部分群の判定方法 | 定理として、これで十分であることを証明【よく使う部分群で判定を実践】

" 部分群の判定方法 “として、よく使われる定理を証明します。

群Gの部集合Hについて、「g,h∈Hに対してgとhの逆元の積がHの元である」ということさえ示せば、HはGの部分群ということになります。

部分群の定義の条件を三つとも確かめずに、一度で判定できるので、知っておくと役に立ちます。

群論入門についての学習をするときに、部分群かどうかを確かめるときに、この判定方法をよく使います。そのため、知っていると、群論の学習が円滑になるかと思います。

また、部分群の定義として使われている三つの条件をすべて満たすことが、判定方法の条件一つを満たすことと必要十分条件になっていることを理解しようとすることは、数学の論理を使う良い練習にもなります。

この記事では、判定方法を実際に使って、よく使われる代表的な部分群が、本当に部分群となっていることを示しています。

よく使われる代表的な部分群を例にし、直接に定義を確認すると結構な記述量になることを敢えて見てみます。

その後で、今回の記事の判定方法を用いて、円滑に部分群であることを確かめてみます。

そして、最後の方で、正規部分群について述べています。

それでは、まず定義から確認します。

部分群の判定方法 :部分群の定義

【定義】

群 G の空でない部分集合を H とする。次の [1] から [3] の条件をすべて満たすとき、H を G の部分群という。

[1] G の単位元 e が H に含まれている。
e ∈ H 【単位元の存在】

[2] 任意のa, b ∈ H に対して、
ab ∈ H 【積で閉じている】

[3] 任意の a ∈ H に対して、
a-1 ∈ H 【逆元で閉じている】

群の公理より

単なる部分集合ではなく、部分群となっているということを定義している三つの条件になります。

三つあるので、すべてを確認して記述をすると、結構な量になります。

群論の学習をしていると、一つの証明をしている最中に、この部分集合が部分群になっているということを示したいことが、よく出てきます。

そんなときに、三つも条件を確認すると、目指している証明の骨格が複雑になってしまいます。そのため、一つだけの条件を確かめるだけで良い判定方法が、よく使われます。

代表的な部分群を例に、まずは定義の三つの条件をすべて満たしていることを直接に確認してみます。

具体例で確認

群 G について、次の部分集合を Z(G) と表すことにする。

{g ∈ G | ga = ag (∀a ∈ G)} は、G の部分群となっている。
※ この部分群を Z(G) と表し、群 G の中心という。


g ∈ G が、部分集合 Z(G) の元であるかどうかを、
条件「ga = ag (∀a ∈ G)」を満たしているということで判断します。

G のどの元とも可換となっているときに、g が Z(G) の元ということです。

e ∈ G は、群の単位元の定義から、G のどの元とも可換になっています。

そのため、e は Z(G) の元ということになります。これで、部分群であるための条件 [1] が確認できました。

群の定義で、単位元 e の存在が保証されているので、どんな群についても、その中心には単位元が含まれます。

そのため、どんな群についても、その中心は空集合ではないということになります。

次に、[2] の積で閉じているという条件を確認します。

x, y ∈ Z(G) に対して、xy ∈ Z(G) となっていることを示すということになります。このためには、xy が、G のどの元とも可換であるということを示します。

任意の a ∈ G に対して、x, y ∈ Z(G) なので、x と y は a と可換になっています。

さらに、G における結合律を使うと、
(xy)a = x(ya) = x(ay)
= (xa)y = (ax)y = a(xy) となります。

これで、xy は G の任意の元 a と可換であることが示せたので、xy は Z(G) に含まれるための条件を満たしました。

よって、xy ∈ Z(G) となり、[2] の条件も満たしていることが確かめられました。

後は、[3] の逆元で閉じていることの確認となります。

g ∈ Z(G) とすると、
任意の a ∈ G に対して、ga = ag

両辺に g-1 を右から乗じ、さらに左からも g-1 を乗じると、
g-1{(ga)g-1} = g-1{(ag)g-1}

一般の結合律を用いて左辺と右辺を整理すると、
(g-1g)ag-1 = g-1a(gg-1)

