アルキメデスの性質 | 数学で塵も積もれば山となるということを論理的に考察【上限の定義に慣れる練習】

アルキメデスの性質-Archimedes-表紙

" アルキメデスの性質 “を大小関係についての上界や上限の定義から証明します。

∀(任意の)や∃(存在する)という論理を使うための良い練習の内容となるかと思います。

集合論の入門的な内容や微分積分学のイプシロンエヌ法に関連してくる内容です。

そのため、アルキメデスの性質の証明を通じて論理の練習をしておくと、論理的な思考をトレーニングしつつ、大学数学の基礎的な内容を把握することにもなります。

上界や上限の定義を把握し、実数の連続性の公理を使って推論を進めます。

この岩井の数学ブログでは、ワイエルシュトラスの上限公理を実数の連続性の公理としています。

※ 目次の項目を選択すると該当箇所へ移動します。

アルキメデスの性質 :上界や上限の定義から着実に

この記事では、実数全体から成る集合を R、自然数全体から成る集合を N と表すことにします。まず、上界と上限の定義を押さえておきます。


【上界の定義】

S ⊂ R が空集合でないとする。
実数 r が、∀s∈S に対して、
s ≦ r となるとき、r を部分集合 S の上界といいます。

【上限の定義】

S ⊂ R が空集合でないとする。
{r∈R | r は S の上界} に最小値が存在するとき、その最小値を S の上限という。

S の上限が存在するとき、
sup S で、S の上界を表す。


実数 r が S の上界であることの定義は、S のどの元 s に対しても、s ≦ r となっているということです。

上界や上限については、存在しないときもあるので注意です。

例えば、{x∈R | 3 < x} という R の部分集合については、上界が存在しません。そのため、上界たちを集めた集合は空集合となり、上限も存在しません。

S = {x∈R | x < 3} だと、4 や 5 などが S の上界となります。

「S に上界が少なくとも 1 つ存在するとき、必ず S の上限となる実数が存在する」というのが、ワイエルシュトラスの上限公理です。

他にも同値なものが複数あって、どれか一つを実数の連続性の公理として採用し、議論を進めます。

この記事では、ワイエルシュトラスの上限公理を実数の連続性の公理としています。

そのため、S = {x∈R | x < 3} には、上限が存在します。

実は、アルキメデスの性質を証明しようとするときに、S に上限が含まれるかどうかの判断が大切になります。

上限を含むかどうか

S ⊂ R の上限 sup S が存在するときに、上限が S に含まれているかどうかは、S によって様々です。

【例】

S = {x∈R | x < 3} の上限は、3 となります。

sup S = 3 という実数は、S に含まれていません。

一方、T = {x∈R | x ≦ 3} だと、
sup T = 3 は T に含まれています。

こういった部分集合によって、その上限が存在したとしても、上限をその部分集合の中に含んでいるかどうかは、一概になんとも言えません。

アルキメデスの性質の証明は、上限を含むかどうかが不明な状況で論理的に推論を進めることになります。

あと用語ですが、S ⊂ R が空集合でないときに、S の上界が一つでも存在すると、S は上に有界といいます。

W = {x∈R | x2 < 3} だと、0∈W なので W は空集合ではありません。そした、7 は W の上界なので、W は上に有界ということになります。

それでは、ここまでの内容を踏まえて、アルキメデスの性質という命題の証明をします。

アルキメデスの性質 :論理的に推論して証明

定理

自然数全体 N は上に有界ではない。


<証明>

N が上に有界だと仮定して、矛盾を導きます。

N が上に有界だと、ワイエルシュトラスの上限公理(実数の連続性の公理)から、N に上限が存在することになります。

r = sup N と置きます。

上限の最小性から、r-1 < r は N の上界ではありません。

これは、r-1 がN の上界だとすると、r-1 は r より小さい上界ということになり、r が N の上界全体の中で最小であったことに反するからです。

論理的に、r-1 が N の上界ではないということが分かりました。

そうすると、上界であるということの否定が使えます。

実数 x が、∀s∈S に対して、
s ≦ x となるとき、x を S の上界と定義しました。

今、r-1 は S の上界ではないので、この否定が成立します。

すなわち、
∃n∈N such that " n > r-1 “

ここまでの状況から、矛盾を探します。

矛盾を見つけて背理法

今、自然数 n は、n > r-1 を満たしています。

