固有方程式 | 固有ベクトルを求める理論を解説
複素数を成分とする正方行列の「 固有方程式 」の解である固有値から、その固有ベクトルがどうして存在するのかという根本的な理論の部分を解説をしています。
そして、この理論に基づいて固有方程式から固有値を求め、その固有ベクトルを求めています。
また、後半では、固有値と一次独立についての基本となる定理の解説をしています。
時には線形代数学の理論の理解に挑戦するのも良い思考のトレーニングになるかと思われます。
固有方程式 :このブログの概要
複素係数の n 次方程式は、代数学の基本定理により、重解(根)を含めて、n 個存在します。固有方程式の複素数解が、固有値です。
固有方程式の複素数解が存在したとき、その固有ベクトルの存在を示すため、「連立斉次方程式が自明でない解をもつ」ということが基本になります。
このように、原因を考えて、仕組みがどうなっているのかを押さえることは、数学のみならず大切かと思います。
今回のブログで、「行列式が 0 である行列の列を列ベクトルとしたときに、その列ベクトルたちが一次従属である」という行列式論の定理を使います。
なお、以下で、行列や列ベクトルの成分は複素数の範囲で考えています。
固有方程式 :必要となる定義たち
線形変換を表す n 次正方行列 A と、n 次の列ベクトル x ≠ 0 について、Ax = λx を満たす複素数 λ が存在したとします。
この λ を A の固有値といいます。そして、このベクトル x を固有値 λ に対する固有ベクトルといいます。
x ≠ 0 ということは、列ベクトル x の 1 行目から n 行目までのどこかの成分に 0 ではない複素数が現れているということを意味します。
連立斉次方程式の考え方の中で、一次従属の考え方が効いてきますので、この内容を詳しく説明していきます。
固有方程式について
n 次正方行列 A の固有値 λ と、λ に対する固有ベクトル x ≠ 0 について、Ax = λx であることは、(A -λE)x = 0 と同値です。
これは、移項と行列の分配法則で計算をしただけの書き換えになります。
※このEはn次の単位行列
ここで、行列 (A - λE) が逆行列をもつとすると、その逆行列を左から掛けると x = 0 となってしまいます。
これは、x ≠ 0 だったことに矛盾します。
したがって、背理法より、
(A - λE) という行列は、逆行列をもたないということになります。
行列式についての一般論から、逆行列をもたないということは、行列式が 0 ということです。
よって、行列式 |A - λE| = 0 より、|-E| を両辺に掛けると、|λE - A| = 0 となります。
|tE - A| は、t についての多項式で、
t についての方程式 |tE - A| = 0 の解(根)が複素数 λ であれば、行列式 |A - λE| = 0ということになります。
数学の用語ですが、|tE - A| = 0 を行列 A についての固有方程式といい、tE - A という t についての多項式を行列 A の固有多項式といいます。
ここまでの内容で、固有ベクトル x の存在についてはまだ示していません。
この 0 ではない列ベクトル x の存在を考えるときに、tE - A という行列の各列を列ベクトルと考えます。これらが一次従属であるということが効いてきます。
一次従属であることを考えるのは、
(λE - A)x = 0 という n 行 1 列の行列(列ベクトル)についての等式から、連立斉次方程式を考えるからです。
固有方程式 :連立斉次方程式
行列 A の固有方程式が複素数解 λ をもつとき、λE - A という n 次正方行列を B とおいておきます。
そうすると、Bx = 0 となります。
この Bx = 0 を連立斉次方程式の形で表すと、次のようになります。
※ 右辺が 0 なので、連立斉次方程式になります。
Bx = 0 の右辺の列ベクトルが 0 なので、1 行目から n 行目まで成分を比較すると、右辺がすべて 0 の連立斉次方程式になっています。
この連立斉次方程式を現れている文字たちは、すべて複素数です。
複素数の乗法について交換法則が成立することに注意して、行列 B の各列を列ベクトルと考え、0 を一次結合で表した形に変形します。
列ベクトル x の各成分をスカラー倍だと考える
