和積変換公式 | 導出の理解【積和変換も理解】
" 和積変換公式 “は、四つの等式があって、丸暗記をするには難しいものがあります。
一方、公式を導出できるようになると、忘れても自分で公式を導けるので、気持ちにゆとりが生まれます。
また、大学受験の問題では、公式を導出する考え方を活用して問題を解き進めることが多いので、公式の導出は重要かと思います。
既に証明された定理から、新しい命題を導き出すという数学らしい学習について、数学2の和積変換公式を理解するために、このブログ記事がお役に立てば幸いです。
また、同じような要領で、積和変換公式も導出できるので、合わせて押さえておきます。
数学3でも、これらの変換公式が使われますし、大学の解析学の学習でも使われます。
和積変換公式 :サインについて
和積変換公式は、既に学習した定理から導出されます。
【定理】
sin (z + w) = sin z cos w + cos z sin w
複素三角関数の加法定理より
cos (z + w) = cos z cos w – sin z sin w
まず、上のサインについての定理を使って、導ける和積変換公式を説明します。
※ このブログサイトでは、大学の数学の内容も述べていて、定義域を複素数全体へと拡張したものになっています。高校生の方は z と w を実数(ラジアン)だと思って読んで頂いて差しつかえありません。
※ 弧度法という記事でラジアンについての定義や公式を解説しています。
この w = -w を代入すると、差についての定理が現れます。
cos (-w) = cos w と sin (-w) = -sin w という偶関数・奇関数に注意すると、次のようになります。
sin (z – w) = sin {z + (-w)}
= sin z cos (-w) + cos z sin (-w)
= sin z cos w – cos z sin w
cos (z – w) = cos {z + (-w)}
= cos z cos (-w) – sin z sin (-w)
= cos z cos w + sin z sin w
sin a + sin b = 2sin x cos y という一つ目の公式を導きます。
角についての変数が変わっている変換を押さえることが鍵となります。
和について【和積】
sin a + sin b と三角関数の和が与えられたときに、次の二つの変換(置き換え)を考えます。
【和を取り÷2】
(a + b)/2 = x と置きます。
【差を取り÷2】
(a – b)/2 = y と置きます。
この変換をした x と y について、さらに和と差を計算します。
すると、はじめの文字に戻ります。
x + y = (a + b)/2 + (a – b)/2
= a/2 + a/2 = a
差についても、同様です。
x – y = (a + b)/2 – (a – b)/2
= b/2 + b/2 = b
よって、
sin a + sin b
= sin (x + y) + sin (x – y) … (1)
x と y について加法定理を使うと、
sin (x + y) + sin (x – y)
= (sin x cos y + cos x sin y)
+ (sin x cos y – cos x sin y)
= 2sin x cos y … (2)
(1) と (2) より、
sin a + sin b = 2sin x cos y と積和変換公式の一つ目が導けました。
続いて二つ目を導きます。
差について【積和】
x + y = a, x – y = b という関係を使って、a と b を x と y の和と差の形に書き換えてから加法定理を使うという同じ要領です。
sin a – sin b = sin (x + y) – sin(x – y)
= sin x cos y + cos x sin y
– (sin x cos y – cos x sin y)
= 2cos x sin y
これで、二つ目の和積変換の等式が導出できました。
sin x cos y – sin x cos y が打ち消されて消え、
cos x sin y + cos x sin y が
2cos x sin y となっています。
複二次式の計算などで、変数を置き換えるというトレーニングを積んでおくと、このような三角関数の式の書き換えにも役に立ってくれるかと思います。
今度は、cos についての和積変換公式を導きます。
和積変換公式 :コサインについて
x + y = a, x – y = b という関係とコサインについての加法定理から導出します。
cos a + cos b
= cos (x + y) + cos (x – y)
= cos x cos y – sin x sin y
+ cos x cos y + sin x sin y
= cos x + cos y
同じく差についても導出します。
cos a – cos b
= cos (x + y) – cos (x – y)
= cos x cos y – sin x sin y
– (cos x cos y + sin x sin y)
= -sin x sin y
この cos a – cos b が、書き換えた後にマイナスが出てくる等式になります。
これで、四つの積和変換公式が導出できました。少し証明問題を扱ってみます。
導出の考え方を要求する問題です。
練習問題
実数 a について、
sin a + sin 2a + sin 3a
