偶置換 奇置換 | n次において、n!/2がそれぞれの個数

自然数 n について、n 次対称群 Sn の元(要素)である置換は、「 偶置換 奇置換 」のどちらかになります。

そして、偶置換の個数は Sn の位数の半分の n!/2、奇置換の個数も n!/2 となります。

この内容を理解するときに、群論の入門的な内容で扱われるコセットの考え方を知っていると、理解しやすいです。

とはいえ、大学に入学したときに群論の入門的な内容を理解した上で線形代数学を学習するのは大変です。

偶置換と奇置換の個数については、群論の練習問題くらいの感覚で、n 次対称群(置換群)の偶置換と奇置換の個数が求められるようになります。

線形代数学の基本をしっかりと整えるために、置換についての基礎を理解すると良いかと思います。

※ 目次の項目を選択すると該当箇所へ移動します。

偶置換 奇置換 とは

n 次の置換群 Sn の各元は、それぞれ互換の積で表すことができ、しかもそのときに使われる互換の個数について、偶数個か奇数個のどちらか一方になります。

※ 3次対称群という一つ前のブログ記事に、置換についての詳しい定義を書いています。

このことから、偶置換と奇置換という定義があります。

Sn の元である置換が、偶数個の互換の合成で表されたときに、その置換を偶置換といいます。

また、Sn の置換が、奇数個の互換の合成で表されたときに、奇置換といいます。

なお、恒等置換 I については、(1, 2)(1, 2) という合成に等しいので、偶置換ということになります。

一点集合 {1} の 1 次の置換群については、(1) を 1 を 1 に移すという長さ 1 の互換として、
(1)(1) = I なので、やはり偶置換と強引に定義しておきます。

以下では、n を 2 以上の自然数として、n 次対称群について、冒頭に書いた偶(奇)置換の個数を求めることについて述べています。

偶置換 奇置換 の符号

偶置換と奇置換から、さらに置換の符号 (sgn) というものが定義されます。

置換 σ が偶置換のときに、sgn(σ) = 1 とし、
置換 σ が奇置換のときに、sgn(σ) = -1 とします。

偶置換と奇置換をそれぞれ表す目印のようなものです。

偶置換全体は部分群

Sn における偶置換全体をHとします。すると、Hは部分群であることの定義を満たします。

偶置換は、偶数個の互換の合成写像なので、σとτが偶置換だと、στも偶数個の互換の合成(積)なので、偶置換になります。

そのため、σ, τ∈Hに対して、στ∈Hとなります。これで、積について閉じていることが確認できました。

ここで、互換(i, k)の逆写像は、互換(i, k)自身になります。例えば、(2, 3)と(2, 3)を合成すると、
(2, 3)(2, 3)(2) = (2, 3)(3) = 2,
(2, 3)(2, 3)(3) = (2, 3)(2) = 3 となり、2と3を動かしません。

この同じ互換どおしで積をとると、対称群の単位元である恒等写像となることから、H が逆元で閉じていることが証明できます。

「Sn の各置換は、偶置換か奇置換のいずれか一方となる」という定理があります。

この定理も使い、H が逆元で閉じていることを証明します。
※ 定理は、ブログの最後で証明をすることにします。

逆元で閉じていることの証明

σ∈H とすると、σ は偶置換なので、偶数個の互換の積で表されます。

σ を「互換1」「互換2」・・・「互換2k」という偶数個の互換の積であるとき、
「互換2k」・・・「互換2」「互換1」と、合成する順番を逆にした写像を考えます。

「互換j」と「互換j」の合成は恒等写像となることから、合成の順番を逆にした写像と σ を合成すると、恒等写像 I となることが分かります。

したがって、σの逆写像も 2k 個、つまり偶数個の互換の積となっていることから、σ の逆写像も偶置換なので、Hに含まれます。この内容を式で表すと次のようになります。

