3次対称群 【4次も】| 対称群の定義から学習を始め、変数の置換へ

" 基本対称式 “の定義を理解できるようにするために、まず " 3次対称群 “について、合成置換や逆置換を写像の対応に基づいて考えます。

その後で、4次の対称群の置換をすべて書き出しています。

これらは、抽象的な議論で対称群が使われたときに、具体的に調べられるので便利です。

このような基本を押さえた後で、対称群の作用で多変数多項式の変数を入れ替えるという作用について解説をしています。

※ 目次の項目を選択すると該当箇所へ移動します。

3次対称群 【4次も】:置換の定義から

一般に、n 個の要素(元)から成る集合 X から、X 自身への全単射のことを置換といいます。

この n! 個の全単射をすべて集めた集合 Sn は、写像(関数)の合成を積とすることで、群の定義を満たします。これが n 次の置換群です。

集合 X から集合 X への全単射は、異なる n 個のものを並び替える操作ということです。

異なる n 個のものを並び替える操作は、高校数学の順列で学習した内容です。樹形図の発想から、n ! 個の入れ替え方があります。

この入れ替え方 1 通りずつについて、X から X への全単射となっているというわけです。

一般の n 個についてだと、抽象度が高いので、3 個について具体的に見ていきます。

具体的な入れ替え操作

X = {1, 2, 3} という n = 3 の場合を考えます。この集合 X の要素たちが、入れ替えられる異なる 3 個のものということです。

そして、この入れ替え操作を表すのが、X から X への全単射ということになります。この全単射のことを 3 次の置換といいます。

XからXへの全単射は、異なる 3 個のものを並び替えるということなので、全部で 3! 個、つまり、6 個の全単射が存在します。

3P3 = 3! = 3 × 2 × 1 となります。

ここで、異なる3個の並び替えですが、1つも入れ替えないということも並び替えと見なしています。

その場合の X から X への対応は、
1 → 1, 2 → 2, 3 → 3 となります。

この対応によって定義される X から X への全単射を I とします。この I は恒等置換という特別な X から X への全単射になります。

どういう意味で特別かというと、対称群 S3 の乗法についての単位元となります。

残りの 5 通りの全単射も樹形図の発想で、並べ替えを考えると、具体的に書き出すことができます。

3次対称群 【4次も】:互換の理解は重要

3 次の置換群の元(要素)で、互換という特別な全単射が存在します。

それは集合 X の 2 個の元どうしを入れ替え、残りの元は動かさないという置換です。
※n次の置換群のときも、2個のみを相互に置換して、残りは動かさない全単射が互換です。

X から X への互換を論理的にすべて書き出してみます。

先ほど、すべての置換を書き出したので、こういうときにも役立ちます。

2つの元を入れ替えて、残りの1個の元は動かさないということに当てはまっているものをまとめます。


全単射「1 → 1, 2 → 3, 3 → 2」を a,
全単射「1 → 2, 2 → 1, 3 → 3」を b,
全単射「1 → 3, 2 → 2, 3 → 1」を e


これら三つが、互換の定義に当てはまっています。

置換 a だと、2 と 3 を入れ替えて、1 は動かさないということになります。

互換の記号

ここで、新しい記号を導入します。

2 と 3 を入れ替えて、1 は動かさない置換 a のことを (2, 3) = a と表します。

括弧の中に書いている 2 と 3 を互いに入れ替えるという意味の記号です。他の互換についても、この記号で表しておきます。


(1, 2) = b, (1, 3) = e


この互換の記号について、次のことを押さえておくと良いかと思います。

(1, 2) の二つの入れ替えられる X の元を逆にして、(2, 1) と書いても、やはり同じ置換 b のことです。

括弧の中の二つを入れ替えて、括弧の中に書いていないものは動かさないので、
「1 → 2, 2 → 1, 3 → 3」という全単射です。

これは、b の対応そのものです。

よって、(1, 2) = (2, 1) = b なので、ご注意ください。
定義域と値域というブログで写像の対応についての基本事項を解説しています。

この互換ですが、3 次の段階で、ここまで理解をしておくと、一般の n 次の置換群についても互換が理解できます。

定義は同じで、括弧の中にある二つを入れ替えて、括弧の中に書かれていないものは動かさないというのが定義です。

Y = {1, 2, ・・・, n} という異なる n 個のものを入れ替えるのが、n 次の置換です。

例えば、(3, 4) という n 次の互換だと、3 と 4 を入れ替えて、他のものについては動かさないということになります。

写像(関数)の書き方をすると、
(3, 4) (3) = 4, (3, 4)(4) = 3, で、他のものについては、(3, 4)(1) = 1 というように動かさないということになります。

