複素指数関数 | オイラーの公式を厳密証明と実用部分に分けて把握!

" 指数関数 “について、ネイピア数 e を底として、その指数が複素数であるということの定義は何なのか。

そして指数法則と cos z + i sin z の乗法の関連を何をもって考えているのか。

純粋数学の厳密証明と、高校数学に近い要領で理解できる部分を分けて把握することで、見通しよく理論が分かります。

厳密な理論についての証明に重きを置いて、実数の級数の理論から複素級数の基礎的理論までを厳密な証明で述べると、難しく長い議論になります。

その一方で、指数関数 ex をテーラー展開して、x に a + bi という複素数を代入して実部と虚部に分けたものが定義と大雑把にいっても、その定義自体を支えている理論が不明だと何のことか分かりません。

そこで、実数についての級数の理論や、そのアナロジーで導かれてくることも多い複素函数論の基礎的な理論のについて、次のように整理をすることで、オイラーの公式を理解するための道筋が見やすくなるかと思います。


・複素級数の土台となる抽象理論
・理論から e の複素数乗を定義する部分
・複素変数の三角関数の定義
・オイラーの公式


大学の数学科では、eiz = cos z + i sin z というオイラーの公式が、二年生の終わり頃か三年生くらいで扱われるかと思います。

基礎となる微分積分学の実数についての無限級数の理論に帰着させたり、そのアナロジーで複素函数についての定理を証明したりします。

そのため、高校で学習した内容と、「複素級数についての土台となる抽象理論」の間にギャップがあります。

この部分をすべて厳密に証明しながら議論を進めると、難しくて多い量になります。

しかし、eiz という指数が複素数というものが何なのかということについて、幾ばくかの理解をしたいと思う方もいらっしゃるかと思います。

そうしたニーズを考え、このブログ記事では、土台となる厳密な理論を支える重たい定理を抽出して紹介するにとどめています。

できるだけ高校の数学に近い考え方で理解できそうな部分に焦点を当て、解説をします。

複素指数関数 :基礎の重い定理

【定理1】

整級数 Σ pnzn (n は 0 から ∞ まで動きます)について、n → ∞ のとき、
|pn+1 / pn| → l であるならば、
Σ pnzn の収束半径は r = 1 / l である。


ここで、l が 0 のときは r = ∞、l が ∞ のときは r = 0 となります。

l が 0 だと、収束半径 が ∞ なので、あらゆる複素数について級数が収束するということを意味します。

ネイピア数 e の複素数乗を定義するときに、複素級数を使います。この【定理1】は、その複素級数が収束するということを保証するものです。

定義をしたけど、収束しないということがないように、下支えになってくれる重要な定理です。

しかし、この複素函数論で扱われる定理は、微分積分学で扱われる実数についての級数の理論のアナロジーとして説明されることが多いです。

大学の数学科で 1 年くらいかけて学習する下積みを経て厳密証明が理解できると思っておけば良いかと思います。

とはいえ、定理を使うこと自体は、高校の数学に近いものがあるので、厳密証明が必要でない場合は、使う要領さえ押さえておけば良いかと思います。

※学部によって、どこまで厳密に踏み込むかが異なるので、数学の厳密証明とは、適度な程度に触れると良いかと。

この複素級数ですが、各 pn は固定された複素数です。複素変数が z で、この z の部分に複素数を代入します。

一般に z に複素数を代入したときに、その複素数については級数が収束するけれども、他の複素数を代入すると級数が発散するということが起こり得ます。

この【定理 1】は、複素級数の収束についての一つの判定法となっています。ここで、専門用語の収束半径を用いました。

この用語について解説をしておきます。

収束円と収束半径

先ほどの定理で級数の複素変数 z に複素数を代入したときに、級数が収束するかどうかということを述べました。

z に代入する値が複素数なので、複素数平面上の点を考えることで、視覚的に考察の助けになることもあります。

|z| は高校の数学で学習したように、複素数 z の大きさを表します。原点と z に対応する複素平面上の点を結んだ線分の長さです。

収束円は、その内部の点に対応する複素数を代入したときに、級数が収束するということを示すものです。

大きさが r 未満の複素数を代入したときに、級数が収束するということを表しています。

※ 収束円の内部でない点を代入すると級数は発散するということも意味しています。

収束半径 r が大きいほど収束円が大きくなって、代入しても級数が収束する複素数が多くなるというイメージです。

【定理 1】で l = 0 のとき、収束半径 r = ∞ でした。収束半径が ∞ のときは、すべての複素数について、代入したときに複素級数が収束するということです。

e の複素数乗を定義

この複素級数について、最後の式で l = 0 になっています。

【定理 1】で l = 0 のとき、収束半径 r が ∞ で、すべての複素数 z について、級数が収束するということでした。

すべての複素数で収束するということなので、複素数 α を一つはじめに固定しておくと、複素数 z に対して、級数の収束値が一つ定まります。

これは、複素数 z に対して、この級数の収束値が、一対一に対応するということです。

複素数 z に対して、この級数の収束値を対応させる関数を f(z) = eαz と定義できました。

この指数関数の定義から、eαz の値は、級数の収束値ということになります。実は、大学の微分積分学で、実数 x について ex のテイラー展開を学習すると、この級数の形になっています。

この実数 x の部分を複素数 z に置き換えた式になっているというわけです。この置き換えをしたときに、ちゃんと収束しているということを示す議論として、【定理 1】を使いました。