n は自然数なので、n+1 は n より大きい自然数です。

そのため、
N∋n+1 > (r-1)+1 = r

r = sup N だったので、N の上界です。

上界の定義から、どの自然数 k に対しても、
k ≦ r です。

k として、n+1 を考えると、
n+1 ≦ r です。

n+1 ≦ r と n+1 > r が両方とも成立することになりました。まさに矛盾です。

よって、背理法から、
自然数全体 N が上に有界ではないということになります。【証明完了】

ワイエルシュトラスの上限公理によって、上限の存在が示されたことで、背理法による証明が可能となりました。

この証明した【定理】を使って、塵も積もれば山となるで有名なアルキメデスの性質を導きます。

高校の数学で学習した不等式の性質も、順序の公理として認められていますので、それを使います。

では、数学について、よく知られた内容を厳密に証明します。

塵も積もれば山となることを証明

アルキメデスの性質-定理

<証明>

任意に正の実数 ε, a が与えられたとします。

どちらも正の実数なので、
ε÷a も正の実数です。

先ほど示した【定理】から、
ε÷a は、自然数全体 N の上界ではありません。

そのため、ある自然数 n が存在した、
ε÷a ≦ n となります。

両辺に正の実数 a を掛けても不等号の向きは、そのままです。

よって、ε ≦ n×a 【証明完了】

このアルキメデスの性質を利用して、高校で学習する数列の極限で認めていたことが証明されることになります。

n → ∞ としたとき、1/n → ∞ ということが導かれます。

アルキメデスの性質 :数列の理論で役立つ命題へ

数列の収束の定義を述べておきます。

数列 {an} と実数 r について、
「任意の正の実数 ε に対して、ある自然数 N が存在して、
n ≧ N を満たす任意の自然数 n について、
|an-r| < ε 」となるとき、数列 {an} は r に収束すると定義されています。

ε と大文字の N から、この定義に基づく数列の収束を示す証明をイプシロンエヌ法といいます。

この定義に基づいて、次の数列の収束をアルキメデスの性質を用いて証明します。


【命題1】

一般項 an = 1/n の数列 {an} は、0 に収束する。


<証明>

任意に正の実数 ε が与えられたとします。

1÷ε = 1/ε > 0 なので、アルキメデスの性質から、ある自然数 k が存在し、
ε ≦ k となります。

よって、k+1 も自然数なので、
ε ≦ k < k+1 です。

N = k+1 と置き、
N 以上の任意の自然数 n を取ります。
※ 先ほど示した【定理】から、自然数全体は上に有界ではないので、このような n を取ることができます。

今、ε < k+1=N ≦ n となっています。

そのため、逆数をとると、
an = 1/n ≦ 1/N < 1/ε です。

よって、
|an-0| = |an| = |1/n|
= 1/n < 1/ε【証明完了】

これで、数列 {an} が 0 に収束することの定義を確認することができました。

高校の数学で学習する極限についての議論を進めるための土台となる内容が証明できました。

さらに、イプシロンエヌ法で数列の極限の性質が証明されます。この証明は長くなるので、この記事では省略します。

また、高校の数学で学習する二項定理も証明ができる状態になっています。

このような状況で、等比数列の収束や発散についての命題が導かれます。

数列が発散することの定義

【定義】

数列 {an} について、

「任意の正の実数 ε に対して、ある自然数 N が存在し、
n ≧ N を満たす任意の自然数 n に対して、
|an| > ε 」となるとき、数列 {an} は発散すると定義する。

n ≧ N のとき、an > ε となっているとき、∞ に発散するという。

また、n ≧ N のとき、an < -ε となっているとき、-∞ に発散するという。


この定義と二項展開を用いて、等比数列の発散についての命題を証明します。

命題についての高校の内容は、リンク先の記事で解説をしています。

高校の数学3の内容の証明となります。


【命題2(等比数列の発散)】

一般項 an = rn の等比数列 {an} について、
r > 1 ならば、数列 {an} は発散する。


<証明>

任意に正の実数 ε が与えられたとします。

r-1 = t と置きます。

すると、t > 0 で、r = 1+t となっています。

二項展開から、
どんな自然数 n についても、
rn = (1+t)n
= nC010tn+…+nCn1nt0
≧ 1+nC11n-1t1 = 1+nt

つまり、rn ≧ 1+nt … (1)

