自由アーベル群 | 整数環Zからの自然な作用と直和についての理解!
" 自由アーベル群 “は、大学数学の代数分野で、基本的な働きをします。
群の積について、交換法則が成立するときに加法群、もしくはアーベル群といいます。どちらの名前でも、同じ可換な群です。
群についての二項演算が可換という状況で、関わってくる内容だけに、早い段階で理解をしておくのが良いかと思います。
線形代数(ベクトル空間)は、スカラー倍の部分を無視すると、加法群(アーベル群)となっています。そのため、さらに、学習の理解を広げるチャンスになります。
ベクトル空間もアーベル群であるので、既に知っている内容があると思うと、学習するときに気持ちが楽になるかと思います。
自由アーベル群 :まずは群の定義や例から
【群の定義】
直積集合より
集合 G 上の二項演算が与えられていたとします。
①結合法則が成立する
②単位元をもつ
③逆元をもつ
これら①から③を満たすときに、G を群といいます。
さらに、群 G 上の二項演算が交換可能なときに、G をアーベル群といいます。
二項演算が交換可能でない、アーベル群ではない例として、4 次の置換群などが挙げられます。
身近な例として、整数全体 Z は、加法について、このアーベル群の定義に、当てはまっていることを確認します。
f : Z × Z → Z, (a, b) → a + b という写像が加法です。
整数全体から成る集合 Z は、通常の加法についてアーベル群となっています。
Z 上の二項演算とは、直積集合 Z × Z から Z への写像(関数)のことです。
f : Z × Z → Z という Z 上の二項演算である加法を既に学習しています。
(2, 3) ∈ Z × Z に対して、f(2, 3) という Z の要素(元)を対応させるのですが、この f(2, 3) というのが、「2 + 3」の値のことです。
結局、(2, 3) という 2 と 3 の組に対して、5 を対応させるというのが二項演算です。
写像 f を使うよりも、2 + 3 のように「+」で組に対応する値を書いた方が見やすいかと思いますので、以下で加法の計算結果について「+」を使って表すようにします。
定義を満たすことの確認
実数全体 Z 上の二項演算である加法について、①結合法則が成立しています。
a, b, c ∈ Z について、
(a + b) + c = a + (b + c) となっています。
次に②の単位元の確認です。
加法についての単位元とは、どんな実数と加法を計算しても、値を変えないものです。
Z 上の加法という二項演算について、0 が単位元になります。
実際、a ∈ Z について、0 + a = a
(a + 0 = a)
この加法群としての単位元が 0 ということを押さえておくと、大学数学を勉強するときに、線形代数学でも役に立ちます。
ベクトル空間 V というものは、必ず加法についてアーベル群となっていて、ベクトル空間の零元というものは、加法群の単位元だからです。
さらに、加法について、③逆元の存在を確認します。
a ∈ Z について、加法に関する逆元 x というものは、a + x = 0 (x + a = 0) となるものです。
a の加法についての逆元は、中学数学で学習する符号を逆転させた実数のことです。
したがって、実数 a の加法に関する逆元は、符号を逆転させた -a です。
a + (-a) = 0, (-a) + a = 0 となっています。
このように、実数全体 Z は、加法について、①から③の定義に当てはまるので、群となっています。アーベル群であるとは、群の二項演算が交換可能であることです。
実数 a と b について、a + b = b + a となっています。
後で、自由加群の定義を述べますが、この通常の加法について、整数全体 Z は、階数 1 の自由アーベル群となっています。
有限個の同じ元の加法
アーベル群 A の元 a を 2 個で加法を計算したときに、a + a = 2a と横に整数を書いて表します。
3 個の加法だと、a + a + a = 3a です。
また、a の逆元 -a を有限個で加法を計算したときに、
-a + (-a) + (-a) = -3a と表します。
より一般に、自然数 n について、a を n 個で加法を計算した結果を na と表します。
また、-a を n 個で加法を計算した結果を -na と表します。
そして、0 という整数について、0a をアーベル群 A の単位元 0 というように定義しておきます。実は、これで、整数環 Z からアーベル群 A への作用が定義されたことになっています。
※ 有限体の標数といった可換体論でも、同じ元の有限個の和が出てきます。
より詳しく、この整数環 Z からの作用によって、アーベル群 A は、整数環上の加群となっています。
自由アーベル群 :有限生成される部分群
アーベル群 A に含まれている有限個の元で生成される部分群について説明をします。そのために、部分群の定義から紹介します。
