自由群 – 語 | 有限の長さの語をつなげるということを二項演算とする
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" 語 (ワード)" で" 自由群 “が定義されます。
空でない集合 Λ によって添数づけられた文字たちを左から右に有限個だけ並べるということから代数構造を考えます。
自由群という群の構造を導入するまでの厳密な証明は大変ですが、ほど良く全体の流れが分かるように述べることにします。
並べる文字は有限個なので、有限回の操作です。
しかし、そのようにして作られる語は、自然数が永遠に続くために無限個できます。
このため、厳密な証明には数学的帰納法が有効です。ただ、抽象度が高くなるので厳密証明を述べるとレベルが上がります。
学習をし始めたときは、自由群を定義するまでの流れを第一に考えると良いかと思います。
では、文字を並べて語とすることから説明します。
語 ワード :文字から語へ
Λ という空集合ではない集合で添え字づけられたものたちが与えられたとします。
それらを全て集めた集合を考えます。
{xλ | λ∈Λ} が添え字づけられたものたちを集めた集合です。
X = {xλ | λ∈Λ} と置きます。
ここまでは、集合論の入門で、よく出てくる記号です。
この X の元を文字と謂うことにします。
さらに、各 xλ (λ∈Λ) へサインをして印をつけます。
-1xλ (λ∈Λ) というサイン入りのものも文字とし、サイン入りの文字も全て集めます。
-1X = {-1xλ | λ∈Λ} と置くことにします。
次に、これら二つの集合で和集合をとります。
X* = X ∪ -1X と表すことにします。
この X* の元である文字たちを、有限個だけ左から右へと並べたものを考えます。
a1, … , ai (各 ak∈X*) だと、i 個の文字を左から右へ並べたものです。
この X* の元である文字たちを i 個だけ並べたものを長さ i の語(ワード)と定義します。
ここで、特別な 1 という語も定義します。
1 は「空白」で、一つも文字を並べていない状態です。
この 1 も長さゼロの語といいます。
これらの語を全て集めた集合を W(X) と表すことにします。
ここからは、W(X) に二項演算を導入します。
結合法則が成立
W(X) の元を、
A = a1, … , ai や
B = b1, … , bj と表すことにします。
A, B∈W(X) という長さ i と長さ j の語について、新しい語を対応させる二項演算を定義します。
つまり、
(A, B)∈W(X) × W(X) に、
AB∈W(X) × W(X) を対応させるという二項演算(乗法)を定義します。
a1, … , ai, b1, … , bj と、A と B を構成していた文字たちをつなぎ合わせたものを AB と定義します。
AB
= a1, … , ai, b1, … , bj は、
有限個の文字を左から右へ並べたため、語の定義を満たします。
この長さ (i+j) の語が、
(A, B) に対応させる二項演算の値 AB です。
この二項演算が、結合法則(結合律)を満たすことを確認します。
C = c1, … , ck を三つ目の語として、先ほどの A と B とで積をとります。
(AB)C は、
a1, … , ai, b1, … , bj の右に
c1, … , ck の k 個の文字を追加することです。
そのため、
(AB)C の値は、
a1, … , ai, b1, … , bj, c1, … , ck となります。
次に A(BC) も考えます。
BC は、
b1, … , bj, c1, … , ck なので
A = a1, … , ai の右側に BC の固まりを追加することになります。
そのため、A(BC) は、
a1, … , ai, b1, … , bj, c1, … , ck となります。
どちらも二項演算の結果が同じ値です。
即ち、
(AB)C = A(BC) となり、結合法則が成立していることが分かりました。
これで、W(X) が半群となっているということを示せたのですが、自由群まで定義を広げるには、まだ考えることがあります。
語-ワード-自由群 :簡約と消し合う関係
文字 xλ∈Λ と -1xλ∈-1X が隣り合うときに、1(空白)として、打ち消し合うとします。
また、文字 -1xλ∈-1X と xλ∈Λ が隣り合うときも、打ち消し合って 1(空白)とします。
抽象的な定義なので、三つの文字で、この内容を見てみます。
A∈W(X) という語を、
A = a1, a2, a3 とします。
この a2 と a3 という文字が、
λ∈Λ について、
a2 = xλ, a3 = -1xλ となっていたとしました。
λ∈Λ が同じで -1 のサイン無しの文字とサイン入りの文字が隣り合っています。
先ほどの定義の通り、打ち消し合って 1(空白)となります。
そのため、
A = a1, a2, a3
= a1, xλ, -1xλ
= a1 となります。
このように、打ち消しが起こる部分を 1(空白)として消してしまうことを簡約といいます。
そして、もうこれ以上は簡約できない状態にまでなった語のことを既約な語といいます。
今の例だと、a2 と a3 で簡約を行いました。
左から 2 番目と 3 番目の文字で簡約をした後の語ということを表す記号を導入します。
A2 と小さい方の番目を添え字にして表すことにします。
A という語について、2 番目と 3 番目の文字で簡約をした後の語ということを表す記号です。
語 A∈W(X) について、もうこれ以上は簡約できない状態にまで簡約をしたものを*A と表すことにします。