合成置換

置換の合成とは、高校数学IIIで学習する合成関数のことです。この写像の合成を対称群における二項演算として考えます。

X から X への全単射である置換どおしで合成をすると、その合成置換(合成写像)も X から X への全単射です。

置換の合成というものを理解すると、次の定理の意味が分かります。


【定理】

n 次の置換群について、どんな n 次の置換も、互換の合成置換として表すことができる。


この定理が証明されていまして、そのため、n 次の置換は、互換いくつか合成して表すことができるということになります。

このため、互換は、置換を構成している最小単位といったイメージです。

σ ∈ Sn について、
σ = (互換)(互換) … (互換) というようになります。ただし、このときに、この互換の積の表し方は、ただ一通りとは限りません。

しかし、この表し方をするときに使われる互換の個数について、使われる互換の個数の偶奇が確定するということが分かっています。

一つの置換 σ については、どんな互換をどのように合成するときでも、偶数個の互換の積か奇数個の互換の積かのいずれかになります。

σ という置換は、互換の合成置換として表したときに偶数個だったとすると、他の合成置換で σ を表せたときでも、そのときに使用した互換の個数は偶数個ということになるということです。

もちろん、他の置換 τ については、奇数個の互換を用いて表せるといったことも起きてきます。

そのときでも、やはり、τ について、互換の合成で表すときに使用される互換の個数は奇数個になるということです。
※ 偶置換と奇置換の個数については、次のページの記事で解説をしています。

証明が難しい部分もありますが、行列式などを学習するときに基本となってくれる内容です。

偶置換の個数か奇置換によって、行列式を定義するときの符号が変わります。

時には、抽象的な理論の証明を理解しようとしてみると、考える力がついてくるかと思います。

逆置換

逆置換というのは、高校数学IIIでいう逆関数(逆写像)のことです。

a : X → X だと、
a-1 : X → X という逆対応が、逆置換です。

対称群においての積である写像の合成を考えると、
aa-1 = a-1a = I

このため、置換 a の逆元が、逆置換 a-1 となっています。

a と a-1 、もしくは、a-1 と a の合成写像は、対称群の単位元である恒等置換ということになります。

3次対称群 【4次も】:4次対称群の置換を書き出す

最後に、4 次の置換群の置換を全て樹形図の発想で書き出します。行列式を具体的に書いたりするときに、4 次の置換をすべて知っていると役に立ちます。

また、置換群についての重要な定理の具体例を 4 次の置換で調べてみます。まずは、前半の 12 個を書き出します。全部で、4! = 24 個の置換があります。
 
【1 の行き先が 1 の場合】

恒等置換 I, (3, 4), (2, 3),
(2, 4), (2, 3, 4), (2, 4, 3)

【1 の行き先が 2 の場合】

(1, 2), (1, 2)(3, 4), (1, 2, 3),
(1, 2, 3, 4), (1, 2, 4, 3), (1, 2, 4)

後半の残り 12 個の置換を書き出します。

【1 の行き先が 3 の場合】

(1, 3, 2), (1, 3, 4, 2), (1, 3),
(1, 3, 4), (1, 3)(2, 4), (1, 3, 2, 4)

【1 の行き先が 4 の場合】

(1, 4, 3, 2), (1, 4, 2), (1, 4, 3),
(1, 4), (1, 4, 2, 3), (1, 4)(2, 3)