これで、偶置換全体 H が Sn の部分群であるということが証明できました。この H について、剰余群を考えます。

右コセットを考える

ここで、H(1, 2) = {σ(1, 2) | σ∈H} という Sn の部分集合を考えます。

この部分集合は、Sn における部分群 H の右剰余類(右コセット)といわれます。

この H(1, 2) の元は、互換 (1, 2) と偶置換の合成写像をすべて集めたものになっています。

実は、この H(1, 2) に含まれる元(要素)の個数は、H に含まれる要素の個数と同じになっています。

実際、
σ(1, 2) = σ'(1, 2) (σ, σ’∈H) とすると、
σ(1, 2)(1, 2) = σ'(1, 2)(1, 2) となり、
(1, 2)(1, 2) が恒等写像なので、σ = σ’ となります。

σ, σ’∈H について、「σ(1, 2) = σ'(1, 2) ならば、σ = σ’」ということが示せたので、対偶も真となります。

すなわち、「σ ≠ σ’ならば、σ(1, 2) ≠ σ'(1, 2)」となります。

したがって、σ(1, 2) の σに、異なる H の置換を代入すると、必ず異なる置換になります。

このため、H(1, 2) に含まれている置換の個数は、代入する置換の個数である H に含まれている置換の個数ということになります。

H が有限集合なので、H(1, 2) に含まれる置換の個数と、H に含まれる置換の個数等しいことが示せました。

実はすべて奇置換だった

右剰余類 H(1, 2) = {σ(1, 2) | σ∈H} に含まれている置換は、偶置換と互換 (1, 2) の合成写像です。σ は偶置換なので、偶数個の互換の合成でできています。

よって、σ(1, 2) は、互換 (1, 2) の分だけ 1 個だけ互換が増えて、奇数個の互換の合成写像となっています。

したがって、右剰余類 H(1, 2) に含まれている置換は、すべて奇置換ということになります。

ここで、Sn における奇置換全体から成る部分集合を T と表すことにします。

ここまでの考察で分かったことから、次の包含関係が成立しています。

H(1, 2) ⊂ T となっています。

H(1, 2) に含まれている元の個数は、偶置換全体の個数でしたので、ここまでで「偶置換全体の個数」が「奇置換全体の個数」以下ということが分かりました。

残すは、以下の部分が、一致しているかどうかになります。

辿り着きたい結果へ

τ∈T を任意の奇置換とすると、τ(1, 2) は、互換 (1, 2) の1個分だけ合成する互換の個数が増えるので、偶置換ということになります。

先ほどと同様に、
「τ ≠ τ’ ならば、τ(1, 2) ≠ τ'(1, 2) 」が、対偶を利用して証明できます。

よって、{τ(1, 2) | τ∈T} という Sn の部分集合を考えると、ここに含まれる置換の個数は、奇置換の個数分だけあるということになります。

したがって、奇置換 τ について τ(1, 2) が偶置換なので、{τ(1, 2) | τは奇置換}⊂H となり、
「奇置換の個数は偶置換の個数以下」ということになります。

以上から、「偶置換の個数は奇置換の個数以下」であり、「奇置換の個数は偶置換の個数以下」となります。

ゆえに、この2つが同時に成立することから、「偶置換の個数は、奇置換の個数に等しい」ということになります。

さらに、このことと、Sn の各置換 σ は、必ず偶置換か奇置換のいずれか一方になるという定理から、S(n) = H ∪ H(1, 2) であり、HとH(1, 2)の共通部分が空集合ということになります。

H と H(1, 2) に含まれている置換の個数が等しいことから、H に含まれている置換の個数は、Sn に含まれている置換の総数 n! の半分ということになります。

すなわち、偶置換の個数は n!/2、奇置換の個数は n!/2 ということになります。

対称群に含まれている置換全体が、ちょうど半分ずつになっていることを示しました。

ただ、使った定理がありましたので、それを示します。

Sn の各置換は、偶置換か奇置換のいずれか一方となるという定理を、ステップを踏んで証明します。

偶置換 奇置換 | 使った定理の証明

【ステップ1】

n を 2 以上の自然数とする。
n 次対称群Sn のどの置換も、必ず互換の積と表すことができる。


<証明>

帰納法で示します。

n = 2 のときは、恒等写像 I∈S2 は、(1, 2) と (1, 2) の合成写像となるので成立します。

また、(1, 2) は、(1, 2) と(1, 2) と (1, 2)という 3 個の互換の合成写像なので成立します。

したがって、n = 2 のときに、ステップ1の内容が成立することが確かめられました。

よって、n が 3 以上の自然数であるときについて議論を進めることにします。

n = k (k は 3 以上) のとき、k 点集合上の置換について、必ず互換の積で表されると仮定します。

このとき、X = {1, 2, ・・・, k, k + 1} という (k + 1) 点集合について、(k + 1) 次対称群の任意の置換が、必ず互換の積で表されることを示す。