ただ、*A を定義するときには、先に示しておかなければならないことがあります。
それは、A について、どの部分から簡約を始めても、最終的には同じ既約な語となるということです。
有限回の繰り返し操作なら
【命題】
語 A∈W(X) を二通りに既約な語となるまで簡約したものを *1A と*2A とする。
このとき、*1A = *2A である。
<証明>
A = a1, … , an とします。
語 A の長さ n についての帰納法で示します。
つまり、長さ n-1 については成立しているものとすると、長さ n のときにも成立するということを示します。
n = 1 のときは、A は既約なので、命題の仮定を満たさないため、成立しています。
※ 仮定条件を満たす真理集合が空集合なので、結論条件を満たす真理集合の部分集合ということです。
以下では、n ≧ 2 として議論を進めます。
*1A は、A をはじめに i 番目から簡約し、*2A は、A をはじめに j 番目から簡約したとします。
i ≦ j のときに証明ができたとすると、同じ方法で j ≦ i も証明できます。
そのため、i ≦ j の場合についてのみ証明することにします。
【 i = j の場合】
このときは、
*1A と *2A のどちらも、
i 番目と i+1 番目で簡約しています。
つまり、Ai を簡約して片方は *1A に、もう片方は *2A となったということです。
ここで、Ai の長さは A よりも 2 だけ長さが短くなっているため、帰納法が使えます。
帰納法より、Ai を既約な語まで簡約した語は等しいため、*1A と *2A は同じ語ということになります。
これで i = j の場合については証明ができました。
【 i < j の場合】
さらに、i+1 = j のときと、
i+1 < j のときに分けて示します。
i+1 = j のときの語 A の形は次のいずれかになっています。
つまり、ai, ai+1, ai+2 の部分が、
① xλ, -1xλ, xλ か
② -1xλ, xλ, -1xλ という可能性です。
① のとき、
i 番目で A を簡約した Ai は、
a1, … , ai-1, xλ , ai+1, … an です。
また、① のとき、
j 番目で A を簡約した Aj も
a1, … , ai-1, xλ , ai+1, … an と、同じ語です。
つまり、Ai = Aj で、長さが A のときよりも小さくなったので、帰納法が使えます。
帰納法より、*1A = *2A です。
② のときについても、
Ai, Aj が、
a1, … , ai-1, xλ , ai+1, … an と、同じ語です。
帰納法から同様に、
*1A = *2A となります。
今度は、i+1 < j のときについて示します。
語 A から、ai, ai+1, aj, aj+1 の 4 つの文字を簡約した後の語を A(i, j) と置きます。
Ai は、ai, ai+1 を A から消したものです。
既約な語にするためには、aj と aj+1 の文字も消すことになります。
そのため、
Ai から簡約を進めると、
途中で A(i, j) という形になります。
一方、Aj は、aj, aj+1 を A から消したものです。
既約な語にするためには、ai と ai+1 の文字も消すことになります。
そのため、
Aj から簡約を進めると、
途中で A(i, j) という形になります。
A(i, j) は A よりも長さが短いので帰納法が使えます。
帰納法より、A(i, j) から簡約を続けると、最終的に同じ既約な語となります。
A → Ai → A(i, j),
A → Aj → A(i, j) で、
A(i, j) から簡約を続けると最終的な形は同じということです。
よって、*1A = *2A です。【証明完了】
この証明は、具体的に書き出せる場合と、無限の可能性があって具体的に書き出せない場合とに分かれます。
はじめに具体的に書き出せる場合について、起こり得る可能性をすべて書き出し結論を示せました。
具体的に書き出せない場合は、帰納法という証明論法を用いて、最終的に同じ結果に辿り着くということを示しました。
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帰納法を使った証明として、良い練習になる命題だったかと思います。
この【命題】は、語を簡約し続けて、もうこれ以上は簡約できない状態まで、どのような手順で簡約を続けても、得られる最終形は同じということを意味しています。
語 A を、もうこれ以上は簡約できない既約な語までにした最終形を *A と表し、この *A を語 A の簡約表示と謂うことにします。
自由群 : W(X)に二項関係を定義
A, B∈W(X) という二つの語について、*A と *B が同じ語となっているときに、
A ~ B と定義します。
この二項関係 ~ は、同値関係となっています。
そのため、W(X) という集合は、同値関係によって同値類たちに類別されます。
商集合 W(X)/~ を F(X) とでも表すことにします。
A∈W(X) を含む同値類を、
[A]∈F(X) と表します。
そして、次の過程として、F(X) に W(X) における二項演算(乗法)を誘導して、F(X) が群の公理を満たすことを示すことになります。
二項演算が矛盾なく定義されていることを示すには、次のことを示します。
A, B, C, D∈W(X) が、
A ~ B, C ~ D のとき、
即ち、[A] = [B] , [C] = [D] のとき、
[AC] = [BD] となることを示すことです。
