と Rat+1 が 和集合 A を真に含むことになります。
これは、矛盾です。
よって、背理法から、単項イデアル整域 R において、0 でも単元でもない元で、素元の積に分解しない a ∈ R が存在しないことが示せました。【証明完了】
この証明で、A = ∪kRak がイデアルであることを使いました。
包含関係についての極大なイデアルのときに、同じような状況でイデアルとしていたので、念のために確認しておきます。
y ∈ A = ∪kRak, r ∈ R とします。
和集合の定義から、
ある自然数 s が存在し、y ∈ Ras
よって、
ry ∈ r(Ras) = (rR)as ⊂ Ras
また、y, z ∈ ∪kRak とすると、ある自然数 s, s’ が存在して、y ∈ Ras, z ∈ Ras’
s ≦ s’ の場合は、y, z ∈ Ras’ より、
y + z ∈ Ras’ ⊂ A
s’ ≦ s の場合は、y, z ∈ Ras より、
y + z ∈ Ras ⊂ A
いずれの場合にも、y + z ∈ A となっています。
これで、A がイデアルであることが確認できました。
これで、今回のブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。