また、アルキメデスの性質から、
ある自然数 N’ が存在して、
N’t ≧ ε

そのため、N = N’+1 と置くと、
Nt > ε … (2)

(1), (2) より、
n ≧ N を満たす任意の自然数 n について、
an = rn ≧ 1+nt ≧ 1+Nt > 1+ε

1+ε > ε より、
n ≧ N のとき、|an-0| = an > ε

ゆえに、数列 {an} は ∞ に発散しています。【証明完了】

この【命題2】から、各自然数に対して、
bn = rn-1 = 1/r × an と置くと、
r > 1 のとき、数列 {bn} も発散することが分かります。

bn = an-1 なので、上の証明から、
N+1 以上の自然数 n について、
bn > an-1 > ε となるためです。

この【命題2】から、0 < r < 1 のときに、公比 r の等比数列が収束することを証明するために、次の命題が役立ちます。

逆数を利用する

【命題3】

数列 {an} のどの項の値も 0 ではなく、発散しているとする。

そして、各自然数 n に対して、bn = 1/an とする。

このとき、数列 {bn} は 0 に収束する。


<証明>

任意に正の実数 ε が与えられたとします。

数列 {an} が発散しているため、
1/ε に対して、ある自然数 N が存在し、
n ≧ N を満たす任意の自然数 n に対し、
|an| > 1/ε となっています。

そのため、1/|an| < ε

よって、
n ≧ N を満たす任意の自然数 n に対し、
|bn-0| = |1/an| = 1/|an| < ε【証明完了】

この【命題3】の逆も成立します。


【命題3の逆】

数列 {an} のどの項の値も 0 ではないとする。

そして、各自然数 n に対して、bn = 1/an とする。

このとき、数列 {bn} が 0 に収束するならば、
数列 {an} は発散している。


<証明>

任意に正の実数 ε が与えられたとします。

数列 {bn} が 0 に収束するという仮定から、
1/ε に対して、ある自然数 N が存在し、
n ≧ N を満たす任意の自然数 n に対し、
|bn| = |bn-0| < 1/ε となっています。

そのため、
1/|an| = |1/an| = |bn| < 1/ε

逆数をとると、
|an| > ε となり、数列 {an} は発散しています。【証明完了】

この【命題3】と指数法則を利用して、
0 < r < 1 のときの等比数列が収束することを示します。

等比数列の一般項の収束

【命題4】

実数 r が 0 < r < 1 だとする。

このとき、一般項が an = rn となっている数列 {an} は、0 に収束する。


<証明>

任意に正の実数 ε が与えられたとします。

各自然数 n に対して、
tn = 1/an と定義します。
※ 帰納的に、各自然数 n について、an は 0 ではありません。

数列 {tn} は、公比が 1/r の等比数列です。

すると、1/r > 1 より、数列 {tn} は発散しています。

数列 {tn} のどの項も 0 ではないので、【命題3】から、数列 {1/tn} は 0 に収束します。

数列 {1/tn} は、数列 {an} のことなので、
数列 {an} が 0 に収束することが示せました。【証明完了】

極限の性質から、数列 {sn} が実数 α に収束するとき、
実数 k に対して、
数列 {ksn} は実数 kα に収束します。

そのため、0 < r < 1 のとき、
数列 {1/r(rn)} は【命題4】より、
1/r × 0 に収束します。

数列 {1/r(rn)} は、数列 {rn-1} のことなので、
0 < r < 1 のとき、数列 {rn-1} も 0 に収束します。

これで、高校の数学3の等比数列の極限の内容のスタートとなる内容も示せました。

今回の記事で論理についての内容を使いました。

論理記号という記事で、それらについて解説をしています。

それでは、これで今回の記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。