すなわち、ag-1 = g-1a

これは、g-1 と a が可換ということを示しているので、
g-1 ∈ Z(G) となり、条件 [3] も満たしていることが分かりました。

直接に部分群の条件を確かめると、三つも条件があるので、このように記述が長くなります。

そこで、一つだけの条件で証明が述べられる次の部分群判定法が役に立ちます。

部分群の判定方法 :判定法の実践


条件が一つしかないので、記述しやすいです。

先ほどの中心 Z(G) が部分群になっていることを、この判定方法を使って、記述してみます。

ただし、条件が一つといっても、それを満たすために、条件 [1] から [3] を成立させる理由の部分を明らかにしておかないと、gh-1 ∈ H に辿り着けないこともあります。

そのため、レポート課題の答案を書く前に、論理的なギャップの部分を見抜いておき、その部分を解消させた上で、この判定方法を使うということが無難かと思います。

判定方法を使用

g, h ∈ Z(G) とし、a ∈ G とする。

今、ha = ah なので、G における結合律から、
ah-1 = h-1{(ha)h-1}
= h-1{(ah)h-1} = h-1a

ゆえに、h-1 は G の任意の元と可換となる。

よって、
(gh-1)a = g(h-1a) = g(ah-1)
= (ga)h-1 = (ag)h-1 = a(gh-1)

すなわち、gh-1 ∈ Z(G) が示せたので、【定理】より、Z(G) は G の部分群である。【証明完了】


群 G において成立している結合律と、Z(G) の各元が G のどの元とも可換であるということを根拠として、証明を完成させました。

論理的なギャップを解消する部分を記述し、証明の骨格を【定理】の条件を満たすとすることで、部分群証明の記述量を減らすことができます。

では、この部分群の判定方法で、どうして部分群であると断定できるのかを解説します。

部分群の判定方法 :必要十分条件である確認

【命題】

群 G の空でない部分集合 H について、次の条件 [1], [2], [3] をすべて満たすことと、条件 [★] を満たすことは同値である。

[1] G の単位元 e について、e ∈ H

[2] 任意の a, b ∈ H に対して、ab ∈ H

[3] 任意の a ∈ H に対して、a-1 ∈ H

[★] 任意の g, h ∈ H に対して、gh-1 ∈ H


「[1] かつ [2] かつ [3] を満たす」ならば、「[★] を満たす」ということを示します。その後で、「[★] を満たす」ならば、「[1] かつ [2] かつ [3] を満たす」ということを示します。

