円分多項式 | 1の原始n乗根を使った定義ですが、実は整数係数の多項式

" 円分多項式 “は、1 の n 乗根に関連して、高校の数学で複素数平面の単元でも触れています。大学の数学科で、代数分野などで詳しく扱うこともあります。

また、計算機数学や情報系の学部でも、円分多項式について扱われます。このブログ記事では、円分多項式の帰納的な繰り返しを利用して、整数係数になっていることを示します。

複素係数の分数式についての関係式が、円分多項式の定義からすぐに導かれるのですが、整数係数の多項式ということが証明できます。

高校の数学の内容から始めて、大学で扱われる円分多項式のよく知られた性質を解説しています。

まず、高校数学の複素数平面で学習する極形式に関連して、円分多項式の定義を述べます。

円分多項式 :まずは定義から

n 乗すると、偏角が n 倍されるということから、次の式を n 乗すると、1 となることが分かります。
※ ただし、この n は自然数です。

cos (2π/n) + i sin (2π/n) を n 乗すると
cos 2π + i sin 2π = 1 になります。

ド・モアブルの定理から偏角が n 倍されます。

実部と虚部の三角関数の値が計算され、実部が 1 で虚部が 0 となることから、n 乗すると 1 になったことが分かります。

n 乗すると 1 となるので、xn - 1 という多項式の根になっています。

代数学の基本定理から、xn - 1 は n 個の根をもちます。この n 個の根のことを 1 の n 乗根といいます。

nt = cos (2π/n) + i sin (2π/n) と置くことにします。この複素数は、1 の n 乗根の中でも特別なもので、1 の原始 n 乗根といわれます。