これで、4 次の置換群の置換(全単射)を 24 個すべて書き出すことができました。

置換は巡回置換の積となる

巡回置換の例です。(2, 3, 1) だと、2 を 3 に、3 を 1 に、1 を 2 に対応させ、使われていない 4 については動かさないという全単射です。

ちょうど最後の 1 が、先頭の 2 にぐるっと一回りしています。

2、3、1と3個が現れている巡回置換を長さ3の巡回置換といいます。

長さ1の巡回置換だと (4) のように、1 個だけです。

これは 4 を 4 自身に対応させ、使われていない 2, 3, 4 については動かさないという全単射です。つまり、恒等写像そのものです。

長さ2の巡回置換は、互換と呼ばれます。

(3, 2) だと、3 を 2 へ、2 を 3 へ対応させます。この相互の入れ替えに現れていない残りの 1 と 4 については動かさないという全単射です。

では、24 個の置換をすべて書き出したので、具体的に巡回置換の積になることを確かめることもできます。

次に、対称群についての積を考えるときに、基本的となる内容を説明します。

巡回置換は互換の積となる

長さが 1 の巡回置換は、(1, 2)(1, 2) とすると、2 個の互換の積で表されます。

偶数個の互換の積です。長さが 2 の巡回置換は、互換そのそので、(α, β) という互換ならば、その 1 個そのものを考えます。

もしくは、(1, 2)(1, 2)(α, β) = (α, β) と考えても、やはり奇数個の互換の積です。

長さが 3 以上の巡回置換は、次のように互換の積で表されます。

(1, 2, … , r - 1, r) という長さ r の巡回置換は、(1, r)(1, r - 1) … (1, 3)(1, 2) となって、
(r - 1) 個の互換の積となります。

※ここで使っている 1, 2, ・・・,r という数字は、異なる r 個のものを識別している目印なので、注意です。

四次対称群の k = (1, 2, 4, 3) だと、
k = (1, 3)(1, 4)(1, 2) となります。

r の位置が 3 で、r - 1 の位置が 4 です。互換の積で表すときに、巡回置換 (1, 2, 4, 3) の先頭の隣りを互換する相手として、(1, 2)とします。

次に、2 の隣の 4 を相方にした (1, 4) と写像の合成をして、(1, 4)(1, 2) とします。

さらに、4 の隣の 3 を相方にした (1, 3) と合成をして、k = (1, 3)(1, 4)(1, 2) となります。

k の置換について、
k(1) = 2, k(2) = 4,
k(3) = 1, k(4) = 3 です。

3次対称群 【4次も】:多変数多項式への作用

置換 σ ∈ S(n) から n 変数多項式への作用を
(σf)(x1, x2, … , xn)
= f(xσ(1), xσ(2), … , xσ(n))
と定義します。

n 個の変数を使った多項式についての内容が書かれています。

具体的に n = 3 として、様子を調べてみます。

具体的なアプローチ

n = 3 として、3 変数の多項式の添え字を入れ替えてみます。

そのときに、多項式と置換も具体的に扱いやすそうなものを自分で設定します。

f(x1, x2, x3) = x1 -5x2 - 4x3 とし、
σ = (2, 3) とします。

多項式の変数の 2 と 3 の添え字を入れ替えるということです。

そのため、
(σf)(x1, x2, x3) = x1 - 5x3 - 4x2

この右辺の多項式が入れ替えられた後の多項式で、f(xσ(1), xσ(2), xσ(3)) が表す内容です。

さらに、以下では、基本対称式について説明をしています。

3次対称群 【4次も】:1つの理解からスキルアップ

(στ)f(x1, … , xn)
= f(xστ(1), … , xστ(n))
= (σf)(xτ(1), … , xτ(n))
= (σ(τf))(x1, … , xn)


先ほどの内容が理解できれば、同じことを二度するだけになります。
※一番下の式から上へと順に内容を考えています。

今度は、先に τ で多項式の添え字を入れ替えて、その後で、σ でも入れ替えるということをしています。

一度できたので、同じことを二回するだけになります。

一度できたら再度

σ = (2, 3) で、τ = (1, 2) とします。多項式は先ほどと同じ 3 変数の f で調べてみます。


f(x1, x2, x3) = x1 -5x2 - 4x3
  ↓ τ で入れ替え
x2 -5x1 - 4x3
  ↓ σ で入れ替え
x3 -5x1 - 4x1


