不等式の証明 – 数II |よく証明で使う証明方法を用いて
" 不等式の証明 “は、高校の数学Iや数学IIで出てきます。
数直線上で原点からの距離についてのイメージもできる内容ですが、大学受験や大学での数学を見据えて、数学の論理規則に基づいた証明について述べています。
実数の大小関係に基づいての証明で、論理も使う客観的な証明となります。
実数についての性質で、今回の証明で使う内容を先に述べておきます。
不等式の証明 :実数の性質
【実数の性質】
実数 a, b が a ≧ 0, b ≧ 0 とする。
このとき、
a2 < b2 と a < b が同値である。
また、a2 ≦ b2 と a ≦ b も同値である。
等号成立は a = b に限る。
この内容は、f(x) = x2 という二次関数のグラフの形から記憶しておくと良いかと思います。
不等式の証明で、よく使う内容です。
x ≧ 0 の範囲で、f(x) = x2 のグラフは右上がりの単調増加となっています。
この x について、上の a や b を考えると、同値となっているということが印象に残ります。
これらの実数の大小関係についての性質と、合わせておさえておく内容があります。
原点からの距離を数式で
【絶対値の定義】
a を実数とする。
a ≧ 0 のとき、
ブログ絶対値より
|a| = a と定義し、
a < 0 のとき、
|a| = -a と定義する。
この絶対値の定義と論理規則や計算から導かれる次の命題は、基本的な土台となってくれます。
実数 a, b について、次が成立します。
|ab| = |a||b| となります。
場合分けをして証明します。
【a ≧ 0 の場合】
b ≧ 0 のときは、
ab ≧ 0 なので、
|ab| = ab です。
a ≧ 0, b ≧ 0 だから、
|a| = a, |b| = b でもあります。
よって、
|ab| = ab = |a||b| です。
また、b < 0 のときは、
|b| = -b であり、
ab < 0 より、|ab| = -ab です。
ゆえに、
|ab| = -ab = |a||b| となり結論が成立します。
【a < 0 の場合】
b > 0 のときは、ab < 0 より、
|ab| = -ab です。
そのため、
|ab| = -ab = |a||b| です。
b = 0 のとき、|b| = 0 より、
|ab| = |0| = 0 = |a||b| です。
b < 0 のときも、
|b| = -b より、
|a||b| = (-a)(-b) = ab で、
ab > 0 より、
|ab| = ab だから、
|ab| = ab = |a||b| となっています。
これで、起こり得るすべての場合についても結論が成立していることを示せました。
ちなみに、実数 t ≠ 0 について、
|a/t| = |a|/|t| となります。
これは、先ほどの b として、
1/t という分数を考えると、
|a/t| = |a||1/t| となることから分かります。
t > 0 または、t < 0 のとき、
絶対値の定義から、
先ほどの証明と同じ要領で
|1/t| = 1/|t| となります。
そのため、
|a/t| = |a||1/t| = |a|/|t| となるからです。
このように、絶対値の定義と論理と計算規則から基礎的な命題たちが導かれます。
ちなみに、実数 s について、
s ≦ |s| や
|s|2 = s2 ということも定義から場合分けをすると、すぐに分かります。
この s として、様々な実数を考えることで、絶対値についての式の書き換えが可能となります。
まとめておきます。
ここまでの内容を踏まえて、数II で扱われる不等式の証明を行います。
不等式の証明 :二乗の差
【定理1】
実数 a, b に対して、
|a+b| ≦ |a|+|b|
これは、三角不等式という有名な不等式で、大学の微分積分学の証明でも頻繁に使います。
<証明>
x = |a+b|, y = |a|+|b| と置きます。
絶対値の定義から、
x ≧ 0, y ≧ 0 となっています。
そのため、
x2 ≦ y2 を示すことができると、
実数の大小関係についての性質から、
x ≦ y 、つまり、
|a+b| ≦ |a|+|b| が成立することになります。
このことから、
|a+b|2 ≦ (|a|+|b|)2 を示せば良いということになります。
(|a|+|b|)2 = (|a|+|b|)(|a|+|b|)
= |a|2+2|a||b|+|b|2
= |a|2+2|a||b|+|b|2