これで、必要十分条件の確認が完了して、条件 [★] のみを満たせば部分群という判定方法を正当化できたことになります。

判定方法の証明

[1] かつ [2] かつ [3] を満たしているとします。

任意の g, h ∈ H について、
[3] より h-1 ∈ H なので、g, h-1 ∈ H に対して、
[2] を適用すると、gh-1 ∈ H

これで、条件 [★] を満たすことが示せました。

逆に [★] を満たしたとして、[1] から [3] が全て成立することを示します。

H は空でない G の部分集合なので、g ∈ H が存在します。

g と g ∈ H に対して、
[★] より、e = gg-1 ∈ H

これで、[1] を満たすことが示せました。

x を任意の H の元とし、e, x ∈ H に対して [★] を適用すると、
x-1 = ex-1∈ H となります。

これで、[3] も満たしていることを示せました。

a, b を任意の H の元とすると、
示した [3] より、b-1 ∈ H

a, b-1 ∈ H に [★] を適用し、
ab = a(b-1)-1∈ H です。

これで、[2] を満たしていることが示せたので、条件 [1] から [3] の全てを満たしていることを示せました。【証明完了】

証明の中で使いましたが、b-1 ∈ H の逆元 (b-1)-1 は b となります。

実際、b-1b = e となるので、b-1 に乗じて e となることから、b が b-1 の逆元となっています。

※ このブログ記事では、群の定義は右逆元と左逆元は同じものとして、議論を進めています。

それでは、この部分群の判定方法を使って、さらによく使う部分群が、本当に部分群となっていることを練習問題として、証明します。

部分群の判定方法 :よく使う部分群

【練習問題1】

群 G と x ∈ G に対して、
GN(x) = {g ∈ G | gxg-1 = x} は G の部分群である。


※ この部分群は、「共役類 類等式」というブログ記事で使った部分群です。

<証明>

e ∈ G は、ex e-1 = e を満たすので、
e ∈ GN(x) となっているため、GN(x) は空ではありません。

g, h ∈ GN(x) を任意にとります。

hxh-1 = x なので、x = h-1xh

さらに、gh-1 の逆元は、hg-1 なので、
(gh-1)x(gh-1)-1 = (gh-1)x(hg-1)
= g(h-1xh)g-1 = gxg-1= x

よって、gh-1 ∈ GN(x) が示せたので、部分群の判定方法より、GN(x) は G の部分群となっています。【証明完了】

さらに、群 G の部分群 H が与えられたときに、H のノーマライザー(正規化群)という G の部分群が、確かに部分群となっていることを示します。

ノーマライザー

【練習問題2】

群 G の部分群を H とする。

このとき、
GN(H) = {g ∈ G | gHg-1 = H} は、G の部分群である。


<証明>

任意の h ∈ H に対して、
部分群の定義から、hHh-1 ⊂ H

さらに、任意の a ∈ H は、
a = eae = (hh-1)a(h-1h) = h(h-1ah)h-1

h-1ah は H の元なので、H ⊂ hHh-1 にもなっています。

よって、hHh-1 = H だから、
h ∈ GN(H) となっています。

このため、GN(H) は空ではありません。

任意の z ∈ GN(H) に対して、z-1 ∈ GN(H) となります。

実際、zHz-1 = H なので、
H = z-1(zHz-1)z = z-1Hz

よって、任意の x, y ∈ GN(H) に対して、
(xy-1)H(xy-1)-1 = (xy-1)H(yx-1)
= x(y-1Hy)x-1 = xHx-1 = H