まず τ で 1 と 2 を入れ替え、次に σ で 2 と 3 を入れ替えました。

f(xσ(τ(1)), xσ(τ(2)), xσ(τ(3))) が表す内容が、辿り着いた最後の多項式です。

一度できたことを再度できたので、二度やってみると、下から 3 番目の式まで理解できました。

こうすると、(στ)f(x1, x2, x3) が、どんな多項式になっているかを求めたので、合わせて内容の理解に肉づけすることができます。

στ は、対称群における積をとってできた置換です。

この積は写像の合成という定義でした。先に τ で多項式を移してから、その後で σ で移してできる多項式と等しいということです。

ここまで自分で具体的に調べると、対称群の積まで絡めた表現が理解できます。

n変数のときの応用


この一つひとつが、n 変数の基本対称式となります。

最後に書いている Π(product) ですが、変数 i の各値に対して xi という項が対応します。

ここまでは、シグマと同じ意味ですが、1 から n までの自然数に対応する項すべてで積をとるという意味です。

すべての項で和をとるシグマ Σ と、すべての項で積をとるプロダクト Π です。これらが n 変数の基本対称式で、n 個あります。

ここで、2 番目から (n - 1) 番目に書いてあるシグマ記号の不等式の下に不等式があります。

大学数学では、このシグマ記号の下に不等式が書かれることが多いので、基本対称式を通じてこの不等式が下に書かれているシグマ計算を説明します。

n 以下の自然数で、不等式を満たすように添え字に自然数を可能な限り代入をして、すべての項を出現させます。

そして、それらすべての項で和をとるという意味になります。

とはいえ、はじめてこの式を見ると、とても複雑に見えるかと思います。そこで、n を 4 という具体的な自然数に設定して、4 変数の基本対称式で説明していきます。

3 変数だと、文字が少なすぎて、シグマの下に不等式が使われているものについてよく分からなくなります。

4 変数だと、ほどよく内容を表してくれるかと思いますので、4 変数で説明をします。

3次対称群 【4次も】:4変数で具体的に

いきなり n 変数で一般論となると大変なので、4 変数で具体的に様子を見るのが良いかと思います。

一番左の基本対称式は、高校数学で学習した通りです。

そして、一番右の基本対称式は、シグマの和のかわりに、すべての項で積をとるということです。


x1 + x2 + x3 + x4 ,
x1x2x3x4


この 2 つの基本対称式は、一般の n のときでも、4 までを n までとするということで分かりやすいです。

問題は、下に不等式がついているシグマの部分です。

2 番目と 3 番目のシグマ記号の下に不等式が書かれているものに焦点を当てて、説明します。

※リンク先のブログは高校で学習するシグマ記号の内容です。

よりパワーアップしたシグマ記号ですが、慣れると使いこなせてくるかと思います。

具体的にすべての項を書き出すと次のようになります。


「x1, x2, x3, x4 についての基本対称式」

[1] x1+x2+x3+x4
[2] x1x2+x1x3+x1x4+x2x3+x2x4+x3x4
[3] x1x2x3+x1x2x4+x1x3x4+x2x3x4
[4] x1x2x3x4


これら 4 個が基本対称式になります。

i1 < i2 を満たすように、4 以下の自然数を可能な限り代入して、出現した項をすべて足し合わせるということでした。

(i1, i2) = (1, 2), (1, 3), (1, 4), (2, 3), (2, 4), (3, 4) がすべての可能性、つまり起こり得る場合ということです。

これら 6 通りの場合を数え上げるのは、シンプルな場合分けの発想です。

[2] を場合分け

i1 = 1 のときに、i2 に代入することができる 4 以下をすべて考えると、i2 = 2, 3, 4 だと分かります。

※ 不等号にイコールがついていないので、i1 の値よりも i2 の方が大きな値となることに注意です。

このように考えると、i1 = 2 のときは、2 より大きい 4 以下の自然数が i2 に代入することができる自然数と分かります。

よって、i2 = 3, 4 となります。

同様にして、i1 = 3 のときは、i2 = 4 となります。

そして、i1 = 4 とすると、4 より大きい 4 以下の自然数は存在しないので、i2 が出現しないということから、i1 = 4 という可能性は無いということになります。

これで、先ほど上に書いた (i1, i2) の可能性をすべて書き出すことができました。

全部で確かに 6 通りとです。高校一年の場合の数の単元で学習した辞書式配列法での数え方ということになります。

同じ様に、先ほどの図の [3] の部分も辞書式配列法で数え上げることができます。


x1x2x3 + x1x2x4 
 + x1x3x4 + x2x3x4


今度は、シグマ記号の下の不等式が、
i1 < i2 < i3 となっているものに焦点を当てて数えれば、この [3] の場合の式が得られます。

※ 先ほどと同じ様な数え上げなので、詳細は省きます。

これら 4 個の基本対称式を書き出しておくと、関連する抽象的な理論が出てきたときに、具体的に調べられるので、役立つかと思います。

【関連する記事】

一般的な群の公理についての基礎的な命題については、リンク先の記事で解説をしています。

これで、今回のブログ記事を終了します。

次の記事では、偶と奇の置換の個数について解説をしています。

読んで頂き、ありがとうございました。

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