= a2+2|ab|+b2 です。
また、
|a+b|2 = (a+b)2
= a2+2ab+b2 です。
よって、
(|a|+|b|)2-(a+b)2
= (a2+2|ab|+b2)-(a2+2ab+b2)
= 2(|ab|-ab)
先ほどの実数 s として ab を考えると、
|ab| ≧ ab です。
そのため、
(|a|+|b|)2-(a+b)2
= 2(|ab|-ab) ≧ 0 です。
移項すると、
(|a|+|b|)2 ≧ (a+b)2 です。
すなわち、
(a+b)2 ≦ (|a|+|b|)2 です。
(a+b)2 = |a+b|2 だったので、
|a+b|2 ≦ (|a|+|b|)2 【証明完了】
証明をするときに、はじめに、これを示せば証明が完了するという方針を述べておくというのも一つの手です。
今、加法と絶対値が絡んだ不等式の証明を行いました。
次に、この自然な類推についての不等式を証明します。
既に証明した命題を適用することができるという内容となっています。
類似した不等式も証明
【定理2】
実数 a, b に対して、
|a|-|b| ≦ |a-b|
<証明>
【定理1】から、実数 s, t に対して、
|s+t| ≦ |s|+|t| が成立します。
s として a-b を、
t として b を考えると、次の不等式を得ます。
つまり、
|(a-b)+b| ≦ |a-b|+|b| です。
左辺について、
|(a-b)+b| = |a| です。
よって、
|a| ≦ |a-b|+|b| です。
不等式の性質から、
両辺に実数 -|b| を加えると、
|a|-|b| ≦ |a-b| 【証明完了】
この証明では、既に成立している命題を適用するということを行いました。
既に成立している命題を適用するときには、その命題の結論以外のすべての部分についての内容を満たしていることを確認しなければなりません。
この確認を正確に行うためには、命題・仮定・結論についての構成を正しく押さえておくことが基本となります。
この既に成立している命題の適用を正しく実行できるようになると、数学の考察する力がつきます。
この記事では、不等式の証明に集中したいので、すぐに適用しやすい命題に限定して使うようにします。
不等式の証明 :三つのときには
絶対値についての三角不等式という【定理1】は、実数であれば適用できるので、使いやすいです。
次の練習問題でも、三角不等式を利用して、円滑に証明を実行します。
【練習問題】
実数 x, y, z に対して、
|x+y+z| ≦ |x|+|y|+|z|
<証明>
実数 s, t について、
|s+t| ≦ |s|+|t| という三角不等式が成立します。
s として x、
t として y+z という実数を考えます。
すると、
|x+y+z|
= |x+(y+z)|
≦ |x|+|y+z| となります。
さらに、実数 y と z に対して三角不等式を適用します。
|y+z| ≦ |y|+|z| です。
よって、
|x+y+z| ≦ |x|+|y+z|
≦ |x|+|y|+|z| となります。
不等式の性質から、
|x+y+z| ≦ |x|+|y|+|z| 【証明完了】
既に成立している命題を有限回だけ適用することが可能です。
1回だけでなく複数回の適用をすることもあるので、日頃から意識をしておくと良いかと思います。
数学IIの範囲での不等式の証明について述べてきました。
円の内部というように、図形と方程式と不等式の内容についての記事も投稿しています。
さらなる微積分学への広がりについて述べておきます。
大学数学への広がり
今回の記事の議論を支えている根幹となっているのが、実数についての大小関係になります。
この順序構造は、微分積分学を大学の数学科で学習するときに、基本として議論が進みます。
さらに、イプシロンデルタ論法に関連する関数(写像)についての連続性の内容が出てきます。
そのような土台となる内容について、厳密な証明を考えるための基礎について解説をしています。
そして、最大値と最小値の定義に焦点を当てた記事も投稿しています。
max-min という記事では、高校の数学の内容に照らし合わせて定義を述べ、よく知られている表計算ソフトについてのMax関数の話にも触れています。
そして、最後には、大学の数学科で基礎となる「連続関数どうしの積も連続関数である」ということの証明を行っています。
それでは、これで今回の記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。