σ∈Sn について、
[1] σ(k + 1) = k + 1 か、
[2] σ(k + 1) ≠ k + 1のいずれかです。

[1] σ(k + 1) = k + 1 のとき

X’ = {1, 2, ・・・, k} とすると、σ をX’に制限した σ’ は、X’ 上の置換です。

よって、帰納法より、σ’ は互換の積として表すことができます。

X = X’∪{k + 1} であり、σ(k + 1) = k + 1 だから、σ は X においても、σ’ を互換の積として表したときに用いた互換の積に等しいことになります。

よって、σは互換の積として表されることが示せました。

[2] σ(k + 1) ≠ k + 1 のとき

τ = (k + 1, σ(k + 1))σ とおきます。これは、σ と互換 (k + 1, σ(k + 1)) の合成写像です。

τ(k + 1) = (k + 1, σ(k + 1))σ(k + 1) であり、
σ(k + 1)∈Xを互換(k + 1, σ(k + 1)) で入れ替えるということなので、τ(k + 1) = k + 1 です。

よって、[1]より、τは互換の積として表すことができます。

σ = (k + 1, σ(k + 1))τ であり、τ は互換の積として表されるので、σ も互換の積で表すことができたことになります。【証明完了】

この証明で、Sn の置換が互換の積で表すことが分かったのですが、互換の積として表す表し方は1通りとは限りません。

そのために、目指す定理を証明するためには、1つの置換を互換の積として表すときに使う互換の個数について、偶数個か奇数個かということが確定するということを示す必要があります。

次のステップ2で使うのが差積という n 変数の多項式です。

差積のことを f とし、f の n 個の変数を n 次対称群 Sn の置換作用で入れ替えることを考えます。

1 + 2 + 3 + … + (n - 1) が、差積の次数になります。これは、初項1、交差1、項数(n - 1)の等差数列の和ですので、n(n - 1)となります。


【ステップ2】

i と k を異なる n 以下の自然数で、i < k とする。
このとき、互換 (i, k) で差積 f の変数を置換すると、その結果、差積 f は -f となる。


<証明>

互換 σ = (i, k) について、i = 1, k = 2 のときは、明らかに変数の添え字 1 と変数の添え字 2 を入れ替えたときに、σf = -f となります。

したがって、以下で、i が 2 以上のときを考えます。

添え字 r が i よりも小さいとき (r < i のとき) に、次のようになるので、この部分には入れ替えの影響がでません。

【r < i のとき】

(xr - xr+1) … (xr - xi)(xr - xi+1)
     … (xr - xk) … (xr - xn) を
σ = (i, k) で置換します。

今、r < i < k という状態です。置換すると、次のようになります。

(xr - xr+1) … (xr - xk)(xr - xi+1)
      … (xr - xi) … (xr - xn) と σ によって置換されました。

添え字の ik が入れ替わりました。

乗法の結合法則と交換法則で、括弧たちの積を入れ替えると、σ で置換する前と同じ形になります。

(xr - xr+1) … (xr - xi)(xr - xi+1)
      … (xr - xk) … (xr - xn) と同じなので、符号に変化が出ていません。

次に、添え字 r が i のとき (r = i のとき) を考えます。

【r = i のとき】

(xi - xi+1) … (xi - xk-1)(xi - xk)(xi - xk+1)   
  … (xi - xn) を σ = (i, k) で置換します。