= 2sin a cos a(2cos a + 1) となることを証明してください。
2sin a cos a という倍角の公式を使った跡が残っています。
÷2 をしたときに、2a という角となるように和積変換公式を使うとうまく証明ができます。
<証明>
sin a + sin 2a + sin 3a
= (sin a + sin 3a) + sin 2a
sin a + sin 3a に和積変換公式を適用します。
x = (a + 3a)/2, y = (a – 3a)/2 と置くと、
x + y = a, x – y = 3a なので、
sin a + sin 2a + sin 3a =
sin (x + y) + sin (x – y) + sin 2a
= 2sin x cos y + sin 2a
ここで、x と y をもとに戻してから、a について角の部分の文字式を計算します。
cos が偶関数であることにも注意です。
2sin x cos y
= 2sin (a + 3a)/2 × cos (a – 3a)/2
= 2sin 2a × cos (-a)
= 2sin 2a cos a
これらの等式をすべて合わせると、
次のようになります。
sin a + sin 2a + sin 3a
= 2sin 2a cos a + sin2a
= sin 2a(2cos a + 1)
= 2sin a cos a(2cos a + 1)【証明完了】
最後に、sin 2a = 2sin a cos a という倍角の公式を使いました。
倍角の公式も、忘れたら加法定理からすぐに導けます。
sin 2a = sin (a + a)
= sin a cos a + cos a sin a
= 2sin a cos a
ここまで、加法定理を使う内容を述べてきました。
複素指数関数という記事も投稿していまして、このブログで、ネイピア数 e の複素数乗の定義などを解説しています。
※ ネイピア数という記事で、高校の数学IIIで学習するネイピア数の定義に関連する内容を解説しています。
ただ、複素級数の厳密証明は長いので、適宜、定理を使うに留めています。
それでは、積和変換公式について説明をします。
和積変換公式 :積和変換も
【積和変換公式】
sin x cos y=1/2{sin(x+y)+sin(x – y)}
cos x sin y=1/2{sin(x+y) – sin(x – y)}
cos x cos y=1/2{cos(x+y)+cos(x – y)}
sin x sin y=1/2{cos(x+y) – cos(x – y)}
これらの導出は、加法定理の式を二つ書いて、辺々足すか辺々引きというだけです。
先ほどの和積変換公式よりも導出の過程が短くなったものなので、ここまでくると一気に押さえておくと良いかと思います。
sin (x + y) = sin x cos y + cos x sin y …(1)
sin (x – y) = sin x cos y – cos x sin y …(2)
(1) + (2) より、
sin (x + y) + sin (x – y)
= 2sin x cos y
両辺に 1/2 を掛けると、
1/2{sin (x + y) + sin (x – y)}
= sin x cos y
これで一つ目の積和変換公式が導けました。
(1) – (2) を計算してから、両辺に 1/2 を掛けると二つ目の等式が得られます。
1/2{sin (x + y) – sin (x – y)}
= cos x sin y
積和変換公式の残りの二つの等式は、コサインについての加法定理の式を同様に辺々足すのと引くと導かれます。
後半の証明
cos (x + y) = cos x cos y – sin x sin y …(3)
cos (x – y) = cos x cos y + sin x sin y …(4)
(3) + (4) より
cos (x + y) + cos (x – y)
= 2cos x cos y
両辺に 1/2 を掛けて
1/2{cos (x + y) + cos (x – y)}
= cos x cos y
{(3) – (4)} × 1/2 より
1/2{cos (x + y) – cos (x – y)}
= sin x sin y
これで、積和変換公式も導出することができました。
どちらの変換公式の導出も、既に導かれている等式を利用して、新しく等式を導き出すという良いトレーニングになる内容かと思います。
最後に数学 3 の積分でも変換公式が使われるので、典型例を述べておきます。
数学3の例題
【例題】
cos 4x cos 3x を x について不定積分してください。
ただし、C を積分定数とします。
コサインとコサインの積の形なので、コサインについての加法定理から、積を和の形に変換します。
cos (4x + 3x) = cos 4x cos 3x – sin 4x sin 3x,
cos (4x – 3x) = cos 4x cos 3x + sin 4x sin 3x
cos (4x + 3x) = cos 7x, cos (4x – 3x) = cos x なので、辺々足すと、
cos 7x + cos x = 2cos 4x cos 3x
よって、
cos 4x cos 3x = 1/2(cos 7x + cos x)
被積分関数(積分される関数)が右辺の和の形に変形できたので、右辺の方で不定積分を計算します。求める積分結果は、次のようになります。