H ⊂ A が、部分群になっているかどうかについては、部分群の判定方法をよく使います。
【部分群の判定方法】
群 G の空でない部分集合 H について、次を満たせば、H が G の部分群である。
任意の x, y ∈ H に対して、x - y ∈ H
ブログ部分群の判定方法より
この条件を満たせば、部分集合 H に単位元 0 が含まれていることになります。
そして、和で閉じていて、加法逆元も H の中に存在していることになります。
有限個の元で生成される部分群
アーベル群 A の元 a と b が与えられていたときに、
H = {pa + qb | p, qは整数} は、A の部分群になります。
※ 先ほど述べた、同じ元を有限個で加法をとった pa や qb が使われています。
これを 2 個の元 a と b で生成される部分群といいます。
本当に部分群になっているのかを確かめます。実際、p, q, r, s という整数について、次のように部分群の定義を確認できます。
(pa + qb) - (ra + sb)
= (pa - ra) + (qb - sb) となります。
ここで、pa - ra は、(p - r)a となり、
qb - sb も、(q - s)b です。
そして、p - r と q - s は整数なので、
(pa + qb) - (ra + sb) ∈ H となります。
これで、部分群の判定方法の条件が確認できたので、2 個の元で生成された部分集合は、部分群となっていることが示せました。
アーベル群 A の元 a と b の 2 個について、生成する部分群の内容を書きましたが、3 個以上の有限個の元で生成される部分群も同様です。
{pa + qb + rc | p, q, r は整数} というように生成される部分群が定義できます。
この場合だと、a と b と c の 3 個の A の元で生成される部分群ということになります。
3個の元で様子を見ながら理解を広げる
アーベル群の内容でも、ベクトル空間の内容のように一次独立という定義があります。
H = {pa + qb + rc | p, q, r は整数} は 3 個の A の元 a, b, c によって生成されています。
この a, b, c が一次独立ということの定義は、次のようになっています。
【一次独立の定義】
pa + qb + rc = 0 (p, q, r は整数) ならば、
p = q = r = 0 であるとき、a, b, c はアーベル群 G において一次独立であるという。
アーベル群の生成系については、線形代数学で学習した発想に近い形で議論ができます。
線形代数学の学習を大学1年や2年のうちにしておくと、合わせて有限生成アーベル群に関連する内容が理解できるかと思います。
a, b, c が一次独立であると、加法での表し方が一意的になります。
実際、
pa + qb + rc = ka + hb + lc と k, h, l を使って表せたとします。
そうすると、
(p-k)a + (q-h)b + (r-l)c = 0 で、一次独立の定義から、p = k、q = h、r = l となります。
2個や3個について書きましたが、一般の有限個の生成系や一次独立についても、同様です。
この一次独立であることは、自由加群の理解に関わってきます。
また、一次独立な生成系によって生成される部分群が、全体のアーベル群 A に一致したときに、それらの一次独立な生成元たちの集合を基底といいます。
先ほどは、3個でしたが、{a1, … , an} という n 個がアーベル群 A の基底のときには、A のそれぞれの元は、
z1a1 + … + znan (z1, … , zn ∈ Z) と表されます。
しかも、この表し方は一意的なので、基底が分かると便利です。
整数 Z を基底を構成する元の前に書いているのは、-ai という逆元を使用するときもあるからです。
自由アーベル群 :いよいよ自由アーベル群の話
整数全体 Z は通常の加法についてアーベル群となっています。
この Z のいくつかの直和と群として同型になっているときに、自由アーベル群 (free Abel group) といいます。
※ 加法群(アーベル群)の無限個の直積(各直積因子を Aμ とします)で、かつ直積集合の各元が有限個を除いてすべて xλ = 0λ ∈ Aλ となっているものを群の直和といいます。
ここでいう同型とは、群準同型写像 f で、f が単射かつ全射となっているものが存在するということです。
直和因子が有限個のとき、n 個の直和因子からできているときに、階数 n といいます。
ここで、Z の n 個の直和をアーベル群と考えたときに、基底は見慣れた n 個の元でできています。
e1 = (1, 0, 0, … , 0),
e2 = (0, 1, 0, … , 0),
・・・
en = (0, 0, … , 0, 1) が Z を n 個で直和をとった群の基底を構成します。
※ 1 ≦ i ≦ n について、ei は第 i 成分が 1 で、その他の成分がすべて 0 というものです。
