n乗の差 | 真である命題を適用して整数の議論を進める
" n乗の差 “についての公式を、高校の数学で学習する有名な公式(命題)を使って証明します。
証明をした真である命題を使って、さらに議論を進めます。
真である命題を適用することによって、毎回、命題を証明しなくて済むため、円滑に議論を進めることができます。
2 や 3 で割り切れるかどうかといったことでも、割られる整数に n 乗が使われていると大変です。
まず、最初の出発となる n 乗の差についての公式(命題)を証明します。
n乗の差 :よく知る公式から導く
【命題1】
n を 2 以上の自然数とする。
(a-b)(an-1+an-2b+…+abn-2+bn-1)
= an-bn
<証明>
(a-b)(an-1+an-2b+…+abn-2+bn-1) に分配法則を使って二つに分けます。
a(an-1+an-2b+…+abn-2+bn-1)
-b(an-1+an-2b+…+abn-2+bn-1)
となります。
さらに二つの項のそれぞれに分配法則を使います。
an+an-1b+…+a2bn-2+abn-1
-an-1b-an-2b2-…-abn-1-bn
ここで、i を 1 以上 (n-1) 以下の自然数とします。
すると、この 1 について、次の二つの項が打ち消し合います。
aibn-i-aibn-i = 0
このため、i を 1 以上 (n-1) 以下の範囲に渡って走らせると、an と -bn 以外の項が打ち消されてしまいます。
よって、
(a-b)(an-1+an-2b+…+abn-2+bn-1)
= an-bn 【証明完了】
この証明で、論理的な考察から打ち消しの部分を正確に述べました。
ただ、文章中心の説明だと、このように長くなります。
シグマ記号を使うと、今の証明の打ち消しの部分をスムーズに計算できます。
シグマΣは、数列の単元だけでなく、整数の問題でも使うチャンスという例として取り挙げます。
シグマ計算をご存知の方は、今の証明の復習に軽くご覧ください。
一般項からのシグマ
シグマの記号を使うと、打ち消し合う部分が明確になります。
証明しようとする【命題】とは独立に成立している真である命題(シグマの公式)を適用しました。
このように、数学では既に成立している真である命題を適用することができます。
このことを知っていると、同じ証明を何度もしなくて済むので、議論が円滑に進みます。
それでは、【命題1】という n 乗の差についての公式を証明できたので、【命題1】を使って、具体的な命題を証明してみます。
n乗の差 :具体的な命題を証明する
【命題2】
n を 2 以上の自然数とする。
このとき、11n-8n は 3 の倍数である。
<証明>
n = 1 のときは、
11-8 = 3 なので、成立しています。
そのため、以下では n ≧ 2 の場合について議論します。
先ほどの【命題1】で、a として 11 を、b として 8 を考えると、より深く考察をすることができます。
11n-8n =
(11-8)(11n-1+11n-2×3+…+11×3n-2+3n-1)
11n-1+11n-2×3+…+11×3n-2+3n-1 は、見た目が複雑ですが整数です。
11-8 = 3 です。
よって、11n-8n は 3 に整数を掛けた数なので、3 の倍数となっています。【証明完了】
11n-8n のように、指数に文字が使われると、3 で割り切れるのかどうかということでさえ、判断するのが大変になります。
そのため、【命題1】は n 乗どうしの差を考察するときに役立ちます。
さらに指数法則と合わせることで、より式を書き換えるバリエーションを上げることができます。
【指数法則】
xy×z = (xy)z,
xy×zy = (x×z)y
では、指数法則と【命題1】を使って、次の命題を証明します。
指数を上手にコントロール
【命題3】
n を自然数とする。
このとき、32n-1 は 8 の倍数である。
<証明>
n = 1 のとき、
32×1-1 = 9-1 = 8 なので、成立しています。
以下では、n ≧ 2 として議論を進めます。
32n = (32)n = 9n,
1n = 1 です。
そのため、
32n-1 = 9n-1n です。
これで、【命題1】が使える形になりました。
32n-1 = 9n-1n =
(9-1)(9n-1+9n-2×1+…+9×1n-2+1n-1)
9n-1+9n-2×1+…+9×1n-2+1n-1 は整数です。
そして、9-1 = 8 です。
そのため、32n-1 = 9n-1n は 8 に整数を掛けた数なので、8 の倍数となっています。【証明完了】
指数法則を使って、【命題1】を使えるように書き換えたことが効きました。
今度は、【命題1】を使って、次の奇数乗の和についての公式を示します。
新たなる奇数乗の和の公式
【命題4】
n を 2 以上の自然数とする。
このとき、
a2n-1+b2n-1 =
(a+b)(a2n-2-a2n-3b+a2n-4b2-…+b2n-2)
<証明>
-(-1)2n-1 = (-1)2n = 1 です。
そのため、
a2n-1+b2n-1 = a2n-1+1×b2n-1
= a2n-1+{-(-1)2n-1}×b2n-1