正確には、n を 2 以上とし、「その数自身は 1 でなく、n 乗したときに、はじめて 1 となる」ときに、1 の原始 n 乗根といいます。

先ほどの nt は n が 2 以上の自然数のときに、1 の原始 n 乗根の定義を満たしています。

1の原始n乗根の個数

この節では、n は 2 以上の自然数として議論を進めます。

nt = cos (2π/n) + i sin (2π/n) を k 乗したものを考えます。

1 以上 n 以下の自然数 k で k と n の最大公約数が 1 だとします。

このブログ記事では、最大公約数のことを
gcd(k, n) のように表します。

gcd (k, n) = 1 という設定のとき、
1 ≦ k ≦ n なので、k / n は分子と分母が全く約分されていない分数となっています。

ド・モアブルの定理から、
ntk の偏角は 2π × k/n です。

gcd(k, n) = 1 なので、
0 < 2π × k/n < 2π です。

絶対値は 1 のままなので、ntk に対応する複素数平面上の点は、まだ原点中心の単位円の上にあります。

そして、偏角の値から ntk ≠ 1 です。

s を 1 以上 n - 1 以下の自然数とすると、
gcd(k, n) = 1 なので、ks は n の倍数にはなっていない自然数です。

(ntk)s = ntks の偏角は、2π × ks/n です。

ks が n の倍数ではないので、ks/n を既約分数の形にしたときに、分母が 1 ではない整数となっています。

よって、偏角が 2π の整数倍となっていないことから、(ntk)s ≠ 1 です。

(ntk)n の偏角は 2πk なので、2π の整数倍ということから 1 となっています。

1 以上 n - 1 以下の自然数 s で s 乗をすると 1 ではなく、n 乗するとはじめて 1 となりました。

そのため、ntk は 1 の原始 n 乗根の定義を満たしました。

今度は、gcd(k, n) が 2 以上だったとします。

このときは、ntk は 1 の原始 n 乗根にはなっていません。

k ÷ gcd(k, n) = d,
n ÷ gcd(k, n) = s とすると、
gcd(k, n) ≧ 2 なので、s ≦ n - 1 となっています。

(ntk)s = ntd×gcd(k, n)×s = ntdn です。

この偏角は、2π × (dn)/n です。n と n で約分されて、偏角が 2π の整数倍となっています。

そのため、n よりも小さい自然数 s で s 乗すると 1 となったため、ntk は 1 の 原始 n 乗根ではありません。

以上の内容をまとめます。

1 以上 n 以下の自然数 k について、
ntk が 1 の原始 n 乗根となるのは、k と n の最大公約数が 1 となっているときのみです。

ここで、1 以上 n 以下の自然数で、n との最大公約数が 1 となっているものの個数を表す良い関数があります。

それは、オイラーのファイ関数 φ です。

自然数 n に対して、φ(n) は、1 以上 n 以下の自然数の中で、n との最大公約数が 1 となっている自然数の個数です。

そのため、自然数 n に対して、1 の原始 n 乗根は φ (n) 個あるということになります。

円分多項式の定義

n についての円分多項式の定義です。

ntk (k = 1, 2, … , n) が相異なる 1 の n 乗根です。

gcd(k, n) = 1 のときに、1 の原始 n 乗根でした。

n についての円分多項式とは、1 の原始 n 乗根をすべて根にもつ多項式ということになります。

一次式の定数項の部分に 1 の原始 n 乗根が現れています。何個の項を掛け合わせているのかというと、1 の原始 n 乗根の個数ですから φ(n) 個です。

そのため、n についての円分多項式の次数は φ(n) 次です。一次式を φ(n) 個掛けているので、次数が決定しました。

次に、1 以上 n 以下の範囲にある n の正の約数を d とします。

同様に、d についての円分多項式 fd(x) が存在します。

dtk (k = 1, … , d) が 1 の d 乗根たちで、
cos 2π/d + i sin 2π/d = dt1

再び、ド・モアブルの定理を考えると、d が n の約数なので、dt1 を n 乗すると、偏角が 2π の整数倍となるため、1 となります。

これより、dtk (k = 1, … , d) はすべて 1 の n 乗根ということになります。

よって、1 ≦ d ≦ n が n の約数であるとき、d についての円分多項式に現れている 1 の原始 d 乗根たちは、すべて相異なる 1 の n 乗根になっています。

また、d と d’ を 1 以上 n 以下の範囲にある異なる n の約数とすると、1 の原始 d 乗根と 1 の原始 d’ 乗根は偏角が異なるので、異なる数ということになります。

さらに、ファイ関数についての次の性質が効いてきます。


自然数 n に対して、
d1, … , di を 1 以上 n 以下の相異なる n の正の約数とすると、
φ(d1) + … + φ(di) = n となります。


d1 についての円分多項式から di についての円分多項式をすべて掛け合わせた多項式を作ります。

このファイ関数についての性質から、その多項式は最高次係数が 1 で 1 の n 乗根をすべて根にもつ n 次の多項式になっています。

この内容をまとめると、次の関係式(漸化式)が得られます。

円分多項式 :重要な関係式

※ 二つの整数 a と b について、
a が b の約数(約元)となっているときに、
a | b と表します。

2 以上の自然数 n について、n 以下の範囲にある n の正の約数たちについての円分多項式をすべて掛け合わせると xn - 1 となります。

そのため、n 未満の範囲にある n の正の約数たちについての円分多項式をすべて掛け合わせた多項式で xn - 1 を割ると、n についての円分多項式となるという関係を示しています。

n = 1 のとき、f1(x) = x - 1 を初期値とすると、この漸化式によって、帰納的に 2 以上の自然数 n についての円分多項式を表すことができるということになります。

n が素数 p のときは、正の約数が 1 と p しかないので単純です。

f1(x)fp(x) = xp - 1 となります。

ちなみに、
(x - 1)(xp-1 + xp- 2 + … + x + 1) を展開すると、xp - 1 となるため、
整数係数多項式についての除法の原理から、
xp-1 + xp- 2 + … + x + 1
= fp(x)
と分かります。