(xk - xi+1) … (xk - xk-1)(xk - xi)(xk - xk+1)   
  … (xk - xn) が置換された後です。

(xk - xi) = -(xi - xk) です。

証明の核心を書くと、この -1 倍のために、
σ f = -f となります。

ここで、 (xk - xi) 以外のところを確認します。

各 (xk - xh) は、h が i + 1 から k - 1 まで、そして k + 1 から n まで動く部分に 1 つづつ現れるので、影響がありません。

つまり、差積の r 段目よりも下に (xh - xr) が出てくるので、それぞれを入れ替えると影響がありません。

文章で書くと抽象的になるので、具体的な場面を挙げておきます。

6 次の差積で、σ = (2, 5) で置換をしているときの例です。r = 2 のときに、括弧の乗法の順番を替えると影響が出ない部分を実際に確認をすると分かりやすいです。

r = i = 2, K = 5 というときです。r 段目以下の部分だけに注目しています。1 段目については、先ほどの r < i のときの議論で解決済みです。



r 段目の紫の部分だけが、-(x2 - x5) に置き換えたときに、-1 倍の影響が出ます。

これ以外の部分は、3 段目以下のところの段目にちょうど一つだけ相方が出てきます。

(x5 - x3) = -(x3 - x5),
(x3 - x2) = -(x2 - x3) と変形をして、
-(x3 - x5) と -(x2 - x3) で乗法の順番を替えます。

-1 倍どおしが打ち消されて影響がでません。

(x5 - x4) なら 4 段目に -1 倍どおしの打ち消しをするための相方が現れます。

このような打ち消しが起こせないのが、r 段目の紫の (x5 - x2) です。

これだけが相方なしなので、σ で置換したときに、差積が -1 倍となります。

【i + 1 ≦ r ≦ k - 1 のとき】

(xr-xr+1) … (xr-xk-1)(xr-xk)(xr-xk+1)   
  … (xr-xn) を σ = (i, k) で置換します。

(xr-xr+1) … (xr-xk-1)(xr-xi)(xr-xk+1)
  … (xr-xn) となります。

そして、このとき、(xi - xr) は、
σ で (xk - xr) となっています。

r = i のときの具体的例を使った確認の図で確かめると分かりやすいかと思います。

同じ添え字を使っているので紛らわしいですが、この 1ヵ所の部分は、先ほどの r = i の部分で既に考察をしている内容になります。

よって、(xr - xi)(xk - xr) は、
(-1) × (-1)(xi - xr)(xr - xk)
= (xi - xr)(xr - xk) と等しいので、元のままです。

そのため、影響が出ていません。

もとの差積 f の式と同じ形になっています。

したがって、これらについては、影響が無いということです。

ここまでで、影響が出ているのが、
r = i のときに出現した-1 倍だけです。

【k + 1 < r ≦ n のとき】

i も k も出てこないので、互換 (i, k) で入れ替わる部分がありません。

これで、差積 f のすべての部分について、
σ = (i, k) での入れ替えについて確認をしました。結局、-1倍だけが影響します。

そのため、σf = -f ということになります。【証明完了】

これで、目指していた定理が証明できます。


【定理】

Sn の各置換は、偶置換か奇置換のいずれか一方となる。


<証明>

n 次の置換を σ とし、n 変数の差積の変数を入れ替えることをします。置換の結果、現れる多項式はただ一つです。

ステップ1より、n 次の置換 σ は、互換の積として表すことができます。

そのため、σ で差積 f の変数を入れ替えたときに、有限個の互換で順に変数を置換することになります。

ステップ2より、互換 1 個で差積を置換すると、
-f となります。

「-1の偶数乗は1」で、「-1の奇数乗は-1」なので、
σ が偶数個の互換の積ならば、σf = f、
σが奇数個の互換の積ならば、σf = -f となります。

σf の結果は、ただ一つなので、f か -f のどちらか一方のみということになります。【証明完了】

これで、σ を互換の積として表す方法は一通りではないけれでも、そのときに使った互換の個数は、偶数個か奇数個かが必ず確定するということが示せました。

σ が偶数個の互換の積で表され、かつ奇数個の互換の積でも表されるということがあったすると、σf の値が、f であり、かつ -f であるという矛盾が起きてしまいます。

群論の基礎的な内容については、群の公理という記事で解説しています。

また、群論入門の終盤の内容となりますが、n次交代群という記事で、5 次以上の交代群が単純であることを示しています。

それではこれで、今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。

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