ですので、n 個の Z の直和群の各元は、
z1e1 + … + znen (zi ∈ Z)
つまり、(z1, … , zn) が、n 個の Z の直和群の元の形です。
アーベル群の基底と直和
アーベル群 A の基底が {a1, … , an} のときに、A の各元は、z1a1 + … + znan (zi ∈ Z) と一意的に表すことができました。
このことから、n 個の元からなる基底をもつアーベル群 A は、n 個の Z の直和群と同型になります。
群としての同型写像は次のように定義します。
f(ai) = ei と基底を構成する各元の行き先を定めておき、A の各元について、
f(z1a1 + … + znan)
= z1e1 + … + znen と定めます。
そうすると、全射になります。
z1e1 + … + znen は z1f(a1) + … + znf(an) のことなので、加法群としての準同型写像となっています。
基底の定義から、一意的に表されることから単射であることが分かります。
よって、f 全単射な準同型写像なので、同型写像ということになります。
このブログのはじめの方で、整数全体 Z が、通常の加法について、階数 1 の自由アーベル群となっていると述べました。
1 ∈ Z について、Z = Z1 だからです。
Z1 は Z そのものですから、恒等写像が同型写像となっています。
ここからは、階数 n の自由アーベル群について、部分群を考えるときの基本となる定理を解説します。
自由アーベル群の部分群
結論から述べると、有限階数の自由アーベル群の自明でない部分群は、必ず自由アーベル群となります。
ちなみに、自明な部分群とは、{0} という零元だけからなる部分群です。確かに有限生成ですが、一次独立の定義に当てはまりません。
そのため、自由アーベル群の自明でない部分群について考えます。
そこで、ちょっとした注意点です。
体 K 上のベクトル空間 V が 1 次元のときは、部分空間 W が 零元のみではないときに、必ず W = V となります。
これは、体 K の零元でない元が乗法についての逆元をもつためです。
一方、階数 1 の自由アーベル群 A については、部分群 B が零元のみでないからといって、全体 A に一致するとは限りません。
具体例で確認をしてみます。
A = Z3 という 3 の倍数全体を考えます。通常の整数の加法について、アーベル群になっています。
A の部分群として、B = Z6 という 6 の倍数全体を考えます。
3 ∈ A ですが、3 は 6 の倍数ではないので、B に含まれていません。
B ⊂ A で、どちらも階数 1 の自由アーベル群ですが、B ≠ A です。
体上のベクトル空間との違いに注意しつつ、ここからは、有限階数の自由アーベル群の自明でない部分群が、自由アーベル群となっていることを証明します。
【定理】
n を自然数とし、A を階数 n の自由アーベル群とする。
また、B を零元以外の元をもつ A の部分群とする。
このとき、B も有限階数の自由アーベル群である。
<証明>
n についての帰納法で示します。
まず、n = 1 のとき、定理が成立していることを示します。
階数1のとき
A = Za, B を A の部分群で、B ≠ {0} とします。
※ この {a} が A の 1 個の元からなる基底です。
b ∈ B を任意の 0 ではない元とします。
b ∈ A より、ある整数 z が存在し、b = za と表すことができます。
B は部分群なので、(-z)a ∈ B でもあります。
よって、自然数 d で、da ∈ B となるものが、少なくとも 1 つ存在することが示されました。
したがって、da ∈ B となる最小の自然数を d’ と置くことにします。
ここで、B = Z(d’a) となることを示します。
これを示せれば、Z(d’a) から Z への写像を z(d’a) に対して z を対応させると定義すると、群としての同型写像になり、n = 1 のときの証明が完成します。
今、d’a ∈ B で、B は部分群なので、任意の z ∈ Z に対して、z(d’a) ∈ B となります。
そのため、Z(d’a) は B に含まれています。
そのため、B ⊂ Z(d’a) を示めせば、n = 1 のときの証明が完了となります。
任意に c ∈ B をとると、c ∈ A なので、ある e ∈ Z が存在して、c = ea と表すことができます。
ここで、e を d’ で割ったときの商を q、余りを r とします。
除法の原理から、0 ≦ r < d’ かつ
e = d’q + r となっています。
d’q + r を e に代入すると、次のようになります。
B ∋ c = ea = (d’q + r)a = q(d’a) + ra
q(d’a) ∈ B で、B は部分群なので、
B ∋ c - q(d’a) = ra
ここで、r = 0 でないと、r は d’ より小さい自然数で、ra ∈ B ということになってしまいます。