とりあえず、定義からすぐに、n が素数 p のときには、p についての円分多項式が、最高次係数が 1 の整数係数の多項式ということが分かりました。

このブログ記事で、ここから目指すことは、任意の自然数 n について、n の円分多項式は、最高次係数が 1 の整数係数多項式となっているということです。

ここで、多項式の変数(不定元)を x と表してきましたが、x に xp を代入するということも、この手の議論をしているときに、よく使われます。

ややこしいときには、変数を t とする多項式を作っておいて、t に xp を代入すると、見やすいときもあります。

次は、x に xp を代入した多項式についての重要な命題になります。

素因数で割る

【命題1】

n を自然数とし、素数 p を n の素因数とする。

n = mp (m は自然数)となっているとき、
fm(x)fn(x) = fm(xp)


<証明>

この自然数 n についての命題で、設定に当てはまる最小の自然数 n = 2 です。

n が素数 2 のときは、
f1(x)f2(x) = x2 - 1
= (x2)1 - 1 = f1(x2)

よって、n = 2 のときに成立しています。

以下で、n > 3 として、n - 1 以下の自然数について、命題が成立しているとして、帰納法で示します。

m 未満の範囲にある m の正の約数を a, … , b とすると、
fa(t)…fb(t)fm(t) = tm - 1

t に xp を代入すると、
fa(xp) ・・・ fb(xp)fm(xp)
= (xp)m - 1 = xmp - 1 … (★)

a < m, … , b < m なので、
ap < n, … bp < n です。

よって、ap, … , bp たちに帰納法を用いると、
fa(xp) = fa(x)fap(x)… fb(xp)
= fb(x)fbp(x) となります。

これらを (★) に代入すると、次のようになります。

fa(x)fap(x)…fb(x)fbp(x)fm(xp)
= xmp - 1

よって、xmp - 1 を
fa(x)fap(x)…fb(x)fbp(x) で割った分数式は、fm(xp) です。

一方、mp 未満の mp の正の約数は、
a, … , b, m, ap, … , bp なので、
円分多項式の定義から導かれる関係式から、
fa(x)fap(x)…fb(x)fbp(x)fm(x)fmp(x)
= xmp - 1

よって、xmp - 1 を
fa(x)fap(x)…fb(x)fbp(x) で割った分数式は、
fm(x)fmp(x) です。

以上より、fm(x)fmp(x) = fm(xp) が示せました。

n = mp だったので、
fm(x)fn(x) = fm(xp) です。【証明完了】

n = mp (gcd(m, p) = 1) のときに、fm(xp) と fm(x) がどちらも最高次係数 1 の整数係数の多項式だということと、fm(xp) が fm(x) の倍数であることを示したいところです。

そうすると、fn(x) が、その商となっているので、最高次係数 1 の整数係数多項式ということが示せたことになります。

円分多項式はモニックな整数係数多項式

d を自然数、s を 2 以上の自然数とします。

(t - 1)(ts-1 + ts-2 + … + t + 1) を展開すると、ts - 1 となります。

よって、t に xd を代入すると、
(xd - 1)((xd)s-1+(xd)s-2+…+xd+1)
= (xd)s - 1 = xds - 1 となっています。

つまり、整数環上の多項式環 Z[x] において、
xd - 1 は xds - 1 の約元になっています。

二つの整数係数多項式 f(x) と g(x) の最大公約多項式も整数についての最大公約数を表す記号と同じく gcd(f(x), g(x)) と表すことにすると、次のようになります。