= a2n-1-(-1)2n-1×b2n-1
= a2n-1-(-b)2n-1
指数法則を使いました。
m = 2n-1 と置くと、【命題1】が使えます。
i を 0 から m-1 まで走らせると、中括弧の中で、i が奇数の項のときに -1 の奇数乗が -1 のために符号がマイナスになります。
よって、
m を元の 2n-1 に戻すと、
(a+b)(a2n-2-a2n-3b+a2n-4b2-…+b2n-2) と交互にプラスとマイナスの符号になります。【証明完了】
この【命題4】は、交互に符号が入れ替わるので、一般の n だと式の内容が分かりにくいかもしれません。
n = 3 として、具体的に何が起こっているのかを述べておきます。
小さなnで状況を確認
【命題4の例】
32n-1+12n-1 について、n が 3 のときに内容を観察します。
35+15 を次のように書き換えて、【命題1】を使えるようにしました。
35+15 = 35+(-1)5 です。
この右辺に、5 = m として【命題1】を適用しました。
{3-(-1)} と
{34+33(-1)1+…+(-1)4} の積となるわけです。
{3-(-1)} = 3+1 ですが、肝心の中括弧の部分を丁寧に説明します。
中括弧の 5 個の項の和について、一般項は次のようになっています。
35-1-i(-1)i です。
i は 0 以上 (5-1) 以下の自然数を走ります。
※ i に代入する非負整数は、はじめに与えられた指数の 5 と同じ 5 個です。
-1 の偶数乗の値は 1 で、-1 の奇数乗の値は -1 なので、中括弧の中の和は次のようにプラスとマイナスが交互に繰り返されることになります。
34-33+32-31+(-1)5-1
= 34-33+32-31+1 が中括弧の中の和です。
これが、【命題4】の結論が意味する式です。
35+15 = 35+(-1)5
= 4×(34-33+32-31+1)
35+15 を、このような形に書き換えることができます。
数学では、個数に注目することもあります。
証明された結果だけでなく、どういった思考過程で結論に辿り着いたのかということまで理解していると、さらに深く考察を進められるときもあります。
【命題4】の証明内容で i を走らせましたが、i に代入した自然数の個数は、はじめに与えられた式の指数と一致していました。
この内容まで注目すると、次の命題を証明することができます。
証明の思考過程を活用する
【命題5】
n を 2 以上の自然数とする。
このとき、32n-1+1 を 8 で割ったときの余りは 4 である。
<証明>
余りについての証明問題なので、検算の形で商と余りを使った式を考えます。
32n-1+1 = 32n-1+12n-1 なので、
【命題4】を適用できます。
2n-1 が、はじめに与えられた式の指数ということを押さえておきます。後の証明で効果が出ます。
先ほどの証明では、2n-1 を m と置きました。
32n-1+1 の値は、【命題4】から次となります。
(3+1) = 4 と
(32n-2-32n-3+32n-4-…+(-1)2n-2) の積となります。
12n-2 は、m-1 のことです。
32n-2 = 32n-2×(-1)0 です。
一般項は 3m-i(-1)i で、
i は 0 以上 m-1 以下の非負整数を走ります。
そのため、i には m 個の非負整数を代入することになります。
m = 2n-1 は奇数です。
すなわち、
32n-2-32n-3+32n-4-…+(-1)2n-2 は、奇数を奇数個だけ足し合わせたということになります。
そのため、この値は奇数となっています。
ここまでの内容をまとめます。
32n-1+1 = 32n-1+12n-1 は、
4 と奇数の積となっています。
奇数なので、ある整数 k を用いて、
32n-2-32n-3+32n-4-…+(-1)2n-2
= 2k+1 と表すことができます。
よって、
32n-1+1 = 32n-1+12n-1
= 4×(2k+1)
= 8k+4(ただし k は整数)
※ 0 ≦ 4 < 8 となっています。
これで、検算の形にできました。
0 ≦ 4 < 8 なので、4 が余りです。
すなわち、
32n-1+1 = 8k+4 を 8 で割ったときの余りは 4 ということになります。【証明完了】
余りが絡む証明問題は、大学受験では難しい問題が多いです。
以前に、余りについての整数問題についての内容を証明した記事を投稿しました。
実は、これらの内容は大学の数学科の代数学の環論へとつながる内容となっています。
x-y = x+(-y) と、減法を加法にすることで、差は和とつながります。
そのため、この記事で述べた内容は、加法と乗法だけを用いて議論が成立する内容となっています。
【命題1】や【命題4】は、大学受験だけでなく代数学で可換環 R について適用できる内容となっています。
ちなみに、検算は、除法の定理という名前で大学の環論を学習するときの基本となります。
ユークリッド整域という記事で、大学の環論への入門として除法の定理を証明しています。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。