二項演算 | 数学における実数体の公理と照らして解説

二項演算-数学-表紙

" 二項演算 “とは、数学において関数(写像)の対応によって定義されています。

実数体において、中学一年のときに学習して知っているのが実数体の公理です。

どういう条件を満たすものが実数体かということを押さえた上で、公理と違う導かれる命題を区別しています。

公理(系)という無条件に正しいということを認めるものと、正しいことを証明してから使う命題の区別をつけつつ、代数学の基礎となる演算を解説しています。

まず、加法の公理から説明し、公理から導かれる命題を証明します。

この記事では、実数全体から成る集合(実数体)のことを R と表すことにします。

二項演算 :実数の加法から

【加法の公理】

R の元 a と b が任意に与えられたとする。

このとき、a+b を組 (a, b) に対して、対応させる R の元とする。

この対応について、以下の条件をすべて満たすとき、この対応を実数体における加法と定義する。

零の存在

0∈R が存在し、
任意の a∈R に対して、
a+0 = 0+a = a である。

②逆元の存在

各 a∈R に対して、
x∈R が存在し、
a+x = x+a = 0

結合律

任意の a, b, c ∈R に対して、
(a+b)+c = a+(b+c)

交換律

任意の a, b∈R に対して、
a+b = b+a


f : R×R → R という関数が、上の四つの条件を満たすとき、f を実数体における加法といいます。

(a, b)∈R×R の元に対して、
f(a, b) のことを a+b と記しています。

実数全体から成る集合 R、そして加法と乗法という二種類の関数(写像)を構成するということは、大学の専門課程の内容となります。

数学科でも、その内容を専攻する方は少ないかと思います。

この実数の構成については、岩井の数学ブログでは触れないこととします。

しかし、R と加法と乗法、そして二つの二項演算をつなぐ分配律の公理を満たすものが存在したとして、そこから大学の数学科の一年生の議論がスタートします。

つまり、公理を満たすということから導かれる命題の証明が始まります。

加法零元は、ただ1つ

命題

r∈R が任意の a∈R に対して、
a+r = a を満たすならば、
a = 0 である。


r∈R が、この命題の仮定を満たすと、必然的に実数体の公理の零の存在の条件を満たす 0 ということになるという内容です。

では、証明を行います。

<証明>

任意の a∈R に対して、
a+r = a だとします。

すると、公理③の逆元の存在から、
a についての逆元 x∈R が存在します。

左辺と右辺は同じ R の元なので、
x+(a+r) = x+a となります。

逆元の条件から、右辺の値は 0 です。

つまり、
x+(a+r) = 0 …(1)

ここで、公理③の結合律から、
x+(a+r) = (x+a)+r
= 0+r = r …(2)