1 ≦ i ≦ n である各 i について、
bi = (bti) (ただし 1 ≦ t ≦ n) という n 行 1 列の列ベクトルを考えます。
x1b1+x2b2+…+xnbn = 0 です。(この右辺の 0 は、全ての成分が零の列ベクトルです。)
x1, … , xn という複素数を用いた列ベクトルの一次結合の形に変形しました。
列ベクトルの各行の複素数が、スカラー倍となり、行列Bのそれぞれの列から作った列ベクトル bi の一次結合で 0 という列ベクトルを表した形になりました。
この右辺の 0 は n 行 1 列の列ベクトルです。左辺と右辺を各行について成分比較すると、先ほどの連立斉次方程式になっています。
ここで、次の定理を適用します。「行列式が0のとき、各列から作った列ベクトルが一次従属になる」という定理です。
※ この定理の証明は、この記事の最後に書いています。
【定理】
B = (bij) の行列式が 0 のとき、この B の各列から作った列ベクトル bi (i = 1, … , n) たちは一次従属である。
この定理を、先ほどの行列 B について使います。
固有方程式の解(根)λが存在すれば、
|B| = |λE - A| = 0 となります。
したがって、定理から、行列 B の各列から作った列ベクトルたちが一次従属ということになります。
ここから、固有方程式の解 λ についての固有ベクトルを構成します。
列ベクトルたちが一次従属なので、自明でない 0 の表し方が必ず存在します。
この自明でない一次結合に現れるスカラー倍の部分の複素数たちが、固有ベクトルのそれぞれの成分となります。
固有方程式 :固有ベクトルの存在証明
b1, b2, … , bn は一次従属なので、少なくとも 1 つは 0 でない n 個の複素数 y1, y2, … , yn を用いて n 次列ベクトルの 0 を一次結合で表すことができます。
y1b1 + y2b2 + … + ynbn = 0 と、列ベクトルの自明でない一次結合(少なくとも一つのスカラー倍が0でない複素数になっている一次結合)で列ベクトル0を表すことができることが示せました。
yi (i = 1, 2, … , n) を i 行 1 列に配置した列ベクトルを x とすると、x は固有値 λ についての固有ベクトルとなります。
固有ベクトルであるための、x ≠ 0 という条件は満たしています。
これは、y1 から yn までの n 個の複素数のうち、少なくとも 1 つは 0 でないためです。
n 行 1 列の列ベクトル x は、yk が 0 でなければ、k 行 1 列目に yk という 0 でない複素数があることになります。
そのため、x は零ベクトルではないということになります。
そうすると、「Bx = 0 かつ x ≠ 0」となります。
Bを元に戻すと、(λE - A)x = 0 かつ x ≠ 0 となっています。
両辺を -1 でスカラー倍すると、
(A - λE)x = 0 かつ x ≠ 0 となります。
確かに、固有ベクトル x ができています。
そして、x の各成分は、行列 B のそれぞれの列を列ベクトルとして、自明でない一次結合で n 次列ベクトルの 0 を表したときのスカラー倍の部分の複素数です。
存在証明のまとめ
複素数を成分とした n 次正方行列 A が与えられたときに、A の固有値を求め、その固有ベクトルを求める方法をまとめます。
|tE - A| = 0 という複素係数多項式は、代数学の基本定理により、解(根)t = λ をもつ。
n 次正方行列 (λE - A) の行列式 |λE - A| が 0 なので、n 次正方行列 (λE - A) の各列から作った n 個の列ベクトルは一次従属となっている。
よって、これら n 個の列ベクトルから、自明でない表し方で n 次列ベクトル 0 を表すことができます。
行列 λE - A から作った n 個の列ベクトル b1, b2, … , bn は一次従属なので、少なくとも 1 つは 0 でない n 個の複素数 x1, x2, … , xn が存在して、
x1b1+x2b2+ … +xnbn= 0 となります。
そして、xi を i 行 1 列目に配置した n 次列ベクトル x ≠ 0 が、行列 A の固有ベクトルとなります。