そうすると、da ∈ B となる最小の自然数が d’ であったことに矛盾します。
そのため、r = 0 となり、e は d’ で割り切れているということになります。
よって、r = 0 より、e = d’q = qd’ です。
すなわち、c = ea = q(d’a) ∈ Z(d’a) となるため、B ⊂ Z(d’a) ということが示せました。
これで、n = 1 のときの証明が完了しました。
階数kのとき
k - 1 以下のすべての自然数について、定理が成立していると仮定して、n = k のときにも定理が成立していることを示します。
A が階数 k の自由アーベル群なので、
{a1, … , ak} を A の基底とします。各 Zai が A の直和因子です。
B のどの元も、
z1a1 + … + zkak (zi ∈ Z)という形に表されます。
このときの ai の部分に使われている整数 zi たちをすべて集めた集合を S とします。
集合の記号を使った方が、内容が見やすくなるかと思いますので、次のように表すと、S が Z の部分群になっていることが分かります。
{zk | z1a1+…+zkak∈B} = S とします。
Σi 0ai = 0 ∈ B より、0 ∈ S
zk, zk' ∈ Z とすると Σi ziai, Σi zi'ai ∈ B より、
Σi (zk - zk')ai ∈ B です。
そのため、zk - zk' ∈ S
もし、S = {0} だとすると、
{a1, … , ak-1} が B の基底となっているということなので、B は階数 n - 1 の自由アーベル群ということになり、n = k のときに定理が成立することになります。
そのため、S ≠ {0} だとして、以下の議論を進めます。
S は Z の部分群でなので、S に 0 ではない整数が含まれているとき、S に含まれる最小の自然数を d とすると、S = Zd となります。
※ このことは、先ほどの n = 1 のときに e が d’ で割り切れることを示したときと同じ要領で示すことができます。
S の定義より、ak に使われている整数が自然数 d となっている B の元を b と置くことにします。
つまり z1a1 + … + zk-1ak-1 + dak = b ∈ B ということです。
ここで、任意の x ∈ B は、{a1, … , ak} の一次結合で表されるのですが、そのときの ak の部分に使われている整数は、d の倍数となっています。
よって、次のことが成り立ちます。
<a1, … , ak-1>は階数 (n - 1) の自由アーベル群です。
そして、
B ∩ <a1, … , ak-1>は、<a1, … , ak-1>の部分群なので、帰納法より、自由アーベル群となっています。
B ∩ <a1, … , ak-1>が自由アーベル群なので、基底を {b1, … , br} とします。
そして、b1, … , br, b で生成される A の部分群を <b1, … , br, b> とすると、b1, … , br, b ∈ B なので、これは、B の部分群になっています。
また、x - mb ∈ <b1, … , br, b>
ゆえに、x ∈ <b1, … , br, b>
x は任意に B からとった元だったので、
<b1, … , br, b>= B となっています。
よって、b1, … , br, b で B が生成されていることが示せたので、後は、一次独立であることを示します。
<a1, … , ak-1>に b1, … , br が含まれていることと、b の定め方が効いてきます。
m1b1 + mrbr + mb = 0 とすると、
z1a1 + … + zk-1ak-1 + dak = b だったので、
ただし、t1, … , tk-1 ∈ Z です。
t1a1 + … + tk-1ak-1 + (md)ak = 0 で、各 ai は A の基底の元でした。
基底を構成する元たちが一次独立であったことから、これらの一次結合に使われている整数はすべて 0 です。
特に、md = 0
d は自然数だったので、m = 0 となります。
すると、mb = 0 なので、m1b1 + mrbr = 0
B ∩ <a1, … , ak-1>が b1, … , br だったので、これらは一次独立です。
よって、m1 = … = mr = 0
これで、b1, … , br, b が一次独立であることが示せたので、これらが B の基底となっています。
そのため、B は自由アーベル群であることが示せました。【証明完了】
<補足>
b1, … , br, b が基底だと、
Zbi は Z とアーベル群として同型なので、Z を (r + 1) 個で直積した直積群とアーベル群として同型になっています。
より深いアーベル群については、
ねじれ群という記事で解説をしています。
これで、このブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。