加法逆元の②と、加法零元の①の内容を使いました。

(1), (2) より、
0 = x+(a+r) = r となります。

すなわち、r = 0 です。【証明完了】

今、示した命題1は、右単位元についての命題です。

同じく左単位元についての命題も証明できます。

次に証明する命題と合わせて、加法零元が、ただ1つであることが導かれます。


【命題2】

r∈R が任意の a∈R に対して、
r+a = a を満たすならば、
a = 0 である。


<証明>

任意の a∈R に対して、
r+a = a だとします。

すると、公理④の交換律から、
任意の a∈R に対して、
a+r = a ということになります。

これは、【命題1】の仮定を満たしています。

よって、【命題1】より、
r = 0 です。【証明完了】

これら、【命題1】と【命題2】から、
R における①の零元の存在の条件を満たす R の元は、0 のみということになります。

これが、R における加法零元が唯一ということの証明です。

一意という記事で、条件を満たすものが唯一であることの証明方法について解説をしています。

今度は、加法について、各元についての逆元も、ただ1つしか無いことを証明します。

二項演算 :加法逆元について

【命題3】

各 a∈R について、x, y∈R が、
a+x = 0, a+y = 0 ならば、
x = y である。


<証明>

a+x も a+y も同じ R の元である 0 という状況です。

そのため、
a+x = a+y です。

a について、公理②から a の加法逆元 z∈R が存在します。

この z を両辺に加え、公理③の結合律を適用します。

z+(a+x) = z+(a+y) より、
(z+a)+x = (z+a)+y となります。

z は a の加法逆元なので、
z+a = 0 です。

すなわち、
0+x = 0+y となっています。

よって、0 は零元だから、
x = y です。【証明完了】

この【命題3】は、右逆元は、ただ1つということを表しています。

それぞれの逆元も唯一

【命題4】

各 a∈R について、x, y∈R が、
x+a = 0, y+a = 0 ならば、
x = y である。


<証明>

x+a = 0, y+a = 0 とすると、公理④の交換律が使えます。

そのため、
a+x = 0, a+y = 0 です。

これより、【命題3】から、
x = y です。【証明完了】

これで、各 R の元について、左逆元についても、その存在が唯一であることを示せました。

【命題3】と【命題4】を合わせると、R の各元について、その加法逆元が唯一ということになります。

そこで、新しい記号を導入します。

a∈R に対して、a の加法逆元のことを -a と表すことにします。

ただ1つしか a の加法逆元になる R の元が存在しないので、-a という記号を定義できるわけです。

加法逆元が複数あると、-a が一つに定まらないことになるので、【命題3】と【命題4】を先に証明して、唯一であることを確定させてから、-a の記号を導入しました。

ここから、新しい二項演算を誘導します。

減法を誘導

f : R×R → R という関数が、
(a, b)∈R について、
f(a, b) = a+b という加法でした。

この f という関数から、新しい関数を定義します。

g : R×R → R という関数が、
(a, b)∈R について、
g(a, b) = f(a, -b) と定義します。

既に与えられている関数を利用して、新しい関数を定義しました。

f(a, -b) は、a と -b の加法を計算した値です。

つまり、a と b の加法逆元の和が g による値です。

すなわち、
g(a, b) = a+(-b) です。

これで、中学一年の一学期に学習する減法が定義できました。

加法 f は、はじめから与えられているという設定で大学一年の数学科の内容が進行します。

それに対して、減法は、はじめから与えられているのではなく、加法 f から導かれるものとなっています。

二項演算子の記号の使い方ですが、中学の数学と同じく省略した書き方を使います。

a+(-b) のことを、
単に a-b と表します。

注意点は、この減法は結合律を満たさないということです。

実際、
(9-5)-1 = 3,
9-(5-1) = 5 となります。

括弧のつけ方を変更すると、計算結果が異なることも起こり得ます。

そのため、括弧のつけ方に依らずに三つの数の値が定まるという結合律を満たしません。

※ 交換律も満たしていません。

加法とのつながりで、減法について述べました。

実数体 R には、加法とは別の関数(写像)が与えられています。

それが、乗法の関数です。

これについても公理があります。

h : R×R → R について、
(a, b)∈R に対して、
h(a, b) = ab と表すことにします。

この乗法について、証明なしで議論を進める公理について、次に説明します。

二項演算 :乗法について

【乗法の公理】

h : R×R → R について、次の四つの条件を満たすときに、R における乗法という。

①単位元の存在

1∈R が存在し、
任意の a∈R について、
a1 = 1a = a

②逆元の存在

各 a ∈R について、
x∈R が存在し、
ax = xa = 1

③結合律

任意の a, b, c ∈R に対して、
(ab)c = a(bc)

④交換律

任意の a, b∈R に対して、
ab = ba


これらが、加法とは異なる乗法という関数についての公理です。

加法と異なる関数というのは、定義域に含まれている元について、対応させる値が異なるときがあるからです。

(1, 1)∈R×R について、
f(1, 1) = 1+1 = 2,
h(1, 1) = 1 です。

2 と 1 が異なる値なので、f と h で対応させる値が異なっています。

R×R という直積集合が、R における二項演算という関数の定義域についての内容でした。

乗法についての単位元の公理①から、単位元が唯一であることが導かれます。


【命題5】

e∈R が、任意の a∈R に対して、
ae = ea = a ならば、
e = 1 である。


<証明>

a として 1∈R を考えます。

仮定より、
e1 = 1 です。

乗法の単位元 1 の公理①より、
e1 = e です。

そのため、
e = e1 = 1 です。【証明完了】

さらに、加法と乗法という異なる二項演算ですが、関連を持たせるための公理があります。

それが、次の分配律の公理です。

二項演算-実数体の公理

この分配律の公理で、加法と乗法を関連させることで、基本的な命題を導くことができます。

加法零元との積は零

【命題6】

任意の r∈R に対して、
r0 = 0r = 0 である。


<証明>

加法零元の公理より、
0+0 = 0 です。

両辺が同じ R の元なので、
r(0+0) = r0 です。

この左辺に、分配律の公理を適用します。

すると、
r(0+0) = r0+r0 です。

よって、
r0+r0 = r0 となります。

r0 も R の元なので、加法についての公理②から、逆元が存在します。

-(r0) を両辺に加えると、
(r0+r0)-(r0) = r0-(r0) となります。

加法逆元なので、
r0-(r0) = 0 です。

ゆえに、
(r0+r0)-(r0) = 0 …(3)

さらに、左辺に加法についての結合律を適用します。

(r0+r0)-(r0) = (r0+r0)+(-r0)
= r0+(r0+(-r0))
= r0+0 = r0 …(4)

(3) と (4) から、
r0 = 0 です。

さらに、
乗法の交換律から、
0r = 0r = 0 です。【証明完了】

これで、加法零元 0 と R の元で乗法を計算すると、その値が 0 となることを証明できました。

算数のときから事実として使っていた内容ですが、この段階の命題だったという内容になります。

乗法について、乗法群に関わる内容を述べましたが、乗法逆元が、ただ1つしか存在しないということも導けます。

この内容については、群の公理という記事で群論の基礎的な命題として解説をしています。

今回の記事では、二項演算について、実数体の公理について述べました。

順序の公理では、実数の大小関係についての公理について解説をしています。

実数体ですが、大学の数学で線形代数を学習するときに、可換体上のベクトル空間の例として使われます。

ベクトル空間の公理についての記事も投稿しています。

それでは、これで今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。