これで、不定積分が計算できました。
最後に、数IIの練習にsinやcosについての値を求める内容について述べておきます。
sin18° の値を求めます。
sin18° | 使う公式たちの準備から
sin(90°-x) = cos x,
sin(180°-x) = sin x ということを使います。
これらは、加法定理から導かれます。
sin(90°-x)
= sin90°cosx+cos90°sin(-x)
= 1×cos x+0×sin(-x)
= cos x です。
sin18° の値を求めるときに、この公式を使います。
原点中心の円を用いたサインとコサインの値の定義から、次が成立することも大切です。
・sin(-x) = -sin x,
・cos(-x) = cos x
角の符号だけを逆転させると、円周上の点の y 座標の符号だけが逆転することから、これら二つの等式が得られます。
このことと、加法定理を合わせると
sin(180°-x) = sin x が得られます。
sin180° = 0, cos180° = -1,
sin(-x) = -sin x なので、
sin(180°-x)
= sin180°cos(-x)+cos180°sin(-x)
= -1×(-1)×sin x
= sin x となります。
他にも使う公式を述べます。
cos3θ = -3cosθ+4cos3θ,
sin3θ = 3sinθ-4sin3θ
3倍角についての公式になります。
この公式の証明は、記事の最後に置いているリンク先の記事で解説しています。
では、sin18° の値について求めます。
有名角の等分と数IIの公式
18° という角の大きさを有名角を等分したうちの一つだと考えるところからスタートします。
18° × 5 = 90° ですから、90° を五等分したうちの一つということになります。
そこで、θ = 18° と置きます。
使えそうな公式として加法定理から導かれるものが考えられます。
そこで、
2θ = 36°, 3θ = 54° について考えてみます。
具体的な角の大きさが与えられているので、次の等式の気配を察することができると道がひらけます。
36° = 90°-54° ということです。
つまり、
2θ = 90°-3θ ということです。
ここで、先ほど述べた公式を使うチャンスです。
つまり、
sin2θ = sin(90°-3θ)
= cos3θ …★
cos3θ には三倍角の公式、sin2θ には倍角の公式を使います。
倍角の公式を忘れたら加法定理で計算をします。
sin2θ = sin(θ+θ)
= sinθcosθ+cosθsinθ
= 2sinθcosθ です。
よって、★より
2sinθcosθ =
-3cosθ+4cos3θ …(1)
ただ、ここでゴールへの障害を取り除かなければなりません。
三次の三角方程式で、おまけにサインとコサインが混ざっています。
よくよく考えると、左辺も右辺もコサインが掛けられています。
そして、θ = 18° だったので、
cosθ = cos18° ≠ 0 です。
0 でないということは、cosθ で両辺を割ることができます。
(1) ÷ cosθ より
2sinθ = -3+4cos2θ …(2)
これで次数下げに成功しました。
後は、sinθ だけの三角方程式に直すことを考えます。
単位円周上の点と原点の距離
点 (cosθ, sinθ) を原点 (0, 0) を中心とする半径 1 の円周上の点と考えると、次の公式が得られます。
cos2θ+sin2θ = 1 です。
そのため、
cos2θ = 1-sin2θ です。
よって、
(2) の右辺を書き換えると、
2sinθ = -3+4(1-sin2θ) となります。
右辺を左辺に移項し、
4sin2θ+2sinθ-1 = 0 となります。
ここで、x = sinθ と置きます。
4x2+2x-1 = 0 という x についての二次方程式が得られました。
sinθ = sin18° > 0 なので、
x > 0 です。
そのため、解の公式を使って x の値を計算したときに、x の正の実数解の方が求める値となります。
これで、sin18° の値を求めることができました。
下側の内容は、cos36°の値です。
同じ要領で二次方程式まで辿り着けるので、合わせて述べておきます。
cos36°の値も求める
θ = 36° と置きます。
180° を五等分したうちの一つという見方をします。
すると、
108° = 180°-72° なので、
3θ = 180°-2θ となります。
そのため、
sin3θ = sin(180°-2θ)
= sin2θ となります。
三倍角の公式と倍角の公式から、
3sinθ-4sin3θ
= 2sinθcosθ となります。
ここで、sinθ = sin36° > 0 より
両辺を sin36° で割ると、
3-4sin2θ = 2cosθ となります。
sin2θ = 1-cos2θ より、
3-4(1-cos2θ) = 2cosθ となります。
移項して整理すると、
4cos2θ-2cosθ -1 = 0 です。
ここで、
x = cosθ と置きます。
すると、
4x2-2x-1 = 0 という x についての二次方程式が得られます。
この方程式の解が、先ほどの図の下側に示している値です。
【数IIの記事たち】
それでは、これで今回のブログ記事を終了します。
読んで頂き、ありがとうございました。