※ x1, x2, … , xn のうち、少なくとも 1 つは 0 でないので、列ベクトル x は 0 ではありません。
<補足説明>
この記事の上の方で、
|A - λE| = 0 なので、|λE - A| = 0 ということを述べました。
これは、次の理由からです。
λE - A = (-E)(A - λE) より、
|λE - A| = |-E| × |A - λE|
= |-E| × 0 = 0 となるからです。
一般に、2 つの n 次正方行列 X と Y について、
|XY| = |X| × |Y| となります。
固有値論についての一般法則を扱いました。
最後に固有ベクトルが一次独立であることの証明を述べておきます。
固有ベクトルは一次独立
【定理2】
λ1, … , λm ∈ C を n 次正方行列 M の相異なる固有値とする。
そして、各 λi についての固有ベクトルを xi (i = 1, … , m) とする。
このとき、x1, … , xm は一次独立である。
<証明>
m = 1 のときは、
cx1 = 0 (c ∈ C, c ≠ 0) だとすると、
1/c = c-1 ∈ C でスカラー倍をして、
x1 = 0 となります。
これは、固有ベクトルが、零ベクトル(零元)ではないことに矛盾します。
したがって、一つの固有ベクトルの一次結合で零ベクトルを表す表し方が、自明な一次結合しかないということになります。
m = 1 のときには、定理が成立していることが分かりました。
そのため、以下では、m が 2 以上の自然数である場合を扱います。
x1, … , xi が一次独立であり、
xi+1 が、x1, … , xi の一次結合で表されたと仮定します。
(ただし、1 ≦ i ≦ m -1)
※ m が 2 以上の自然数という状況なので、i = 1 という可能性はあります。
仮定より、
xi+1 = c1x1 + … + cixi (ci は複素数) と表されることになります。
ここで、この両辺に行列 M を施します。λi+1xi+1 = c1λ1x1 + … + ciλixi
xi+1 = c1x1 + … + cixi を代入すると、
λi+1c1x1 + … + λi+1cixi
= c1λ1x1 + … + ciλixi
ここで、一次独立なベクトルの線形和の一意性から、各スカラー部分について、次の等式を得ます。
λi+1ck = ckλk (1 ≦ k ≦ i)
もし、これら i 個の自然数の中に ck ≠ 0 という自然数 k が一つでも存在したとすると、複素数 ck の逆数を両辺に掛け、λi+1=λk
これは、m 個の固有値が、相異なるということに矛盾です。
したがって、i 個のどの自然数についても、
ck = 0 となっているということになります。
xi+1 = c1x1 + … + cixi だったので、
xi+1 = 0x1 + … + 0xi = 0 となります。
これは、固有ベクトルは零ベクトルではないということに矛盾します。
ここまでの議論を踏まえて、次のような繰り返し処理を考えます。
x1 のみのとき(先ほどの i = 1 のとき)、x1 のみなので、一次独立です。
既に示したことから、x2 は x1 の一次結合では表すことができません。
※一次結合で表せたとすると、矛盾が起きました。
よって、x1, x2 は一次独立となります。
今度は、x3 が x1, x2 の一次結合で表せたとすると、示したことから矛盾が起きます。このため、x1, x2, x3 が一次独立となります。
この操作を i = m - 1 まで続けると、
「x1, … , xm-1 が一次独立であり、
xm が x1, … , xm-1 の一次結合で表すことができない」ということになります。
すなわち、これは、
x1, … , xm-1, xm が一次独立ということになります。【証明終了】
起こり得る可能性を論理的に考えると、同じことの繰り返しが発生していることが見えてきます。
証明した固有ベクトルの一次独立性ですが、行列の対角化の内容に関連します。
対角化というタイトルの記事では、オーソドックスな対角化についての内容を具体例を用いた理論の実践と、理論の証明について解説をしています。
それでは、これで、このブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。