この証明は、語に使われている文字の配列をイメージすると明らかです。
W(X) における乗法は、二つの語に使われている文字をつなげるということでした。
AC という語と、BD という語について、A と B の部分を、これ以上は簡約できない状態にまで簡約すると同じ既約な語となります。
C と D についても、これ以上は簡約できない状態にまで簡約すると同じ既約な語です。
それ故に、AC を簡約表示した語と BD を簡約表示した語は、同じ既約な語となっています。
これで、~ の定義から、
AC ~ BD です。
即ち、[AC] = [BD] となっています。
よって、
F[X] × F[X] → F[X] を
([A], [B]) に対して、[AB] と定義できます。
これが、F[X] における誘導された乗法です。
このように、矛盾なく演算が定義できていることを示してから、単位元や逆元の存在を示します。
[1] が F(X) の単位元となります。
A = a1, … , an とすると、
an から a1 の順に-1 を逆転させた文字を並べたものを A-1 と定めます。
すると、[A]-1 = [A-1] となります。
結合律は、W(X) における結合律と矛盾なく二項演算が定義できたことから従います。
つまり、
[A[BC]] = [A(BC)]
= [(AB)C] = [[AB]C] ということです。
W(X) における結合律から、
[A[BC]] = [[AB]C] が自然と導かれています。
これで、F(X) が群の公理(定義)を満たすことが分かりました。
ただ、まだ述べておきたいことがあります。
加群のテンソル積を定義したときに、写像を定義しようとすると、同値類の集まりのために矛盾なく定義できていることを示さなければならないということを考えてみてください。
テンソル積だと、この問題を解消するために、普遍写像性質を使います。
今、自由群 F(X) も同値類たちの集まりです。
同値類の集まりのままだと、矛盾なく定義されているのかどうかの壁が、いつも立ちはだかります。
この同値類の問題は、自由群だと容易に解消できます。
Xと合わせてF(X)を改良
簡約によって、語の形が変わるので同値類で統一感をもとせていました。
そこで、はじめのルーツを再考します。
λ∈Λ という集合の元で添え字づけられた xλ たちが大元の文字のパーツでした。
そして、xλ (λ∈Λ) たちを全て集めた集合が X でした。
そこで、X を F(X) の中に埋め込むようなことを考えます。
※ inclusion という記事で埋め込みについて具体例を使って、解説をしています。
xλ (λ∈Λ) という X の元に対し
φ(xλ) = [xλ] と定義します。
λ, μ ∈Λ が、λ ≠ μ のとき、
[xλ] ≠ [xμ] です。
これは、添え字が異なると異なる文字という、はじめの設定と、xλ と xμ が既約な語で、これ以上は簡約できないということから、異なる同値類となっているからです。
また、任意の s, t ∈Λ に対し、
φ(xsxt) = [xsxt]
= [xs][xt] = φ(xs)φ(xt) となっています。
このため、
φ(X) ⊂ F(X) で、φ は X を始集合とする単射です。
そのため、φ(X) の元である同値類は、どれも 1 点集合です。
そして、任意の λ∈Λ に対して、
[xλ]-1 = [-1xλ] です。
このため、φ(X) で F(X) が生成されているということになります。
xλ∈X と [xλ]∈φ(X) は、同値類を表す[・]の記号が付いているかどうかの違いだけです。
それだったら、結局のところ、
<φ(X)> = F(X) だから、[・] の記号を書くのがメンドウなので、記号を同一視するわけです。
φ(X) のことを単に X と表し、
<X> = F(X) と考えるわけです。
<X> だと、φ(X) = X の各同値類は、どれも 1 点集合なので、代表元の取り方うんぬんと悩まなくて良いということになります。
これで、F(X) の元を、X の元と、その逆元の有限個の羅列として気軽に扱えます。
xλxλ = xλ2 のように、同じ文字が重なると指数を使って表すようにしておくと、F(X) の元が、環論で出てくる素因数分解のような形で表せるわけです。
F(X) = <X>の元は、
xλpλ・・・xμpμ …★(ただし、pλ, … , pμ は非負整数)という形です。
つまり、<X>の元を表すときに、簡約できるときは最初から簡約をして既約な状態を保つようにして、重複した文字の形は指数を使って表しておくと、★のような形に一意的に表せるわけです。
この★の形にすることを F(X) の簡約表示とでも呼ぶようにしておきます。
F(X) を簡約表示で表すようにしておくと、同値類の代表元の取り方問題から解放されます。
※ 群の部分群の内部直積とは内容が異なるので、早とちりしないように注意です。
群が、その部分群を使って内部直積(内部直和)に分解することの必要十分条件については、リンク先の記事で解説をしています。
関連する記事
ここまで、自由群について述べました。
群だけでなく、環についても似たような定義のものがあります。
それが、多項式環です。
不定元 x という記事で、集合による添数づけを使って、多項式関数ではない多項式環の元である不定元の定義を解説しています。
また、同値類たちの集まりである商集合に代数的な構造を定義するということについての記事も投稿しています。
商空間という記事で、商線形代数について解説をしています。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。