ゆえに、xy-1 ∈ GN(H) なので、部分群の判定方法より、GN(H) は G の部分群となっていることが示せました。【証明完了】

この GN(H) が全体 G に一致しているとき、H を G の正規部分群といいます。

この正規部分群と剰余群についても述べておきます。

正規部分群について

群 G の部分群を H とします。

このときに、H から G への右作用を
G × H → G, (g, h) → gh と定義します。

gh は、群 G における積です。この右から H の元を乗じるということで右作用が定義できます。

各 g ∈ G に対して、
gH = {gh | h ∈ H} は g を含む H-軌道となります。

どの g ∈ G についても、
g = ge ∈ gH となっています。

そのため、G が無限集合でも、H-軌道すべてで和集合をつくると、それは G 全体に一致します。

そして、各軌道について、次のことが成立しています。

[1] 各 g1, g2 ∈ G に対して、
g1H ≠ g2H だとすると、g1H ∩ g2H は空集合

[2] x, y ∈ G について、
y ∈ xH だとすると、xH = yH

※ これら [1] と [2] の証明はラグランジュの定理という記事で述べています。

基本となる内容で、今回の内容でも、これらのことを踏まえて議論を進めます。

[2] の内容は、x と y が H の作用で推移的に移り合うことができるということを表しています。

実際、y = ye ∈ yH = xH なので、ある z ∈ H が存在して、y = xz となります。

これは、z ∈ H の作用で、x が y に移されるということを表しています。

また、yz-1 = x なので、z-1 ∈ H の作用で、y は x に移されるということも表しています。

このように、x と y が移り合うときに、x を含む H-軌道 xH と y を含む H-軌道 yH は等しくなります。

これら H-軌道たちをすべて集めた集まりを G/H と表すことにします。

ここまでの内容は、単なる部分群 H について成立する内容です。

この G/H に乗法を矛盾なく定義するために、H として正規部分群を考えます。

定義から導けること

【定義】

群 G の部分群 N について、
任意の g ∈ G に対し、
gNg-1 = N が成立するときに、N を G の正規部分群という。


N が G の正規部分群となっているときに、G における(一般の)結合律から次のことが成立します。

g ∈ G に対して、N = gNg-1 だから、
Ng = (gNg-1)g
= (gN)(g-1g) = (gN)e = gN

このように、N が正規部分群だと、Ng と gN が一致します。

これは、G から G 自身への作用を右、もしくは左から元を乗じるということで定義したときに、右剰余類と左剰余類が一致しているということになります。

さらに一般の結合律を使うことで、次が成立します。

任意の x, y∈G に対して、
(xN)(yN) = {(xN)y}N
= {x(Ny)}N
= {x(yN)}N
= (xy)(NN)
= xyN …★

正規部分群なので、Ny = yN となることが効いています。

そして、N は部分群でもあるので NN は N そのものです。

N = Ne ⊂ NN ですし、N は積で閉じているので、
NN ⊂ N です。

そのため、NN = N です。

この★が成立することは、G/N における積が矛盾なく定義できていることを示しています。

実際、x1N = x2N, y1N = y2N とすると、
(x1y1)N = (x1N)(y1N)
= (x2N)(y2N) = (x2y2)N

これで、G/N における乗法が、
xN と yN (x, y ∈G) について、
(xN)(yN) = (xy)N と定義できていることが分かりました。

単なる部分群だと、
★を成立させるときに使った Ny と yN が一致しているという部分がうまくいかないときが出てしまいます。

そのために、正規部分群の定義が効果を発揮しています。

ここから、G/N が、この積について群の定義を満たすことを確認します。

群であることの確認

単位元の存在ですが、eN が G/N の単位元です。

x ∈ G について、(eN)(xN) = (ex)N = xN と確かに単位元となっています。

xN の逆元は x-1N です。

実際、
(xN)(x-1N) = (xx-1)N = eN

結合律は、ここまでの議論でも使ってきた G における結合律から保証されます。

x, y, z ∈ G について、
{(xN)(yN)}(zN) = {(xy)N}(zN)
= {(xy)z}N = {x(yz)}N
= (xN){(yz)N} = (xN){(yN)(zN)}

これで、群の定義を満たすことが確認できました。

正規部分群の定義と同値な言い換え

群 G の部分群 N が正規部分群だと、剰余群 G/N が定義できることが分かりました。

そこで、より簡単に正規部分群ということを確認する方法を説明します。

群 G の部分群 H について、任意の g ∈ G に対して、gHg-1 ⊂ H … (1) となっていれば、

gHg-1 = H となり、H は G の正規部分群となっています。

(1) が成立しているときに、g-1∈ G について (1) を適用すると、
(g-1)-1 = g なので、g-1Hg ⊂ H

そのため、任意の h ∈ H に対して、
g-1hg ∈ H なので、ある x ∈ H が存在して、
g-1hg = x と表すことができます。

よって、
h = gxg-1∈ gHg-1 より、H ⊂ g-1Hg

(1) と合わせると、g-1Hg = H となっていることが分かります。

このことから、正規部分群の条件を少し弱くした形ですが、(1) させ示せれば、正規部分群ということが示せたことになります。

関連するブログ記事

群論の入門的な記事となります。

群の作用についての軌道分解を中心に定理の証明を解説しています。
・左作用
・右作用
・剰余類と軌道

それでは、これで今回のブログ記事を終了します。

読んで頂き、ありがとうございました。

フォローする