【補題1】

d を自然数、s を 2 以上の自然数とすると、
gcd(xd - 1, xds - 1) = xd - 1


より一般的に、
【補題 1】を次の【補題2】へと一般化できます。

【補題2】

自然数 s と t について、
gcd(xs - 1, xt - 1) = xgcd(s, t) - 1

※ 高校数学で学習するユークリッドの互除法から導けます。
※ リンク先のブログ記事で、この証明を解説します。

では、この【補題 2】を使って、円分多項式が最高次係数 1 の整数係数多項式であることを証明します。

なお、最高次係数が 1 の多項式をモニック多項式といいます。


【命題2】
n を自然数、素数 p を n の素因数とする。
また、n = mp で、gcd(m, p) = 1 となっているとする。

このとき、
n についての円分多項式 fn(x) は、モニックな整数係数多項式である。


<証明>

n = 1 × p のとき、
fp(x) = xp-1 + … + x + 1 なので、命題は成立しています。

よって、以下では、m ≧ 2 とし、(n - 1) 以下の命題については成立しているとして、帰納法で示します。

d < m を m の任意の正の約数とすると、
d, m < n なので、帰納法より、
円分多項式 fd(x) と fm(x) はモニックな整数係数多項式です。

整数環 Z[x] において、
fm(x)(Πdfd(x)) = xm - 1 なので、
fm(x) は xm - 1 の約元となっています。

また【補題1】より、
xm - 1 は xmp - 1 の約元となっています。

また、gcd(m, p) = 1 より、m の任意の正の約数 k に対して、gcd(k, p) = 1 です。

そのため、gcd(m, dp) = d となっています。

【補題 2】より、
gcd(xm - 1, xdp - 1) = xd - 1 だから、
gcd((xm - 1)/(xd - 1), xdp - 1)
= 1

これは、(xm - 1)/(xd - 1) が、最大公約多項式 xd - 1 を割られ、除かれているためです。

さらに、fm(x) は xm - 1 の因数だけれども、
d < m だから xd - 1 の因数ではありません。

そのため、fm(x) は Z[x] において、
(xm - 1)/(xd - 1) の因数、すなわち、約元です。

(xm - 1)/(xd - 1) と xdp - 1 の最大公約多項式が 1 なので、(xm - 1)/(xd - 1) の因数である fm(x) との最大公約数も 1 となります。

つまり、
gcd(fm(x), xdp - 1) = 1

これは、xdp - 1 のどの因数に対しても、
fm(x) との公約多項式が 1 ということを表しています。

さらに、
(xp)d - 1 = xpd - 1 = xdp - 1 であり、
fd(xp) は (xp)d - 1 の因数だから、
gcd(fm(x), fd(xp)) = 1 … (★)

帰納法より、fm(t), fd(t) ∈ Z[t] で、モニックです。

そのため、t = xp を代入すると、
fm(xp), fd(xp) ∈ Z[xp] で、モニックです。

円分多項式の定義から、
dfd(t)}fm(t) = tm - 1

t = xp を代入すると、
{ Πdfd(xp) } fm(xp)
= (xp)m - 1 = xmp - 1 ∈ Z[x]

両辺を fm(x) で割ると、
{ Πdfd(xp) } fm(xp) ÷ fm(x)
= (xmp - 1) ÷ fm(x)

fm(x) は、xmp - 1 の因数だったので、Z[x] において、(xmp - 1) ÷ fm(x) は割り切れています。

よって、
dfd(xp)} fm(xp) ÷ fm(x) は Z[x] において割り切れています。

さらに、(★) から、どの fd(xp) についても、fm(x) との最大公約多項式は 1 だったので、
Z[x] において、fm(x) が fm(xp) を割り切ったということになります。

したがって、
fm(xp) ÷ fm(x) ∈ Z[x]

ここで、【命題 1】より、fm(xp) ÷ fm(x) の値は fn(x) です。

これで、n についての円分多項式 fn(x) が整数係数多項式であることが証明できました。

さらに、
fm(x)fn(x) = fm(xp) であり、
fm(x) と fn(x) の最高次係数の積が、fm(xp) の最高次係数であり、fm(x) と fm(xp) の最高次係数が 1 なので、fn(x) の最高次係数が 1 となります。

よって、fn(x) がモニックであることも示せました。【証明完了】

「有限な位数の斜体は、必ず可換体である」というウェダーバーンの小定理が、今回のブログ記事で証明をした、円分多項式が整数係数の多項式であるということを使って、導かれます。

また、円分多項式が整数係数の多項式であることから、既約多項式であるということも証明できます。

この既約多項式であることの証明を通して、重根をもつかどうかについて、多項式環の形式的な微分を利用する良い練習になるかと思います。

重根を持つかどうかの判定法については、次の記事で解説をしています。

これで、今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。

フォローする