これで、複素函数 f(z) = eαz が定義できたのですが、ここから、微分可能であることを示すための定理を紹介します。

ただ定義できただけではなく、微分可能な複素函数ということを示すために、重要な定理になります。

複素指数関数 :基礎の重い定理【2】

【定理2】

整級数 f(z) = Σ pnzn (n は 0 から ∞ まで動きます)の収束半径が r のとき、収束円内のすべての点について微分可能で、f'(z) = Σ npnzn-1
(n は 1 から ∞ まで走る)

しかも、f'(z) の収束半径も同じ r である。


数学科の複素函数論で厳密証明を学習する重たい定理です。しかし、使うのは簡単です。

先ほどの eαz を定義するときに使った級数の収束半径 は ∞ でした。

そのため、複素数平面上のどの点も収束円内の点ということで、どんな複素数 z についても、eαz が微分可能ということになります。

f'(z) も同じ収束半径ということなので、f'(z) についても再び【定理 2】を使えるということになります。

このようにして、微分してから再び【定理2】を適用するということを繰り返すことができるので、何回でも微分可能ということになります。

pn の部分を先ほどの級数で考えて、【定理2】の微分した形を求めることにします。

複素函数の指数関数を微分

f'(z) = Σ npnzn-1 (n は 1 から ∞ まで動く)で、
pn = αn / n! だから、
f'(z) = Σ (n×αn / n!×zn-1)
 ※ n は 1 から ∞まで
= αΣ (αn / n!×zn) = αf(z)
 ※ n は 0 から ∞まで


このあたりの式の書き換えについては、複素級数についての理解と練習が必要になりますが、実数のときの指数関数の微分のような形になるということを知っておいて頂ければと思います。

ここからは、オイラーの公式を目指します。そのために、指数関数を定義したときのように、【定理 1】と【定理 2】を使って、複素数についての三角関数を定義します。

三角関数の定義から、オイラーの公式が導かれます。

複素指数関数 :複素三角関数の定義

複素変数 z に対して、三角関数が定義されます。これも、右辺の級数が収束するので、その収束値を関数の値とするということで定義しています。

この定義から、cos (-z) = cos z となっていることが分かります。

sin については、複素数についても、部分和 Sn について n → ∞ としたときに収束するという級数の収束の定義を考えます。

sin z は収束するということが示されたということから議論を始めていますので、部分和の極限も収束しているということになります。

sin z について、部分和を Sn と表すと、sin z を定義している級数の各項の指数が奇数なので、
sin (-z) の部分和は -Sn です。

よって、n → ∞ としたときに収束する値が -1 倍になるということです。

そのため、級数の収束値を sin z と表しているため、sin (-z) = -sin z です。

指数関数のときと同じく、厳密な証明では複素級数についての基礎理論が使われています。

また、微分可能であることが【定理 2】から分かり、微分すると実数のときと同じ形になります。


(sin z)’ = cos z
(cos z)’ = -sin z


微分については参考程度にして、これからオイラーの公式(等式)について説明をします。

複素数についての指数関数と、複素数についての三角関数についての等式を得るために、重たい定理が使われます。

【定理3】

絶対収束する複素級数は項の順序をどのように変えても絶対収束し、その収束値は等しい。

※絶対収束とは、各項の絶対値をとった級数が収束するということです。

オイラーの公式を証明するときに、この定理を使います。

やはり、複素級数についての理論によって、支えられているので、級数の和について直観的な式の書き換えが可能になっています。

このブログのはじめに述べたように、土台となる抽象的な理論の厳密証明は大変ですが、そこは適度に省略して、オイラーの公式をつくる全体像を述べるようにします。

そのために、【定理 3】も証明をしないで使うことにします。

オイラーの公式

はじめに定義した eαz の α として虚数単位 i を考えたものです。

i は 2 乗すると -1 になるということから、n が偶数のときと奇数のときに分けて整理すると、実部と虚部のような形になります。

※ただし、無限級数の和について、和を計算する項の順番を変化させたのは、【定理 3】の下支えがあるからです。

このように和の順番を変化させると、cos z と sin z の定義が出てきて、
eiz = cos z + i sin z というオイラーの公式が成立します。

収束半径 ∞ で絶対収束していますから、z として実軸上の点である実数を当てはめることもできます。

たとえば、z としてラジアンの 2π を代入すると、
e2iπ = cos 2π + i sin 2π = 1 となります。

厳密証明の部分を省いて重たい定理を使いましたが、どこまで厳密に数学の理論の証明を理解するかということについては、人によって、度合いが異なるものと思います。

このブログでは、程よくオイラーの公式を目指しました。

さらに、細かいことを述べると、複素数 z と w について、ez と ew が絶対収束するということから、
指数法則 ezew=ez+w が導けたりします。

a と b を実数として、
z = a, w = bi のときを考えると、
eaeib=ea+bi, eib = cos b + i sin b です。

よって、
ea+bi = ea(cos b + i sin b) となります。

このあたりで、今回のブログ記事を終了しようと思います。

今回扱ったオイラーの公式を使って、複素三角関数についての加法定理も導くことができます。

ちなみに、複素函数論を厳密に学習していくと、オイラーの公式の後に、ローラン (Laurent) 級数展開などが扱われます。

こういった重たい内容への準備として、複素指数関数などでオイラーの公式に慣れておくことが大切になるかと思います。

e の複素数乗について、群論の入門内容で扱う内容と合わせた内容の記事も投稿しています。

トーラスという記事で、複素指数関数を用いています。

代数学とも合わせて、解析学や幾何学を考える上で、オイラーの公式は良いつなぎとなるかと思います。

今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。

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